猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

学園012

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こちむい学園単編 狐と猫と夏祭り

 

- カルトの場合 -

 

「焼きそばにたこ焼きにりんご飴、と。っくあー、安酒ですらこの雰囲気じゃと旨く感じ
るのう♪」
「……」
「わた飴ふわふわにゃ~♪ 金魚美味しそうにゃ~♪」
「……」

 

カルトは困っていた。
心底困っていた。
右側にはカップ酒をかっくらい、やや頼りない足取りであっちの屋台、こっちの屋台と食
べ物を買いあさる酔っ払い狐が。
左側にはちょこまかと人混みをすり抜けては興味のあるものへ一直線に突っ込む暴走猫が。
両手に花と言えば聞こえは良いが、実際には荷物持ちと金庫役に過ぎない。
それどころか一度はぐれたら何故か自分の所為にされた。
理不尽だ。

 

「何処を見ておるカルト。こっちを向けい」
「ただ進行方向を見ていただけで何故不機嫌になる」
「頭の固い奴じゃのう。ん~♪」
「顔を寄せて来るな。絡みつくな。暑い」
「うにゃっ」
「…背中をよじ登るな。爪をたてるな。重い」
「しっつれーな奴にゃ!あちしはそんなに重くないにゃ!」
「ふふん。確かこの間の測定では以前よりふと」
「あーあーあー、聞こえにゃい聞こえにゃいー!」
「耳元で喚くな。うるさい」

 

常にこんな調子で二人が絡んでくる。
面倒くさい事この上ない。

今日は夏祭りだ。
大通りでは屋台が立ち並び、主に粉と水と具材を混ぜて焼いた食べ物を高額で売りさばい
ている。
そこかしこで客引きや怒号が響き渡りある種の狂乱状態とも言える。
が、調味料の焼ける香ばしい匂いや油の跳ねる音、そして乱雑ながらどこか華やかな雰囲
気は確かに心沸き立つものがある。
そんな中で朱風は清流の図柄の浴衣を、レダは金魚模様の浴衣を着ていた。
朱風家にある大量の浴衣コレクションの一部らしい。
確かに朱風は家では大体浴衣だ。
自然、自分も浴衣を着る事になる。
最初の頃は男物の数が少なかったため色々と苦労したが。

 

「くふ。良い事を思いついたぞ、カルト」
「…どうした」
「まあなんじゃ。暑かろう?」
「背中に一人背負って腕に一人ぶら下がっていれば誰でもそうなる」
「ぶら下がってはおらんぞ。寄りかかってはおるが」
「そうか」

 

本質的にはあまり変わっていないような気がする。

 

「そんなぬしを癒してやろう。ほれ」

 

といつの間にか左手に持っていたはずのカップ酒が消え、代わりにカキ氷の容器があった。
白い練乳のタップリかかった宇治金時だ。
それを一さじ掬い、こちらの口元へ突きつけてくる。

 

「ぬしに耐えられるかのう。伝説の『あーん♪』をって早過ぎじゃ!少しは迷わんか!」
「意味がわからん」

 

何を迷えと言うのだろうか。
暑い事は事実で、目の前に冷たい物が差し出されればそれは食べる。
当たり前だろう。

 

「カルトばっかりずるいにゃ!朱風ー、あちしにもあちしにもー」
「やれやれ。張り合いがないが仕方ないかのう。ほれ」
「にゃうっ。冷たくて甘くて幸せにゃ~♪」

 

むにむにと背中で柔らかい体が動く。
何処となく心地よいがそれよりも暑さの方が勝る。
早く降りてくれないものだろうか。
と、朱風がこちらを睨んでいた。

 

「…なんだ」
「そりゃレダの方が胸や尻は大きいがそれ以外では負けておらんぞ」
「どういう意味だ」
「なんでもないわ、このバカ居候めが」

 

腹の辺りを叩かれた。
理不尽だ。


- 朱風の場合 -

 

「覚悟は出来ておるか?」
「にゃにゃ。今度こそ負けないにゃ!」

 

水風船ヨーヨー釣り勝負三位決定戦。
三人しかいないうちの三位決定戦という事は最下位決定戦、という事だ。
なんとあのカルトが早々に10個釣り上げるという予想外の大波乱を起こしたために自分
とレダの一騎打ちとなってしまった。
カルト自身は「喧嘩相手の目を失明しない程度に目潰しするよりは楽」と言っていたが、
例えが物騒な上にわかりにくい。

