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  • リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル
  • 絶望の罪人~フタリボッチノセカイ~

リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル

絶望の罪人~フタリボッチノセカイ~

最終更新:2009年07月24日 01:09

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だれでも歓迎! 編集

絶望の罪人~フタリボッチノセカイ~ ◆jiPkKgmerY




時は数十分前、アーカード放送が行った直後に遡る。
化け物達による人知を越えた乱戦が発生したエリアの丁度隣に位置するエリア――――G-6。
その市街地を一人の男が走っていた。
男の姿はなかなかに異質なものであった。
頭部には天に伸びる派手な金髪、左肩には筋肉質な男を担ぎ、身体には真紅なコートを纏っている。
嫌でも人目を引くであろう格好で男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードはひたすらに足を前へと進めていた。

「だぁああ~! どこ行ったんだアンデルセンは!」

キョロキョロと頭を振り辺りに探し人が居るかどうかを確認。
だが、残念なことに探し人はヴァッシュの遙か先を一心不乱に爆走している。
当然探し人の姿を見付けられる訳もなく、ヴァッシュは大きく溜め息を吐いた。

「本当にあの人の所に向かっちゃったのかな……」

先の戦いでは、アンデルセンと僅かながら心を通わせる事が出来た気がする。
漸く手を取り合い、殺し合いを阻止することが出来ると思った。
精神的に危ういところもあるが、アンデルセンは強い。協力し合えばどんなに強大な敵でも止められる。
そう感じた。だからこそあの時、自分の危機に手を貸してくれ、尚且つアンジールを殺さずに戦闘を終わらせてくれた時は嬉しかった。
どんな人でも、例え化け物専門の殺し屋だとしても「ラブアンドピース」は通じる。
そして皆で力を合わせれば、こんな殺し合いだって打開できる。そう、思った。

―――なのにあの放送が全てを元の木阿弥に返した。
殺し屋としての顔を取り戻し、自分やアンジールの存在など歯牙にも掛けず走り去るアンデルセン。
放送者はアーカードと名乗っていた。
アーカード――初めて出会った時、アンデルセン自身が語った曰わく最強の吸血鬼。
アンデルセンは過去にアーカードと戦闘をし、仕留めきれなかったのこと。
あのアンデルセンが仕留めきれなかった。俄かには信じ難い事だが、語り手のアンデルセンに嘘を吐いている様子はない。
言葉そのまま、それ相応の強敵と判断するべきだろう。

(吸血鬼、か……)

ヴァッシュは何となくながら、アーカードとアンデルセンの関係を理解できた。
――宿敵。
必ず自分の手で決着を付けなくてはいけない相手。何を優先してでも打倒すべき敵。
アンデルセンにとってのそれがアーカードなのだ。
ヴァッシュは、アンデルセンが暴走した気持ちに僅かながら共感を覚えていた。
自分もそうだ。ナイブズを見つけたとしたら、アンデルセンを置いてでも戦いに向かう。
あの時、ジェネオラ・ロックでの時と同様に。

「……無事でいてくれよ、アンデルセン」

小さな呟き。
相手が誰であろうと成すべき事は変わらない。
誰も殺させない―――ずっと守り通してきた誓約に殉ずるだけだ。
ふと空を見ると、そこには澄み切った青が何処までも無限に広がっていた。
あの砂の惑星でも、あの平穏な地球でも、空の色だけは変わらない。吹き抜けるような清々しさがそこには存在する。

「……さて、行きますか!」

取り敢えずはアンデルセンが走り去った方角へ。
目指すはアンデルセンでさえ手を焼く化け物。
まともな勝負になるかも分からないが、逃げる訳にはいかない。

「そうだろ、なのは」

恐怖心が無い訳ではない。でも止まってなんかいられない。
なのはもこの空の下、精一杯戦っている筈だから。
だから俺も泣き言を口にしたりはしない。どんな相手でも逃げたりしない。
―――それでこそヴァッシュ・ザ・スタンピード、それでこそ管理局臨時嘱託魔導師だ


