たんたんたぬきの 第一話 はじめて
地方都市のイベントホール。その女子トイレの一室で。
「……んっ、んんあっ」
ボクは実の姉にセクハラされていた。
「声出してもいいよ~?ばれちゃうかもしれないけど」
声を出すわけにはいかない。今日は同人誌即売会でトイレの中にもそれなりに人がいる。
もし、見つかったら……。
こんな危険な状態なのに、ボクのスカートに顔を突っ込んだお姉ちゃんは楽しそう。
「あはっ、おちんちんすっごくおっきくなってきたよ☆ もしかしてスリルで興奮しちゃった?
この変態♪あむっ」
「んぐ――っ!!」
ペンだこの付いた右手がボクのおちんちんの根本を擦る。と同時に先っぽを甘噛みされた。
痛気持ちいい快感が背筋にゾクゾクってきて、ボク、ボクッ!!
「んうっ!んっ、んっ、……」
「ふむっ」
ドクドクと口の中に射精しちゃう。あーっ!口に出すとアレされちゃうのに、ボクの馬鹿ーっ!!
スカートの中から顔を出したお姉ちゃんがほっぺたを膨らませたまま微笑む……。
「や、やめっ、むー――っ!?」
問答無用でお姉ちゃんにキスされる。唇をこじ開けられて流し込まれるボクの出した精液。
生臭くって、えぐくって、気持ち悪い。精液と一緒にお姉ちゃんの舌も入ってくる。無理矢理
味あわせるためにボクの口の中をぐるぐるかき回す。
其処までしてボクに味あわせたあと、お姉ちゃんは凄い勢いで吸い込み始める。ボクの口の中の
ものを一滴たりとも逃さないように吸いとる。
精液と唾液と肺の中の空気まで全部奪い取ってから、やっとお姉ちゃんは離してくれた。
「――っぷあ」
「えへへ~。ごちそうさまでした」
満足そうにお姉ちゃんが口の周りをハンカチでぬぐう。なんであんな気持ち悪いの飲めるんだろ。
「ごちそうさまじゃないよ!お昼ご飯だからってブースから抜けてきたのに、いきなりトイレに
連れ込んでこんなこと……。ボクはお弁当の代わりなの!?」
「あははごめんごめん。どーしてもやってみたくなって」
小さい声で怒るボク。でもお姉ちゃんはちっとも気にした様子がない。
「じゃ、あたしは先に戻ってるからお昼食べたらブースに戻りなさいね」
「あれ?お姉ちゃんはお昼食べないの?」
「あたしはたくさんもらったから」
そういってお姉ちゃんはおなかをぽんと叩く。呆れたボクを尻目に軽い足取りで個室を出て行く
お姉ちゃん。……もしかして、ホントにボクがお弁当なの!?
お姉ちゃんが出て行ったあと、タイミングをずらして出て行く為にちょっと待つ。
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。小学校の頃から毎日のように繰り返されるセクハラ。「次の本の資料じゃ」
といって裸に剥かれてスケッチなんて日常茶飯事。男同士がアッーな本を手伝わされたり、
アレな台詞を読み上げさせられたりとか、今日みたいに女装させられて成年女性向け同人誌の売り子
させられたりとか、あとは……その……直接お姉ちゃんがいろいろとか……。
ていうか、実の姉と『最後』までとか……。
いや、その、ボクも興味なかった訳じゃないけど……。
……これでいいのかな、ボクの人生。
いや、よくない!!
今日こそ、今日こそビシッと言ってやるんだ!
立ち上がって扉を開く。決意を込めた一歩を踏み出し、湿った地面に足跡を付ける。森の木々を
避けながらボクはお姉ちゃんのいるサークルブースへ……。
あれ?
木?
…………。
ぐるりと回って周囲を見回してみる。
360度、どの方向を見ても森。
ミヤザキハヤヲ大先生の映画に出てきそうな森。振り返ってみてもボクが出てきたはずのトイレの
個室は影も形もなく……。
「ここどこー――っ!?」
*とってんぱらりのぷう*
「誰かー、誰かいませんかー?」
うう、あれから2時間たったけど、誰もいないよう。
ていうか、ここどこー?なんで地方のハコモノ施設のトイレから手付かずの原生林にテレポート?