 

「ふっふっふ。あちしは既に6個、対して朱風は」
「おっと、これで7個目じゃ」
「抜かれてる!?」

 

嘘だ。
実はこれは5個目だったりする。
体の影に隠して数を誤魔化しているが、さすがに決着時にばれてしまうだろう。
レダが動揺している隙に本当に逆転してしまわねばならない。
ちなみにルールは10個先に釣るか、あるいは3回チャレンジした後の個数が多いほうが
勝利、というもの。
カルトは一回目で1個も釣れなかったにも関わらず、2回目で4個、3回目で8個の計
12個も釣り上げている。
しかも最後は「別に数があっても意味がない」と言う事で途中で棄権したようなものだ。
根こそぎ取られかけたテキ屋は安堵していたが。
だがあれは自業自得だ。
1回目で1個も取れなかったからと言って2,3回目に強い紙紐を渡してきたのだから。
まあ、元々上手い相手に対しては弱い紙紐、下手な相手に対して強い紙紐を渡して散財さ
せるという駆け引きなのだから仕方ないと言えば仕方ない。
油断していたのが悪いのだ。
ただ、お陰でレダも自分も警戒されて強い紙紐が渡されなくなってしまった。

 

(さて、どうするかのう)

 

動揺はさせたが相手もこちらも紙紐は最後の一本。
この時点でレダの方が1個リードしている。
こちらの紙紐も相手の紙紐もあと1個が限界だろう。
動揺させたので恐らくレダはあと1個も釣れずに終わる可能性が高いが。
しかしそれでも自分が勝つにはあと2個必要だ。
どうしたものか…ん?
これは、火薬の匂い、か。
火薬…花火…ふむ。
カルトの弁当三日分のかかった勝負。
いささか卑怯ではあるが背に腹は代えられぬ、か。
恨むでないぞレダ。

横目で空を伺う。
あと一分もしないうちにあがり始める筈だ。
勝負はその時。
それまでレダが紙紐を切ってしまわなければ…
上がった!

 

「レダ、耳を塞げ。音がうるさいじゃろうからな」
「へ?ああ、花火にゃね。大丈夫にゃよこの程度」

 

目が花火を向いた。
テキ屋も釣られてそちらを見る。
好都合だ。

 

(すまぬな、レダ。わしは最早カルトの弁当でないと満足できぬ)

 

一応心の中で謝りながらこちらの紙紐をわざとレダの紙紐のフックに引っ掛けさせる。
そして。

 

「ぬ。何をするんじゃ、レダ」
「にゃ?」

 

振り向いた。
タイミングを合わせてわずかにこちらの紙紐を引く。
当然、引っかかっていた部分から紙紐が破け

 

「うにゃっ!?」
「直接攻撃とは卑怯じゃのう」

 

こちらの紙紐は水面に落ちた。

 

「わ、わざとじゃないにゃ!」
「わかっておる、わかっておる。じゃが代わりを使うても良いじゃろう?」

 

さすがにこうした状況の取り決めはしていない。
なら多少の無茶は通せる。

 

「うぅ…仕方ないにゃ…」

 

こうして新品の紙紐を手に入れる事に成功。
レダも健闘してもう1個釣り上げたもののそこが限界だった。
対してこちらは慌てず騒がず3個釣り上げ、逆転。
結局勝負はこちらの勝ちとなった。

…まあ、いくらなんでも卑怯すぎたので、いつもと同じように弁当のおかずを分けてやる
ぐらいはしてやろう。


- レダの場合 -

 

今日は楽しかったにゃ。
カルトが凄い跳んだり、朱風がものすんごい爆発させたり、あちしも混ざってボッコボコ
にしてやったりしたにゃ。

自分でもよくわからないにゃ。説明が難しいにゃ。
でも、ねーちんも副ちゃんも来れば良かったのにと思うにゃ。
うにゃ、にゃ、そこ揉まれると力抜けちゃうにゃ~。

あ、おみやげがあるにゃよ。
にゃんと金魚にゃ!
我慢して食べにゃいで持って帰って来たのにゃ。
育てて放流して恩返しに来るのを待つのが楽しいって朱風が言ってたにゃ。
にゃ?
そ、そそ、そんな事はないにゃ!
負けてないにゃ!
あれ絶対あちしの…うにゃああ、た、助けてにゃ副ちゃん!
「後の祭り」って意味あってるようであってにゃいって、にゃ、ぎにゃあああ!



