王の裁き(ギル・トール)◆YhwgnUsKHs
夢を、見ていた。
『ナミィ~、次の島はまだかぁ~』
『まだまだ先よ』
『こらルフィ。ナミさんを困らせるんじゃねえ。朝飯抜きにするぞ』
『そ、それは酷いぞサンジ!』
『ルフィなら気を失って海に落ちちゃいそうね』
『おいこらそんな想像すんな。まあコーラさえありゃあ餓死なんてしねえよ』
いつもの光景だ。
仲間と共に、グランドラインを旅する夢。
暢気な船長。強欲な航海士。アホコック。怖がりな船医。冷静な考古学者。変態船大工。
そいつらが楽しく笑って、愉快で、それを自分は騒乱とは少し外れたところで見守っている。
それがいつもの光景だった。
「違う」
いつもの光景?
そんなわけがないだろう。
なぜなら、1人足りない。
あいつが、足りない。
『死亡者』
狙撃手のアイツが、いない。
いつもの日常に、もうアイツがいない。
そんなわけあるか。思い出の中に確かにアイツは。
けれど、もう……未来にアイツの姿はない。
たとえ戻れたとしても、あいつだけはいない。
本当に死んだのならば。
「くそ……」
ただ、そんな言葉がついて出た。
ただ、何かに怒りたかった。
何かに。
1人欠けた不完全な光景。
1人欠けたこれからの光景。
受け入れなければならない、光景。
そんな光景が。
『殺すとするか』
唐突に終わりを告げる。
*****
私、
前原圭一はパシリをさせられています。
なぜ、どうして、パシリをさせられているのかはわかりません。
ただひとつ判る事は、そのパシリ主がものすごい強いと言う事です。
主アーチャーは切嗣さんの知り合い。
知り合いは他にも巨漢の男が1人いるらしい。
アーチャーは黄色い槍を所有。
どうしてこんなことになったのか、私にはわかりません。
私をあなたが見つけたなら、その時私はパシられているでしょう。
・・・荷物があるか、ないかの違いはあるでしょうが。
私を見つけたあなた。私を助けてください。
それだけが 私の望みです。
前原圭一
*****
「などという現実逃避あふれるメモなど我が許すはずもなかろう」
びりっびりっ
「ああっ!」
儚く、俺の命綱――誰かに助けてもらおうと道端に置いてわずか3秒でアーチャーにみつかったメモ――は金ぴか男ア
ーチャーの手によって無残に細切れにされ、風と共に空へと飛んでいった。
そしてそれを悲しく見守る俺の脳天に容赦なく鉄拳が振り下ろされた。
「がはっ!!」
「まったく。召使が分不相応な事を。召使は荷物を運んでいればそれでいい、それ以上の価値も役目も求めてはいない」
脳が直に揺らされたようで、吐き気がしてきそうだ……なのに、目の前の金ぴか鎧、アーチャーはそんな俺に目もくれず、目の前の『それ』に悠々と入っていく。
(くそ……情けねえ)
俺の、今の自分に対しての素直な感想がこれだった。
手に持っているのは俺とアーチャーの分のデイパック。
それを持って目の前のアーチャーに付いてきて、いつの間にか駅まで来ていた。
本当ならば映画館で切嗣さんを待たなきゃいけないのに、どんどん行き先が離れていく。
かといって、映画館へ誘導する事なんてまず不可能だろう。口先の魔術師と言われ、いろんな人物の相手をしてきたか
らわかる。
こいつは揺るがない奴だ。そして、俺を自分と同じ者と思ってない。完全に見下している。
交渉においてはどちらも不利な条件だ。何を言っても自分を変えない。相手の言葉をまともに聞く気がない。
交渉相手としては、最悪の相手だ。
だが、反面これでいいとも思ってる。
切嗣さんから名簿に載っていたアーチャー、そしてライダーに関しては一通りの情報を得ている。外見情報や、一般人
では太刀打ちが出来ないってこと。
そして、アーチャーに関しては間違いなく自分を殺しに来るだろうということ。
理由は『個人的なことだよ』と教えてくれなかったが、会ってみてその情報は真実味を持ってきている。
こいつは、殺すといったら平気に殺す奴だ、ってな。
俺に対して向けた殺意は間違いなく本物だ。俺があと1秒返答に遅れてたら、いや、もし切嗣さんに会ってなくてアー
チャーの名前を知らなかったら。
俺は間違いなく殺されてた。
だから、アーチャーと切嗣さんを会わせる事だけはしてはいけない。そして、アーチャーが映画館から離れている事は
この点においてだけなら都合がいいんだ。
俺と切嗣さんが合流できない、ってところが不安なんだけどなぁ…。
俺はアーチャーが自分の名称を知っていた事を勘繰って、情報元を聞いてくるんじゃ、と後から不安に思ったが、ここ
に来るまでアーチャーは俺にまったくそのことを聞いてこなかった。
気付いてないのか? それとも、あえて黙って泳がせてるのか?
