シャーラ・カ・モキスートの冒険 その二(前編) 二つの月と郷愁と決意
はるか東方では、神(おおいなるもの)の威光は薄れ、
木々はやせ細り、暑さと寒さが月々で変わり、
魔洸や蒸気なるものの力で、地を走る鉄の獣がおり、
その力で栄えしネコが、セパタるものを使い世を治める国があり。
それを大地を食いかけたイヌが羨むも、
今は絹糸の縛られ封じられてると聞きまする。
――カトリに東の果てを説明する台詞より
「……釣れねえ……」
拝啓皆様、俺は月光の下で夜釣りをしています。
「釣れないでする?」
ああ、全然だ、俺が落ちて来たり、縛られたり、
その、あんな事したりした建物、ヒルダが神殿って言ってた、
木造のギリシャ神殿っぽい外観をしている……いや、言ってる俺でも、
想像するのが難しいのは分かるんだが、そうとしか言えない建物の、
裏手に広がる、馬鹿デカイ湖である東方湖で、
食材調達と精神安定のために、釣りをしてると言うわけだ。
ちなみに、餌は石の下に居た蟲、竿は木の枝、針と糸は裁縫用を加工したもので、
ヒルダからの貰い物である。
で、何故俺がこんな説明的な思考をしてるかと言うとだ、
隣で俺を覗き込んでる、ヒルダの谷間が見えてますっ!
さらに、すぐ近くにいるので、良い匂いもするし、そして、
昨夜の事が思い出されて、うん、やーらかかったな、
そうそう、いま背中に感じるよーに、ふにゃっと……
「ヒ、ヒルダさん、当たっておるのデスガ?!」
「こんなのが、好きなのでする?」
はい、凄く、とっても、何故かさん付けまでしてしまうほど、凄いとです、
落ち込んでたり、もう元の世界に戻れないのも、どーでも良くなってきた。
「ごめんなさいでする」
「いや、良いって……ヒルダにも会えたしな」
そう言いながら俺は、今日有った事を思い出していた。
「いっぱい……出たでする……」
俺の上でヒルダがそう呟いて、その仕草だけで可愛いと思ってしまうのは、
惚れた弱みなのだろうかと思う、実際に可愛いのだが。
「ん……元気になったのでする……ヒトって……みんなこうなのでする?」
困ったような視線を俺に向けるヒルダに、いえ、一週間ぶりなためでは無いかなとか、
そんな言葉を耳元で言われたら、余計元気になりすぎますとか、
三回も出してるのにコレは俺的にも不思議です、とか頭の中で言い訳する、息子自重しろ。
「ひゃっ! ま、また大きくなったのでする?!」
すみません、生きててすみません、あったかくて、やーらかくて、
困った顔を見たら、我慢出来なくなったと申しますか……死ねば良いのに、むしろ、殺して。
「わかったので、ありまする……んっ!」
そう言って、体を起そうとするのだけど、力が抜けてしまったのか動けないヒルダを見て、
さらに元気になって、自己嫌悪と恥ずかしさに浸っていると、耳元に囁かれた。
「んっ! ダメでするっ! 縄を解いたら……突かれて舐められて、
胎内に全部出されて、しまうでするっ!!」
起きられないならと、再び抱きしめてくれたのは良いのですが、その大変素晴らしいもののせいで、
息子が暴れすぎて、喘ぐ声が色っぽいと言いますか、もちそうにありません。
「カトリ様っ! キス……して、んっ! 良い……でする?」
頷くと同時に首筋に走る鋭い痛み、二度目の吸血(きす)による甘い痺れに、
限界だった息子は胎内に白濁を放っていた。
「すき……でする……いっぱい……」
そう囁くヒルダの唇は、俺の血で赤く汚れていると言うのに、
艶やかさや色気を感じるための要素にしか、なっていないと感じる俺は、、
なんとも、つまり、その、ヒルダは、かーいいなと思ってしまうと言うことで。
「え?! ヒトって……すごいでする?!」
呆れられました、俺も息子に呆れてます、むしろ、何でか全然疲れません、と言うか、
何回でもいけそうです。
「また……するでする?」
それに即座に頷くと、困ったような、嬉しいような表情のあとで、
すっと、手が動いたと思ったら……自由になる俺の体。
「もう……動けないので……して……ほしいのでする」
ランプに照らされた室内でも分かるほど、顔を赤らめたヒルダも可愛くて、
迷わず抱きしめていた。
「んっ! 揉んだり……吸ったりは……ひゃっ! 激しいのでするっ!!」
あの後、朝までずーーっと、いたしておりまして、
我ながらケダモノかと思いましたね、うん、死にたい。
じゃなくて、お昼に、ようやくこの世界、つまり異世界に来たと言う事を詳しく説明された、
ヒトは落ちてくる少数が居るだけで、人間と言ったら、
男は半獣人、女は人に獣の部位を付属させる者達が主となっているらしい。
まあ、羽と触角の生えた吸血鬼が目の前にいるので、他に猫耳娘や狼男がいても、
不思議では無いよなと納得したが、ふと、蚊って獣? と思っていたら、
この地域は西域と呼ばれる、自然を多く残した地域で、
他の地域に比べて、幻想と魔法の時代だった頃の存在が残っていると、
微妙に答えになってない説明をされた。
まあ、その話の最中に、そう言えば、昨晩は耳を舐めようとしたら無かったので、