ケータイ持ってないけど間違いなく圏外だろうし、野生の王国で役に立ちそうなアイテムも
持ってない。あるのはお姉ちゃんに着せられたメイド服とスケブ用のサインペンのみ。ちなみに
勇気も加速装置もない。
……あ、今更ながら凄い絶望感が。
ボク、このまま死んじゃうのかなあ。
野外生活の知識なんて某サイトウタカヲ先生の某漫画ぐらいしか無いのに……。食べ物も飲み水も
見つけられずに死んじゃうのかなあ……。ああ、せめてお姉ちゃんに内緒で送ったジャ○プの新人賞
の結果だけでも見たかったなあ……。
「……れか……の……」
あれ?
「だれかいるのですかー?」
「いまーす!!遭難してまーす!助けてー!!」
ああ、よかった。人間がいたよう。
「わかりましたー!そちらにいきますからー!動かないでくださーい!」
「はーい!」
声の感じは若い女の子。もしかしたら中○一年生のボクより若いかも。そんな女の子が歩いてる
ということは、案外人里は近いのかも。
あ、見えてきた見えてきた。……あれ?遠目だから良くわかんないけど巫女さんの格好?カゴを
背負って山菜採りかな?なんか腰の後ろにも細長い袋みたいなものをぶら下げてるみたい……。
巫女装束なのに頭に妙なカチューシャつけてるのは気のせいかな。しかもまるっこいケモ耳付きの。
なんかやけにリアルな気がするというか……。
慣れた様子で山中を歩いて近づいてくる彼女。
その彼女を度の強い近眼用眼鏡越しに凝視する。
カチューシャ、無いよね?腰の後ろのも、尻尾っぽいよね?
「あれ?」
向こうもボクの姿を見て驚いたみたい。小走りに駆け寄ってきて目を丸くして驚く。
「おおお?」
ボクの周りを一回りしながら、じろじろボクを観察する。
「尻尾も、耳も、鱗もない……。こ、これはもしかして伝え聞くところの……」
「客人神(まろうど)様だな」
突然の知らない女のヒトの声。草を踏み分ける音もなく、木立の影から人が出て、……人が……人?
一見丸坊主の修験者姿の女の人。でもよく見ると丸坊主何じゃなくて、髪の毛の代わりに白い鱗。
そして腰の後ろから蛇のような細長い尻尾。
は、爬虫人は実在したっ!?ゲッターゲッター助けてゲッター!!
「こ、これが客人神様!」
「その通り、というわけで……」
あとから来た修験者の人がボクの手を取る。
「どうぞ私どもの寺へおいで下さい。あなた様の身に何が起ったのか教えて差し上げましょう」
「え、いや、その……」
にゃ、にゃんで初対面で敬語なのかにゃー!?
「ちょーっとまったあー!!」
巫女服の女の子が叫ぶやいなや間に割り込んでくる。
「客人神様を先に見つけたのはわたし!わたしの神社でお迎えします!!」
「何を言う。さっきの様子だと客人神様を見るのも初めてだろう。そんな田舎神社に預けられるか!」
「い、田舎っていうなー!長縄筋の寺社なんて田舎通り越して山小屋の癖にー!」
「なななな、い、言っていい事と悪い事があるだろうが!ろくに術も使えない小娘が八八兵衛権現の
ご聖堂をなんと心得る!!」
「式打ちぐらいできますー!これでも神主なんだからー!」
「おお、ハッタリだとしてもよく言った!なら式比べで決着をつけようではないか!!」
「いいでしょう。では勝った方が客人神様をお祀りするということで」
「委細承知!」
そういって爬虫人の人が大きく飛び退き、持っていた六角棒を地面に突き立てる。
――って、あれ?ボク、いつの間にか勝負の景品になってない?
「ちょ、ちょっとまってください!ボクの意志とかは……」
「えるえろひむやはべぇそばか おんきりきりすてぃっくとぅすねぃく!!」
いろいろちゃんぽんっぽい呪文が唱えられるとぼわんと杖が煙に包まれて。
「うわああああああー!?」
ででで、でっかい蛇!大蛇と言うよりおろち!
