罅割戦線-生と死のゲーム-
◆ ◆ ◆
「さて……何か言い訳はあるかしら」
「いやね、落ち着きなよ杏ちゃん。ほら、飴玉あげるからさ」
「いやね、落ち着きなよ杏ちゃん。ほら、飴玉あげるからさ」
鳴海歩、緑葉樹、藤林杏の三人は再び机で向かい合っていた。
話す内容は先程の別れて島を探索する件についてだ。
杏は自分の意向を全く聞かず、男二人で勝手に決めてしまったのが気に入らない。
歩と樹はどこ吹く風だ。まったくもって気にもしていなかった。
話す内容は先程の別れて島を探索する件についてだ。
杏は自分の意向を全く聞かず、男二人で勝手に決めてしまったのが気に入らない。
歩と樹はどこ吹く風だ。まったくもって気にもしていなかった。
「チームワークって大事だと思うのよ、あたし」
「何言ってんだよ、杏ちゃん。俺様達のチームワークなんて見事と言えるぐらい完璧じゃないか。鳴海もそう思うだろう?」
「ん? あ、ああ」
「アンタ全く聞いてなかったでしょ……」
「何言ってんだよ、杏ちゃん。俺様達のチームワークなんて見事と言えるぐらい完璧じゃないか。鳴海もそう思うだろう?」
「ん? あ、ああ」
「アンタ全く聞いてなかったでしょ……」
はぁとため息をつき、杏は頭をかかえる。この自由気ままな二人をどうしてくれようか、と。
「案としては問題ないと思うけどね。手分けしてこの島を探索した方が手間が省けていいじゃないか、な」
「まあ緑葉の意見に一理ある。幸いのことに三人とも拳銃を持っているから無抵抗に殺されるということはない。
武器がないんだったら固まった方がいいと思うがな」
「じゃあ三人バラバラになればいいんじゃないの?」
「杏ちゃん女の子だし、野郎といたほうがいいじゃん! っていう俺様の配慮がふんだんに含まれているのさ」
「バカにしないで、少なくとも護られている側にはならないわよ」
「じゃあ杏ちゃんさぁ、人殺せる?」
「まあ緑葉の意見に一理ある。幸いのことに三人とも拳銃を持っているから無抵抗に殺されるということはない。
武器がないんだったら固まった方がいいと思うがな」
「じゃあ三人バラバラになればいいんじゃないの?」
「杏ちゃん女の子だし、野郎といたほうがいいじゃん! っていう俺様の配慮がふんだんに含まれているのさ」
「バカにしないで、少なくとも護られている側にはならないわよ」
「じゃあ杏ちゃんさぁ、人殺せる?」
樹の雰囲気が変わる。数瞬前まで纏っていたおちゃらけた笑顔はなく、目は真剣そのものだ。
杏は樹に押されたのかううっと唸り声を上げたまま何もしゃべらない。
杏は樹に押されたのかううっと唸り声を上げたまま何もしゃべらない。
「襲われたらその拳銃で撃たないといけない」
「でも、話しあえば!」
「甘いよ、大甘。どっさり砂糖の入ったココア並に甘いよ。そんなのに応じる平和的な“マーダー”さんがいると思うかい?」
「っ……」
「俺様は生き残るためなら殺るぜ? むざむざ死にたくないしね」
「……俺は“できるだけ”人は殺したくはないな」
「ほら、普通はそうよ」
「はいはい、言う通りですね、お姫様」
「む~~~~~~、バカにして!」
「落ち着けって藤林」
「でも、話しあえば!」
「甘いよ、大甘。どっさり砂糖の入ったココア並に甘いよ。そんなのに応じる平和的な“マーダー”さんがいると思うかい?」
「っ……」
「俺様は生き残るためなら殺るぜ? むざむざ死にたくないしね」
「……俺は“できるだけ”人は殺したくはないな」
「ほら、普通はそうよ」
「はいはい、言う通りですね、お姫様」
「む~~~~~~、バカにして!」
「落ち着けって藤林」
杏は拳を握りしめ、樹は肩をすくめてシニカルに笑い、歩はそれらを抑えようと立ち上がる。
「これが落ち着いていられ……ん? 何この振動音?」
三人の動きが止まり、どこからか聞こえる振動音に耳を澄ます。
音は机の上に置いてあるデイバッグから発せられている。
音は机の上に置いてあるデイバッグから発せられている。
「おい、誰のデイバッグだい?」
「俺のではないな。藤林、お前のだろ」
「あ、あたしの!? あれー、音が出る奴なんて入ってたっけ?」
「というかちゃんと全部何が入っているか見てないのか……」
「俺のではないな。藤林、お前のだろ」
「あ、あたしの!? あれー、音が出る奴なんて入ってたっけ?」
「というかちゃんと全部何が入っているか見てないのか……」
呆れ顔で歩はじっと杏を見るが、しれっとした顔で返される。
加えてぶつぶつと小声で言い訳をしているがそんなの関係ないとばかりに樹はなぜきちんと確かめていないのかと責めるが。
加えてぶつぶつと小声で言い訳をしているがそんなの関係ないとばかりに樹はなぜきちんと確かめていないのかと責めるが。
「だって歩とすぐに会ったから……たまたまデイバッグの中に入っていた拳銃だけ取り出して……」
もちろんそんなの言い訳にすらならない。確かめられるときにきちんと確かめておくのが当然のことである。
「とりあえず確かめろ、話はそれからだ」
歩はさっさと確かめるよう急かす。
依然とぶつくさ言いながらも杏はデイバッグの中に入っているであろう振動音の元を手に掴んだ。
依然とぶつくさ言いながらも杏はデイバッグの中に入っているであろう振動音の元を手に掴んだ。
「これって、ただの携帯電話よねぇ。誰かメールか電話でもしてきたのかしら?」
杏の手に握られているのは何の変哲もないベーシックな形の黒の携帯電話。依然とぶるぶると震えている。
「杏ちゃん、この携帯に覚えは? 自分のでもないっしょ?」
「違うわよ。まぁ、取り敢えず中身を見てましょう」
「違うわよ。まぁ、取り敢えず中身を見てましょう」
カパッと音を立てて携帯の画面が現れる。画面には『メールが一件』と映っていた。
ピコピコと操作をしてメールを表示する。そこには――
ピコピコと操作をしてメールを表示する。そこには――
「何よ、これ……!」
「こいつはまた随分と悪趣味だね」
「……」
「こいつはまた随分と悪趣味だね」
「……」
画面に写っている文面は極めて怒りを誘うものだった。
『こんにちは、主催者の郷田真弓よ。元気でいるかしら? このメールを見てるってことは即死してはいないと思うけど。
さて、挨拶はこのくらいにして本題に入りましょうか。もうすでにこの島では命を落とした参加者がいるわ。
ふふっ、笑っちゃうでしょ? まだ3時間程度しか経っていないというのにね。
その中でも最も早く脱落した馬鹿な参加者の死に顔の写真を特別にメールに添付して送るわ。
これを見て自分もこうならないようにって精々頑張りなさい』
さて、挨拶はこのくらいにして本題に入りましょうか。もうすでにこの島では命を落とした参加者がいるわ。
ふふっ、笑っちゃうでしょ? まだ3時間程度しか経っていないというのにね。
その中でも最も早く脱落した馬鹿な参加者の死に顔の写真を特別にメールに添付して送るわ。
これを見て自分もこうならないようにって精々頑張りなさい』
メールの文はここで終わっており、文の下には添付ファイルのアドレスが乗っていた。
「狂ってる……!」
「まあね、バトル・ロワイアルとかいうゲームの主催者なんだ、狂ってるとかそんなの通り越してるんだろう」
「普通の感性ではとてもじゃないができないしな。俺らを動揺させたいんだろうよ。で、どうする? 中身は見るのか」
「見るべきだろうな、こんなのでも一応は情報として何かに使えるかもしれない」
「でも……もし……知り合いが写真に乗っていたら……」
「まあね、バトル・ロワイアルとかいうゲームの主催者なんだ、狂ってるとかそんなの通り越してるんだろう」
「普通の感性ではとてもじゃないができないしな。俺らを動揺させたいんだろうよ。で、どうする? 中身は見るのか」
「見るべきだろうな、こんなのでも一応は情報として何かに使えるかもしれない」
「でも……もし……知り合いが写真に乗っていたら……」
杏は嫌な感じを予測したのか普段通りの強引さがしぼみ、携帯を握る強さも弱まっていく。
もし誰か知り合いがこの携帯の画面に映ったら。耐えれるのだろうか、自分は。
もし誰か知り合いがこの携帯の画面に映ったら。耐えれるのだろうか、自分は。
(無理よ、耐えられる訳ないじゃない……!)