頬を舐めたり、試しに触角はどうなのか試してみたら、
凄くヒルダが乱れたなーと、考えていたら拗ねられた、怒られるより困るなあれは。
ヒトは基本的に奴隷階級らしいと聞いて、シェーラの俺に対する扱いも理解出来てしまった、
納得は出来ないが。
そこで、何故ヒルダは俺を様付けで呼ぶんだろ? と思ったら。
「カトリ様はシェーラ様の所持するヒトにして、神からの賜り物で御座います」
即答された、小さく「言わなくてはダメでございまするか?」 と、赤くなりながら、
付け加えられたのは、聞かなかった事にしないと、我慢が出来なくなりで……ふと、
なら子供は出来ても、結婚とかは無理なのかと聞くとそうでも無いらしく。
「立場、種族、性別、年齢を問わず、子供が出来たら結婚するのでする」
つまり、相思相愛で体液の交換を十月十日行えば、誰とでも子供が出来てしまう種の特性と、
母親の性質しか受け継がないために、相手によって血筋が変化する事も無いので、
子供が出来るほどお互いに愛しているなら、誰とでも何とでも結婚出来るのだとか。
「大抵は同族でありまする、けれど……」
異種族や言葉さえ通わない存在とすら子を成して、結婚した例が無い訳ではないらしい。
そんな話をしていたら、昨夜の事を思い出してしまって、
真昼間から何考えてると俺が思っていると。
「日も高くなったでするし……またするのでするか?」
爆弾発言がきました、何でも蚊は種族的に肌が弱く、目も強い光に弱いために、
基本的に夜行性で、睦事は本来は昼にする事らしい。
文化の違いにショックを受けつつ、このまま流されると押し倒してしまいそうだったので、
話を変えるべく……帰れるのかを聞いたら、困った顔をされて。
「神(おおいなるもの)にお伺いを立てないと、分からないのでする」
なんでも、蚊の部族の所にヒトが飛来して来たのが300年振りらしく、
しかも、その前回来たヒトは、この地で妻を娶り天寿を迎えて神となったらしく、
参考にならないとか、なんてうらやましい。
「引いてるでする?」
「え? あっ! おおっ!!」
禄でも無い事を考えていた俺は、竿が引かれるたのに気が付き、ようやく我に返った。
「あんなのでも釣れるんだな……って、引きが強すぎないか? おいっ!」
「お手伝い、するのでするっ!」
釣りは合宿で食料調達の為に経験済みな俺だが、ブラックバスとは比べられない引きだっ!
焦る俺をヒルダが助けて……って、背中に抱き付かれますと嬉しいのですが、
俺の集中力と理性が、ゴリゴリ削れるのですが?!
「ご、ごめんなさいなので……ひゃうっ!」
「あたっ! あー、逃げられちまったか」
俺の理性と本能の綱引き……では無く、即席の針では荷重に耐えられなかった様で、
勢い余った俺達は、地面に重なり合うように倒れた。
「ヒルダ、やーらかいのが当たっ……」
「どうしたんでする?」
当たってたいへんな事になってる、そう言いかけた俺は、
倒れた拍子に、俺に乗っているヒルダの背景……夜空を見て、
そこに浮かんだ、二つの月から目が離せなかった。
本当に今さらだが、異世界に来たんだなと思い、お袋やダチの顔を思い出していた。
「泣いて……いるのでする?」
そう言われて、初めて視界が滲んでいることに気が付いた。
俺は泣いてるのか? そう呆然と思っていると、ヒルダが顔を近づけてきて……
涙を舐め取られ(きすされ)ていた。
「ごめんなさいでする」
どれくらい、そうしていたのだろうか? ヒルダの声に我に返る。
神(おおいなるもの)に巫女(ヒルダ)が助力を願って、ヒト(俺)が落ちて来た。
この事を説明されてから、ヒルダから謝罪の言葉を聞くのはこれで三回目、
その度に気にするなとは言ってるのだが、俺は内心では迷惑と思っていたのかも知れない。
情けねえっ! 好きな女を守ると決めたのに、俺がヒルダを不安にさせてどーするんだ?!
こんな姿をダチに見られたら、漢じゃねえと殴られる、むしろ、俺が殴るっ!
「ヒルダ」
「なんでする?」
ああ、馬鹿な俺が、うじうじ考えても仕方無いんだ、やりたい事も、やるべき事も同じ、
なら俺は幸せだなと、改めて思いながら、まず、ヒルダに謝る、けじめはつけないとな。
「すまん、迷っていた」
お袋やダチの事を忘れる訳じゃ無い、全部終わったらヒルダの事を紹介しないといけないしな。
そしてふと、シェーラにはきっちり声に出して宣言したのに、
ヒルダには言葉で伝えて無かったなと、いまさら気が付く自分が馬鹿だと思う。
「好きだ、お前と共に居たい」
「……私で良いのでする?」
ヒルダを抱きしめる事で返事をする、此処が異世界だろうと、どんな相手と喧嘩をする事になっても、
もう戻れなくなかったとしても、うん、この思いは間違いじゃないっ!!
馬鹿と言う奴は、単純なだけに強い。
迷う事も無いほど、好きになっちまった俺は、
だから、今、本当の意味で馬鹿になったんだと思う。
ちなみに、後の守護者カトリの主であるはずのシェーラ様は、
冷めてしまったご飯を前に、早く帰ってこないかなと、待ちぼうけでありまする。
つづける? (Y/N)