こっちをむいてよ!! ご主人様 第10話
大晦日のシュバルツカッツェ城はシンと静まり返っている。ほとんどのネコ姫が
父親のいる実家に帰省しているからだ。妹のユナも薬局の店員の家族を引き連れて
南方へ避寒社員旅行に行ってしまった。リナも何が楽しいのか、『寒稽古』と言う
名目で城下の道場に泊り込んでいる、あれで年明けには道場の卒業生が挨拶に長蛇の
列をつくるらしい。
わたしはと言えば、じっと冷たい静けさに耐えつつ、ベットの中で丸まって
過ごすのが例年の通過儀礼だったが今年は違う。
「んっ、はあっ・・・ご主人さま・・・んっ、んっ・・・」
今年から雇った、少年の香りの残る表情の召使いがわたしのみっちりとしたカラダに
真っ直ぐな欲望を激しく叩きつける。猛った召使いのモノがわたしを激しく甘美に
貫く。ちょうど腕立て伏せのような体勢なので、あごを滴った汗がゆっくりと
パタンパタンとわたしに落ちてくる。不快ではない・・・わたしを気持ち良くさせようと
一生懸命の召使いが何故かいとおしくてその全てを受け入れたくなる。
「もっと、もっとえぐるにゃ・・・んっ、にゃふ・・・」
わたしは足で挟みつけるように『ぎゅっ』と召使いのしなやかな腰に両足を巻き
つけて催促する。キモチいい角度とテンポをその足で『くっ、くっ』と軽く押して
誘導する。また絶頂が近づいてくる、今日だけで朝から何回セックスしたのかもう
解からないほど。召使いが泣きそうな声で言う。
「うああっ!!ご主人様っ、ぼく・・・ぼくもう・・・」
「いいにゃよ・・・タップリ出すにゃ、わたしも、わたしも・・・
おっきいのキそうにゃ――っ!! 」
『ビクビクッ!! 』
召使いのお尻の上に巻き付けていたわたしのふくらはぎがシャセイ寸前の腰の痙攣を
拾う。そして華奢なカラダに似合わにゃいほどの大きなペニスのカリが弾けるみたいに
『ぶわっ』と広がって・・・あ、熱いにゃ!! ・・・
「に゙ゃあああああっ!!イク、イク、イクにゃあああああああっ!!」
「ご主人様――っ!! 」
召使いはシャセイしにゃがらもすごい勢いで腰を使う。『どぴゅどぴゅ』を感じつつ
挿入される快感といい。イッた後の敏感な亀頭を無理やりコスりつつピストンする
召使いのイキ顔が死ぬほどわたしを興奮させる。
「んっ、にゃふ・・・はにゃん、上手だったにゃ・・・」
ガクガクと手で体を支えきれなくなった召使いが、かぶさって来る。わたしはその
召使いの汗ばんだ背中を『よしよし』して言う。召使いは呟くように言う。声まで
弛緩して震えているみたいに聞こえた。
「ごしゅじんさまぁ・・・」
わたしもカラダ中を『ガクガク』『ヒクヒク』と痙攣させて、凄まじいオルガズムを
堪能する。始めはこんにゃにカラダの相性が合うとは思わなかったにゃ・・・わたしの
秘肉は一滴でも多く召使いの白濁を搾り取ろうと無意識にいつまでも蠢いていた・・・
『ふにゅふにゅ・・・』
召使いがわたしの胸に嬉しそうに頬ずりしてる・・・母親が幼いときに離婚した所為か、
ずいぶんと母性的なものに甘える傾向がある。男にゃら、腕枕するぐらいの甲斐性を
持っていいと思うのにゃが・・・
「ご主人様・・・来年は今年よりもいい一年になるといいですね・・・」
他愛もない会話。
「いいって何にゃ?全ての実験に成功することきゃ?それとも借金の全額返済きゃ?」
からかうわたし。今が一番いいにゃあ・・・寂しくにゃいのがいいにゃあ・・・
「違いますよう、今年よりも王位継承順位を上げて、いずれ女王様になる事ですよう」
わたしは眉をしかめる。
「そんにゃもの・・・なってどうするにゃ・・・このままでも十分にゃ・・・」
たっぷりとアソコに撃ち込まれてしまった胎内の白濁を意識して囁くように言う。
「ぼく・・・ご主人様のこと心配で・・・女王陛下になれば一人でもだいじょうぶ・・・
そしたらぼくは元の世界に帰ります・・・いや、城下で料理屋でも開こうかな・・・」
下を向いていう召使い。表情はわからない。わたしに怒りにも似たもどかしさが
わき起こる。声が震えた。
「わ、わたしに不満があるのきゃ・・・!? 」
がばっと身を起こして召使いが慌てて言う。
「そんなんじゃありません!!でも、あと15年も経ったらぼくオジサンです!!