きっと壊れてしまう、そんな予感が頭によぎった。この小さな携帯の中にその答えが隠されている。
これから先の運命を決める大事な分岐点がもうすぐそこまで迫っていた。
これから先の運命を決める大事な分岐点がもうすぐそこまで迫っていた。
「じゃあ杏ちゃんだけ見ない? 俺様はそれでもいいよん。見ない方が幸せでいられるかもしれないしね」
「……っ、見るわよ。あたしだけ怖気づくなんてかっこ悪いじゃない」
「決まりだね。さてと、画像ファイルを開けるぜ」
「……っ、見るわよ。あたしだけ怖気づくなんてかっこ悪いじゃない」
「決まりだね。さてと、画像ファイルを開けるぜ」
ファイルに入っていた画像が携帯の画面にありありと映る。
その写真に写っていたのは。
その写真に写っていたのは。
「嘘……でしょ……」
「ありゃりゃ……」
「……」
「ありゃりゃ……」
「……」
へなっとした青い髪。血に濡れた黄色のブレザーに紺のスラックス。
見開いた目は光が無く、何も映していない。
自分が死ぬことが信じられなかったのだろうか、顔は驚いた、いや絶望に満ちた苦渋の顔だった。
見開いた目は光が無く、何も映していない。
自分が死ぬことが信じられなかったのだろうか、顔は驚いた、いや絶望に満ちた苦渋の顔だった。
「あ、あぁぁああぁああぁぁあぁぁあああああああああああ!!!」
最初に脱落した参加者――岡崎朋也の事切れた写真を見て。杏は――ナニカがぷつんと切れた。
◆ ◆ ◆
崩壊戦線-真実と嘘のゲーム-
◆ ◆ ◆
信じたくない、その感情だけだった。
「……違う。違う違う違う!! 朋也じゃない、この写真に写っているのは朋也じゃない!!」
逃避、事実から逃れるための自分への苦しい言い訳。
「ニセモノ、そうよこれは朋也のニセモノよ! きっとそうだ、あたしを騙すためにわざと似たような写真を予め作っておいたんだわ」
本当は分かっているはずなのに。
「ホント、卑怯だわ。こうやってあたしを動揺させようだなんてそうはいかないっての」
岡崎朋也はもうこの世にはいないことに。
悲しいかな、藤林杏はそのとことんなまでに残酷な真実を受け入れるキャパシティは持っていない。
どんなにこの殺し合いの島で気丈に振舞おうとも、彼女はどこにでもいる普通の女の子。
友達と笑い合って、好きな男子ができて。そんなありふれた日常を歩むはずだった。
悲しいかな、藤林杏はそのとことんなまでに残酷な真実を受け入れるキャパシティは持っていない。
どんなにこの殺し合いの島で気丈に振舞おうとも、彼女はどこにでもいる普通の女の子。
友達と笑い合って、好きな男子ができて。そんなありふれた日常を歩むはずだった。
「アンタらもそう思うでしょ?」
どこまでも痛々しいこの哀れな少女に樹は掛ける声が見つからなかった。
いや、“見つからない”のではない。何を言っても“聞き入れはしない”――彼女の深い闇に染まった瞳がそれを表していた。
今、藤林杏の知り合いであったという岡崎朋也はもう死んでいる、あの画像はどう見ても真実だということを伝えたとしても彼女は拒否をするだろう。
いや、“見つからない”のではない。何を言っても“聞き入れはしない”――彼女の深い闇に染まった瞳がそれを表していた。
今、藤林杏の知り合いであったという岡崎朋也はもう死んでいる、あの画像はどう見ても真実だということを伝えたとしても彼女は拒否をするだろう。
(杏ちゃんの言う通りニセモノって考えはないだろうね)
もしかしたら杏の言うとおり、ニセモノなのかもしれない。だがその可能性はどう考えても皆無だった。
ここでこの画像が嘘であると仮定しよう。
そのようになったらこの島で朋也は生きているということになる。
そんな希望を主催者はわざわざ残しているだろうか。
ここでこの画像が嘘であると仮定しよう。
そのようになったらこの島で朋也は生きているということになる。
そんな希望を主催者はわざわざ残しているだろうか。
(否、だよな。そんな甘い奴等ではないはずだ。それとも希望の抜け道でも用意してんのか?