腹の底に力を込め、傷付いた身体で出せる最高の速度で走り始める。
肩に乗せた剣士さんがとてつもなく重いが、この状況で目を覚まされても厄介といえば厄介。
せめて静かに眠っていてもらおう。
灰色のビル街が視界の端を流れていく。視線の先には三つの道に別れた十字路。
アーカードの放送は西から聞こえた。自分が走っている方角も西のはず。取り敢えずは直進ということで良いだろう。
深くは考えず直感を交えてそう判断し、ヴァッシュは速度を緩めることなく十字路へと足を踏み入れ――――そして、ゼンマイが切れたブリキ人形のようにピタリと動きを止めた。
ギ、ギ、ギ、とゆっくりと首を回し南の方角を向く。
視界に映るは巨大なビルの山とその合間から見える青空。別段何の変哲も見受けられない景色だ。
なのにヴァッシュは動かない。見えない何かを見つめるかのように、視線を固定したまま茫然と立ち尽くす。
そしてたっぷり数分後、金縛りが解けたかのようにヴァッシュは動き始めた。

―――それからの行動は迅速なものであった。
一番近くに建っていたビルの扉をくぐると、エレベーターを利用し適当な階で下り適当な部屋を見つけ中に入る。
ヴァッシュが入った部屋には向かい合わせにソファが二つ、その間に足の短いテーブルが一つ設置されていた。
扉には応接室として書いてある白色の小さなプレートが張り付けられている。
ヴァッシュはそのソファにアンジールを横たえると、自身に支給された銃の一つをアンジールの懐に差し込む。

「ごめんよ……直ぐ戻ってくるから……」

そう言い部屋から退出するヴァッシュ。
元来た道を辿るように戻り、再び市街地に足を下ろすとヴァッシュは走り出す。
西へと続く十字路を左に―――つまり南に向かって。
アンデルセンが向かった筈の西には脇目も振らず、アンジールを放置したビルに
振り返ることなく、ヴァッシュは全速力で疾走を始めた。



■



――それは「共鳴」と言われるプラントが持つ特有の現象であった。
プラント同士が響き逢い、遠く離れた地点にいる同種の存在を確認する事ができる。
動くことや意思を伝達できない通常のプラントにとってはあまり意味の無い能力であるが、自立種であるヴァッシュやナイブズには大きな意味を成す。
事実、ジュネオラ・ロック・クライシスに於いて、ヴァッシュは「共鳴」によりナイブズの復活を知り、そして「共鳴」により暴走させられた。
探知機であり引き金――それが「共鳴」であった。
先程ヴァッシュが足を止めた理由は、ナイブズとディエチの戦いにて発動されたエンジェルアームに「共鳴」したから。
具体的な位置を特定するには至らないが、ナイブズが近場に居るという事実だけでヴァッシュに決断させるには充分過ぎた。

(ナイブズ……)

蘇る過去の記憶。あの冷徹な笑みが頭の中に浮かぶ。
レムを殺した男。人類の滅亡を目的とする男。この手で決着をつけなくてはいけない宿敵。
あいつが直ぐ近くに居る。
捨て去ろうとした因縁が、この殺戮遊戯にて再び自分に突き付けられようとしている。

「止めてみせる、絶対に……!」

負ける訳にはいかない。
みんなが待つあの平穏な世界に戻る為、自分が見捨てた砂の惑星の人々を救う為、自分は負けない。
奴を――――倒す。
百年を超える因縁に、今日この場で終止符を打ってみせる。