10数メートルはありそうなアナコンダがああああっ!?
「たーんたーんたーぬきーのぉー……大福夜叉明王!!」
巫女さんの方も胸元から紙細工を取り出して呪文を唱える。
さっきと同じように宙に放り投げた紙細工がぼわんと煙に包まれて……。
身の丈は5メートルほど。
五月人形みたいな鎧を纏った、
おなかの大きい直立したタヌキが……。
「……えー」
どこから突っ込めば良いんだろう。
さっきの大蛇に比べるとインパクトの方向性がなんか間違ってる。
そのせいか、なんか驚くのを通り越して冷静になれた。
「SHAAAAAAAAAAA!!!!」
「がおー」
その現われた二匹の怪獣はお互いに威嚇しあってから戦い始めた!
ところでタヌキの鳴き声ってがおーでいいんだっけ?
先手は鎧タヌキがとった。すらりと腰のカタナを抜いて斬りかかる。だけど、カタナは金属音を
あげて鱗で止められた。
「我が式神の鱗は鉄のごとき硬さ。なまくらな刃物など通さぬぞ、諦めよ」
ふふん、と鼻で笑う爬虫人の人。だけど巫女さんの方はひるんでない。
「甘いですね……。喩え切れないとしても、鉄棒で殴っている事には変わりないです!」
「しまった!!」
「しまった、かなぁ……?」
ボクの感想などどこ吹く風で怪獣達はボコスカ殴り合う。しばらく一進一退みたいだったけど
どうやら武器と鎧の分タヌキの方が優勢になってきたみたい。
「ふふ~ん♪どうです!早く負けを認めてしまえば楽になるですよ!」
「くっ、まだまだぁ!えるえろひむやはべぇそばか おんきりきりきゅあらいとうーんず!」
爬虫人の人の呪文とともに白い光の粒が大蛇に降り注ぎ……。あ、なんか元気になってる。
「あーっ!ずるーい!直接攻撃禁止のはずですー!!」
「支援の術まで禁止されてはおらんわ!今のは体力回復の神通力だから問題ない!!」
元気になった大蛇はその勢いを借りて反撃。タヌキの右手に噛みついて、そのまま腕を伝って
胴締めスリーパーホールドに入る。危うしタヌキ!このまま決まってしまうのかー!?
……いやナニを熱く解説してるんだボクは。魔法少女のマスコットじゃあるまいし。
もっと他にやる事が……ないな。
「そっちがその気なら、こっちにだって考えがあるですよ……。たーんたーんたーぬきーのぉー」
巫女さんがピンチの巨大タヌキを助けるべくなにやら呪文をまた唱える。一体今度はなにを……。
「巨大サボテン!」
「え?」
予想を斜め上に超えた巫女さんの台詞と共に、巨大タヌキがサボテンに姿を変える!!
「GYYYSHAAAAAAAAAA!!!!」
ああ、棘が刺さってる刺さってる。細いから鱗の隙間にたくさん。
そうだよねー。サボテン思いっきり締め上げればそうなるよねー。
ん?あれ、なんか大蛇が小さくなってく?