なんとなく後者に思えてくる。目の前の男は、唯我独尊横暴強力、ってのが俺の印象だけど……どこか、理知的なとこ
ろも感じちまう。
なんでも御見通しみたいな目をしてるんだ。
けど、だからなんだってんだ!
さっきのメモは失敗したけど……でも、絶対こいつの下から逃げ出してやる!
こんな奴に付き合ってられるかよ! 俺は早くレナや魅音たち、そして切嗣さんと合流
「何をしている圭一。早く『入って来い』。でなければ……貫くぞ?」
「は、はいぃぃいいいい!!」
黄色の槍をくるっと回して即座に俺へ向けたアーチャーに、俺の背筋は一気に凍り、すぐさまホームを蹴り、滑り込ん
だ。
駅に止まっていた、電車の中に。
*****
「……なんだよ、それ……」
耳障りな放送が終わり、圭一の耳には圭一たちが入ってすぐに発車した電車の揺れる音だけが聞こえている。
発車と同時に始まった放送、アーチャーはその情報のメモを圭一に任せたまま別の車両に移動してしまった。本人曰く、
『我には確かめなければならんことがある。召使如きに言う必要はあるまい』、だそうだ。
だが、圭一の中に少し前まであったそのアーチャーへの少しした反発心など、もう消え失せていた。
メモを取っていた圭一の指は止まり、落とさないように最後まで握り締めていた鉛筆が、軽い音をたてて床へと落ちた。
なんとか取ったメモには、禁止エリアとやらの時間と区域、そして……15人にもなる名前の羅列がある。
死亡者たちの、名前だ。
「ろ、6時間だぞ? 6時間で……15人って、嘘、だろ?」
知り合いの名前、そして別れた切嗣の名前が無かった事には安堵した。
けど、その安堵以上に……圭一の心には衝撃が残った。
6時間で15人。単純に平均しても、1時間で2,3人死んだという計算だ。
名簿で見る限り、参加者は65人。そのうちの15人と言えば。
「約23%……4分の1近くじゃねえか!」
全体の4分の1が死んだ。つまり、参加者の4人に1人が死んだ、と考えられる。
あまりに高い。あまりに高い確率だ。
そんな中で6人もいる知り合いが誰も呼ばれなかったのは素直に喜びたい。そして、次の放送で誰か呼ばれてしまうん
じゃ、と言う予感も去来する。それほどまでにペースが早い。
圭一が見た殺戮者は1人(とりあえずアーチャーは入れないとして)。だが、15人死んだということは最大でも15人
の殺害者がいるということになる。
果たして、それが誰なのか……そいつらはどこにいるのか。もしかしたらこの電車の中に潜んでいやしないだろうか。
急に怖くなり、圭一はアーチャーのところに行こうと隣の車両のドアを開けた。
いくら横暴で唯我独尊で何をするかわからなくても、今のところ自分に利用価値を見出している以上、殺害者よりはマ
シだと思う。
1人でいるより2人でいた方が安全だ、と圭一はドアを思いっきり開けた。
「アーチャーさ、えええっ!?」
金ぴか鎧我様が、倒れている血まみれの男に向けて槍を振り下ろそうとしていた。
*****
「…………」
「あ、あの、ロロノア……さん?」
「ゾロでいい」
「あ、は、はい!ゾロさん!え、えーっと……いい天気ですね!」
「そうかよ」
「……」
「……」
なぜ、自分はこんな事になってしまっているのだろう、と前原圭一は思う。
目の前に鋭い目つきのマリモみたいな髪型の男。腰にはなぜか刀が3本。2本ならまだわかるが、なぜ3本もあるのだ
ろう。
そして、全身傷だらけで血が大分滲んでいる。
そんな男と電車の中のイスで隣になって話をしなければならない。
加えて、少し離れたイスで自分達の方をまるで見ていないアーチャーがいる状況で。
改めて思う。なぜこんな事になったのだろう、と。
*****
結論から言えば、アーチャーの槍が男を仕留めることはなかった。
槍が振り下ろされた瞬間、男が突如覚醒し、寝起きとは思えないスピードで腰の刀を2本抜き、槍を交差した刀で受け
止めたからだ。
槍が刀によって防がれると、すぐさま男が床に放り出していた脚を思いきり蹴り上げる。
アーチャーがそれを横に移動してかわすと、男はそのまま振り上げた両足を床に叩きつけてその勢いで宙に跳ね上がり、
くるっと回転すると床にダンッ、と大きな音をたてて着地した。
簡単に言ったが、圭一が同じことを出来る自信はまったくない。おそらく寝たまま槍を刺されて終わりだろう。
男はすぐに刀をアーチャーに向けて構え、アーチャーもまた不敵な笑みで男に向けて槍を構える。
圭一は一連の出来事に口を開けたままになっていた。
が、なんとか我に返り冷静に考えてみる。
(これ、一体どういう状況なんだ?)