「だから済まない、アンデルセン……アンジール……」

ただ気掛かりな事が二つある。
一つは、アーカードに呼び寄せられた人々が行うであろう大乱戦。
一つは、気絶という無防備な状態でビルの一室に放置してきた名も知らぬ剣士。
特に後者は心配で仕方がない。
いくら彼が超人的な身体能力を有しているとしても、気絶中では抵抗する事すら叶わない。
見つかり難い場所に隠したとはいえ、発見される可能性が無い訳ではない。
最低限の護身の為に拳銃を置いてきたが、意識を失っている状態では意味がない。
要するに自分は、あの剣士を非常な危険な状況に追いやったのだ。自分の手で傷つけた人間を無責任に放置し、自分の因縁を優先し行動をしているのだ。
謝罪なんて言葉で済まされる問題ではないだろう。
でもそれでも、ナイブズとは決着をつけなくてはいけない。
これ以上奴を野放しにすれば不要な被害が拡大していく。奴を倒さなくては、このゲームは最悪の結末を迎えてしまう。
だから――――ごめん。




朝焼けに照らされた市街地を一人の男が走り続ける。
男は全てを振り切って、自身の長きに渡る因縁を終わらせるためだけに前に進む。
時は放送まであと十数分と差し迫った早朝――――この時がこの殺し合いに於けるヴァッシュ・ザ・スタンピードの分岐点であった。



■



「――って、何コレぇぇえええええええ!!」

それから数分後、G-6とH-6の境界線までやって来たヴァッシュの前にこれ以上ない強敵が現れた。
それはサラサラと清らかな水を流し続ける道―――つまりは川。
幅30メートル程の川がヴァッシュの前に立ち塞がっていた。

「どうすんの、コレ!? 僕泳げないし、橋もないし!」
身体能力に制限さえなければ跳ぶ事も出来ただろう。
頭を抱えつつ川を睨み付け、叫び声を上げるヴァッシュ。
迂回すれば橋があるらしいが、それでは時間が掛かりすぎる。その間に奴が移動してしまう可能性だって高い。
だが無理やり突破するにも川の深さが分からない。もし足が着かない程の水深だったとしたら、百%自分は溺れる。
そりゃもう確実に。
そもそも自分が生きてきた砂の惑星では川や海なんて物は存在しない。
「泳ぐ」という概念自体、殆どの住民が知らないだろう。
勿論、自分だって例外ではない。地球に住んでそれなりの時間が経ったが、季節は冬。水泳など経験したことがない。
万が一、足を滑らせればそのまま死に直結する可能性だってある。

「どうする、どうする、どうする……考えろ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード!」

川を渡るか、橋を渡るか。
下らないと言えば下らない問いにヴァッシュが本気で悩み始めたその時―――その現象は発生した。
それは、全てを包み込むように穏やかで、だが鋭く瞳を刺激する強烈な山吹色。
そんな色をした光が川の向こう側のビルの隙間から噴き出していた。
その不可解な現象にヴァッシュは思考を止め、首を伸ばす。
が、その現象を隠すかのように建ったビル群しか視界には入らない。
ヴァッシュは首を捻り、そこで思考がズレた事に気付き再度、眼前に塞がる強敵に対する攻略法を考え始め―――


「―――惑星は南を下とする」


―――瞬間、世界がひっくり返った。








「おわぁあああああああああああああああああああああ!!」

この不可思議な現象を理解することなどヴァッシュには到底不可能であった。
喉が裂けんばかりの絶叫と共に、前方である「南」へと落下していく。
止まらない、止まらない、止まらない、止まらない、止まらない。
ゴウ、という音と共に僅か数メートル横を、大質量のコンクリートの塊であるビルが次々と通過していく。
今のところは奇跡的に無事だが、このまま落ちていけば、いずれビルに直撃するのは自明の理。
混乱に占領された頭脳の下ヴァッシュは無意識にそう判断し、生き残る為の行動を開始した。
まずは銃を取り出し両手でしっかりと腹の前で構える。そして前――――現段階では下を向きタイミングを推し量る。