「ば、ばかな!私の式神が!!」
「ふっふっふ、タヌキの底力を甘く見たですね」
「トンチの勝利のような気が……」
ボクの言葉を誰も聞いていないのはともかく、どうやら勝負は決まったみたい。
*とってんぱらりのぷう*
「と、ゆーわけでっ!ようこそおいでいただきましたっ!!」
「えーと……、その、おじゃまします」
あのあと巫女さんに連れられて、というか巫女さんの作った五本脚の怪生物に連行されたというか。
あんまり大きくない、むしろ小さい神社の本殿に通されて、何故か上座に招かれて、えーと。
「お邪魔などとはとんでもありません!客人神様はいてくれるだけでいいのです」
「あの、そのまろうど様って何?」
「客人神様は、神様なのです」
「かみさま?ボ、ボクそんなんじゃありませんのだ!?ボクは藤田セイヤっていう人間なはずっ!?」
「ご冗談を。毛のない耳をもち、尻尾のないあなた様は紛れもなく客人神様に違いないです」
「そーだ!その耳とか尻尾は本物なの?」
「本物ですよ、もちろん」
「さ、触ってみてもいい?」
「へ?あ、その、耳だけでしたら……」
おずおずと頭を傾けて差し出してくる巫女さんの耳に触ってみる。
あったかい。
犬の耳よりは丸っこくてもふもふした耳は、血の通った暖かさがある。
根本の方に指を分け入れて確かめてみるけど確かに皮膚と繋がってる……。
「はふ……」
「ん?」
「あの、そろそろ」
「あ、ごめんごめん」
ボクが耳を離すと居佇まいをただして座り直す。
耳を触られたのがくすぐったかったのか巫女さんはちょっとだけ顔を赤くして話を続ける。
「こんな風に、獣の相を持たない方々が客人神様なのです」
「いやでもボク、神様じゃないよ?巫女さんみたいに……ってそういえばまだ名前も聞いてないけど」
「イナ、と申します」
「あ、イナさん。稲穂のイナ?良い名前だね……って、そうじゃなくて。ボクはイナさんみたいに
あの召喚魔法みたいなの使えないし」
「ややや、客人神様は居るだけで福を呼ぶ縁起物なので何かをするという方ではないのです。
異界(ことよ)から降りてきてくださるありがた~いお方なのです」
「ことよ?」
またなんか聞き慣れない言葉が出てきたなあ。
「ええ、それこそが客人神様の住まう世界。其処には鉄のイノシシが走り、石の塔が並び、てれぴん
なる箱の中には小人が住まい、鉛の蛇をひねると清水が湧き出ると聞いております」
「う~ん」
多分、車にビルにテレビに水道の蛇口だよね、これ。
まとめてみるに、ここは異世界でボクは其処にやってきた。同じような人は他にもいて、神様みたい
な扱いを受けている。この世界の住人は何故か日本語を話す。そしてケモ耳ケモ尻尾。
……なにこの二次元ドリームな世界。しかも文庫の方。
いやいや、落ち着こうボク。それに富士見の方かもしれないし、異界戦記かもしれない。
いやそれでもなくて。てか一番聞かなきゃいけないことがあるじゃん!!
「あの、イナさん。ちょっと聞きたい事があるんですけど」
「なんですか?客人神様」
「……いや、いい加減名前で呼んで欲しいかな。藤田セイヤって名前があるから」
「では、セイヤ様で」
……様はいらないんだけどなー。まあいいや、突っ込んでも仕方ないし。
「ええと、改めてイナさん。……ボクが元の世界に戻るにはどうしたらいいの?」
「え?」
ボクの質問が予想外だったのか、イナさんはきょとんとした顔をして、次に腕を組んで考え込んで
十数秒後に出てきた答えがこれだった。
「さあ?」
…………。
「いやあの、さあと言われても」
「客人神様が異世に戻られたと言う話は聞いた事がないです」
「えーっ!?じゃあ、ボク、一生このまま!?」
「ええと、その、多分……」
頼りない声の、頼り無い返事。
「ど、どうしよう」
「どうしようと言われましても……」
そのまま二人の会話が止まる。
耐え難い沈黙。
それを破ったのはボクだった。
正確にはボクのお腹の虫だった。
*とってんぱらりのぷう*
カポーン
なんて音が鳴るわけでもないけど、それでもお風呂。
木桶の湯船につかって格子窓の外を見ると夜空には二つのお月様が。
ああ、やっぱり異世界なんだなあ。
ご飯食べて、お風呂はいって、一息ついて、冷静なのに動揺してるというか。
帰れない。
正直まだその実感がわかないんだけど、このことは後で重くのしかかってくるんだろうなあ、とも思う。
そして神様。
居るだけで良いと言ってくれたけど、何もしなくてホントに良いのかなあ。
いやボクに出来ることなんて漫画を書く事と、コスプレ衣装を縫うぐらいだけど。でもこんな
ファンタジーっていうかおとぎ話の世界でそんな技術なんて……。
「お背中流しに来ましたー」
「ああ、おねが……って、ちょっとまってえ!?」
「え?」
ふりかえると なんとそこには ぜんらのイナさんがいたではないか!!それにしてもこのイナさん
つるぺたである。
じゃなくて!!