寝ている男を殺そうとしていたアーチャー。
男はそれをただ防いだだけ。
……裁判ならば、明らかにアーチャーが有罪だろう。圭一も陪審員ならそうする。
(じゃあ、止めた方がいいじゃねえか!!)
目の前の状況は見るからに
一触即発だ。
男は鋭い目つきでアーチャーを睨み、アーチャーはそれを意に介さない様子で平然と男を見ている。
圭一は確信する。このままでは、ものすごい事になる。
激しい戦闘になるかもしれない。そうしたら、不利なのはどちらか。
どう見ても満身創痍な男の方だ。
悪いのはアーチャーであるのに、被害者の男が一方的に殺されるのは間違っている、と圭一は思う。
さっきまではへーこらしているしかなかった。だが、この状況ではそんなこと言ってられない。
(なんとかしねえと!口先の魔術師、前原圭一として、アーチャーを止めてやる!)
目の前の過ちを防ぐため、最悪自分が死ぬ事になっても男だけは逃がしたい、という決意と共に。
「アーチャ 「まあ、待て剣士」 ………え?」
圭一が叫ぼうとした瞬間、なんとアーチャーの方がすっと槍を下ろした。
仕掛けたほうの突然の行為に男も訝しげにアーチャーを見ている。
圭一としても意外だった。アーチャーがここで戦闘に入ろうとしないことに。そもそも自分が仕掛けたはずなのに。
そんな2人を尻目に、アーチャーはどこまでも不遜に、不適に笑った。
「簡単に寝首をかかられるようでは我の目の前にすら置く訳にはいかんからな。
よって、剣士。とりあえず貴様は合格だ。我と同じ密室内にいることを許してやろう。
我は少し忙しいから相手はできんが、そうだな。そこの召使と話でもしていろ。
かかって来ても構わんが……その傷では、止めておいたほうが賢明だろう。それくらいはわかるだろう?」
そんな笑みから飛び出す言葉が、謝罪であるはずが無かった。
*****
こういった経緯により、圭一は男、
ロロノア・ゾロと話をすることになってしまった。
しかも、アーチャーは近くのイスに悠々と座し、地図、コンパスを片手に外の景色を見ているばかり。こっちの会話は
丸聞こえだろう。
よって、ゾロに切嗣についての情報を出すことはできず助けも求められない。
とりあえず圭一は、アーチャーににらみを利かせるゾロをなんとかなだめて、これまでの経緯について互いに話すこと
にした。
「…………間違いねえ、そいつはクロコダイルだ」
「え!? ゾロさん、あいつを知ってるのか!?」
まずは圭一が自分の経緯について話し始めた。
とはいえ、切嗣のことをアーチャーに知られるわけにはいかない為、話せたのはサンマ傷の男に1人でいるところを襲
われた、という半分嘘で半分真実な話のみだった。
だが、それでも思わぬ収穫を得た。ゾロがその男の事を知っていたことだ。
「ああ。俺たちが前に戦った奴で、ルフィが倒して海軍に捕まったはずだったんだがな」
「いきなり撃ってきて……その、なんとか逃げ出したんだけど」
「……お前、よく奴から逃げられたな。悪魔の実の能力者からよ」
「の、能力者?」
自分の知らない単語に圭一が困惑な顔をすると、ゾロが逆に圭一にいぶかしげな目を向けてきた。
「おまえ、悪魔の実をしらねえのか? ……まあ、佐山や小鳥遊みてえにあまり聞かない名前の形式だしな。よほど辺境の島から来たのか」
「島? いや、どっちかっていうど田舎な山だけど」
「似たようなもんだ。悪魔の実ってのは、食ったら奇妙な能力がつく実のことだ。身体が刃になったり、体がバラバラにできるようになったりな。クロコダイルの場合、身体を砂にできる」
「は、はぁ!?」
ゾロの言う奇天烈な話に圭一は胡散臭そうな者に対しての顔しかできなかった。
何せ、本当に胡散臭いのだから。
「ま、信じられないなら信じなくてもいい。だが、俺は事実だと言ったからな」
「……俺は、すぐに逃げてきたから」
「奴が能力を使う暇もなかった、ってことか。まあ、普通の奴ならそれが1番かもな。なにしろ、銃弾も刃も、身体を砂にすることで全然効かなくしちまうからな」
「な、なんだよそれ! そんな奴、勝てようがないじゃんか!!」
圭一はつい叫んでしまった。
信じてはいないが、けれどもしあの男がそんな存在ならば、相手をした切嗣はクロコダイルに全くダメージを与えられ