杏ちゃんが縋りたくなるような――)
「どうしたのよ、ずっと黙ってて。何かあんの?」
「うお、っとびっくりさせないでよ、杏ちゃん」
杏ちゃんが縋りたくなるような――)
「どうしたのよ、ずっと黙ってて。何かあんの?」
「うお、っとびっくりさせないでよ、杏ちゃん」
杏は何も言わない樹を不審に思ったのか目を細めてじろりと見つめていた。
長い間、樹は思考の海に落ちていたのか、かけられた声に少し驚きの念を表す。
長い間、樹は思考の海に落ちていたのか、かけられた声に少し驚きの念を表す。
「で? なんか言いなさいよ」
(さてと、どうすっかなー。まあここは穏便に一応は肯定しておくかね。後々、めんどくさいかもしれないけど)
(さてと、どうすっかなー。まあここは穏便に一応は肯定しておくかね。後々、めんどくさいかもしれないけど)
とりあえず、樹は杏の愚かな戯言に肯定の意を示す。
歩もその意を感じ取ったのか同様に――
歩もその意を感じ取ったのか同様に――
「そんな希望に溢れた“運命”はあるのか?」
否定した。粉々に打ち砕いた。
「な、に言ってるの……」
「おい鳴海、」
「緑葉は黙っていてくれ。これはこいつの問題だ」
「おい鳴海、」
「緑葉は黙っていてくれ。これはこいつの問題だ」
歩は樹を一瞥して、直ぐに視線を杏に戻す。
「確かにこの写真が本物の岡崎朋也ではない可能性はあるだろうな。だが、わずかだ」
「で、でも!」
「でもも何も無い。そもそもここで岡崎朋也が死んでいるという嘘をつくメリットがない。
一時的に藤林を混乱させるだけの嘘なんてあまりいい手ではないと思うけどな。俺だったらもっと狡猾な嘘をつくよ」
「で、でも!」
「でもも何も無い。そもそもここで岡崎朋也が死んでいるという嘘をつくメリットがない。
一時的に藤林を混乱させるだけの嘘なんてあまりいい手ではないと思うけどな。俺だったらもっと狡猾な嘘をつくよ」
歩は淡々と自分の考えを述べていく。顔は無表情、鉄の仮面をしているかのように。
残酷な論理を杏へと突きつける。
残酷な論理を杏へと突きつける。
「もう嫌だ、聞きたくないっ! そんな現実いらない!」
「ここで逃げたらそれこそ岡崎朋也が報われないだろっ!! 別に俺はお前の考えの全てを否定するつもりはないよ。
ただ最良の、都合のいい結末だけを考えているのは止めておけって言ってるんだ」
「……っ!!」
「ここで逃げたらそれこそ岡崎朋也が報われないだろっ!! 別に俺はお前の考えの全てを否定するつもりはないよ。
ただ最良の、都合のいい結末だけを考えているのは止めておけって言ってるんだ」
「……っ!!」
しばらく静寂が続く。歩は腕を組んで椅子に座って、樹は眼を閉じて言われた通りに我関せず。
そして杏は。
そして杏は。
「……ょ……」
か細い、死にかけの小鳥が鳴くような。そんな小さな声が。
「……なによ…………!!」
徐々に太く、鋭く。
「それぐらい、朋也が死んだってことぐらいわかってたわよ!」
大きな絶叫となって部屋に響き渡る。
「なんでアンタはそんなに冷静なのよ、人が死んだのに……!」
杏の怒りと哀しみが入り交じった声にも歩は表情を変えない。ただ黙するのみ。
「は、ははっ。そうよ、そうだったんだわ」
杏は小さく嗤いだす。クスクス、クスクス。だが、それはいつもの日常で見せる快活な笑い声ではなかった。
汚い――見るものが目を背けたくなる憐れでありくぐもった嗤い声だった。
汚い――見るものが目を背けたくなる憐れでありくぐもった嗤い声だった。
「鳴海さぁ――――」
駄目だ、この先の言葉は言ってはならない。きっと戻れない、ずっと後悔し続けることになる。
杏の心の奥底に僅かに残っている人としての優しき心がそう告げていた。
それは漠然でなく、うっすらとした勘みたいなものであり、確かな確証もないのだが。
だけど、今の杏に言葉を止める術はなかった。
普段とは違い、精神的に極限まで追い詰められた状態でまともな考えなどできない。
杏の心の奥底に僅かに残っている人としての優しき心がそう告げていた。
それは漠然でなく、うっすらとした勘みたいなものであり、確かな確証もないのだが。
だけど、今の杏に言葉を止める術はなかった。
普段とは違い、精神的に極限まで追い詰められた状態でまともな考えなどできない。
「大切なもの、失ったことないでしょ」
何かが罅割れる音が。自分をせき止めていた大切な堤防が崩れ出した気がした。
不思議とすっきりとした気分、心は晴れやかだ、と杏は思う。
それとは裏腹に言ってはいけないことを言ってしまった、もう戻れない、と後悔をする自分もいることに気づく。
いまさらだ、もうどうにでもなれ。
不思議とすっきりとした気分、心は晴れやかだ、と杏は思う。
それとは裏腹に言ってはいけないことを言ってしまった、もう戻れない、と後悔をする自分もいることに気づく。
いまさらだ、もうどうにでもなれ。
「なんにも失ったことがないから、大切なものなんてないから、そういう風に冷静でいられるんだよ、あんたは」
「杏ちゃん、ちょっと言い過ぎだと……」
「黙っててよ、あたしは鳴海と話しているの。アンタと話すことはない」
「杏ちゃん、ちょっと言い過ぎだと……」
「黙っててよ、あたしは鳴海と話しているの。アンタと話すことはない」
ピシャリと樹の言葉を遮って杏は狂ったように罵倒の言葉を次々と紡ぎ出す。
歩は静かにそれらを聴いているだけ、何も言葉を返さない。
表情も変わらず無表情でただありのままを受け入れているかのように。
歩は静かにそれらを聴いているだけ、何も言葉を返さない。
表情も変わらず無表情でただありのままを受け入れているかのように。
「ねぇ、何か言いなさいよ」
言葉は返らない。
「ここまでボロクソに言われたのよ、何か反論の一つぐらい言いなさいよっ……」
涙が杏の瞳から流れる。もう何もかも嫌だ、辛い、苦しい。負の感情がごちゃまぜになったこの拙い頭はまともな機能なんてしない。
それでもこれだけは理解できるのだ。自分がどうしようもない屑だということに。
勝手に歩をハケグチとして罵倒して、口にするのもおぞましいぐらいにひどい言葉を羅列して。
そのようなことをわからない程落ちた訳ではない。
それでもこれだけは理解できるのだ。自分がどうしようもない屑だということに。
勝手に歩をハケグチとして罵倒して、口にするのもおぞましいぐらいにひどい言葉を羅列して。
そのようなことをわからない程落ちた訳ではない。
でもどうしても。
歩の顔を見ていたら抑えきれなかった。
何故人が死んだというのに動じない。人が死んだら喚くのが普通なのではないか。
鳴海歩は死に慣れているから気味が悪い、表に感情が見られないから気味が悪い、理由はどれでもいい。
ただ、八つ当たりがしたかっただけ。このやり場のない怒りと哀しみを誰かにぶつけることで自分を失わずに済むから。