「ななななななんでいきなり入ってくるのぉ!?」
「え?お背中を流して差し上げようと」
「前隠してよ!恥ずかしくないの!?」
「女同士で隠す事もないでしょう、セイヤ様」
「ボク男の子!!」
ボクの指摘に、イナさんの笑顔が凍った。
「……はい?」
「だから!ボクは!男の子!」
顔色がサーッと青くなって、次にブワーッと赤くなって、そして
「きゃあーーーーっ!!」
叫びながらばたばたとお風呂場から転げ出ていくイナさん。
「ごめんなさいごめんなさいーっ!!」
「あやまられても……」
ど、どうしたらいいのかなー?
ていうか、今の今まで、裸を見られても女の子と思われてたボクって一体……。
*とってんぱらりのぷう*
お風呂から出たあとのイナさんは、やっぱり恥ずかしかったのかボクと目を合わせようとしない。
うつむいたままだったり、ふすまの向こうから声をかけて応対したり。
すっごい、気まずい。
ボクが悪い訳じゃないんだけど、悪いことしてしまったような。こんな時お姉ちゃんならどうするだろう。
『みたわねぇ、じゃあ責任取ってあんたのも見せなさい!……え、ちょっと!なんで反応してな(ry
うん、欠片も参考にならない。
そんな事を考えていても時間は進んでくれるわけで。まあ明日にはイナさんも落ち着いてる……と
いいなあ、なんて思ったり。やくたいもない事を考えながら布団をかぶる。
眠れない。
かぶった布団からまた顔を出して、何気なく天井の染みを数えてみる。月が二つあるせいか、障子
越しの月明かりでも部屋の中は充分明るい。でも光の届かないところはあるわけで、天井の隅のその
暗がりに、今日見た事が浮かんでは消える。突然迷い込んだ森。タヌ耳巫女のイナさんに、鱗頭の女
修験者。大きな式神?を作り出す魔法。(なんとはなしにいざなぎ流っぽかったなー)二つの月。
イナさんの裸。
……肌、綺麗だったなー。胸はないけど、女の子の価値は胸の大きさで決まる訳じゃないし、むし
ろどちらも描けないと早晩限界が来るわけで。いや、おっぱいの価値は多様性にあるわけでもなく、
一番重要なのは女の子に付いていることにつきるわけで。世に言うおっぱい星人の方々も高見盛の乳
について語れるわけでもなく。同様の事はフタナリ属性にも言える事で、フタナリ大好きな殿方も
男に生えているちんちんには興味ないだろう。ケモ耳だって今見てるように女の子に生えているから
萌えになるわけで、もしも虎眼先生に生えてたら、もはや朝目のネタ。
……え?
襦袢姿のイナさんと目が合う。
イナさんはボクが起きているとは思わなかったのか、目を丸くして動きを止めている。
しばらくそのまま二人で固まってたんだけど、突然イナさんは土下座した。
「セ、セイヤ様、あの、その、おおお、折り入ってお願いがございます!!」
「え、お願い?でも、ボクに出来ることなんて……」
「も、もしだめならそういっていただければ僥倖っぽいデス。ホントに!いやでも断って欲しいわけ
ではなくて、つまり、その不可抗力と言いますか?」
顔を上げて何をどう説明するつもりなのか、目を白黒、手をわたわたさせてイナさんがしゃべると
いうか、一人突っ走るというか。
「あのー、なにをして欲しいのか言ってくれないと、ボク困るんだけど」
ストレートに聞いたのは不味かったかな。イナさんは顔を真っ赤にして横を向き、消え入りそうな
声でぽつりと言った。
「……お情けを下さい」
聞こえるか聞こえないかの中間ぐらいの声。
たしかジョ○ジ秋山先生の某漫画が正しければ……えっちしてください、って意味だったよーな。
「え、いいけど何で突然?」
「そうですか、だめなら仕方な……はい?ぱーどん?じゃすとうぇいとあもーめんと!?いやいやいや
無理しなくてもオラ本当に大丈夫ですから!?」
「いやちょっと本当に落ち着こうよイナさん」
