エルダー・ミーツ・ナイト
時刻は夕方。森の中を走る1人の人影があった。
先ほどやっと教会をスタートした58番・宮小路瑞穂である。
「貴子さん。紫苑さん。まりや………みんな。僕が行くまでどうか無事で………」
この聖杯戦争というふざけた殺し合いで瑞穂がやるべきことは1つだった。
――1人でも多くの参加者を救い、そして主催者――言峰たちを倒す。
もちろんそれが一筋縄でいけるほど簡単ではないことくらい瑞穂にも判っている。
しかし、誰かがやらなければならないのだ。
そして……それをやるべき者はその考えに至った自分以外の誰がやるというのだ?
そう。自分は聖應女学院の72代目エルダー・シスターだ。
皆の先頭に立って行動することは学院の外であろうと何処であろうとも変わりはしないはずだ。
瑞穂は考える。恐らく参加者のうち何名かは殺し合いに乗ってしまった者もいるだろうと。
彼女――否。彼はあの聖堂で他の参加者たちのスタート時の様子をじっくりと観察していた。
自身の見た感じによる第一印象によるものではあるがゲームに乗ったものはだいたい目星が付いていた。
(――遠坂凛さんに、間桐慎二……だったかな? あの2人は確実にやる気満々だ………)
瑞穂はしばらくそのようなことを考え、そして止めた。
森を抜け耕作地帯に出たからだ。
(――ここまでくれば一応大丈夫かな?)
瑞穂は周辺を軽く一度見渡すと、ゆっくりと地面に腰を下ろした。
「ふぅ……さてと。それじゃあ早速中身を確認してみようかな?」
肩に提げていたデイパックを下ろし、早速中を確認する。
空は既に日が沈んで暗くなりかけている。調べられるうちに調べたほうがいいと判断したからだ。
「……地図にコンパス。筆記用具に水とパン。それと…
参加者名簿か……」
中身を一通り確認すると参加者名簿を手に取り自分の後にスタートした参加者の名を確認する。
(やはり50音順か…そして僕の番号は58番………)
自分が教会をスタートするとき聖堂に残っていた自分以外の参加者は4人いた。
ならばその4人とは自分の後ろの番号――59番・森来実。60番・鎧衣尊人。61番・柳洞一成。そして62番・渡良瀬準に間違いないだろう。
(――あれ? ちょっとまって。なにか忘れているような………)
「――――あ、そうだ。1人に1つ支給されるアイテムだ。いったい僕のには何が入っているんだ……?」
言峰が言っていた参加者に1つ与えられるというランダムアイテム。
それを確認するため、瑞穂はもう一度デイパックの中身を確認した。
他の支給品は全て地面に置いてある。そうなると、あとはランダムアイテムだけだ。
しかし……
「あれ?」
――デイパック中にはもう何も入っていなかった。
「…………」
――無言でデイパックを逆さまにしてぶんぶんと振ってみる。
しかし何も出てこない。
「…………」
――次に中に顔を突っ込んで隅々まで覗いて調べてみる。
やはり何もない。ないものはない。
この時、瑞穂の脳裏には言峰が説明の時に言っていた言葉が延々と繰り返しで再生されていた。
『何が誰に当たるかはランダムだ』
『何が誰に当たるかはランダムだ』
『何が誰に当たるかは……』
「……つまり僕のはハズレ中のハズレ、『アイテムなし』ってこと……?」
デイパックから顔を出した瑞穂の表情は先ほどの彼とはまったく正反対な―――ぞくに言う『おボクさま』モードに変わっていた。
それも滝のような大量の冷や汗を流しながら。
――まずい。これは非常にまずい!
これならお鍋のフタや金盥。大量のもずくもしくは豆腐、うまい棒とか腐女子向け同人誌とかアビシオン人形とかきんのたまとかの方が明らかにマシじゃないか………!
ああ、神様。これはなにかのイジメですか? 僕がいったい何をしたというんですか?
アニメ版の声優がオール変更になったことに対する報復ですか? だとしたら、堀江ボイスのどこがいけないんですか? 佐本ボイスじゃない貴子さんも悪くなかったじゃないですか!
ん? 貴子さん? ああ、そうか。アニメが貴子さんENDじゃなくて典型的なハーレムエンドで終わったことに対する報復だったのですね?
――って。さっきから何の話をしとるんだ僕は!? そもそもアビシオン人形って何だ!? 貴子さんENDって何だ!?
錯乱している頭を抱えうんうんと呻きながらいろいろと考えている瑞穂をよそに、彼のデイパックには不思議な現象が起きていた。
「ああこれから先、いったいどうやって戦えば……ん?」
瑞穂もしばらくした後にそれに気がついた。
「な…なんだ!?」
――デイパックから光が溢れているのだ。
もちろん瑞穂にもどうゆう原理でそれが起きているのかなど想像もつかない。
「夜光塗料? いや…そんなわけないよね………っ!?」
次の瞬間、その光の中から何かが段々と姿を現し始めた。
「こ…これは………?」
瑞穂は最初何が出てくるのだと思ったが、ソレが出てくるにつれてその正体がはっきりと判ってきた。
出てきたのは………
「――契約に従い参上した」
「………」
「問おう…貴女が私のマスターか?」
――中世の騎士の鎧を着た1人の少女だった。
【時間:1日目・午後5時15分】
【場所:耕作地帯】
宮小路瑞穂
【所持品:支給品一式(周辺にまとめて置いてある)】
【状態:セイバーを召喚。やや錯乱気味。令呪・残り3つ】
【思考】
1・何でデイパックから女の子が?
2・知り合い、同志を探す
3・言峰を倒す
セイバー
【所持品:なし】
【状態:召喚される】
【思考】
1・貴女が私のマスターか?
2・今のところ特になし
【備考】
- サーヴァントはランダムアイテムとして参加者に支給される
- 最初にデイパックを開くと術式が組まれ召喚される
- 支給されるサーヴァントは全部で7体とは限らない(少ないかもしれないし、多いかもしれない)
- サーヴァントも能力が大幅に制限される(宝具の使用はできるがその性能もある程度ダウンしている)
- サーヴァントはレイラインによりマスターから常に魔力を供給されている
- サーヴァントは魔力が切れたら消滅する。マスターを失った場合(一部の者を除き)1時間ほどで消える
- 召喚した者(マスター)には令呪(絶対命令権)が3つ付く(1回使うたびに1つなくなる。これがなくなると契約は切れる)
- 令呪は自身のサーヴァントが消滅すると残りの数にかかわらず全て消滅する
- マスターはいつでもサーヴァントとの契約を破棄できる
- マスターではない参加者とマスターを失ったサーヴァントはいつでも再契約可能
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最終更新:2010年06月27日 16:10