「ミスったら死ぬぞ、ミスった死ぬぞ、ミスった死ぬぞ、ミスった死ぬぞ!」

自分に言い聞かせるように何度と同じ言葉を反復する。
と、そこで真っ正面から一棟のビルが迫ってきた。真っ正面、つまりは激突コース。
激突コース、つまりは即死コース。
だがそれを見てもヴァッシュは動じない。
ビルに激突する寸前、拳銃を持った両腕を腹に密着させながら発砲。
銃声は一発。だが放たれた弾丸の数は七発。あまりの早撃ちに銃声は一発にしか聞こえない。
七発分の銃撃の反動により落下速度が僅かに緩まる。そして両脚を折り曲げ、出来る限りの衝撃を吸収―――着地する。

「っ! っ~~~~!」

正座し続けた時と同種の、だがその何倍もの痺れが両脚を伝わり身体全体に広がっていく。
まさに悶絶。
声にならない声がヴァッシュの口から漏れた。
そのままペタリと横になり、痺れが取れるまでしばしの休息を取ることにする。

「何だってんだ、コレは……」

見上げた視線の先ではビル、地面と空が壁のように垂直になっている。
横に空と大地が広がり、上と下にビルが建ち並んでいるその光景は、まさに圧巻の一言。
魔法という言葉ですら片付けられない程の超常的現象にヴァッシュはしばし茫然としていた。
すると再び唐突に重力の向きが変化する。

「うべっ!」

ビルの壁に寝転がる形をとっていたヴァッシュは当然地面に落下し、盛大に顔を打ち付ける。
踏みつぶされた蛙のような呻き声を上げて地面に倒れた。

「イテテ……なんだっていうの、全く……」

立ち上がり周囲を見渡す。落下している間に川を越えてしまったらしく、先ほどまでとは景色が違っていた。
―――ナイブズは?
川を越えられたことを僥倖に感じつつ、ヴァッシュは辺りを見回す。がナイブズの姿は何処にも見えない。
自分同様、重力変化に巻き込まれたのか、それともあの現象すらも奴の能力なのか。
取り敢えず周りを探そう。
そう考えヴァッシュは歩き始めようとして―――その時遠くの方から数発の銃声が静寂を斬り裂いて辺りに響き渡った。

「ッ……まさか!」

その銃声の瞬間、まず、ヴァッシュの頭によぎったものはナイブズの姿。
先の重力変化によりナイブズが誰かと遭遇、戦闘を始めたのではないか。
そして先程の銃声はその誰かが生き残る為に放った反撃の咆哮。
銃声の音量からして、距離はそれなりに離れていることが分かる。
――早くしなくては。
焦燥を胸に宿し、ヴァッシュは全速力で駆け始める。
途中再び「共鳴」が発生、そして二発の銃声が轟いた。
「共鳴」によりヴァッシュは確信する。この先でナイブズが誰かと戦闘を行っている。
止めなくては確実に人が死ぬ。
ダメだ、そんなことを許してたまるか。奴のせいで命を失う者が出るなんて絶対に―――。



走り始めて数分後、やけにボロボロに傷付いた横長の四階建ての建物を遠くの方に見つけた。
特に酷いのが正面。まるで何かが突っ込んだような大穴が空いている。
他にも淵が溶解している穴が横一線に走っていたり、所々に壁がひび割れていたりと今にも倒壊しそな雰囲気。何か異常な事態が発生したことは一目瞭然であった。
歯軋りの音と共に、走る速度が一層に高まっていく。
徐々に近付いていく生死の境に建つ建築物。あと数十メートルで辿り着く。

『さて、皆が待ち望んだ最初の放送の時間が来たわ』

そして、その時放送が始まった。
ヴァッシュはその忌々しい放送を聞き取りながら、走り続ける。
三十メートル、二十メートル、十メートル―――ようやく到着した。

直ぐさまナイブズを探し出そうとするも、あまりに凄惨な建物内の姿にヴァッシュは動きを止める。
一階部分にある大半の物体は瓦礫へと変貌していた。まるで巨大な何かが通過したかのように薙ぎ倒された調度品。
まさに地獄絵図と呼べる光景がそこにはあった。