でもご主人様は今の姿のままなんですよ・・・そ、それにご主人様の結婚相手だって・・・」
悲しそうに言う召使い。わたしは笑い飛ばす。
「にゃに言うにゃ!!だいじょうぶにゃ、わたしはお前を見捨てたりしにゃいにゃあ!!」
「・・・・・・」
悲しそうに首を振る召使い。わたしは逆上してしまう。おもちゃを取り上げられた
子供のように・・・
「うるさいにゃ!!わたしは来年も、そのまた来年も絶対、いつまでも30番にゃっ!!
もう、もう・・・お前にゃんてしらんにゃ――っ!! 」
わたしは押し留める召使いを突き飛ばして服を身に付けると城の外へ飛び出した・・・
大晦日の夜。人気のない街をメチャクチャに走り、息が上がり立ち止まれば目の前に
赤提灯。冷たい空気を吸った鼻がジンジン痛い。わたしはムスッとして扉を開けた。
客は一人もいない。古びた懐かしい造り。木製の部分の木肌は、飴色に鈍く光ってる。
暖かなおでんの湯気がわたしをほっとさせた。なぜか召使いの作るおでんと同じ匂いが
して涙ぐみそうになる。『どさっ』粗末なイスに投げ出すように座った。
「へい、らっしゃい」
「大晦日に営業きゃ?」
「へへっ、ウチの師匠がね『酒飲みに休みはねえ』ってんで、ウチの休みは正月のみ
なんでさぁ・・・何を?」
「酒!! 、酒にゃあ!! 」
「あいよ」
白衣を着た店主が詮索好きでなくホッとする。人肌の日本酒をコップで次々と
空けていくわたし。姿勢が前のめりになり、しだいに頬がカウンターにくっつきかけ
てくる。それでもわたしが『トン』とコップを置くと店主はなみなみと酒を満たす。
そして酒を入れた分だけ言葉がこぼれていく。
「暗い川にゃ・・・」
「川ですかい・・・?」
「その川を勢いよく舟が流れてくるにゃ・・・でもわたしは中州にいるにゃ・・・」
『シャ――シャ――』店主の包丁を研ぐ静かな音がいい感じに古びた店内に響く。
「わたしが舟に飛び乗れば沈んでしまうにゃ・・・でもすごい速さで流れていく・・・」
吐く息はほとんどアルコールのよう。でも店主の言葉が意識を引き戻す。
「そして中洲に無理に引き上げれば舟は壊れてしまう・・・ですかい?・・・」
「・・・!? 」
わたしは店主を凝視してしまう。
「へへ・・・もう400年もやってますとね、同じことを言う姫様が時々来るんでさあ」
店主は薄目で睨むようにして研いだ包丁を目元に持ってきて確認しながら言う。
しかし、小奇麗な服装をしていないのによく姫様なのがわかったものだ・・・わたしは
なにか良い言葉を聞けるのでは、と耳をすます。
「いい考えなんて、待っても出てきませんぜ、ネコの寿命は650年、ヒトは80年、
あんたは今、普通のネコの8倍、濃く生きてる・・・でも姫様の大事なヤツは8倍苦しんでる
かもしれねえ、8倍不安かもしれねえ・・・」
「だ、だからわたしは、心配するにゃって!!絶対見捨てにゃいって!!」
ダン、ダン!!とコップをカウンターに叩きつけるわたし。またなみなみと透明な
酒が注がれた。
「それは姫様がその『時の川』の中州に立ったまま見ているからじゃねえですかい?
