猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

リフレドット家奮戦記02

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リフレドット家奮戦記 第2話

 
 
隠されていたものが明らかになった。それだけの事である。
だとするなら、今更になって困惑するのは無意味な話のはずだ。
が、そうもいかないのが人間の心情というもので、難しいところだったりもする。
まあ、つまりは。
 
父、ラッセリス・リフレドットが死去してから一週間。
右も左もわからないまま、必死の思いで葬儀を終えたライムリスの元に、身なりだけは綺麗なリスが数名訪れていた。
身なりだけ、というのは、眼光が無闇に鋭く肩で風を切って歩く様がどうにも不穏だったからであるが。
その彼らのもたらした知らせこそは、驚愕に値する代物だった訳である。
 
「その……えっと。つまり、父さんが?」
「そうなんですよ。ちゃあんとここに書いてある」
彼らは、一枚の紙切れを持っていた。
曰く、そこに記載してある事は。
 
「10000セパタの借金だ。期日は明日まで、と――
 こちらさんの旦那さんは死んだみたいですがねえ。それなら貴方に払ってもらわなきゃあいけない」
「い、10000セパタって言っても……」
相当額の借金である。
絶対に払えない額――ではないが。それにしても、急に払えといわれても難しい話である。
「払えないってこたあないですよねえ。借りたものは返すってのが世の習いでしょう?」
「そ、そうですけど……」
「いいですかい、明日までだ。明日になって払えなかったら――」
「……は、払えなかったら?」
この慇懃無礼な者どもは、葬儀が終わったばかりの屋敷を見渡す。
「この屋敷に土地と。一切合財、全部頂く約束になってるんで……
 忘れねえことですな。この、ノーラリス一家は甘くねえですぜ」
最後に一つ睨みを利かせ。
慇懃な態度の、代表らしきもの以外の連中は、鋭い牙などちらつかせながら。
近年、新進気鋭の無道者として名を馳せている、ノーラリス一家は屋敷を去っていった。
 
しばらく、ライムリスは頭を抱えて悩んでいた。
10000セパタという大金は簡単に手に入るものではない。
しかし、それが無ければこの先祖伝来の土地、屋敷の何もかもが奪われてしまう。
「というか、父さん何でそんな借金してたんだろ……」
生活には特に困っていなかったのだが。
ここ数年、部屋に篭りがちで滅多に口も開かなかったが、それが関係していたのだろうか。
「……って、そんなこと考えても意味ないからなぁ。どうしよう……」
首を振って悩む。ひたすら悩む。
と、そこに。
「何をお悩みなんですか、ライム様?」
エリカがやってきた。彼女には、葬儀の片付けを頼んでおいたはずである。
そう告げると、
「もう終わりました。あんまり規模が大きくありませんでしたからね」
「……父さん、晩年は人付き合い少なかったからなぁ……
 って。それならいいんだけど……どうしよう、エリカ」
「……?」
彼女にも、くだんの降って沸いた借金について話す――と。
「なんだ、そんなことですか。10000セパタ程度でしょう?」
「程度って。……お金のアテなんてないよ?
 父さん、遺産なんてほとんど残してないし……」
にこにこと笑いながら。
エリカはこういうのだ。
「でしたら私をお売りになっては? まあ、男性の方が高値ではあると言いますけど。
 結構希少かな、とは思っていますので、10000セパタくらいなら何とかなるかと……」
「……は、はい?」
 
確かに――ヒトは高値で売れる。
父ラッセリスがエリカを手に入れたのは、偶然拾ったからであって金銭を払って得たものではないのだ。
もし対価を払っていたのなら、19年前にリフレドットの家は破産していたであろう。
それくらい、ヒトというのは高い。
 