ない、ということになる。
放送で呼ばれなかった以上、生きているとは思うのだが、けれどそれ相応の怪我を負っていないかと圭一は心配だった。
「そう言うな。能力者には弱点もある」
「弱点?」
「ああ。……」
ここでゾロがちらりとアーチャーの方を見て、嫌そうな顔をした。
どうやら圭一はともかく、アーチャーにはあまり聞かせたくない話らしい。
それでも、圭一としては引き下がれない。
「頼む、教えてくれ。そんな無敵に近い奴の弱点なら、できるだけ知っておいた奴はいた方がいいと思うんだ」
「……まあ。あいつなら、俺がどうこう考える前に、どうせ自分で言っちまうか」
ゾロはどこかの船長の事を思い浮かべ、苦笑しつつ改めて圭一に向き直る。
「能力者は、全員カナヅチだ」
「カ、カナヅチ?」
「ああ。なんでも海に嫌われる、って話らしくてな。海じゃなくても、河や湖、ある程度水がたまってれば力が入らなく
なって溺れちまう」
「ってことは…なんとか湖とかに落とす事ができれば」
「できれば、の話だがな。俺が知ってる弱点はコレだけだ。ルフィは確か奴特有の弱点を知っていたらしいが……俺はもう倒された奴の事なんざ、興味なかったからな」
圭一の話はここまでだった。その後はアーチャーと出会い、ここに来るまで誰にも逢わなかった。
圭一にだけ話させておいて、というわけにはいかないらしく、ゾロもまた同じくここまでの経緯を話してくれた。
その内容は、圭一としては自分の話以上の内容だった。
「やっぱり……俺(たち、とは言えない)以外にもこの殺し合いに反対する人たちはいたんだな!」
「ああ……変わった奴2人に、小人1人だがな。あのスーツの海賊に関しちゃ、殺し合いに乗ってはいないだろうが、よくわからねえしな」
圭一がゾロから聞いた情報は希望が持てるものだった。
ゾロが会った者のうち、4人は優勝を目指している様子ではなく、ましてや3人は主催者打倒に向けて動いているとい
う。
この会場には殺戮者が多いのでは、と不安になっていた圭一にとってまさしくそれは朗報だった。
「
佐山・御言、
小鳥遊宗太、
蒼星石、だな。よし、メモした」
「まあ、小鳥遊はともかく、佐山や蒼星石は頼りにしていいだろうな。戦いもそれなりにこなせる、らしい。小鳥遊はダメだが」
「そ、そうなのか」
なんだかやけに小鳥遊という人物がこき下ろされているような気がしたが、圭一はとりあえず口を出さないでおいた。
「でも、なんで別れちゃったんだよ」
「……やることができた。それだけだ」
「それって」
「奴には聞かれたくねえ。だから、お前にも話せねえな」
「うっ」
ちらっとアーチャーを見るが、平然と外を見ているだけだった。
耳には入っているのだろうが、あえて反応していないらしい。
「ともかく、あいつらと別れた後、劉鳳とかいうぼっちゃん顔と戦闘になってな。悪魔の実の能力者なだけあって、かなりきつかったな」
「そいつもなのか」
「ああ。へんな人形を使ってくる奴だった。でその途中、今度は背中から手の生えた刺青男が乱入してきた」
「はぁああ!?」
「いちいち素っ頓狂な声あげんじゃねえ。似たような能力を持つ奴が仲間にいるが……奴もやっぱり別の能力者って考えたほうがいいかもな。
なにしろ、そいつの撃った銃は普通じゃなかった。戦っていた劉鳳って奴の身体の半分を削り取りやがった」
「け、削…?」
撃たれたら、せいぜい穴が開いたとか、素直に「撃たれた」という表現でいいのではないだろうか、と圭一は思った。
ていうか、銃弾で削るってどういうことだ。
「まあ、そいつに関しては心配するこたねえよ。あいつの……劉鳳の最後の一撃で、間違いなく死んだ。俺のこの怪我は
そいつらとの連戦の結果だ。俺の経緯はこんなところだ」
「そう、か……」
互いに経緯を話し終えた結果、ゾロはそれなりに圭一に心を開いてくれたらしく、少し目つきが和らいだ気がした。
もっともいまだこっちに全く干渉してこないアーチャーに関しては未だ警戒心たっぷりだったが。
「って、あれ?」
そのアーチャーを見ようとして圭一は声を上げてしまった。
さっきまでイスにいたアーチャーが、いつの間にかいない。
と、同時になぜか風が吹き込んできて圭一の髪が揺れた。
突然、なぜ?
