猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

シューティングゲーム小ネタ続編

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シューティングゲーム小ネタ続編


目の前の鋼からヒトが降り立つ。
たくさんのことが起こりすぎて、まだ実感が湧かない。

まだ二刻も経っていない。
空が騒ぎ出したと風日[カザヒ]が知らせてから。
星々の園へ昇ったのは、
防鋼[サキモリ]と戦ったのは、
鋼を連れて降りてきたのは、
どれも、つい今しがたのはずだ。
本当に、つい今しがたの出来事のはずなのだ。

――「それ」が現れたのは、防鋼たちの領域。
風日の力を借りてさえ届くのがやっとの場所。
遠く滲んでいるのに目に焼きつくその姿。
鋭角の翼、漆黒の威容。
防鋼たちと対峙するその様。
まるで、御伽に聞く祖鋼[オヤガネ]。
胸がはやる。

辿りついてからは無我夢中。
先を塞ぐ防鋼たちとの戦い。
初めて踏み込んだ空の深く。
見たこともない巨大な防鋼。

どうやって倒したのか覚えていないくらい本当に必死で。
気が付けば戦いは終わり、辺りには防鋼の残骸。
"祖鉄のような物体"からは敵意は感じず。
後をついてくるそれを何度も気遣いながら高度を落とす。
やがて望む見慣れた風景。
結界の入り口を抜ける。
郷の背後の草原へ、「それ」を連れて降りる。
降り立った「それ」の、陽炎の向こうに見えた姿は、
どうみてもヒトで――


どれほど立ち尽くしていたのだろう。
ずっと空を見ていた彼が、金縛りが解けたかのように動き始めて。
私も、郷から上がって来た人たちの声で我に返る。
それでも大分呆けていたのかもしれない。
私の視線を追いかけて彼に気付いた人たちの問いに、
「あれに、乗っていた……」
そう一言だけしか言う事が出来なかった。

「しかし迂闊です。姫様は目立ちすぎました」
何時の間にか隣に立っていた常磐[トキワ]が言う。
その一言は、重い。
「あんなに派手に事を成せば、彼らにも場所が知れるでしょう。
 公に動く口実を与えてしまいます」
さっきまでの高揚した気分が吹き飛ぶ。
後先を考えていなかった自分が悔しい。
そのあとのことは、ただ、郷へ向かう足が鉛のように重かったことだけ覚えている。


                      Intermission 1 : 氷雨 [ヒサメ]

目の前には液体の入った容器が一つ。酒の匂いがする。
周りには鳥の姿をした男たちと、翼のある女がちらほらと。
女たちは、翼のある人の姿。
背の翼さえなければ普通の女にさえ見える。
男たちは、背の翼と嘴のついた顔。
これも御伽でしか知らないが、烏天狗を髣髴とさせる。

上座と思しきところには、老齢に達した男。
並んで、この郷へ導いてくれた少女。
今は、あの光る翼は纏っていない。
二人とも、翼の外側は青灰色、内は灰白地で飛白模様。
老人は東雲[シノノメ]、少女は氷雨[ヒサメ]と名乗る。
御遣い殿、と東雲老人が呼ぶ。
「貴殿は落ち物として古からの仕来たりに従い、
 一番初めに見つけたこの氷雨のものとなる」
そう告げてから、二人はずっと寡黙。

斜向かいにはよく喋る女。
黒髪、黒翼、黒尽くめの衣装の上から白衣を一枚羽織り、瀝青と名乗る。
皆が難しい顔をして口数も少ないなか、彼女一人は好奇心が勝るのか酷く饒舌。
「それにしても、だ。
 人の操る鋼など遠い神代、祖鋼の時代の伝承だ。
 燃料にしろ、それが豊富にあったわけでもあるまい」
操縦について、性能について、燃料について、一気にまくし立てられる。
燃料がほぼ残っていない、と返したところで瀝青の質問攻めはやっと一段落する。

それを待って、ここが何処で彼らは何者かと長に問う。しかし。
「我々隼は猛きトリの一氏族にして、この隠れ郷を住処とする」
そっけない一言で済まされる。
なにか補足してくれるかと瀝青を見る。
「長の言葉が全てだ。
 我々は鳥であり、そのなかでもここは隼達の隠れ里だ」
まあ、私は鴉だがね、と付け加える。
聞きたいのはそういうことではなくて、と呟くが、
「君が何者で何処から来たかなど君自身しか知るまい。それと同じだ。」
そういって瀝青は酒をあおる。