そうだといって、ずっと一緒に暮らしてきた彼女を売り飛ばすというのは、これはどうにも。
「……だ、ダメだよ。そんなの、エリカが酷い目にあっちゃう。
 ああいう、その。奴隷って結構……えげつない話が多いらしいし」
「別に構いませんよ。私くらいですむのなら」
「そんなの……」
エリカは、あいも変わらずにこにこと笑っているが。
「元々、私は拾っていただいた身ですから。
 このリフレドットの家の為に身を捨てられるのなら、それは満足できるものです」
「そ、それにしたって……」
当人はかくも冷静でいるようだが、ライムリスはそんなに落ち着いてはいられない。
年頃の少年である。助平な本とて読まないはずはなく、その中にヒト奴隷の話はいくつか見られた。
それが大抵相当な話であった事も、彼は覚えている。
――というか、そういう本なので、それなりに誇張すらされている話ばかりだった。
「……だ、ダメだってば。あれは……その、ちょっといくらなんでも酷いと思うし……」
「……何がですか?」
「四肢をその切……とか。お腹を引き裂……とか。……吐いちゃうよアレは」
どんな本を読んでいたのか、いささか疑問になる発言である。
が、どうもそれも含めた上で、エリカは笑ってみせるのだ。
「ですからそうなっても別に構わないんですよ。
 私の身など使い潰して頂いて結構ですから。ライム様はお気になさらず」
「気になるってばッ。大体、なんでそこまでうちに入れ込むの?
 そんな、命まで賭けてもらうほどエリカに色々してあげた記憶なんてないよ、ボク」
拾って、育ててきた―ーというのが、彼女に与えた恩と言えば恩か。
それはそれで、まあ、確かに大恩と言えばそうなのかもしれない。
のだけれど。
「そうですね。旦那様も亡くなられたことですし。ライム様には、知ってもらってもいいかもしれません。
 ……こちらに来て頂けます?」
彼女は。そう言って。ライムリスは導いていった。
目指したのは、屋敷の地下。倉庫にあたる部分である。
 
ガラクタ――としか言えない代物が立ち並ぶ。
ライムリスの父は、以前は好事家として知られ怪しげなものをやたらに集めていた時期がある。
晩年はそうでもなかったようだが。十年くらい前まではこうだったはずだ。
そんな倉庫の中に、今。ライムリスとエリカはいる。
「確かこの辺りでしたね。……ああ、ほら」
彼女が指し示す場所には、大きな箱が置いてあった。
戸棚か何かだろうか。箱の表には四角い扉が無数についている。
「これ、何だと思います?」
「なんだろ。戸棚っていうか……ロッカーみたいなものかな?」
試しに扉の一つを開いてみると、中はやはり仕切られて収納物を入れられるような構造となっていた。
「まあ正解ですね。ただちょっと違うのはですね、ほら。この扉の一枚一枚に、何か書いてあるでしょう」
「うん。……何て書いてあるのかは読めないけど。これって確か……」
「ええまあ、ヒトの文字ですね。つまり、これは落ちものなんですよ」
「へー……」
物珍しそうにライムリスは扉のあちこちを開閉する。
中には、特に何も入っていないようだった。
「そして、これが私の入っていたゆりかごなんですよ」
「へー……え?」
彼女の方を振り向く。
懐かしそうに、同時に少しだけ悲しそうに、彼女はこのロッカーを見ていた。
「コインロッカーと言うものらしいですね、これは。
 なんでもヒトの世界では、公共の場所にこういうものがあって、お金を入れると一定時間ものを仕舞っておけるんだそうです。
 それで……このコインロッカーが『落ちてきた』時に。私はこの中の一つに入っていたと、旦那様から伺いました」
「……なんで、その中にエリカが?」
「なんでって……まあ、それは簡単に考えればひとつだとは思いますよ。
 中には何も、言伝の類は入っていなかったそうですし。多分……捨てられたんじゃないでしょうか」
「捨て子……?」
「なんでしょうね、きっと」
ライムリスとしては。
どう言えばいいのか。
「向こうの世界では私の居場所はなかったらしいですね。
 ……そして、こちらの世界で私は居場所を作って頂けた。旦那様とライム様に。
 まあ……ですから。身を捨てる理由はそれで充分だと思っています」
「……そんなの。そんなの……おかしいよ」
「……さあ。どうなんでしょうね」
 
後は、二人とも言葉を発しなかった。
 
自室に戻って、ベッドの上に寝転んでからライムリスは考える。
彼女がそうやって来た事など、彼はまったく知らなかった。
ある日不意に父が赤子を連れてきて、今日から家族の一員だ、と。そう言っていた事しか覚えていない。
「……そんなことがあったんなら、父さんちゃんと言っておいてよ……」
と言っても、聞いてどうにかなるものでもなかったとは思う。
それにしても、そんな理由があったからといって簡単に身を犠牲にしていいのだろうか。
彼女自身が納得していても――むしろあの話を聞いたからこそ、やらなければならない事があると思う。
「……エリカに居場所を作ったのは父さんだったってことだよね。
 なら、ボクは――彼女の居場所を守ってあげないといけない……んだろうね、きっと」
段々と。
やるべき事は見えてきたような気がしてきた。
「一度与えてまた奪うってのは一番残酷なんだ、多分。
 ……エリカがそれでいいって言っても。ボクはそういうの、嫌だな。
 ……うん。そうなんだ」
ライムリスは跳ね起きた。
尻尾を勢いよく伸ばして、部屋から飛び出る。
こうなったからには、やるべき事は一つだけだ――
 