「「って、何してんだ!?」」
「見て分からんのか、召使と剣士。ドアを開けているに決まっているだろう」
驚愕を顔に表した2人が見た物は、電車の横のドアを開け(戸口横のボタンを使ったらしい)、激しく吹き込む風を物
ともせず仁王立ちし外を眺めている金ぴか我様、アーチャーの姿だった。
その姿の向こうには、広めの河が朝日を反射して輝いている。どうやら電車は河の上の陸橋に差し掛かっているらしい。
「だから何のため 「お、おいてめえ!」 え?」
アーチャーに突然ドアを開けた理由を尋ねようとした圭一は、焦った表情でイスを立ち上がったゾロを見た。
ゾロの目線はアーチャーの手元に寄せられている。そこにはどこかで見たような刀が一振りある。どこかで見たよう
な……。
「って、それ俺の雪走じゃないですか!何時の間に!」
「貴様が剣士とくっちゃべっている間だ」
「俺の武器ですよ!?」
「召使の物は我の物。我の物は我の物。そしてそもそも世界の物は我の物だ」
「何言ってんのこの人!!」
「そんなことはどうでもいい!」
圭一とアーチャーの言い合いをゾロの叫び声が遮る。
圭一は思わず口をつぐむが、アーチャーはそれを今までのように余裕を持った笑みで平然と受け流す。
「やっぱり、それは俺の雪走なんだな」
「違うな。我の物だ」
「いや、それ俺のデイパ」
「元々は俺の物だ。……そいつは返してもらう。てめえだって持ってるだけ無駄なはずだろ。なんなら、代りの刀をくれてやってもいい」
「だから、それは俺の」
「3本も持っていながら、まだ欲するか。強欲な剣士よ。それに、持ってるだけ無駄、とは……大きく出たな」
圭一の言葉を普通に無視しつつ、恐らくアーチャーの関係者がいれば100%『お前が言うな』と言うセリフでゾロの要求
をアーチャーは却下した。
「いいからよこしやがれ。どういうつもりかしらねえが、渡す気がねえなら……力ずくでもいいんだぜ?」
ゾロが腰の刀を2本抜き、最後の1本を口に咥える。
ロロノア・ゾロ、独自の三刀流の構え。
アーチャーも、その構えには興味を覚えたようでほう、と声を漏らす。
「二刀流かと思えば、三刀流とはな。我も流石に初めて見る型だ。一見滑稽だが、構えや挙動に洗練されてきた様が伺える」
「てめえに褒めてもらっても、嬉しかねえな」
「どこまでも不遜な剣士だ」
互いににらみ合い、少し前の光景が再現されたようだと圭一は思った。
違う点は、アーチャーは槍を構えておらず、手には抜いていない刀が一振り。そして彼の横のドアが全開になっている
点のみ。
(あれ? そういや、あのドアって結局…)
「どうしても取り戻したいか?この刀」
「ああ。使えないとはいえ、手前に持たせていることだけは、気にくわねえ」
「全く。全ての財は我の物だと言うに……わかっているのか? 貴様がこれまでに我にどれだけ無礼を行っているのかを」
アーチャーがゾロを見る目がだんだんと厳しい者になっていくのが圭一にもわかった。
今までのゾロの失礼な言葉にアーチャーは何も言わなかった。てっきり許しているのかと思ったら……それは間違いだ
った。
(怒ってはいたんだ…それを、隠して溜めていただけだったんだ)
圭一はいつの間にか自分の歯が震えていることに気がついた。それほどまでの、怒りと殺意をアーチャーは発している。
ゾロもまた、軽く冷や汗を覚えていた。だが、それでも雪走は取り返したい。
