ささやかな願い


「本当にこちらなんですか?」
山道を登る涼宮茜がやや訝しげな目を高峰小雪へと向けるが、
「大丈夫です、小雪さんが間違ったことをいうはずがないのです、だって小雪さんは」
周防院奏が茜の疑念を振り払おうと言わんばかりに元気な声を出す、茜も本気で疑っていたわけではないらしく、
奏の声に笑顔で応じる。
「魔法使いなんですから」
そんな奏の期待と尊敬の眼差しがあまりにも痛くて、小雪はまた少し俯いた。

2人に自分の事を信じさせることなど簡単だった。
「ええと、あなたの名前は涼宮茜さん、泳ぎが得意で、家族は両親とお姉さんがいてお姉さんの名前は遙さん
そしてお姉さんの恋人の名前は孝之さんですね」
小雪の足元にはもっともらしく並べた木の枝が数本、それは形だけなら由緒正しき占いの儀式にのっとった作法とも取れる。
「凄い…」
絶句する茜、魔法を多少使えると自己紹介を受けたときは正直首を傾げたが…まさかここまでピタリと当てるとは。
「次は奏の番なのです」
茜を押しのけるように奏がずいと小雪の前へと進み出る、控えめな彼女にしてはこの行為は珍しいのだが、
それだけ魔法に対する興味が強いのだろう、そんな奏を見てにこやかに頷く小雪…その口元が緩やかに呪文を紡ぎだす。
「エル・アムイシア・ミザ・ノ・クェロ・カルナ・ディ・アムクロス」
そして暫しの沈黙、息を呑む奏。
「あなたの名前は周防院奏さん、苺と演劇がお好きなのですね…それからそのリボンは大切な方に頂いたとても大事な物なのですね
それから~」
小雪の占いの結果は最後まで続かなかった、何故なら感動のあまり感極まった奏が、
「凄いです、凄いです凄いです~」
などと目を輝かせて小雪から離れなくなってしまい、その後暫く収拾がつかなくなってしまったからだった。

で、今彼女ら3人は険しい山道を頂上へと向かい歩いている、これも小雪の占いによるものだ。
本来ならば余計な体力の消費は抑えるべきなのだが、ここまで占いはほぼ百発百中である…なら自然、賭けてみたくもなる。
特に奏は今や完全に小雪に心酔してしまっていた、魔法は凄いです、本当にあったのですと、
そんな声が後ろから茜の耳に届く。

「小雪さん、奏も魔法が使えるようになれたらとっても嬉しいのです」
「奏さんはどんな魔法が使えるようになりたいのですか?」
資質がどうとか、鍛錬がどうとかそういう無粋な話はしない。
「奏がもしも魔法が使えるようになれたら、院長先生に会いたいのです」
奏は頭の大きなリボンを撫でて、それから誇らしげに答えた。
「色々辛いこともあったけど、お友達もたくさんいて頑張っているから心配しないで欲しいと伝えたいのです
魔法が使えればきっと天国の院長先生にも奏の声が届くと思うのです~」
「そう…ですか」
「どうしたのですか?」
小雪の口調の変化を察した奏が俯き加減の小雪の顔を心配そうに覗こうとするが、それを手で制する小雪。
「いえ…少し力の使いすぎで…申し訳…ありません」
「それは大変ですね~茜さんに休憩してもらうよう言って来るのです」
てぺてぺと先頭の茜の方へと走る奏、だが少しだけ腑に落ちないことがあった、ちらりと見えた小雪の横顔。
(泣いているように見えたのです)

そして3人はついに頂上へとたどり着いた。
時間は放送まであと数分を残すのみだ、小雪は視線を2人に向ける、茜も奏も崖下を覗き込んでより遠くへと目を走らせている、
自分の知己を探すために。
その背中はまるで無防備…今ならいける、放送を待つ必要もない…それでも、
殺す手段ならばいくらでもあるにも関わらず、崖から突き落とすという方法を選ぶ辺りに彼女の内心の葛藤が表れているのだが、
それに小雪は気が付いていない。
再び時計に目をやる、まだ6時にはなっていない、奏の声が脳裏に蘇る。
『魔法が使えればきっと天国の院長先生にも奏の声が届くと思うのです~』
(鬼になると決めたのに…どうして)
無論、殺すことに迷いはない、時間が来れば容赦なく自分はあの2人を殺すことになるだろう。
だが何故あの2人なのだろうと小雪は思わずにいられない。
また時計に目をやる小雪、少しだけ忌まわしげに。
(時間が来れば私はあなたたちを殺します、だから…あと少しだけこのままでいさせてください…)

【時間:1日目・午後5時59分】
【場所:山頂】

涼宮茜
【装備:S&W M60(.357マグナム弾 5/5)】
【所持品:.357マグナム予備弾丸×20、支給品一式】
【状態:小雪に従い山頂へ】
【思考・行動】
 1・自身と奏と小雪の身を守る
 2・言峰(及び主催)を倒す

周防院奏
【装備:ステンレス製の鍋、鍋のフタ、おたま】
【所持品:支給品一式】
【状態:小雪に従い山頂へ、小雪に憧れ】
【思考・行動】
 1・魔法って凄いです

高峰小雪
【装備:干将・莫耶】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康、ジョーカー、令呪残り3つ】
【思考】
 1)時間がくれば茜と奏を殺害する
 2)18時の最初の放送以降、ジョーカーとして始動。下記の参加者以外を10名殺害し、かつての日常を取り戻す(いずれ目的を自身の優勝に切り替える可能性もあり)
 3)神坂春姫、上条沙耶、伸哉、小日向音羽、すもも、雄真、式守伊吹、高溝八輔、柊杏璃、渡良瀬準と合流したい
 4)いずれアーチャーと合流する
【備考】
 ※タマちゃん(スフィアタム)は島にはいないと思っています
 ※アーチャーから真名は聞いていません
 ※アーチャーの殺害数も自身の殺害数としてカウントします
 ※(重要)茜と奏の個人情報については本当に占いで得たものかどうかは不明
   (より詳細な個人データを言峰から入手してる可能性あり)



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涼宮茜の憤慨 涼宮茜 禍福は巡る
涼宮茜の憤慨 周防院奏 禍福は巡る
朱と紅 ~アカとアカ~ 高峰小雪 禍福は巡る







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最終更新:2010年06月27日 15:37