走ってあげなせえよ、中州のある限り、舟と同じ速さで・・・」
「そ、それは・・・あうう・・・むにゃ・・・」
くらり、と一瞬意識が遠くなる。
「おっと・・・ツケでいいですから今のうちに一筆入れといてくだせえよ」
大黒帳を取り出す店主。わたしは振り払うようにしてロクに見もせずに帳面に
『マナ』とでかでかとサインをする・・・前のページのサインは『フローラ・・・』そんな
ばかな・・・確認しようとしてその寸前、意識がすっと落ちた。
体が浮く感じ。ふわふわふわ・・・心地良い・・・
『にゃふ・・・舟に乗っているみたい・・・にゃ?・・・』
「ふんふふんふん――ん、ふんふんふふーふふん・・・」
小さなハミングの声。『第9』ってやつにゃ・・・そうにゃ・・・わたしの召使いは
カラオケ下手のくせにハミングだけは上手で、よくわたしはテレビを見ているフリを
して台所に立つ召使いのハミングをよく聞いていたっけ・・・えっ!!召使い・・・
わたしは周りをそっと見渡す。わたしは召使いの背中の上にいた。舟に乗っている
感覚はおんぶされていたからだ・・・でも、言うべき言葉が見つからなくて、気まずい
まま無言でまわりを見る。わたしを包むように召使いの上着がかけられている。
そしてお城の手前の寺院街に入るところだった・・・
『・・・・・・』
視界がにじみそうになって、ぎゅっとガマンする。ハミングが止まった。
泣きそうな声。
「起きました?・・・」
「・・・・・・」
「・・・噴水のベンチで寝てました、凍って死んじゃうトコロだったんですよ・・・」
『えっ・・・!? 』
口元に手をかざすが全然酒臭くない・・・
「すみません・・・ぼく、さっきひどいコト言っちゃって・・・」
反省してる召使い。次はわたしが謝って丸く治めるべきであろう・・・今すぐに・・・
スマートに・・・さりげなく・・・言葉が出てこにゃい・・・召使いの背中があったかい・・・
「にゃ・・・う、にゃふ・・・にゃにゃ・・・こ、このたびは・・・にゃ・・・」
素直な言葉が出てこない、このときばかりは日頃の素行を猛省してしまうわたし。
困って上を見れば二つの月が冴え冴えとわたしと召使いの二人だけを照らしている。
笑っているのかも・・・
『にゃううううう・・・』
歯ぎしりして月を見るわたし。その時、無数の寺院の鐘楼に人の気配がした。
召使いが言う。叫んだような、囁いたような・・・
「こっちをむいてよ!! ご主人様」
月から召使いの耳元に顔を寄せるわたし。
「なんにゃ?・・・んっ・・・」
『カ――ン、コ――ン、リ――ン、ゴ――ン、カンカンカン、ゴ――ン、
ぼわ~ん!!!!!!』
無差別に隣接している、様々な宗教の鐘楼から、鐘突き堂から、一斉に年越しの
鐘が打ち鳴らされたのと召使いがわたしにキスしたのは同時。
「・・・・・・・・・」
凄まじい音は召使いの唇の感触にかき消される。そして・・・鐘の鳴る間中・・・
わたし達は・・・
『ゴ――ン、――ン、―ン・・・』鐘の音が木霊とともについに静止する。異様に
静かに感じる・・・もっと、このままずっと鳴ってればいいのに・・・
「ん・・・んっ・・・明けましておめでとうございます、ご主人様・・・2年間キスしちゃい
ましたね・・・」
なんて、のん気に微笑む召使い。
不覚にもわたしは思わず『カアッ』と耳の内側まで赤くなってしまったので、
慌てて両手で召使いの頭を挟んで『ごきっ』と前を向かせる。
「バ、バカップルみたいにゃこと言うにゃっ!!そんなこと言う暇があったら
走れにゃっ!!わたしはトイレしたくなったにゃ!!もう限界かもにゃっ!!」
「ええっ!? ウソッ・・・そこの路地裏・・・」
『ぼかっ!! 』
「いたいよう・・・わかりましたよぅ・・・」
走る召使い。召使いの吐いた白い息はたちまち後方に置いていかれる。わたしの
頬も風を切る。黒いポニーテールがたなびく。
「そうにゃ・・・今は一緒に同じ速度にゃ・・・ 」
二人は意味にならない歓声を上げながらお城への道を駆け上がる。新しい年に向かって・・・
(こっちをむいてよ!! ご主人様 終わり)
・・・長い間ありがとうございました。