「くそッ……何でこんな!」

放送の中ではプレシアが未だに語りを続けているが、禁止エリアの発表も、死者の発表も始まっていない。
ヴァッシュは、悪魔狩りが愛用する双子拳銃の片割れ・エボニーに弾丸を装填し、警戒と共に一歩目を踏み出す。
瓦礫やガラス片を踏まないよう、慎重に慎重に歩きながら辺りを探る。だが、人の気配もナイブズの気配も感じられなかった。

『――それじゃあ禁止エリアの発表よ、よく聞きなさい』

耳元から聞こえた声にヴァッシュは小さく舌打ちし、その場に屈みデイバックからペンとメモ帳を取り出した。
流石に禁止エリアは把握しておかないと、生死に関わる。
他から見えないよう出来るだけ低い体勢を取り、発表される禁止エリアをメモ帳に書き留めた。

『では次にお待ちかねの死者の発表よ』

死者の発表……つまりは誰かが死んだという事。
ヴァッシュは痛ましげに顔を歪ませ、次いで参加者名簿を取り出す。こちらも把握しといた方が良いだろう。

―――と、そこで何かがヴァッシュの視界の隅を掠めた。
一目で瓦礫とは違うと理解できる白色。その棒は太く長くどの瓦礫よりも際立って見える。
ヴァッシュは二度見の要領で視界を動かし、再びその白色を視界の中に入れる。
それは誰かの脚のように見えた。屈んだこの状態からでは片方分しか見えないが、その形は確かに脚であった。

『――アグモン』

今は放送の聞き取りを優先すべきだというのに、ヴァッシュは何かに取り付かれたかのようにそちらへと足を進めていく。
そして―――探し求めていた宿敵の姿を発見する。

『――エリオ・モンディアル』

このような状況下で眠っているのか、大胆不敵に宿敵はうつ伏せの状態で転がっていた。
誰かの返り血を浴びたのだろう、頭から胸までを漆黒の血に染めている。

『――カレン・シュタットフェルト』

鼓動が急速に速さを増すのを感じた。
ナイブズは気絶中、こんなに近くに立っているというのにピクリとも動かない。
突然目の前に落ちてきた千載一遇の好機にヴァッシュは息を飲み、震える手でエボニーの狙いを付けた。



『――クロノ・ハラオウン』

―――だが続く放送が彼の思考を止める。
それは仲間の名。こんな放送で呼ばれる筈が無いと思っていた実力者の名前が早々に響いた。
ガチャリという音と共にエボニーがその掌から滑り落ちる。
見開かれた眼は、凄惨な病院内も宿敵さえも映していない。当然、死者を告げる放送も届くはずがなかった。

『――高町なのは』

―――だがその状態でも、まるで毒蛇のようにその名は頭の中に滑り込んでくる。
それは仲間であり命の恩人、そして自分を救ってくれた少女の名前。
絶対に守り抜くと決めた名前が易々と呼ばれてしまった。
「あ、あ……」と意味の分からない声が空気を震わす。力尽きたかのようにヴァッシュは膝をついた。
しかしそれでも放送は終わらない。

『――ミリオンズ・ナイブズ』
「――――え?」

―――最後に呼ばれた名前に疑問しか感じなかった。
だって当の本人は目の前で気絶をしているのだ。返り血に身を染め、眠るように気を失っている、筈だ。
ナイブズに触れる。ひっくり返し仰向けにした。
今まで隠れていた表情が見える。
その顔はまるで勝ち誇っているかのように微笑んでいた。
死ぬ筈が、この男が死ぬ筈がない。右手を伸ばしナイブズの左手首を掴む。
ちゃんと体温は感じる。死んでる訳がない。
手首に指を乗せ、じっと待つ。
―――だが何分何秒と経とうと血の通いを示す振動は感じ取れない。
感じ取れたのはナイブズの身体が徐々に冷たくなっていくことだけ。