ふにゃあう~…さすがに二人がかりは酷いにゃ。
死ぬかと思ったにゃ。
あうう、髪の毛ぐしゃぐちゃだし顎の下も眉間も胸も腰も痛いし…ねーちん達ひどいにゃ。
明日朱風に会ったら文句…ってなんにゃ?急に暗く…ってねーちん、まだするなんて無理
にゃ!もう休ませてにゃ!
叫ぶ元気があってもそっちの元気は…ふにゃああぁっ!


- 3人(?)の場合 -

 

「お…おはようにゃ」
「うむ…おはよう…じゃな…ふぁ」
「……」

 

三者三様の挨拶。
だがそこにすべて共通しているのは誰も彼も疲れている、という一点だ。

 

「なんじゃ、レダ。はしゃぎ過ぎたのか?」
「違うにゃ。夕べねーちん達に勝負に負けたからってお仕置きされたにゃ。朱風の方こそ
眠そうにゃね」
「う…まあ、その、カルトに、こう、な」

 

頬を染めてくねりくねりと体を揺らす朱風。

 

「にゃにゃっ。18禁!?」
「なんだそれは。俺は少し躾けただけだ」
「へ?にゃんで?」
「昨日の勝負でイ」

 

カルトが何かをしゃべりかけた瞬間、朱風が割り込む。

 

「いやいやいやいや、何でもないぞ、レダ。少々はしゃぎ過ぎただけじゃ。のう、カル
ト?」

 

しかし

 

「カサマをしていたのを見ていたからな」

 

口封じは失敗する。
朱風によって強制的に停止させられた部分からそのまま再生した形だ。

 

「って一度止まってから言い直すでない!」
「あ~け~か~ぜ~…?」
「ぬ。じゃがまあ、ほれ。ぬしの姉達もイカサマでも負けは負けと言うじゃろうし、結果
は変わらぬのではないかのう」
「そもそもイカサマをするにゃー!」
「おっと」

 

レダが追い、朱風が逃げる。
そしてカルトは一人マイペースに登校を続ける。
学園に到着して決着がついても、騒ぎは次々起こるのだろう。
だが、これもまた彼らの日常なのだ。
カルトにとっては不本意かもしれないが。

 

「…まあいいか」
「カルトが溜息をつく。が、そこには諦め以外にも何か前向きな感情が含まれているよう
にも聞こえた。そう、彼もまたこの生活に心躍るものを感じているのだろう」
「出鱈目を言うな。というか何故そこにいる」
「はて、なんの事かのう?」

 

金瞳、四本尻尾の朱風がそこにいた。

 

「…油断した。見つけ次第殴り倒すつもりだったんだが」
「物騒じゃなあ。それも面白いがな」

 

んー、と大きく背伸びをしてその華奢な体格を浮き立たせる。

 

「ま、昨日は楽しかったからのう。礼代わりじゃ。受け取れ」
「断る。何か嫌な予感がす」

 

朱風が問答無用とばかりに両手でカルトの顔を挟み、飛び掛りながら唇をあわせた。
鳥が啄ばむような軽いくちづけだ。

 

「嫌な予感とは相変わらず失礼な奴じゃのう。礼と言うておろうが」
「…礼になっているのか?」
「ぬしの枯れっぷりは老人並みか。今、わしが唇を許すのはぬしだけなのじゃぞ?」
「それが?」
「…朴念仁め。死んでしまえ」
「なぜそうなる」

 

かたや楽しげに、かたや面倒臭そうに会話を続けていると

 

「ぬ」
「どうした」
「レダが気付いたようなのでわしは逃げる。ではな」
「いや、別に逃げる必要は」

 

ふ、と唐突に朱風の姿が消える。

 

「なんなんだろうな、あれは」

 

よくわからない。よくわからないが

 

「…まあいいか」

 

今度こそ適当に済ませ登校を再開する。
願わくば、平穏な日々を。
とそんな事をカルトが思っていたかどうかはさだかではない…

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