果たしてこの行為を罪と言えるのだろうか。いいや、言えるわけがない。
藤林杏は鳴海歩、緑葉樹と違って普通の女の子、精神構造が違う。
樹と歩は類まれなる頭脳と冷静な性格が岡崎朋也の死亡を導いた。そして、受け入れることができた。
そこには知人でないという理由も含まれるが、杏よりも衝撃は軽微だ。
何故人が死んだというのに動じない。人が死んだら喚くのが普通なのではないか。
鳴海歩は死に慣れているから気味が悪い、表に感情が見られないから気味が悪い、理由はどれでもいい。
ただ、八つ当たりがしたかっただけ。このやり場のない怒りと哀しみを誰かにぶつけることで自分を失わずに済むから。
果たしてこの行為を罪と言えるのだろうか。いいや、言えるわけがない。
藤林杏は鳴海歩、緑葉樹と違って普通の女の子、精神構造が違う。
樹と歩は類まれなる頭脳と冷静な性格が岡崎朋也の死亡を導いた。そして、受け入れることができた。
そこには知人でないという理由も含まれるが、杏よりも衝撃は軽微だ。
「もう、いいっ! あたしは……!」
そう言葉を投げ捨てて、杏がドアを乱暴に開けて外へとかけ出していく。
これ以上この空間に居たくなかった。彼らの顔を見ることができなかった。
そして何よりも勝手な言葉を吐いた自分がこの場にいることに耐えられなかったから。
臨界点を突破した故にもう止まらない。
バタンとドアの閉まった音の後には静寂しか残らなかった。
これ以上この空間に居たくなかった。彼らの顔を見ることができなかった。
そして何よりも勝手な言葉を吐いた自分がこの場にいることに耐えられなかったから。
臨界点を突破した故にもう止まらない。
バタンとドアの閉まった音の後には静寂しか残らなかった。
◆ ◆ ◆
頭脳戦線-意志と意志のゲーム-
◆ ◆ ◆
残ったのは二人、鳴海歩と緑葉樹のみ。
いきなり飛び出していった杏に数秒間あっけに取られていたが、直ぐに正気を取り戻し、歩は動き始める。
いきなり飛び出していった杏に数秒間あっけに取られていたが、直ぐに正気を取り戻し、歩は動き始める。
「……っ。緑葉、追いかけるぞ」
「追いかけるはいいが、どうやって説得するんだ? あれじゃあ話もまともに聞いてもらえないぜ」
「それでも今のアイツを一人にするのは危険過ぎる、あんな状態じゃなりふり構わず誰かに襲いかかるかもしれない」
「そうだね……なあ、鳴海」
「追いかけるはいいが、どうやって説得するんだ? あれじゃあ話もまともに聞いてもらえないぜ」
「それでも今のアイツを一人にするのは危険過ぎる、あんな状態じゃなりふり構わず誰かに襲いかかるかもしれない」
「そうだね……なあ、鳴海」
だがそれを遮るかのようにカチャッとセーフティレバーを外す音が鳴る。歩が後ろを振り返るとスチェッキンを歩の胸に向けた樹の姿が視界に入った。
その表情はつい先程までおちゃらけていた道化の顔ではない。目は鋭く相手を射ぬくように。
その表情はつい先程までおちゃらけていた道化の顔ではない。目は鋭く相手を射ぬくように。
「どういうつもりだ、緑葉」
「見てわからないかい? お前ぐらい頭が回る奴なら俺様の考えていることはわかるだろ」
「……藤林を見捨てろ、そう言いたいのか」
「まあね。アイツは不安定すぎるんだ、あの程度で揺れてちゃあ最後まで立っていられないよ」
「なら途中で休みながらでいい、ずっと莫迦みたいに立っている必要もないだろう。
その点に関しては俺らがフォローすることで十分許容範囲だ」
「見てわからないかい? お前ぐらい頭が回る奴なら俺様の考えていることはわかるだろ」
「……藤林を見捨てろ、そう言いたいのか」
「まあね。アイツは不安定すぎるんだ、あの程度で揺れてちゃあ最後まで立っていられないよ」
「なら途中で休みながらでいい、ずっと莫迦みたいに立っている必要もないだろう。
その点に関しては俺らがフォローすることで十分許容範囲だ」
歩は軽く笑い大げさに肩をすくめる。銃口を目の前にしても揺るぎはない。
目は真っ直ぐと前を向き、樹を見据えている。
沈黙が暫く続く。どれくらい経ったのだろうか、一秒、一分、一時間?
体感時間としては永遠とも言えるこの沈黙の時は破られるのはいつだろうか。
そしてそのきっかけは何から始まるのだろうか。
答えは正確な時間でいう一分後、樹の口からの一言で時間の凍結は解除された。
目は真っ直ぐと前を向き、樹を見据えている。
沈黙が暫く続く。どれくらい経ったのだろうか、一秒、一分、一時間?
体感時間としては永遠とも言えるこの沈黙の時は破られるのはいつだろうか。
そしてそのきっかけは何から始まるのだろうか。
答えは正確な時間でいう一分後、樹の口からの一言で時間の凍結は解除された。
「……アイツが立ち直るかどうかも不確か。もしかすると会った瞬間ズドンと撃たれるかもしれない。
弱い奴は切り捨てる、そうしないと足元を掬われるからね」
「生き残りの選別か……神様にでもなったつもりか?」
「そんなつもりじゃない、ただ俺様の両手は予約でいっぱいなんでね、余計な荷物を増やしたくはない。
いかんせん力が弱いもんだからさ」
「なら代わりに俺が抱えるさ。生憎と力は強いほうなんだ。我慢強さは誰にも負けない自信があるぜ」
「……稟と同じことを言いやがって。それが原因で死ぬとしても、鳴海は同じことが言えるのかい?」
「ふっ、わかる訳ないだろ、そんなこと」
弱い奴は切り捨てる、そうしないと足元を掬われるからね」
「生き残りの選別か……神様にでもなったつもりか?」
「そんなつもりじゃない、ただ俺様の両手は予約でいっぱいなんでね、余計な荷物を増やしたくはない。
いかんせん力が弱いもんだからさ」
「なら代わりに俺が抱えるさ。生憎と力は強いほうなんだ。我慢強さは誰にも負けない自信があるぜ」
「……稟と同じことを言いやがって。それが原因で死ぬとしても、鳴海は同じことが言えるのかい?」
「ふっ、わかる訳ないだろ、そんなこと」
空気が冷めた。こいつは何を言っているんだ、ここは嘘でも言えると言う場面じゃないのか。
思わぬ一言に樹の表情がつりあがる。
思わぬ一言に樹の表情がつりあがる。
「未来はいつだって不確かだ、先のことなんて確信を持って言えない。仮に乗るとしても誠心誠意説得する」
「鳴海も杏ちゃんと同じ考えか、最初に会った時からそんな感じかなとは思ってたさ。杏ちゃんと相対していた時も“そいつ”、弾がはいってなかったぜ?」
「……気づいてたのか」
「あいにくと“目”はとびきりいいんでね」
「随分といい“目”だな」
「鳴海も杏ちゃんと同じ考えか、最初に会った時からそんな感じかなとは思ってたさ。杏ちゃんと相対していた時も“そいつ”、弾がはいってなかったぜ?」
「……気づいてたのか」
「あいにくと“目”はとびきりいいんでね」
「随分といい“目”だな」
そう言って歩は腰に差していた拳銃を手に持ちクルリと回す。