「あ、あ、あ、」

漸くヴァッシュは気付いた。いや、現実に目を向けたと言った方が正しいだろう。
返り血だと思っていたものはナイブズ自身の血液。
よくよく見ると何発もの銃創が身体には存在している。右腕だってない。
ヴァッシュは理解するクロノが、なのはが、ナイブズが死んだことを。
そしてクロノの死に、なのはの死に、ナイブズの死にヴァッシュは―――


「あ、ああ……あ、あああああああああああああああああああああああああああ
あああああああ!!!!!」






―――慟哭が死の詰まった病院に響き渡る。それを聞いている者は三人の死体と、一人の男、一人の女だけであった。






















―――あの時レムは何と言ったのだろう……振動と轟音に……かき消された言葉―――










どれほどの時が経ったのであろうか。数時間かもしれないし数秒だったのかもしれない。
その間ヴァッシュは身動き一つせず、虚無の詰まった瞳で死んだ兄のことを見つめ続けていた。
脳裏に浮かび思考を占領するのは、死者達との思い出。

「――こちらこそ……手加減はしないよ」

その言葉から始まったリンディから課せられた試験。
内容はリンディが指定した対戦相手に魔法での一撃を決めること。
相手は一人の少年。
なのはよりは少し年上、でも大人と呼ぶには後十年ばかりの年月が必要な少年――それがクロノ・ハラオウンだった。


「――私とヴァッシュさんは友達だよね……辛いことがあったら相談してよ……
何でもかんでも一人で背負わないでよ……」

僕に平穏な世界での生活を決意させた言葉。この言葉を紡いでいる時、少女は懸命に涙を堪えていた。
彼女はどこまでも優しかった。そんな彼女が初めて怒った時の言葉だ。
何時もの敬語はどこかに消え、ただ感情のままに話し掛けてきた。
この言葉が僕に決意させた。
この平穏な世界で生きようと―――それが豚以下の生き方だとしても、全てを捨て去りこの世界で生きようと、この言葉が僕に決意させた。
でも、あの時全力で戦った少年は、この言葉を語った優しい少女は、死んだ。
こんなクソみたいな殺し合いで死んだ。
もう居ない。あの笑顔はもう見れない。それが死だ。
百五十年の人生の中何度となく見てきた死が、どんな人間にも平等に降り懸かる死が、二人を襲ったのだ。


「――よう、ヴァッシュ」

この男は死んでも仕方がない男だ。
レムを殺し、自分の左腕を斬り落とし、人類を淘汰しようとその凶悪な力を存分に振るった怪物。
仕方がない……仕方がない。死んでも、いや死ななくてはいけない存在だったのだ。
なのにでも。
何だこの、胸を引き裂かれたような痛みは。何だこの、大事な何かが抜け落ちたような喪失感は。
この男は宿敵だった。仇敵だった。決して相容れぬ存在だった。
―――でも兄弟だった。宿敵でも、仇敵でも、相容れぬ存在でも、ナイブズは、僕の兄弟だった。

「うあ……あ、あ……ああ……」

声が、漏れる。
視界が、歪む。
目から何かが、零れ落ちる。
折れそうになる心。
しかし、ヴァッシュは立ち上がった。
身体中に渾身の力を込め、絶望に打ちのめされながらも立ち上がる。
何が彼を支えているのか分からない。だが、それでもヴァッシュは白銀の銃を拾い上げフラフラと歩みを始める。

「おい」

そんなヴァッシュに声を掛ける者が居た。
ヴァッシュは感情を宿していない憔悴しきった表情でそちらに振り向く。
その瞬間、視界を埋め尽くしたものは太陽の輝きに似た山吹色の光。
人々を護る―――ヴァッシュに似た信念を持つ少年の闘争本能に呼応し形成された突撃槍が放つ、淡い包み込むような光。
その光が、ヴァッシュの視界を眩ませた。
ヴァッシュは殆ど反射的に身を捩った。が、間に合わない。
左肩に強烈な衝撃と突き抜けるような痛みが走った。そしてそのまま一回転、二回転と独楽のように身体を回し、後方の壁に叩き付けられた。