「お金稼ぎに行こう! エリカ!」
「はぁ?」
喪服から外出着に着替えたライムリスが、そう叫んで居間にきた。
洗濯物をたたんでいたエリカは、それを見てぽかんと口を開ける。
「お金って……はあ。どこにですか?」
「外に!」
「外。はぁ……」
気負いだけは必要以上にあるようだ。
「ええと、私も……一緒に?」
「うん! その、色々言いたいこともあるし!」
「はぁ……わかりました。準備をしますから少し待っていてくださいね」
気合の入ったライムリスは、耳と尻尾を盛大に動かし、何故か頬まで膨らませている。
鼻息も荒くその姿は滑稽じみてはいたが、それでも頼もしいと言えばそうではあった。
 
 
 
「んー、無理ねそれは」
「……やっぱり?」
最初に訪れたのは、馴染みの妖術屋である。
ここに住んでいるラクリアは、ライムリスの幼馴染で、昔からよく一緒に遊んでいた。
マダラであるライムリスは、あまり男の子と一緒にいられなかったのである。
少年というのは、妙な意地を張って女子と付き合うのを避けたがる傾向があったりする。
外見がそうであるライムリスは、そんな少年らの感情のせいでひとりぼっちだった事が多かったのだ。
いや、正確にはひとりぼっちではなく、エリカと二人だったのだけれど。
そんな彼に手を差し伸べてきたのが、近所に住んでいた年上の女性、ラクリアとそしてもう一人だった。
お陰で孤独な少年期を過ごさずにすんで、今でもライムリスはラクリアともう一人には頭があがらない。
 
そのラクリアは、長じて妖術師となった。
魔法使いとは違うらしい。
 
そんなラクリアに頼んでみたのだが、鎧袖一触。あっさりと否定されてしまった。
三角帽子を頭に載せたラクリアであったが。
「だって10000セパタなんて、いきなり言われても用意できないわよ。
 ……その状況は気の毒だと思うし、なんとかしてあげたいけど……」
ラクリアは言葉を濁した。
長年付き合いのある相手の不幸であるから、助けてあげたいというのは本心ではあろう。
「それにしたってね。お姉さんの貯金全部はたいても、せいぜい200セパタくらいよ?
 9800セパタ集めるのはちょっと無理ね」
「……無理かなぁ。ラクリア姉なら葉っぱに術をかけてお金にかえるとか、できない?」
「通貨偽造はやらないわよ。……いや、師匠ならなんとかなるかもしれないけど。
 でも私は無理ね~、まだ。修行が足りないから」
さりげなく犯罪をもちかけるライムリスもライムリスだが、真面目に答えるラクリアもラクリアだ。
流石に見かねて、エリカが間に入る。
「そういう手段で返済しても後々確実に問題になりますよ。
 ……私を使ってもらえればすぐ解決するんですが」
「だからそれはダメだってばッ」
制止するライムリスの勇ましさに目を剥きながら、ラクリアはやはりすまなそうに言う。
「ん、まあ、何にしてもうちでは力になれないっぽいわ。
 ……なんていうかね。ごめんね?」
その言葉には、エリカが答える。
ライムリスは、鼻息が荒いままだ。
「いえ。元々当家の借金ですから、お気になさらないでください」
「……うー」
 
 
 
「借金ね。大変だね、ライム君もエリカちゃんも」
「うん……」
その次にライムリスが訪ねたのは、冒険者のケイトであった。
彼女も、ラクリアと同じ、ライムリスの幼馴染である。
元々ラクリアとケイトは二人で親友だったようなのだが、そこにライムリスが加わった形だ。
非常にちゃらんぽらんな性格の彼女は、家事も壊滅的らしく、今でもよくリフレドット家に泊まりに来る。
そんな縁を頼りに頼んでみたところ。
 
「よし、わかった」
「え、ケイト姉、お金……あるの?」
そう聞くと、彼女は照れくさそうにはにかむ。
「いや、今はないけど。でも……うん、すぐ用意するよ」
「よ、用意……できるんだ?」
「……まあ、なんとか。じゃあちょっと行ってくる」
「へ?」
そう言うが早いか、竜巻のように走り去ってしまった。
感心するほどの反応の速さである。
「いつもながら……早いですね、あの方は」
「た、頼りにしていいのかなぁ?」
「……どうでしょうか」
 