“そいつ”、つまるところの弾倉には弾がないままだったのだ。
“そいつ”、つまるところの弾倉には弾がないままだったのだ。
「この民家に行く途中でまた装弾したみたいだけど、杏ちゃんは気づいてなかったみたいだけどな」
「普通は気づかない、むしろ気づくほうがおかしい」
「おいおい、俺様はこれでも善良な学生だぜ?」
「そうか、善良な学生は拳銃の弾数までしっかりと見る“目”を持っているのか。
勉強になるよ、善良な学生さん?」
「茶化さないでくれよ、鳴海。そういうお前こそわかっててやってたろ、恐れいったぜ、普通の学生さん?」
「ククッ」
「ハハッ」
「普通は気づかない、むしろ気づくほうがおかしい」
「おいおい、俺様はこれでも善良な学生だぜ?」
「そうか、善良な学生は拳銃の弾数までしっかりと見る“目”を持っているのか。
勉強になるよ、善良な学生さん?」
「茶化さないでくれよ、鳴海。そういうお前こそわかっててやってたろ、恐れいったぜ、普通の学生さん?」
「ククッ」
「ハハッ」
二人の笑い声が部屋に響く。二人の少年による“談笑”は笑い声で一旦中断される。
「――――だけど、一つだけ読み違えてるよ、緑葉」
その言葉と同時に笑いが止まった。場には静寂だけが有る。
虚をつかれたのか樹の口は開いていた。
いや、違う。口は空いていると言っても違う。
三日月のように口は横に開き。
虚をつかれたのか樹の口は開いていた。
いや、違う。口は空いていると言っても違う。
三日月のように口は横に開き。
「へぇ……」
笑っている。笑っているのだ。まるで面白いゲームに隠しダンジョンが付いていたと初めて知った時の喜びのように。
とても綺麗な女性を見つけてこれは狙いどころだと判断した時のように。
そう、とても楽しそうに。
とても綺麗な女性を見つけてこれは狙いどころだと判断した時のように。
そう、とても楽しそうに。
「どこが読み違えているんだい? お前は人を殺せない、それに違いはないはずだ」
「正確には違うさ、俺は“できるだけ”人を殺さない」
「はっ、“できるだけ”ねぇ」
「この先――主催者の打倒への道を進む時、誰かを護らなければならない時、そんな時に“殺す”以外の選択肢がどうあってもない場合は、」
「正確には違うさ、俺は“できるだけ”人を殺さない」
「はっ、“できるだけ”ねぇ」
「この先――主催者の打倒への道を進む時、誰かを護らなければならない時、そんな時に“殺す”以外の選択肢がどうあってもない場合は、」
「このトリガーを俺は引く、容赦なくな」
ニヤリと笑って歩は拳銃を樹へと向ける。
その目には迷いはない。
その目には迷いはない。
「……どっちが先に撃てるか、競争でもしようかい? 俺様これでも早撃ちには自信があったり」
「冗談、最初からその気がないくせに。お前が殺す気ならとっくに後ろから撃ってるだろ」
「そりゃあ、そうだわな。こんなややこしいことしないでズドン! ってね」
「冗談、最初からその気がないくせに。お前が殺す気ならとっくに後ろから撃ってるだろ」
「そりゃあ、そうだわな。こんなややこしいことしないでズドン! ってね」
樹はおどけて拳銃を撃つ動作をするがトリガーを引く気配は一向に無い、歩もその動作に軽く笑うだけ。
すでにその場の空気はすでに緩んでいた。
すでにその場の空気はすでに緩んでいた。
「という訳だ、俺は藤林杏を助ける。例えどんなに罵られようとも助けてみせる覚悟がある。
その結果、本当にどうしようもなくなった時は、俺が始末をつける。だから従えよ、俺の論理に」
「…………負けだ負けだ。お前の意志の強さには参ったよ。鳴海、今はお前の論理に従うよ。だが単独行動の際には俺様なりの考えで行動させてもらうぜ」
「別にそこまで強制はしないさ、今だけでも協力してくれるだけでもいい。
それにしても、わざわざ銃口を向けなくても良かったんじゃないか、どっちにしろ協力するような雰囲気出してたぞ」
「そこはほら、半端な正義感だと火傷しちまう可能性があるからね、試してみたってやつさ。
それに後々確かめるにもややこしくなるかもしれないし、二人だけしかいない今がちょうどいい時かなってね」
「食えない奴だよ、お前は」
「さてと、杏ちゃん探しとでも行こうじゃないか」
その結果、本当にどうしようもなくなった時は、俺が始末をつける。だから従えよ、俺の論理に」
「…………負けだ負けだ。お前の意志の強さには参ったよ。鳴海、今はお前の論理に従うよ。だが単独行動の際には俺様なりの考えで行動させてもらうぜ」
「別にそこまで強制はしないさ、今だけでも協力してくれるだけでもいい。
それにしても、わざわざ銃口を向けなくても良かったんじゃないか、どっちにしろ協力するような雰囲気出してたぞ」
「そこはほら、半端な正義感だと火傷しちまう可能性があるからね、試してみたってやつさ。
それに後々確かめるにもややこしくなるかもしれないし、二人だけしかいない今がちょうどいい時かなってね」
「食えない奴だよ、お前は」
「さてと、杏ちゃん探しとでも行こうじゃないか」
あははーと笑いでごまかして樹は扉を開けて外に出た。空の黒色は薄れていき次第に藍色に変わりつつ有る。
地面を明るく照らす太陽はまだ空には上がっておらず、所々立っている電灯の灯りが視界を照らしている。
当然ながら杏の姿はない。此処とは離れた場所に走り去ってしまったのか、定かではない。
しかし、杏が歩達のいた家から出てから余り時間は経っていない。まだ追いつける可能性は十分にある。
地面を明るく照らす太陽はまだ空には上がっておらず、所々立っている電灯の灯りが視界を照らしている。
当然ながら杏の姿はない。此処とは離れた場所に走り去ってしまったのか、定かではない。
しかし、杏が歩達のいた家から出てから余り時間は経っていない。まだ追いつける可能性は十分にある。
「よし、俺は西の方を捜す、緑葉は東の方を頼む」
「オッケー、待ち合わせ時刻はどうする?」
「今から一時間後ぐらいでいいだろ、見つからないとか言って長く捜し始めたらきりが無いからな」
「了解。おっと、そうだ、これはお前が持っとけ」
「オッケー、待ち合わせ時刻はどうする?」
「今から一時間後ぐらいでいいだろ、見つからないとか言って長く捜し始めたらきりが無いからな」
「了解。おっと、そうだ、これはお前が持っとけ」
渡されたのは杏が置いていったデイバッグ。有無も言わさずに歩の手に握られた。
何で俺が持つんだと無言の抗議を視線に乗せて樹に放つが再び笑いでごまかされる。
少し憮然としながらもデイバッグを肩に掛ける。
右には元々の自分が持っていたデイバッグ、左には杏のデイバッグ。
傍から見るとこれから長旅に出るのかというくらいの重装備だ。
何で俺が持つんだと無言の抗議を視線に乗せて樹に放つが再び笑いでごまかされる。
少し憮然としながらもデイバッグを肩に掛ける。
右には元々の自分が持っていたデイバッグ、左には杏のデイバッグ。