「……あれ?」

衝撃にぼやける頭を振り左肩を見ると、義手が無くなっていた。
ああ、また壊しちゃったか……ボンヤリとそんな事を考えながらヴァッシュは立ち上がる。
と、その時左側から赤色の何かが吹き上がり視野を阻めた。
疑問に思いつつヴァッシュは再度左肩に視線を投げる。
そこでヴァッシュもようやく気付いた。
自分の左肩が無くなっている事に。
義手ごと、左腕に唯一残されていた肩が斬り落とされている事に。

「……よく避けたな。この一撃はそこの男でさえも避けられなかったのだぞ」

―――その言葉に再びヴァッシュが前を向いた時には全てが終わっていた。
一発、二発と吸血鬼すら粉砕する弾丸がヴァッシュの胸部を貫通し、中に存在する臓器を潰して回ったからだ。
心臓も肺も潰された。如何にタフなヴァッシュと言えど致命傷である。
一、二歩前進し前のめりに倒れ伏す。奇しくも同種の双子は折り重なるように倒れた。
キース・レッドはその頭部にトドメの弾丸を撃ち込もうとし、しかし途中で思い止まりその動作を中止する。
変な情が湧いた訳ではない。単純に弾を節約しようと考えてのことだった。

「これで十四人……先はまだまだ長いな」

ヴァッシュのデイバックとエボニーを回収し、キース・レッドは直ぐさま来た道を引き返す。
後には、灰色の瓦礫と折り重なるように倒れた二人の兄弟だけが残された。



■



―――暗い暗い部屋に居た。
上も下も右も左も前も後も、どこまでもどこまでも闇が広がっている。
そこには青い空など何処にもない。
自分は何をしていたのだったか。上手く思考が進まない頭を揺らし、進む。

ただ前に。ただ前に。
ただ前に。ただ前に。
ただ前に。ただ前に。
ただ前に。ただ前に。
ただ前に。ただ前に。

クロノが死に、なのはが死に、ナイブズが死んだ。でも立ち止まれない。
剣士さんの元へ帰り、アンデルセンの元へ向かい、戦闘を止める。まだやるべきことは山のように残っている。
立ち止まれない、膝を折る訳にはいかない。進まなくては、いけない。

「よう、ヴァッシュ」

ふと声がした。
そこには見覚えのある男――ナイブズ。
何だ、やっぱり生きてたんじゃないか。俺の思った通りだ。こんな殺しても死ななそうな奴が死ぬ訳ない。

「生きてたのか、ナイブズ……」
「……お前は腹立たしく思わないのか?」

こっちの労りの投げ掛けを無視し、ナイブズが静かに問うた。
腹立たしい? なんのことだ?

「俺は、あまりの屈辱に腑が煮えくり返っているよ。奴が、人間が、全てが、憎い」

それは今まで見たことの無いナイブズであった。拳を震わせ、闇の彼方を睨み付
け吼える。人間に対してここまで感情的になるナイブズは初めて見た。
何があったんだ?

「……気付くんだ! 奴等を滅ぼさなくては同種は、いや人間以外の全てが食いつぶされる! 種族も、大地も、自然も、惑星さえもが殺される……お前はそれで良いのか!?」

あまりの迫力に口を開けない。茫然と見詰めることしか出来なかった。
ナイブズが少しずつ歩み寄ってくる。その右腕が喪失していることに今更ながら気付いた。

「だから貴様に力をやる……俺の怨みを晴らせ、俺の代わりに同種を救え」

ナイブズの左手が肩に置かれる。そういえば自分の左腕も無くなっていた。
原因は思い出せない。

「任せたぞ、ヴァッシュ……」

そう呟くと同時に、ナイブズの左腕が異様な光を発した。その光色が漆黒の世界を塗り潰していく。
それは白色。
その全てを染める白色は何時か見たことがある。
僅かな既視感――――そう、あれはなのはの世界に飛ぶ寸前のこと。
所々抜け落ちた記憶の中で自分はこの光を見た。
白色は全てを消し去りナイブズの姿も、自分の姿も見えなくなる。
闇が、殺されていく。光の中、一人の女性が自分に微笑み掛けてくれた気がした。