 
 
ラクリアには断られ。
ケイトは、なんとかするとは言っていたが――
「ケイト姉、ちゃらんぽらんだからなぁ。あんまり頼りにしてちゃいけないかも」
となる。
こうなると、まず第一の策、知り合いから金を借りるという手は――完全に失敗だ。
改めて自宅に戻ってきたものの、いかにも手詰まりである。
「というか、お金を貸してくれそうなお知り合いって二人しかいなかったんですか?」
「……それはとにかく。こうなったら――」
こうなったら。
こうなったらといっても、どうしたものやら。
腕を振り上げて叫んだはいいものの、実にライムリスは万策尽きている。
「……こうなったら……」
冷や汗が吹き出てきた。
見つめてくるエリカの視線が痛い。
「こ、こうなったら……」
「……もう、いいですよライム様。私を売って頂ければ、それで」
「……ダメだよ」
「ライム様……」
万策尽きた今。
ライムリスは、生まれて初めて身体の内側から湧き上がるものを感じていた。
――そもそも問題を原点から振り返れば。
「明日までに10000セパタ用意できなければ、家と土地がなくなる。
 ……それを阻止するために、エリカを売る……のが嫌だから、お金を稼ぐ。
 でも、お金を稼ぐのが無理だったから……
 ……ねえ、エリカ?」
「……はい」
「そもそも――」
そう、冷静に考えれば。
最初に立ち返って考えてみれば、問題の前提条件が誤っていたのではないか――
「家と土地がなくなる。……その程度ですむって訳だよね?」
「ライム……様?」
ライムリスの尻尾が勢いよく立ち上がった。
「……家と土地がなくなるくらいどうってことないじゃないか。
 いざとなったらラクリア姉のとこに住ませてもらうってのも、手だし!」
「え……ライム様?」
「そうだよ、その程度ですむんなら充分だ! なんだ、簡単じゃないか!」
「ライム様――」
盛り上がるライムリスだったが、エリカは冷たい目で彼を見る。
彼女の特技である、視殺の目だ。
「先祖伝来の屋敷ですよ。それを失ったらリフレドットはリフレドットでなくなってしまいます。
 ……ライム様も路頭に迷うことになります。それは決して良い手段では――」
「……先祖伝来だろうとなんだろうと、それですむなら安いものだよ」
背筋が凍ったが、ライムリスは臆せず続けた。
ここが――勝負のしどころだ。
「安くなんてありません。家が無くなってしまったら、私とライム様の居場所だって……」
「い、居場所なんて新しく作ればいいし」
「簡単に作れるものではありません。世の中というのは厳しいんですから。
 ですから、リフレドット家の為にも、私一人を使っていただければ――」
ライムリスは――
エリカの肩を、背伸びして掴んだ。
「……ライム様?」
「エリカ。……ボクが決めたんだ、そうするって。
 リフレドットの当主がそう決めたんだから……それでいいんだ」
「ですが――」
「……だから。だから――」
このもどかしい思いをどう言葉にしたものか。
ライムリスは、ある決断を下そうとしている。
「だから君を売るのはダメなんだ。……どうしても売ってほしいっていうんなら、ボクはそれを力ずくでも阻止するよ」
「……ど、どうやって、ですか?」
「……こうなったらもうヤケだよ」
エリカを連れて。
ライムリスは、自分の部屋へと進む。
 