傍から見るとこれから長旅に出るのかというくらいの重装備だ。
「じゃあ、また後でな」
「ああ、また無事に会おうぜ」
「ああ、また無事に会おうぜ」
そう言葉を交わして二人は逆の方向へ走っていった。
◆ ◆ ◆
螺旋戦線-論理と運命のゲーム-
◆ ◆ ◆
深夜の街を歩は駆ける。杏を捜してあちこちを動きまわる。
そして気遣いなしの言葉を発してしまったことに対する謝罪をするために。
そして気遣いなしの言葉を発してしまったことに対する謝罪をするために。
「……っ。結構遠くまで行ったのか」
取り敢えずは近場の家を片っぱしから大雑把に見て回っているが杏の姿はどこにもなかった。
焦っては事を仕損じるとはいえ、悠長にはいられなかった。あんな精神状況の女の子を一人にしていい予感などしない。
焦っては事を仕損じるとはいえ、悠長にはいられなかった。あんな精神状況の女の子を一人にしていい予感などしない。
「ミスったな……俺の回りにいた奴がみんな何処かおかしかったからか気遣いとかの部分が甘かったか」
顔を苦々しく歪めて眉を顰める。これは明らかに自分のミス。彼女の心を気遣わずにずかずかと踏み込んでしまった痛いしっぺ返し。
歩としてはあのままでいたら何処かで破綻してしまう、ずるずると引きずるよりはここでスパッと切り替えたほうがいいという判斷であったが。
実質的な結果はこの有様だ。杏には散々に罵られ、逃げられてしまった。
歩としてはあのままでいたら何処かで破綻してしまう、ずるずると引きずるよりはここでスパッと切り替えたほうがいいという判斷であったが。
実質的な結果はこの有様だ。杏には散々に罵られ、逃げられてしまった。
(それだけじゃない、問題はまだある)
その問題の元凶はつい数分前まで拳銃を向け合ってた者、緑葉樹。
彼について歩はなにか引っかかりを感じていた。それは喉に魚の骨が引っかかった時のような感覚。
彼について歩はなにか引っかかりを感じていた。それは喉に魚の骨が引っかかった時のような感覚。
(緑葉樹、あいつにも何かがある)
樹と相対してみてわかったことは三つ。
一つ目、彼の頭脳が自分と同じくらいに明晰であること。
あのやり取りでそれは嫌になるほど理解したつもりだ。
これでも歩は幾つかの修羅場を乗り越えてきた。
殺人犯に間違われかけたり、ブレードチルドレンの襲撃を躱したり。
特にカノン・ヒルベルトとの戦いは壮絶だった。四肢の全てに銃弾を受け、乱暴に蹴り上げられ。
一歩間違えれば死ぬところまで行った。だが、それらを無事に乗り越えてこの時まで生きてきた。
その過程で歩は百八十度変わったとも言える。救いの神様になってやると啖呵を切れるくらいに成長した。
一つ目、彼の頭脳が自分と同じくらいに明晰であること。
あのやり取りでそれは嫌になるほど理解したつもりだ。
これでも歩は幾つかの修羅場を乗り越えてきた。
殺人犯に間違われかけたり、ブレードチルドレンの襲撃を躱したり。
特にカノン・ヒルベルトとの戦いは壮絶だった。四肢の全てに銃弾を受け、乱暴に蹴り上げられ。
一歩間違えれば死ぬところまで行った。だが、それらを無事に乗り越えてこの時まで生きてきた。
その過程で歩は百八十度変わったとも言える。救いの神様になってやると啖呵を切れるくらいに成長した。
(あそこまでハッタリをかませるくらいに胆力がある。これは仲間としてはすごく心強い)
そんな自分の言葉に即座についてくるあの頭の回転の良さは目を見張る。
的確にこれからの方針を決めたことといい、仲間として頼りになる存在だ。
二つ目、必要であれば他人を切り捨てることが出来ること。
同じくあのやり取りでわかったことである。
的確にこれからの方針を決めたことといい、仲間として頼りになる存在だ。
二つ目、必要であれば他人を切り捨てることが出来ること。
同じくあのやり取りでわかったことである。
(藤林の処遇の時、あいつの目は本気だった。学校で今日何があったかを気軽に話すように、躊躇がなく人を切り捨てられる)
無駄な火種を持ち込みたくないのか、仲間を護るためなのか、自分の身可愛さによるものなのか、どれが正しいかは人の心が読める訳ではないのだから定かではない。
ただ一つ確かなことは自分の都合の為に藤林杏を見捨てようとしたこと。最も、それを非難するつもりはない。
この島で生きていく上で人助けなどをしている余裕はないかもしれない。
だがそうやって生きていていいのだろうか? こんな非常識的な時こそ各自協力の態勢を取っていくのがいいのではないのだろうか。
ただ一つ確かなことは自分の都合の為に藤林杏を見捨てようとしたこと。最も、それを非難するつもりはない。
この島で生きていく上で人助けなどをしている余裕はないかもしれない。
だがそうやって生きていていいのだろうか? こんな非常識的な時こそ各自協力の態勢を取っていくのがいいのではないのだろうか。
(少なくとも俺はそう思った。一番怖いのはグループ中での分裂、いつ何処で敵と遭遇するかわからないこのゲームでは痛すぎる。
これらの不安は事前に潰しておくべきだ。厳しい問題だけど、妥協を重ねて上手く渡っていかないといけない)
これらの不安は事前に潰しておくべきだ。厳しい問題だけど、妥協を重ねて上手く渡っていかないといけない)
互いに憎しみあってばかりではこの地獄からは脱出できない。歪められていく常識、壊れていく現実、それらを乗り越えてのゲームからの逃亡。
別に絶対に人を殺すなというわけではない。先述のとおりに“必要”ならばこの手を血に染める覚悟はとっくに出来ている。
それでも出来れば殺したくなんてない、平和的に交渉で解決できるなら御の字だ。
甘いと言われるかもしれないがこれはもう自分の中で決めたことだ。
譲ることも揺らぐこともない。
別に絶対に人を殺すなというわけではない。先述のとおりに“必要”ならばこの手を血に染める覚悟はとっくに出来ている。
それでも出来れば殺したくなんてない、平和的に交渉で解決できるなら御の字だ。
甘いと言われるかもしれないがこれはもう自分の中で決めたことだ。
譲ることも揺らぐこともない。
(ただでさえ殺し合いって状況で辛いんだ、これぐらいは夢を見たっていいじゃないか)
このことに関しては臨機応変に対応をしていくしかない。
そしてある意味一番重要な三つ目、彼が隠し事をしている可能性があるということ。
最もそれに気づいたのはトイレで考えていた時だったが。
そしてある意味一番重要な三つ目、彼が隠し事をしている可能性があるということ。
最もそれに気づいたのはトイレで考えていた時だったが。
(何故あいつは世界の違いをああもたやすく認識できた? 俺も人のことを言えたものじゃないが、あんな発想は普通は出ない。
それに情報交換の時のスムーズさも相まってどうも疑心を駆り立てるな……
それも偶然か? それとも偽りか?)