「は、はい。そうですよね……私から言い出したんだし、覚悟を決めないと……」
「それで、なんでボクとシたいの?」
「あ、あのですねー。客人神様にまつわる言い伝えがありまして……、客人神様の、そのお情けを受
けると、多大な霊力を授かると言われているんです……」
「そうなの?」
うーん、とてもボクにそんな力があるとは思えないんだけどなあ。
「……でも、それで間違って子供出来ちゃったら大変じゃない?」
「あ、それは大丈夫です。客人神様との間には子宝を授かれませんから。それに出来たら出きたで、
目出度い事ですし」
「う、そういう認識なのね」
価値観の違いもやっぱり異世界ならでは、なのかな。……まあでも赤ちゃん出来ないなら気は楽かな。
「じゃ、イナさん」
「ひゃあっ」
イナさんを引き寄せて、布団の上で背中から軽く抱きつく。
イナさん、熱い。イナさんの心臓がバクバク鳴っているのが服越しにわかる。
「イナさん、良い匂いがする……」
「なっ、なにお…はふ…」
丸くて毛の生えた耳の後ろに顔を埋めて匂いを嗅ぐ。女の子の髪の匂いと犬っぽいケモノの匂い。
生き物の生きている匂い。
「はふ……はふ……」
「イナさん、きもちいい?」
「よ、よくわからなひで……ふぁん」
耳に息を吹きかけながら薄い襦袢越しにイナさんの身体を撫で回すとすぐに息が熱っぽくなってくる。
イナさん、感じやすいんだ……。
気分が出てきたからゆっくりと服を脱ぐ。帯の服って着るのは面倒だけど脱ぐときに便利だ。脱がす
ときにも。耳から首筋に狙いを変えながら、うしろからイナさんの帯をとく。滑らかな肩からするりと
服が落ちて、イナさんとボクの肌が触れる。
熱くてじっとりと汗ばんだ背中が、ボクの薄い胸に当たる。
「はう、はあ……やっはずかし……」
「イナさん、きれい」
「やあぁ、やめてくださ、い……」
にゃ~、そんな声で囁かれたらボク萌えちゃう~。
イナさんの薄いからだを振り向かせて、はふはふ言ってる口を塞いじゃう。
「ふっ、ふむー!!」
うわ?キスしたらイナさん突然ビクンビクンって……。もしかして、いっちゃった?
大きく身体を跳ねさせた後に、くてんとイナさんの小さな身体から力が抜ける。うわー、ほんとに
いっちゃったんだ……。
ふにゃふにゃのイナさんをお布団の上に寝かせてあげる。
障子越しの白い月明かりに、イナさんの白い裸体が浮かび上がる。
タヌキ耳とタヌキ尻尾がついた、妖精みたいな綺麗な身体。
でも、立ち昇る吐息と体温と汗の匂いが、生々しくっていろっぽい。
「ひあっ!?」
生え始め、ぐらいにしか生えてないイナさんのそこを指で開く。くちゅりと水音がして指先にお姉
ちゃんのよりも粘っこいお汁が絡みつく。
「うわあ……凄い匂い」
「か、かがないで、ください……」
「でも、おいしいよ」
「!?」
手についたイナさんのお汁を舐めると、イナさんが驚く。といっても、まだ身体に力が入らない
みたいで、顔だけだったけど。
匂いと同じで、味も濃い。すごく濃縮されたイナさんの其処にキスをする。
「や、やあっ!そんな、汚なひにゃあ!!」
ボクの舌が動き回るたびに、イナさんは小さくイッてるみたいで声もなく身もだえする。
その姿が可愛くて、いやらしくて、やめられない。
尻尾もびったんびったん動いてボクの胸板にあたってくすぐったい。ふさふさの毛が乳首に擦れて
気持ちよくて興奮する。
……そろそろボクも、我慢できないかな。
「はぅ……?」
舐めるのをやめて上体を起こす。ボクの腰をイナさんの脚の間に入れて、おちんちんの先をぐちゃ
ぐちゃに濡れたところにあてがう。
惚けた瞳でボクを見上げるイナさんに、予告無しにいれちゃう。
「はぷっ!」
喘ぎ声と言うより肺から反射的に漏れた空気が音になったみたいな声を出してイナさんが痙攣する。
ビクン、ビクン、と大きく身体をこわばらせる。当然、ボクが入っているところも。