彼女をベッドの上に座らせると、少年は深呼吸して気持ちを整えた。
それでもまだ、高まった鼓動は収まらないが。
「……ヒト奴隷は、一般的にその。エッチなことをされるんだよね」
「そうですね」
「だから……エリカだってそういうことをされる訳で。
 でもエリカ、初めてだよねそういうの?」
言いながら、ライムリスは心臓が爆発するかのような錯覚を覚えていた。
何分、純情な少年であるのだ。
「まあ……それは。その通りです」
「……それで、よくわからないんだけど、初めてっていうのは結構商品としての価値も高くなると思うんだ。
 多分……ボクが読んだ本とかにはそう書いてあったし……」
「……そんなもの、読んでらしたんですか?」
「い、色々あって。……とにかくそうなんだから。
 エリカは、自分に10000セパタの価値があるって思うから、自分を売れって言うんだよね?」
「……はい」
「……だったらッ!」
思い切って、ライムリスはエリカに顔を近づけた。
「ボクがエリカの価値を落として、そうならないようにするッ」
「は……はい?」
勢いのまま。
座っているエリカを、ライムリスは――
押し倒した。
「ライム様……じゃあ」
「……君の居場所はボクが作る。父さんがやったことなんだからボクに出来ないはずはないよ。
 だから他所に売るとか、そういうのが出来なくなるように――
 ……やっちゃうよ、エリカ」
「私は……ですが」
そう。
ライムリスにはもう、父はいない。
残されたのは家とこのエリカだけだ。
黙っていると、そのどちらかが勝手に奪われるというのならば、せめて奪われるものは自分で決めたい。
「それを今、決めるから――だからッ」
ライムリスは、自ら進んで――エリカに口づける。
勢いよく。歯が当たってしまうほどに。
「……痛ッ」
なお、リスの前歯は鋭いので、そんな事をすると唇が切れる。
だが、それを無視するように、ライムリスは口付けを続けた。
 
唇を離す。
僅かに血が滲んでいたが、エリカはそれよりも戸惑っていた様子だ。
「……うー。や、やっちゃうからね」
やや腰砕けになったものの、ライムリスは飛びのいて、服を脱ぎ始めた。
慌てているせいか、引っかかったりするなどなかなか完遂できない。
その姿に、エリカはふう、と溜息をついた。
勢いは良かったものの、やはりまだ彼も子供である。
「……私は私で脱いでおいた方がよさそうですね」
うろたえる主とは裏腹に、彼女の動きは冷静そのものだった。
実際、どうにかライムリスが脱ぎ終える頃には、エリカは完全に裸体となっていたのだ。
「よ、よし。……ふわ!?」
「……いえ、何を驚いているのですか?」
「だ、だって裸ッ」
「……そういうことをするんですよね?」
その言葉に――自分から言い出したくせにいささか情けないが、ライムリスは意を新たにした。
改めて、エリカの上にのしかかる。
「そ、そうだよ。うん。……い、いくよ」
まず。最初に目についた、彼女の乳房に手をやる。
幼い頃は平らであったというのに、今や成長してふるふると震えている場所だ。
「ん……」
触れられた時に彼女は少しだけ身をよじったが、そのままになる。
「……うわ、うわぁ。柔らかい……」
最初はかすかに触れただけだった。
けれども、その感触を、もっとよく味わいたくなって、力が篭る。
双丘は、手の動きのまま形を変えた。
「ライム様……ッ。もう少し、その……」
「え」
「少し……痛いです」
「……ああ、うんッ」
力を緩めた。
今度は注意しながら、ゆっくりと揉み解す。
先端にある乳首が掌に擦れるのが、なんだか新しいように思えた。
「……そう、そのくらいです、ライム様」
「あ、う、うん。これくらいだね」
ゆっくりと、ライムリスが慣れるのを待ちながらエリカは身を任せる。
――段々と。その手の動きから、固さも取れてきて。
「あ……はぁ」
胸からもたらされるものに、彼女も僅かに陶酔を始めた。
慣れというのは大したもので、その手の動きも再び力強さを増し始めていたのだが、今度はさして気にならない。
「ん、ライム様、上手に……なってきました……はぁ」
「よ……よし」
若干強く、乳房を握った。
「あぅッ」
エリカが軽く痙攣する。けれども痛みを訴えないので、それをいい事にして。
にゅ、にゅ、と思うままに揉んでみる。
「はぁ……あ、あう……」
そして、尖りだしたその乳首を指で摘む。
色々と試してみたい年頃であるのだ。
「ラ、ライム様……」
「え、と、ま、また痛かった?」
「……いえ。それなりには慣れましたから、ご自由になさって結構です」
「うぅ……うん」
そう言われたからといって、思い切った行動に出るにはまだ経験が足りない。
乳首と乳房。その両方に、ある程度の力で刺激を加える――そこまでがせいぜいだ。
しかしそこで止まっていては終わりにならないという事も、ライムリスにはわかる。
だから。
左手では彼女の胸を苛みながら、右手をその股の間に伸ばす。
そこは、わずかに湿り気を帯び始めていたものの、まだしっかりと閉じていた。
「って、うわ。……さ、触っちゃった」
「一発で辿り着くのは……結構凄いですよ、ライム様……ん、はぁ」
恥毛のざわざわとした感触に、指が驚いている。
しかしてそのままにせずに、まずはゆるやかに撫で摩る。
「こ、こうでいいのかなぁ……」
「……お好きなように。私も覚悟は決めました」
「えと、それって?」
答えずに、エリカはライムリスの右手を掴む。
動きを止めた形になるが、その意図がつかめない。
「え、あれ? な、何かまずかった?」
「……ライム様。先ほどの言葉に偽りはありませんね?」
エリカは――あの冷たい視線でこちらを見ている。
何か相当にまずい事をしたのかと、ライムリスは萎縮する。でも。
「な……ないよッ。ボクは絶対やりとげるッ」
「――では。私も、対象を切り替えます。守るべきはこの家ではなくライム様に。
 私の居場所はすなわちライム様のもとに。……それで、よろしいですね?」
「……うんッ」
「それでこそ……です」
間髪をいれずに、エリカは左手でライムのペニスを握った。
「ふわッ」
「そうであるのならば。私の忠誠をご覧くださいませ」
「え、え、え?」
ライムリスの右手を離すと、彼女の手は己の秘所へと動いた。
そして、まだ閉じかかっているそれを、無理に開く。
「……参ります、ライム様」
「エ、エリ……ふわぅッ!?」
強引なまでに。
握られているペニスが、そのまま彼女のそこへと引っ張られる。
「……んッ」
そうして、ライムリスがどうする事もできないまま――
エリカは。自分の手で、膣口へと押し当てた主のそれを――
「ぐ……くう……」
まだほとんど濡れてもいない、僅かな湿り気だけを助けとして。
己の中へと、受け入れていったのだ。
「うわうわ、うわッ!? エ、エリカ、そんなッ」
「ぐ……くく。痛みと言っても……やはり大したものでは……ないですね……」
みちみちと、肉を裂く感触がライムリスに伝わる。
それは痛いくらいで、怖気づきそうにもなる――が。
「……さあ、もっと奥へどうぞ、ライム様」
「でも、エリカ、初めてなのに――」
「私がそうして……ぐ、ほしいんですよ。……私をお売りになっていたら、苦痛はこの程度ではすまなかったはずですから。
 それを厭うつもりもないのですが――刻み込んでおきたいのです」
そういう彼女の決意は固いらしく、背中に手を回して逃がさないというように見えた。
「なら……そうする」
そのようにするのが己の務めなのだろうと、ライムリスは決意した。
そのまま腰を進めて、はじめての場所を貫いていく。
この反応のせいで力を失いかけていた彼のペニスだったが、僅かに歪むエリカの顔を見ていると、何故か滾りが戻ってきた。
そうして、ライムリスは貫いていき――
「は、くぅッ……」
ついには、最奥にまで辿り着いたのだ。
 