それに情報交換の時のスムーズさも相まってどうも疑心を駆り立てるな……
それも偶然か? それとも偽りか?)
頭の中をめまぐるしく回して考えを張り巡らせるがどれも確信には至らず。
自分の考えすぎであろうか、ただの杞憂だといいがと歩は一応の結論をつける。
これに関しては保留。後々接していくうちにわかるかもしれないと、問題を一時先送りする。
自分の考えすぎであろうか、ただの杞憂だといいがと歩は一応の結論をつける。
これに関しては保留。後々接していくうちにわかるかもしれないと、問題を一時先送りする。
(この俺の考えも運命の一つ――踊らされているのか? 運命にもてあそばれるのは慣れているとはいえあまり気に入らないな)
はぁと重い溜息を一つ吐き、髪を掻き上げる。かったるい、思わずそう呟いてしまいそうなくらいにめんどくさいことに巻き込まれてしまったものだ。
元々めんどくさいことには巻き込まれていたがこれはそれらを上回るくらいにひどい。
殺し合いというゲーム。生き残るのは一人だけ、笑えない冗談だった。
元々めんどくさいことには巻き込まれていたがこれはそれらを上回るくらいにひどい。
殺し合いというゲーム。生き残るのは一人だけ、笑えない冗談だった。
(あいにくと冗談ではないみたいだけどな、さっき見た岡崎とかいう奴の死体の画像が本物なら既に殺しまわってる奴がいるということだ。
まだ時間的には三時間程度しか経ってないのに……)
まだ時間的には三時間程度しか経ってないのに……)
死人のペースが想像していたよりも早過ぎる。それだけ殺し合いに積極的な人物が数多いという証明だというのか。
歩は軽く舌打ちをしてこれから先の展望の暗さに頭をかかえた。
歩は軽く舌打ちをしてこれから先の展望の暗さに頭をかかえた。
(いざとなれば、使わないといけない……気が重いけど……引き金を引く覚悟は――ある)
それでも。叶えたい願いがあるから。
(生き残ってやるさ、ちょっとやそっとのことじゃ諦めないぜ、俺は……!)
◆ ◆ ◆
道化戦線-記憶と再生のゲーム-
◆ ◆ ◆
歩と逆の方向へ走っていった樹も同様に杏を探していた。
(ま、鳴海の顔を立てたはいいけど、俺様は杏ちゃんを特段重要視してはいないんだけどなあ。
利用できない、いや敵対することになったら殺す。落ち着いて話を聞いてくれるなら鳴海に全部任せてしまえばいい。
子守は苦手だしねえ、ククッ……)
利用できない、いや敵対することになったら殺す。落ち着いて話を聞いてくれるなら鳴海に全部任せてしまえばいい。
子守は苦手だしねえ、ククッ……)
自分にとっての今の目標は知り合い全員の無事の確保とこの場からの脱出。それ以外は知らない、勝手にやりあってろというのが樹の考えだ。
もちろん、脱出や首輪解除に役立つ人物とは積極的にコンタクトをとっていき、有害な人物からはある程度護っていくが。
もちろん、脱出や首輪解除に役立つ人物とは積極的にコンタクトをとっていき、有害な人物からはある程度護っていくが。
(あーいけねえな、どうも考えが物騒になっていく。もっと平和的に考えられな……いよなあ。
こんな状況で話し合いで解決しましょう~なんて出来るわけねえじゃん。もう死んでる奴だっているっていうのに)
こんな状況で話し合いで解決しましょう~なんて出来るわけねえじゃん。もう死んでる奴だっているっていうのに)
頭の中に浮かぶのは岡崎朋也の事切れた姿。あんな有様に自分もなるのだろうか。
嫌だ、絶対に嫌だ。まだやり残したこともやりたいこともたくさんある。こんなとこで死んでたまるかと樹は奮起する。
嫌だ、絶対に嫌だ。まだやり残したこともやりたいこともたくさんある。こんなとこで死んでたまるかと樹は奮起する。
(幸いのことに武器は当たりを引いたしな。スチェッキン……弾数も余裕がある。欲を言えばサブの武器が欲しいところだけど贅沢は言えないか)
腰に付けている大型の自動拳銃をそっと撫でる。これからこの拳銃が自分の命運を決めるのだ、そう思うと少し感慨が湧いてくる。
だが、この拳銃だけでは少し心許ない。故に、もう一つ小型拳銃、質は落ちるが日本刀やナイフなどの刃物が欲しいと思ったが。
だが、この拳銃だけでは少し心許ない。故に、もう一つ小型拳銃、質は落ちるが日本刀やナイフなどの刃物が欲しいと思ったが。
(贅沢すぎる悩みだけどな、他の奴は武器すらないかもしれないし。それに比べて俺様はスチェッキンの他に“切り札”がある。
俺様の能力を最大限に活かせる最高のジョーカー。それでも、出来ることなら早めに装備は万全としたいところだが……まあ難しいな)
俺様の能力を最大限に活かせる最高のジョーカー。それでも、出来ることなら早めに装備は万全としたいところだが……まあ難しいな)
今の装備でも生き残るには十分だが十全というには少し遠い。“切り札”があるとはいえ油断は禁物、少しのミスで命を落とす可能性なんてざらにある。
そんな事で命を落としては笑い話にすらならない。
そんな事で命を落としては笑い話にすらならない。
(しかし、俺様達が巻き込まれた理由は何だ? シアちゃんとネリネちゃんはそれぞれ各界のお姫様……身代金目的か何だか知らないけど理由付けはたやすい。
稟はの二人の愛を一心に受ける御伽話の王子様って奴だからこれも同じく。
なんせ三世界の王様になれる可能性を秘めているんだ、少なくとも俺様よりは価値はあるね。妬ましいことにハーレム状態だし……
ともかく問題は俺様、楓ちゃん、時雨先輩、麻弓だ。今上げた四人は俺様含め一般人だ、たぶん。そんな俺様達をさらってメリットはあったのか?)