雪走はエニエスロビーでの戦いで、サビサビの実の能力者である海軍将校によって腐食され、仕えなくなってしまった。
刀としては死んだも同然だ。
だが、雪走はイッポンマツという店主に、自身の器を見込まれて譲ってもらった刀であり、かつ今まで共に戦ってきた相棒
であるそれを、気に入らない男の手に握らせておくのは 我慢ならなかった。
新たな刀が手に入るまでは、鞘に収めて手元に持ち、いつかどこかで弔おうと思っていた。
だから、なんとしてでも取り戻す。
たとえ、それで自分の傷が取り返しにつかなくなったとしても――
「先は許したが、それはそれまでの無礼の分についてだ。調子に乗ったその後の無礼は別問題。
『持っているだけ無駄』『使えない』という言葉にも我慢がならん。つまり、我にはこの刀を使いこなせんと言うつもりか。
我の力量を見計ることもできずにその言葉……大罪と言わざるをえん。
……情報を聞き出した以上、もう貴様に用も役目もない。
今までの無礼……断罪しよう。だだし、その罰は……主ではなく、こいつに受けてもらう」
圭一はやっと理解した。
なぜ、アーチャーが扉を開けたのか。
アーチャーは全て想定済みだったのだ。
ゾロがそれの持ち主だったということは予想外だったのだろうが、3本も持っている事から刀に執着があると予想を踏
んで。
アーチャーは、雪走を……投げた。
ドアの向こう、風の吹きすさぶ中へと。平然と。
「あーーーーーーー!!」
「て、てめえ!!」
切嗣にせっかく譲ってもらった刀を放り出されたとりあえずの所有者圭一は悲鳴をあげ、そして元々の所有者ゾロはあま
りに予想外な事に動揺し、慌てて全開のドアへと駆け寄り、投げ出された雪走を目で追おうとした。
そしてそれを、王は許しはしなかった。
「へ?」
「っ!?」
「隙だらけだ。たわけが」
「なっ……!」
「ゾ、ゾロさ……!」
アーチャーがしたことは至極簡単。
別に槍で刺したわけでも、殴ったわけでもない。
雪走の行方を目で追おうとしたゾロに生じた、わずかな隙。
それを見計らって……脚を払った。それだけ。
それだけで……あっけなくゾロは体勢を崩し……あっけなくドアから落ちていった。
最後に怒りの声を残して。
「てんめぇええええええええええええええええええええええ!!」
そして、電車の中には2人が残った。
あまりに突然で、あまりに理不尽で、あまりに酷い……途中下車の後に。
*****
「……………………」
「いつまで固まっている召使」
「ごはああ!」
あまりの出来事にぽかーん、とするしかなかった圭一の腹をアーチャーの蹴りが襲った。
そのショックで圭一が我に返り、一気にアーチャーに抗議をする。
「あれ俺の刀でしょ!? なんで勝手にデイパックから出して、しかも外に放り出してるんですか! おまけにゾロさんつき落として!! なんで!? 全てにおいてなんで!?」
「やかましい」
「ギャア!!」
圭一のあらゆる疑問を5文字と蹴りセカンド顔狙いで、文字通り一蹴したアーチャーは、戸口横のボタンを押して電車の
ドアを閉めた。
そして静寂が戻り、まるで何事もなかったかのように―。
「んなわけあるかーーー!!」
「まったく。刀については我の物だと言ったであろうが。放り投げたのは、あの傷だらけで汚い血を撒き散らし我の視界
を汚す雑種無礼剣士をおびき出し、我の目の前から消し去る為だ、以上」
(り、理不尽だ……なんて理不尽なんだこの人!)