無論、それで終わるものではない。
ここでじっとしていれば、また彼女に指導される事になるだろう。
自分から言い出したのだから、そればかり繰り返されるのも困る。
まだまだ苦痛が抜けないエリカの膣肉を、更に蹂躙するのも気は引けるけれど――
「……くうッ」
今度は、何も言わずに。腰を動かし、奥から入り口へとペニスを移動させる。
肉がひきつれ、擦れ。初めてである証の血に塗れながらも、それは戻ってきた。
そして戻ってきたのならば――また、すぐに。
「く、ふ、ぐッ……そ、そうです、ライム様。そうでなければ……なりません」
声援を。それを受けて、ライムリスはまた突く。
相当の苦痛であるだろうに、彼女はむしろそれを望んでいるかのように催促するのだ。
それなら応えるまでのこと。ライムリスもそろそろ性根が座る。
こうなった以上は遠慮をせずに。やるだけの事は、やるしかないのだ。
じっと耐える――耐えると同時に、何故か口元に微かに笑みを浮かべるエリカの顔を見つめながら。
ライムリスは、前後動を行っていく。
「く……ふわ、んッ」
それだけでも、段々と快感は高まっていくものだ。
ぐちぐちと、音を立てる接合部の感触を腰で味わいつつ――
やがて。僅かに、彼女の内部に潤いが生まれ、滑りが出始めた頃。
「あ……う、そろそろ来ちゃうかも……」
「……どう……ぞ。んッ」
動きの中の一節。奥から抜こうとしていたその途中に、不意に――
びゅるッ。びゅるるッ。
己の精を、ライムリスは懸命に吐き出していった。
血と、精と、出始めた愛液が、エリカの胎内で混ざっていく。
「あ……ん」
それを感じ取ったのかどうか。彼女は吐息を漏らした。
 