すっごくきつい。
ぐちゃぐちゃに濡れてるのに、ものすごい圧力でボクのものを締め付けて押し出そうとする。
でもその刺激が凄く気持ちいい。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
突き入れては押し出される。突き入れては押し出される。腰の動きが止まらない。
止まらないまま、ボクは限界に近づく。上がってくる射精感。堪えないで解き放つ。
「うあっ、ああっ、あ~~~~~~~っ!!」
どっちの声か良くわからない。同時の声だったのかも。
ドクドクと、イナさんに中出しする。出しながら腰を押し入れて、できるだけ奧に入ろうとする。
いつの間にか押し出す動きから締め付ける動きに変わってたイナさんの狭い穴。それがぼくのおちん
ちんをちぎらんばかりに締め付ける。
二人とも、力を振り絞って、振り絞って、振り絞って、そして絞り尽くして、気絶した。
*とってんぱらりのぷう*
ちゅんちゅんと。
雀の鳴く音で目が醒めた。胸の上にはあったかくて重い感触。イナさんがふとんから寝顔を覗かせて
耳をピコピコ動かす。
……あー、そういえば何となく勢いに流されてやっちゃったけど。いいのかなー?イナさん的には
神様とのえっちは問題ないのかも知れないけど、そう簡単に割り切れるものでもないのが感情という
ものであって、じゃあボクとしては後悔してるのかというと、その辺が微妙でずぶずぶとぬかるみに
嵌ってる気がするにはするけど、確信もないまま曖昧模糊としてるというか。
……。
深く考えるのはやめよう。
いや、戻る手段がないんだから、こっちの人と親しくなっておくのは超☆重要事項だ。その為だっ
たら多少の枕営業だってしてやるんだ!
……。
開き直りって、本当に汚いもんだったんだ。そんな普遍的事実を悟る異世界での朝。
ともあれ、今はどうしよう。この状態だとイナさん起こさずに動くのは無理そうだし。かといって
そろそろぐちゃぐちゃなお布団の中が気持ち悪い。
そんな事を考えていると、ふとイナさんと目が合う。どうやらイナさんも目が醒めたみたい。
そのままちょっと見つめ合う。先に目を離したのはイナさんだった。
「は、はわわ、失礼しました!ただいまどきまつきゃああっ!?」
ボクの上から飛び退こうとしたイナさんが、悲鳴を上げて派手に転ぶ。
「ど、どうしたの、イナさん?」
「な、なんか、腰に力が入らなくて……ひゃう!?」
昨日からそのままの姿で、つまり素っ裸でいたイナさんはすぐに布団を引き寄せて身体を隠す。
そういえば、ボクも全裸だったけ。服は……ああ、あった。早く着ておこう。
ボクがとりあえず服を着てからふりかえると、意外な事にイナさんはまだ布団を身体にまいたまま
動いていなかった。
「ていっ!ふんっ!ふぬーっ!」
なんか気合いを入れてるみたいだけど、ちっとも身体は動いてない。
「もしかして、イナさん。腰が抜けたの?」
「うう~、昨日セイヤ様があんなになさるから……」
「あ、いや、その……」
「まぐわいというものが、あんなに激しいなんて……。さ、三回も子胤を注がれるなんて……」
布団に真っ赤な顔を埋めて咎めるようにイナさんが呟く。
ていうかボク、一回目しか記憶にないんだけど三回もしてたの?
……。
今朝三回目の自己嫌悪。
頭一つふって気分を無理矢理切り替える。
「と、とりあえず、イナさんは落ち着くまで其処にいると良いよ。とりあえずボク、なんか身体拭く
もの持ってくるから待ってて」
「そんな!客人神様に――はう」
反射的に立ち上がろうとして、またずべっと、今度は布団ごとこける。
……いや、そんな申し訳なさそうな涙目で見られても。
「とりあえず、ちょっと待っててね」
……お風呂で残り湯も持ってこようか。そんなことを考えながら、部屋を出て襖を閉めた。
はあ、これからどうなるんだろ。