ならば、と。氷雨のあの姿を聞く。
どこから説明するかと呟いてしばらく考え込んだ瀝青に、
「あれは魔法だ。魔法といって判るか?」
唐突に問い掛けられる。
子供の頃に御伽噺で聞いた事はあれど、"判る"といえるのか悩む。
しばらく返答に迷うと、そのまま次が話される。
「鋼の持つ力とは別の系統の力だ。
 我々には操れるが、君等には使えないと聞く。
 そういうものだと納得してもらうより他にない」
言い切られてしまい、それ以上聞く事を諦める。

仕方無しに、先ほど耳にした「祖鋼」の意味を聞く。
問われた瀝青は暫く考え込んで
「端的に言えば、鳥達の先祖に栄華と没落をもたらしたとされるもの。
 もう少し言うなら、伝承のなかの神や英雄の類だ」
そう言ってからから。
ちょっと長くなるぞ、と前置きして語り始める。

――大昔、彼らの祖先がやっと魔法をその手にした頃、
後に祖鋼と呼ばれるようになる機械が落ちてきた。
それをきっかけに築かれた、栄華の時代があったのだという。
絶頂期、彼らの祖先は星々の輝きさえその手にしていたのだと。
だが彼らは一つの懸念を抱くようになる。
祖鋼を創った者達が何時か攻めて来るのではないかと。
そんな杞憂と猜疑の末に彼らは滅びる。
滅び、残されたのは二つ。
一つは空を阻む鋼たち。
畏怖と怯えの果てに作り出された彼らは、
主なき今も空の深くに身を潜め、
何時か迎える戦いの日を待っているのだという。
そして、もう一つが主なき豊穣の地。
常世とも高天原とも伝わる安住の地。
標の失われた沃野――

間を置いて。
「ここまでならありふれた創世譚。信じなくて当然。
 けれど、君らが見た鋼達は御伽ではなかったはずだ。
 確かに空には防鋼達が、この郷には風日がいる。
 そして、これが今の本題。」
そこでこちらを指差して。
 「君を連れてきた鋼は伝承の祖鋼に良く似ているのだよ」
ここでやっと、自分の身の上に起きている事を把握できた。
好奇心から、ならば沃野もどこかに、と聞きかける。

しかし、その言葉に反応したのは氷雨の方が早かった。
「祖鋼があったんだから、沃野だって絶対にある」
半ば泣きそうになりながら。
しかし、瀝青は切って捨てるように言う。
「しかし、これが祖鋼と同じと決まったわけではありません。
 第一、最早燃料が無いと」
「それは風日の力で……」
「それには、このヒトが風日を使えなければなりません。
 風日を使うには契約が必要だと、それはご存知のはず。
 氷雨様は、いささか風日に頼りすぎです」

そして、暫しの間。
口を開いたのは東雲老人。
「予定には変わりない。明日は戦の準備だ。
 氷雨は当面は謹慎とする」
その一言で解散となる。

「御使い様はこちらへ」
呼びかけられ、荷物を抱えた女のあとを行く。
去り際の氷雨は、
気の毒なほどに落ち込んで見えた。

女に案内された部屋。
高くにある格子窓、
奥には厠と思しき区画。
隅に畳まれた布団。
案内の女に一通りの説明を受ける。
女が去り、これではまるで座敷牢だと思うと同時。
そのとおり、外から鍵が掛けられる音がした。

用意された着物の着付けがわからず、
着のままで寝床に入る。
考える暇も無かった今日。
自分は"所有物"だという。
そこに大した感慨は無い。
今までの処遇とさして変わりはしない。
気になったのは氷雨という少女。輝く翼。
その姿に、ふと、自機を思う。
空力に妥協した外形。
機関の大出力を全て投入した重武装。
隠密性と放熱性を追及した漆黒の外殻。
そして、それに組み込まれた自分。
なにか惨めな気がして、布団に潜り込む。

ふと人の気配がする。
続いて引き戸の開く音。
そこに立つのは氷雨。
近づいてくる足音と、衣擦れの音。
何故か体は動かない。

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