「……でも、まだまだッ!」
ライムリスはそう叫ぶ。
実際、射精してもなお、彼のものは小さくならない。
「とことんやっちゃうよ、エリカッ」
「えッ? あ、はい……んッ」
精を吐き出し終えたペニスは、やはり固さを保ったまま、エリカの膣肉に蹂躙を再開する。
更に潤いは増してきて、痛みもゆっくりと消えつつあるが――しかし。
「あ、あ、んッ」
ライムリスは。どんどん遠慮がちな動きも消えて、盛大に貫きはじめた。
一撃一撃が、最奥へと届くほどの衝撃を伴う。
「ら、ライム様、どうしてッ……?」
「わかんないけどッ……なんだかやる気がどんどん沸いてくるッ」
言いながらも、彼の動きは止まらない。
ぐちゅりぐりゅりと、激しく出入りする膣口から様々なものが零れ落ちても――だ。
膣肉も流石にこなれてきて、痛みもほぼ消えてきたのがせめてもの幸いである。
「はぁぁ、あぅ、はぁッ……ライム様、なんだか激しいッ……」
「やるなら……徹底的だよ、うんッ」
そうして、今度は途中などではなく、彼女の子宮口にまで押し付けるような形で――
びゅるるッ。びゅく、びゅッ。
「あ……はぁ、あぁッ!」
奥を埋め尽くすように、精液で満たしていった。
 
ところが――である。
「じゃあ、エリカ。……ちょっと体勢変えてみて」
「は……え?」
繋がったままで、エリカはライムリスに誘導されるまま、仰向けからうつぶせになった。
そして手足でもって支え、四つんばいのかたちになる。
「こ、今度は……こうですか?」
「うん。……なんかね、全然止まらなくて」
「徹底的――でした、ね……確か……」
そう呟く間もなく。
ライムリスはすぐさまに、律動を再開していく。
「やるならとことんだよッ……!」
「は、はい……それにしても、ちょっと、予想外な……」
 
リスというのは。
ああ見えて、貪欲であるのだそうな。
満足していればそこで終わりにする種族が大抵なのだが、リスはそうではない。
満腹であろうとも、ご馳走を見れば食らいつく、そんなところがあるというのだ。
まあ――そんなこんなで。スイッチが入ってしまったのならば――
 
「ま、またッ……出しちゃうよ、エリカ」
「……ど、どう……ぞ。もう何度で……も」
エリカは、すっかり参ってしまっていた。
あれから何度も何度も注がれ、彼女も幾度か達していたが――
すっかり覚醒したライムリスは、それでもなお終わらない。
当初の目的としては、達成してしまっているのだけれど。
「んッ。くうッ」
「あ……う」
 
びゅるるッ。びゅく、びゅッ。
 
それが、エリカの意識が飛んだ瞬間だった。
後は――どうなっていたのか。彼女は、よく覚えていない。
 
 
 
朝だ。
窓から差し込む光に、エリカは目を開く。
どうも違和感を感じたので、ゆっくりと後ろを見る――と。
ライムリスが、重なるようにして眠っていた。
「……そう。そうですね。私も……そう決めました」
全身が痛みを発している。体中に負担がかかっていたのだろう。
特に、あれだけ貫かれた秘所などは、腫れ上がってすらいるようで、鈍痛がしっかりとあった。
「まあ……それでも大したものではないですよね。
 私の居場所はどうやら……ここになったようですから」
ライムリスの頭をそっと撫でると、エリカは笑う。
「故にこれ以降、私はいかなる手段を使ってでもライム様の為に。
 必ず――必ずライム様に……」
ついでに、ライムリスの耳を撫でて。
「――いいお嫁さんを見つけてあげます。リフレドットの当主として恥じないようにッ……
 私の全身全霊をかけて貴方を完全なものへと磨き上げますから――」
ライムリスが、まだ眠っているというのに――小さく震えた。
「――貴方も覚悟を決めておいてくださいね? ライム様」
 
 
 