つまるところ、ゾロをここから突き落としたのは、『ゾロから流れる血が気に食わなくて、ついでにゾロも気に食わなかっ
たから』というだけ。
それだけで、この男は圭一の唯一の武器を放り捨て、ゾロを走る電車から突き落としたのだった。
それを平然とする男に、圭一は怒りを覚え、そして恐怖も覚えた。
あまりにこの男は、平然と非道な事を行う。それが許せず、そして恐ろしい。
「安心しろ。奴にはそれなりに有益な情報をもらった。故に、少しは酌量をしている。だから河で落としたのではないか」
「そ、それでもあんな傷で河なんか落ちたら!」
そう、アーチャーがゾロを落としたのは河の上。
雪走も、ゾロも河へと落ちていった。圭一はすぐに窓から覗き込んだが、橋の一部が邪魔でゾロが河へ落ちた様子は確
認できなかった。
そんな圭一の言葉に、アーチャーは……笑った。
それを見た圭一は、背筋にゾクッとした寒気を感じた。
今までとは違う。
それは、とてもとても楽しそうで、そして、とても邪悪なものに圭一には思えた。
「それなら、それまでの男だったということ。
果たして、禁止エリアも知らん男が次に我に会うまで生きていられるのか。
会えたとして、その時奴はどうなっているのか、楽しみではないか。
再会したときは、今度こそ奴と戦ってやろう。もちろん手は抜かん。どれほどまで太刀打ちできるのか……くくっ、期
待はずれでないことを祈ってやるとしよう。ハハハハハハハハ!」
圭一は改めて目の前のアーチャーから早く離れたい、と願った。
この男は、あまりに気まぐれすぎる。そして、あまりに人間と自分の距離を取りすぎている。
人間を戯れの材料にしか見ていない。
ある意味、人間に殺し合いをさせて楽しむギラーミンと同属なのではないか、とすら思った。
「さて、確かめたいことは確かめた。駅が見えてきたな。降りるか、それとも次の駅まで行くか。
そういえば、あの剣士から聞いた、佐山という男が気になるな。この状況で既に3人のグループを作っている男、是非
会って見たいものだ」
窓の外を見て進行方向を見据えたアーチャーを、圭一は何も言わず見ているしかなかった。
この男には、もう軽々しく何かを言う事はできない。ただ、今は静かに命令に従うしかない。それが生き抜くための最善。
でなければ、どんな言葉が原因で殺されるか……わからないのだから。
アーチャーを見ている圭一は、まだ気付いていない。
電車に乗った時にゾロが持っていた地図が、眠りに落ちたとき床に落ちて忘れられたままになっていることを。
その地図には、2つ不幸な点があった。
1つは、怪我をしていたゾロがそれを持っていたことで、地図の一部が血で汚れてしまった事。
そしてもう1つは……かつての同行者、小鳥遊宗太が互いに支給品を確かめ合った時、ある情報を見た時、手近にあっ
たゾロの地図の裏面にその情報をメモしてしまったこと。加え、ゾロもまたある情報をそこにメモしてしまったこと。
どちらも、誰が悪いわけでも、誰かの過失だというわけでもない。
ただ、不幸な事象が重なってしまった……それだけ。
床に落ちて、晒されている地図の裏面。
そこには、血で一部わからないが、こう書いてあった。
『ポケベルで分かった2時までの死亡者と殺害者
エルマー・C・アルバトロス 殺害者:バラライ●
上条当麻 殺害者:園崎●●●●●●●●●●●●
一方通行 殺害●●●●●●●●●●●●●●●●
イ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●クロコダイ●●●●●●●
●●●●●●●●害者:バララ●●●●●●●●●
ジョルノ・●●●●●●●●●●●●●●●●●●
×が危険な奴、○が仲間、△が微妙
●●
カズマ、リーゼントの男
△:獣耳の●●
●●●●●イト・クーガー、
橘あすか 』
【F-2 線路上・電車内/一日目 朝】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(中)、混乱、頭部にたんこぶ×2、頬に痛み
[装備]:
[道具]:双眼鏡(支給品はすべて確認済)、不死の酒(完全版)(空)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を助けて脱出したい
1:早くアーチャーから逃れたい。
2:切嗣についてアーチャーには漏らさないようにする。
3:切嗣、佐山のグループと早く合流したい(切嗣のことをそれなりに信用してます)
4:万が一のときに覚悟が必要だ
5:魔法使い……?