「……あれ?」

そしてヴァッシュ・ザ・スタンピードは何もなかったかのように目を覚ました。
自分の身体に僅かな違和感を感じながらも、立ち上がる。何故か身体は何処も痛まない。
アンデルセンや剣士さんに殴られた脇腹も治っているようだった。

(何があったんだっけ……)

頭の中に霧が掛かっていて、どうにも記憶を引き出す事が出来ない。さっきまで誰かと話していた気もするが、周りには誰も居ない。
そもそも何でこんな所に居るんだ? 剣士さんを背負ってアンデルセンを追い掛けてたんじゃなかったっけ?
右手で頭を掻きつつ立ち上がり両腕で服を叩き埃を落とすと、ヴァッシュはゆっくりと周りを見渡す。
ひび割れから差し込む日光がいやに眩しい。左手をかざし日光を防ぐ。

(―――左手?)

ふとヴァッシュは自身の左腕を見つめる。そこには何時もの無骨な義手ではなく温もりを持った肌色が広がっていた。

ヴァッシュの頭に混乱という名の嵐が吹き荒れる。
左手を開閉する。しっかり動く、力も入る、感触もある。
指先、手首、肘とヴァッシュは身体の方へと視線を移動させながら、何故かある左腕を観察していく。
そして肩まで見た時、ヴァッシュは動きを止める。



―――目が合った。
―――そこにあった顔と。
―――光を宿さない虚ろな瞳。
―――その顔を見てヴァッシュは全てを思い出した。
―――左肩に根を下ろしたかのように張り付いたナイブズの顔を見て、ヴァッシュは、全てを、思い出した。



「うわぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」



内からある感情が圧倒的な奔流となって込み上げてくる。
何だこの感情は? 俺はこんなこと思っていない。なのに何でこんな感情が湧き上がってくるんだ。
耐えるように、抑えるように左腕を握り締める。
左腕が熱い。理性も常識も何もかもが吹っ飛びそうだ。
怖い。何なんだ、これは。

「大丈夫ですか!」

ふと声が聞こえた。
視界がぼやけて相手の顔が分からない。
でも何処がで会ったことのある雰囲気の人であった。
ドクン、と左腕が跳ねた。


―――殺せ

声が頭の中で鳴り響く。その声は憤怒と殺意に満ちている。
この声は俺じゃない。
左腕が熱い。

―――殺せ殺せ

その圧倒的な感情の奔流に正気を保つことができない。
視界が白くなっていく。
左腕が熱い。

―――殺せ殺せ殺せ

大きな流れが左腕に集まってきている。
もやが掛かった視界の端で左腕がボコボコと不規則に収縮を繰り返していた。
左腕が熱い。



「だ――じ――ぶで――か!」

気付いたら、その人は自分の直ぐ側にいた。
駄目だ、逃げろ、逃げてくれ。
早く、少しでも遠くに、俺から離れてくれ!


「逃げ……ろ」


―――殺せ殺せ殺せ殺せ

左腕が熱い。
自分が座っているのか、倒れているのかも分からない。
白色の中、ただ左腕が熱かった。


―――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


左腕が熱い。
抑えきれない。
ひだり腕があつい。

―――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ


ひだりうでがあつい
おさえきれない
ひだ…うでが……い


―――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺
せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

ひだりうでが…………レ………ム……



「逃げろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

―――羽根が左腕から噴出した―――



■



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