それからしばらくして、あの金貸しに返事を届けようと、ライムリスとエリカは出立の準備をしていた。
この家とも、多分これでお別れになるだろう。
「もう忘れ物はないよね?」
屋敷の中から持ち出せるものは大抵を持ち出した。
土地と家屋という話だったから、こまごまとしたものは多分持っていっても許されるとは思うのだが。
ただ、地下の倉庫にある品々や、父の書斎の膨大な本などは手がつけられなかった。
二人で持ち出せるものなどその程度である。
「そうですね。……そろそろ、行きましょうか」
「うん」
言葉は少ない。
決心はしたのだから、後悔はないけれど。
それでも郷愁はあるから、口数だって減っていく。
「……ん、あれ」
屋敷の外を見ていたライムリスが、その時何かに気づいた。
小高い丘の上にある屋敷なので、丘の下はよく見えるのだが、そこから見知った顔が来る。
妖術師の証、三角帽子を被ったリス。ラクリアである。
「あー、ちょっと待ってライム君」
「ラクリア姉……どしたの?」
彼女は三角帽子の中に手をやると、そこから袋を取り出した。
「これ。プレゼント」
「えと……何?」
「ふふん。開けてみて」
袋の口を開いて中を見る、と。そこには、無数のどんぐりが入っていた。
この国にあっては常食とも言える代物だが。
「ええと……餞別とか、そういうの?」
「え。……あ、間違えちゃった」
もうひとつ、袋を帽子の中から取り出す。
袋の大きさと帽子の大きさがあまりかみ合っていない気もするのだが。
そのあたり、彼女は妖術師なのでどうでもいいのだと、以前聞いた事があるライムリスである。
「こっちこっち。いやあ、お姉さん間違えちゃった」
「今度は……えぇッ!?」
渡された別の袋を開いて見る。
中には、お金が。それも結構な額のセパタが入っていた。
「こ、これは?」
「あの後部屋片付けてたら師匠のヘソクリ見つけちゃってね~。
 ちょっとパクってきちゃった」
「お師匠さんの……それってマズいんじゃ」
「まあ見つかったら一ヶ月は豚に変えられちゃうかな。師匠、妖術師の達人だし」
はははと笑ってはいるものの、ラクリアはあまり元気がない。
冗談めかして言ってはいるが、相当恐ろしい事態なのだろう。
「そんなの、受け取れないよ。ラクリア姉がひどい目に……」
「まあまあ。それくらいすむんならね。大したアレじゃないし。
 ……一ヶ月、残飯食べさせられるのは結構キツいけどね」
力なくラクリアは笑う。
「なんで……そこまでして」
「いや、だって、ライム君は友達だし。あとエリカちゃんもねえ」
「私が?」
「まあ……なんやかやで付き合い長いしね~。エリカちゃん売られていったらなんか寝覚め悪いから。
 それにリスってのはね、ほら。いざとなったら集団で敵を八つ裂きにするのも当然っていうか」
過去、そういう事件があったのだ。
リス族の仲間意識の強さを示す事件だが、いささか残酷な話なので恐れられている。
「ラクリア姉……ありがとう」
「ん、でもそれ、5000セパタくらいしかないのよ。だからまだ足りないんだけど……」
「いや……気持ちだけで十分……」
 
そこに、もう一人。
昨日どこかへ走り去っていったケイトが、なんというか――
「待たせたね、ライム君、エリカちゃん。
 やっと……お金、作ってきたよ」
全身血まみれになって、お金の入った袋を持って歩いてきた。
「ケ、ケイト姉!? どうしたのその姿!?」
「ちょっとね。賞金首を三人くらい始末してきたんだけど、最後の敵が手強くて……
 まあなんとか倒したから。こうやって……」
そこまで言うと、ケイトは崩れ落ちた。
駆け寄ったエリカが瞳孔を確認すると、辛うじてまだ生きてはいるようだったが。
「うう。どうしてここまで……」
それには、ケイトに代わってラクリアが応える。
「私と同じでしょうね。貴方たちとは付き合い長いから。そーゆーものなのよ」
ケイトが握っていた袋には、これまた5000セパタがある。
二人あわせて10000セパタ。なんというか、ぴったりだ。
「ほ……本当にありがとう。ラクリア姉、ケイト姉」
「まあまあ。気にしない気にしない」
この二人に向かっていつまでも頭を下げる主を見ながら、エリカも決意を決めていた。
「信頼のおけるご友人。……悪くないですね。
 このお二人のうちどちらかをライム様に……考えておきましょうか」
お礼よりもそういう考えが先に来るあたり、彼女の「覚悟」も相当なもののようだった。
 
 
 
そして――
あれから一年。
危ういところで没収を逃れた屋敷に、二人は今も住んでいる。
あの二人には、少しずつでもお金を返すため、色々と行動を起こしているところだ。
ラクリアの妖術屋で働いているのも、ライムリスのせめてもの恩返しのつもりである。
そしてまた、諸々の諸騒動はあるのだが。それについては、また、別の機会に。
 
 
 
 
 

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