稟はの二人の愛を一心に受ける御伽話の王子様って奴だからこれも同じく。
なんせ三世界の王様になれる可能性を秘めているんだ、少なくとも俺様よりは価値はあるね。妬ましいことにハーレム状態だし……
ともかく問題は俺様、楓ちゃん、時雨先輩、麻弓だ。今上げた四人は俺様含め一般人だ、たぶん。そんな俺様達をさらってメリットはあったのか?)
樹が知る限りではこの四人は一般人という認識だった。こんな殺し合いに巻き込まれるような恨みを買った覚えはない。
自分以外はなおさらだ、ありえないと思考する。
自分以外はなおさらだ、ありえないと思考する。
(断言できる、メリットはない。他の三人と比べて俺等の価値は低い)
心中で自分達のランク付けを終えるが疑問はますます膨らむばかりだ。それも当然のこと、こんな非常識な事自体が疑問の塊であるのだ、それも仕方が無いこと。
そこで一人考察から抜けていた少女のことを思い出した。
そこで一人考察から抜けていた少女のことを思い出した。
(忘れてはいけないのが開幕前に死んだプリムラちゃんだ。なんか突然稟の家に住み着いた魔族の美少女――どう考えてもこの子には裏がある。
いきなり稟の家に同居とかおかしいだろ、常識的に考えて。何かがあったに違いない。
じゃあそんな裏がありそうなプリムラちゃんはなんで殺された? 俺様達より重要なポジションにいるだろうあの子が?
それに比べて俺様達が最初の“アレ”をパスできた理由は? っ……ああ疑問なんていくらでも出てくる、キリがないっての)
いきなり稟の家に同居とかおかしいだろ、常識的に考えて。何かがあったに違いない。
じゃあそんな裏がありそうなプリムラちゃんはなんで殺された? 俺様達より重要なポジションにいるだろうあの子が?
それに比べて俺様達が最初の“アレ”をパスできた理由は? っ……ああ疑問なんていくらでも出てくる、キリがないっての)
推測はいくらでも出来る、だがそれが真実かどうかは当然樹に知る由もない。
思考を中断、次に考えるのは樹自身理解しがたい現象について。
思考を中断、次に考えるのは樹自身理解しがたい現象について。
(世界観の相違……二つの世界を知らない奴等……異世界と考察……俺様はなぜ、“知っていた”?)
スラスラと出てくる異世界考察に加えて、スッと飲み込めた自分の頭脳。
怖くないといえば嘘になる。いくら自分が頭がいいと自負していてもここまでだったのだろうか。
樹はこちらの問題の方こそ真に考えるべきだと思ったが、これに対しては考えようがない、お手上げ状態だ。
確かな根拠もないのに考察など出来る訳がない。
怖くないといえば嘘になる。いくら自分が頭がいいと自負していてもここまでだったのだろうか。
樹はこちらの問題の方こそ真に考えるべきだと思ったが、これに対しては考えようがない、お手上げ状態だ。
確かな根拠もないのに考察など出来る訳がない。
(あー止め止め。取り敢えず今は杏ちゃんを捜すことだ、錯乱してなければいいんだけどな)
最後に薄く笑って樹は闇がなくなりつつある街を駈け出した。心中では。
(そう簡単にはくたばらないぜ、俺様はっ!)
こんなふざけたゲームを企んだ主催者への宣戦布告を胸に。
闇に溶けこんでいった。
闇に溶けこんでいった。
【D-01/一日目・黎明】
【鳴海歩@スパイラル ~推理の絆~】
[状態]:健康
[装備]:S&WM686 Plus(7/7)
[道具]:支給品一式×2、ソードサムライX @武装錬金、ハヤブサ号@スパイラル・アライヴ
357Magnum予備弾63 、樹お手製の人物表×2、不明支給品0~1、LAR Grizzlyの予備マガジン×4 、携帯電話(黒)
[状態]:健康
[装備]:S&WM686 Plus(7/7)
[道具]:支給品一式×2、ソードサムライX @武装錬金、ハヤブサ号@スパイラル・アライヴ
357Magnum予備弾63 、樹お手製の人物表×2、不明支給品0~1、LAR Grizzlyの予備マガジン×4 、携帯電話(黒)
[思考・状況]
基本:島からの脱出。
1 藤林杏を捜す。
2藤林と一緒に島の下部の調査? 第三放送時に山小屋で集合?
3緑葉樹に対しての僅かな疑心?
※ブレードチルドレンについて詳しく語っていません。
基本:島からの脱出。
1 藤林杏を捜す。
2藤林と一緒に島の下部の調査? 第三放送時に山小屋で集合?
3緑葉樹に対しての僅かな疑心?
※ブレードチルドレンについて詳しく語っていません。
【緑葉樹@SHUFFLE!】
[状態]:健康
[装備]:USSR スチェッキン APS(21/20+1)
[道具]:支給品一式、予備マガジン×2、樹お手製の人物表、不明支給品0~2(切り札がある?)
[状態]:健康
[装備]:USSR スチェッキン APS(21/20+1)
[道具]:支給品一式、予備マガジン×2、樹お手製の人物表、不明支給品0~2(切り札がある?)
[思考・状況]
基本:島からの脱出、知り合い全員の無事の確保。
1藤林杏を捜す。
2島の上部を調査する。脱出の方法も同時に探る。第三放送時に山小屋で集合。
3知り合いとの合流? もし自分以外が乗っていたら……
4何で“知っていた”?
5できればサブの武器がほしい。
※プリムラが自分の知り合いだと話していません。
基本:島からの脱出、知り合い全員の無事の確保。
1藤林杏を捜す。
2島の上部を調査する。脱出の方法も同時に探る。第三放送時に山小屋で集合。
3知り合いとの合流? もし自分以外が乗っていたら……
4何で“知っていた”?
5できればサブの武器がほしい。
※プリムラが自分の知り合いだと話していません。
【藤林杏@CLANNAD】
[状態]:??
[装備]:LAR Grizzly(8/7+1)
[道具]:
[状態]:??
[装備]:LAR Grizzly(8/7+1)
[道具]:
[思考・状況]
基本:??
1 ??
基本:??
1 ??
【携帯電話(黒)】
最新式の携帯電話。黒。
最新式の携帯電話。黒。
| BACK:――これは英雄の物語ではない。 | 時系列順 | NEXT:浅月香介の女難 |
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| BACK:懸けるのは論理、賭けるのは信用 | 鳴海歩 | NEXT:Double R -real replay- |
| BACK:懸けるのは論理、賭けるのは信用 | 藤林杏 | NEXT:たいせつなきみのために、ぼくにできるいちばんのこと |
| BACK:懸けるのは論理、賭けるのは信用 | 緑葉樹 | NEXT:Double R -real replay- |