※時系列では本編終了時点です
アーチャーの真名を知りません。
クロコの名前、カナヅチという弱点を知りました。
【ギルガメッシュ@Fate/Zero】
[状態]:健康、不死(不完全)
[装備]:黄金の鎧@Fate/Zero、必滅の黄薔薇@Fate/Zero
[道具]:なし(圭一に持たせています)
[思考・状況]
基本行動方針:主催を滅ぼし、元の世界に帰還する。必要があれば他の参加者も殺す。
1:境目についての情報を整理する
2:次の駅で降りるか、それとも乗り越すか。
3:ゾロ、佐山に興味。ゾロと再会したら戦ってやる。
4:圭一が自分のクラスを知っていた事に関しては・・・?
5:宝具は見つけ次第我が物にする。 王の財宝、天地乖離す開闢の星、天の鎖があれば特に優先する。
[備考]
※不死の酒を残らず飲み干しましたが、完全な不死は得られませんでした。
具体的には、再生能力等が全て1/3程度。また、首か心臓部に致命傷を受ければ死にます。
※境目については、ずっと外を見ていたため柵などは見ていません。詳しく得た情報は不明です。
※悪魔の実能力者がカナヅチという弱点を知っています。
※電車内の床に、ゾロの地図が落ちています。
地図の裏には、2時までの死亡者、殺害者のメモ、ゾロが劉鳳の名簿から得た情報が記されていますが、一部がゾロの血で汚れて見えません。
*****
「はぁ……はぁ……あの金ぴか鎧! 空島のエネルよかタチわりぃぞあいつ! 次会ったら、ただじゃすまさねえ!」
とっくに電車が通り過ぎた陸橋、その近くの河原でゾロは膝を突いて息を荒くしていた。
アーチャーに突き落とされ、河へと落ちたゾロ。
泳ぐ事はできる。だが、いくらなんでも身体中の傷が酷い。こんな状態で河になど落ちたらどうなるかは目に見えている。
なんとか『三刀流 百八煩悩鳳』を河に向かって放つ事で、反動によりギリギリ河原へ着地。河への落下は防げたもの
の、再び河を見たときには雪走は見当たらなかった。
河に沈んだのか、流されていってしまったのか。
「沈んだとしたら……まずは、怪我をなおさねえと、話にならねえか。
ウソップの仇を討つにも、やっぱこの傷じゃあきついな」
チョッパーがいればいいのだが、そう都合よく会えるとは思えない。
となれば、治療できる場所に行くしかない。診療所、病院……。
「地図がねえ……あそこに落としてきちまったか……」
やっと地図が無い事に気付いたゾロ。
だが、彼は気にしなかった。病院の位置くらい、駅に向かう前に既に頭に入れてある。
これでも色々な冒険を潜り抜けてきたのだ。それくらいの備えは万全…。
「病院はたしか真ん中あたりの、右よりにあったな……。
つまり、真正面の……少し、右。こっちだな」
万……全……の、はず。
【F-1/北東・線路近くの河原(南岸)/1日目 朝】
【ロロノア・ゾロ@ワンピース】
[状態]疲労(大)、全身にダメージ(大)、左腿に銃創
[装備]
トウカの剣@うたわれるもの、八千代の刀@WORKING!!、秋水@ワンピース
[道具]支給品一式(地図なし)、麦わら海賊団の手配書リスト@ワンピース、迷路探査ボール@
ドラえもん
[思考・状況]
1:傷を治す為病院に向かう。
2:ウソップの仇打ち
3:ゲームにはのらないが、襲ってきたら斬る(強い剣士がいるなら戦ってみたい)
4:ルフィ、チョッパー、雪走を探す
5:クーガー、橘あすかにも合ってみたい。リーゼントの男にも興味
6:金ぴか鎧(アーチャー)は次に会ったらただではすまさない。
※参戦時期は少なくともエニエスロビー編終了(45巻)以降、スリラーバーグ編(46巻)より前です。
※
吉良吉影のことを海賊だと思っています
※黎明途中までの死亡者と殺害者をポケベルから知りました。
※入れ墨の男(ラズロ)が死亡したと考えています
※圭一に関しては信用、アーチャーに関しては嫌悪しています。
※雪走は使用不能だと思っています。
※病院に向かっていますが、方向は適当もいいところなので、本当に病院へ向かっているのかは後続の書き手に任せます。
※第1回放送を全く聞いていないので、ウソップ以外の黎明及び早朝の死亡者、
禁止エリアを知りません。
※雪走@ONE PIECEがF-1、F-2境目あたりで河に落下しました。
その場で沈んだか、あるいは流されてしまったかどうかは後続の書き手に任せます。
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最終更新:2012年12月02日 06:07