猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

牢獄脱走

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牢獄脱走

 

 
 愛
 それはなに?
 心の繋がり?
 愛しいと思う気持ち?
 友愛という絆?
 お互いを思いやって大切にすること?
 それらは違うと思う。
 愛とはもっと限定的で、情熱的で、偏執的で、どうしようもないモノなんだ。きっと。


 ※    ※    ※    ※    ※


 雪に埋もれた刑務所。
 混乱する看守。
 走り回る囚人。
 そう、アシャトーマ国立刑務所で脱走騒ぎが起きていた。
「何も考えずに走れー!」
 短い金髪と白い毛並みを持ったウサギの少女――愛の聖名をエクセルという彼女が脱走を扇動する主犯格だ。
 彼女はかつてイナバの名を冠していただけあって人間を使うことに慣れていた。
 活発に動く彼女の指示で皆走り、戦い、道を作る。
 そしてそれで足りない場合は出鱈目なイナバの魔法で切り抜ける。
 八面六臂の活躍を見せる彼女かいなければ脱走なんて不可能だっただろう。


 ※    ※    ※    ※    ※


 純愛教という病気がウサギにはある。
 曰く『愛とは運命で結ばれたひとりに注ぐべきである』
 大体第二次反抗期に入ると同時ぐらいで発症し、反抗期が終わるとほぼ同時に収束を向かえる、ヒトで言う麻疹みたいなものである。
 うちの何番目の子が恋愛教に入って、という言葉は井戸端会議で囁かれる話題として定期的に出てくるものであり珍しいものではない。
 あとは決まった流れで話題は進む。

 もうそんな年齢になったのね。
 長引いてこじらせなきゃいいんだけど。
 年齢をとってからかかると酷いって話だから今のうちにかかっておいたほうがいいじゃない。
 そうそう免疫つけておかなくちゃ刑務所送りになっちゃうわよ。
 うちの子に限ってそんなこと無いと思うけど釘刺しておいたほうがいいかしら。
 こういうのは親の役目だから。
 やっぱりいろんな経験を積ませてあげないと。
 良かったらうちの旦那なんかどう?
 それだったらうちの旦那も貸すわよ。
 本当?助かるわ。

 あとは大体二十回ほどで無事純愛教から抜けることとなる。
 普通じゃない場合は残念ながら刑務所へ入って更生することになる。


 ※    ※    ※    ※    ※


「157番!部屋に戻るんだ!」
 看守がおびえたように叫ぶ。
 でも間違ってる。私の愛の聖名はモモ。
 エクセル様が教えてくれたの。私の本当の名前を
 凡百の民とは違う独特の響き。
 生まれ変わった私には相応しいってことが魂で理解できた。

 私が純愛に目覚めたのはエクセル様のおかげ。
 エクセル様は名前だけでなくいろいろなことを教えてくれた。

 素手で武器を持った相手と戦うときの技術。
 仲間が吐血したときの対処方法。
 複数の敵と対峙して逃げ切る技術。
 食べられる野草食べられない野草と薬になる野草と毒になる野草の区別。
 高いところから落ちても怪我しない着地方法。
 イナバの魔法の原理(独特すぎて使えなかったけど)。
 ワニとの闘い方。
 てこの原理で相手を吹っ飛ばす技。
 非常食の捌き方。

 そしてただひとりを思い続けることのすばらしさ。

 今はまだ私の運命の相手はいない。
 でも『そのときがくれば』現れる。
 だってそれが運命だから。

 ふっとばして気を失った看守を縛り上げながら物思いに浸っていると離れたところから声が聞こえてきた。
「エクセル様!看守が大挙してやってきます!」
「大丈夫よ。『こんなこともあろうかと』出入り口にはしっかり鍵をかけてあるから」
「しかしそれでは脱走が」
「まかせなさい。『こんなこともあろうかと』看守室の本棚の裏に隠し通路があるのを調べてあるからそこから出ればいいわ」
「さすがエクセル様です」

 『こんなこともあろうかと』とはエクセル様の魔法だ。
 なんでも因果律に干渉して過去を改変することで望む現在を作り上げるのだとかなんとか。
 正直エクセル様のあの魔法は反則だと思う。

 でもこれで本格的に脱走できそうだ。
 刑務所を出たら国に入られないからまずオオカミまで行って一旦お金を稼いで。
 それからさらに南に行けば私の運命の相手に出会えるだろう。
 なぜかそんな予感がする。

 この道を行けばどうなるか。恐れるな。ふみだせばその一歩が道となる。行けば分かるさ。
 なんて、怖さを紛らわすためにエクセル様の真似してみる。
 さあ行こう。
 怖いけど、胸のどきどきのほうが大きいから。


 ※    ※    ※    ※    ※


「……なんてことがあったの」
 そう言って彼女は小さく笑った。

 つまりこれは俺がその運命の相手、というやつなんだろうな。流れから考えて。
 しかしどこまでが作り話なんだろう。
 脱走方法から?エクセル様から?いやいや全てが作り話かも。
 でも楽しかったからどこまでが本当かなんてどうでもいいや。
 そう思って俺はモモの頭を乱暴になでた。

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