猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

羊と犬とタイプライター・カーテンコール

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羊と犬とタイプライター・カーテンコール

 
 薪ストーブの上でコトコトとヤカンが鳴る。
 曇った窓ガラスの向こうは夜の闇。
 ちらつく雪がしんしんと、音を吸い取って静かに、静かに。
「ねー旦那ぁー」
 鏡のような窓に向かい合ったまま、こちらを見ないで言う。
「犬の国ってさ、祭りみたいなもの、ないの?」
 頭の両脇には重そうなマダラ模様のヒツジのツノ。
 毛皮の代わりに着込んだセーターはぶかぶかで、針金みたいな体を強調している。
 旦那と呼ばれた男は、ストーブの近くで湿ったコートをかざしている。
 擦り切れたキャラメル色のコートは安物で、比べれば男の自前の毛皮のほうが上等なほど。
 こげ茶色の毛並みの、薄水色がかった目の、狗頭人身の男は、億劫そうに牙を開いた。
「ある。でもこのあたりは街だからな。田舎じゃいろいろやってるはずだ」
 ふぅんと、問いかけた割に興味なさそうに、マダラツノのヒツジ————
オツベルと名乗る異郷人は、窓の外に視線を投げた。
 故郷を思っているのか、背中は何時にも増して小さく。
 ぼんやりと言葉を途切れさせて、物憂げな顔が窓に映る。
「………お前の国の祭りは、どんな風なんだ?」
 古びた煉瓦を思わせる声が、慎重に、そうとは聞かせず朴訥と、言葉を選ぶ。
「んー……。いろいろあるけど。いちばん大きな祭りはね、やっぱり夏と冬の二回だね」
 窓際でゆらりゆらりと、夢遊病者のように体を揺らせて。望郷に耽る背中が、とても遠い。
「あっちこっちから大勢仲間が集まってね。その時しか会えない奴もいるし。
 もう会えないと思ってた奴と、ばったりなんてこともあるよ。
 神に直に会えるのも、大抵はその時くらいだね。……オレんち、地方だったから」
「……ほう。信仰心があるとは知らなかった」
 窓に映る顔が、泣き出しそうな苦笑いに歪んだ。
 気づかないふりをして、コートを熱に炙る。
 しんしんと雪が降る。
 窓を隔てて、部屋は暖かく、外は暗闇。
 星も見えない夜空の向こう、もう帰れない場所を想う。
 想い出は尽きず。
 名残さえ、時とともに消え去るとしても。
 かなわぬ夢に、いまだけ浸ることを許して欲しいと、ため息をつく。
「ああ……目の前に、ひゅーんって、落ちてこないかなあ……神の冬コミ新刊。
える、しってるか……やぎ子ちゃんは ぱんつ はいてない……」
「どんな神官だ。ウサギじゃなくてか」
「ううう……うさぎもはいてない…。
 神様仏様お願いです、ハンターの最終回の載ってるジャ●プでもいいです…
最終巻が欲しいとまでは言いません、最終回打ち切りでコミック未刊行とか超ありえるし」
 さめざめと泣く背中が侘びしい。
 深く訊いてはいけない気がして、男はそれ以上問いかけるのをやめた。
 年の暮れ。冬の只中。
 しんしんと犬の国に雪が降り積もる。


◆ ◆ ◆


 びゅごー。
 ごごごごごごごー。(※効果音。風。)

 ざく、ざく、ざく、ざく(※効果音。2人分の、雪を踏む足音)

 びゅごーーー。しゅもぉぉぉぉぉ(※効果音。横殴りの雪)

 遠くからフェードインする馬鹿笑い×2。

「……ぅぁはははははははははははははははははははははは」
「……わははははははははははははははははははははははは」

「あははははははははははは。あははははははははははははははは!!
寒ぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーはははははははは」
「はははははははは。あーっはっはっはっはっはぁああああああああああー!
腹が立つから頼むから笑うなこの馬鹿野郎ぅぅぅうははははははははははは」

「ひぃははははははは、はははははは、は、あれだね、オレたちもうだめだね旦那。
いやだぁぁぁオレにはまだやり残したことがぁぁぁ、アイスマンは嫌だぁぁあああはははははは!!」
「ああああああああ肺が凍る肺が凍る肺が凍るーーーーー!! 止まるな歩け、
もうちょっとで山小屋が! 遭難者用の山小屋が!!」
「いひひひひひひ、ひゃはははははははは、むりむりむり前ぜんぜん見えないしーー!
この手ぇ離したら一メートル先の旦那も見失うの確実だし、ってか今も顔とか
見えないし見えてもツララついてる犬の顔とかちょーうける、うはははははははは!」
「笑うなーー!? お前が来たいって言ったんだ、お前が止めたのに行くって言ったんだ!
何が霊峰だ何が年明け一番の日の出だ、だからよせってあんなに止めたんだーーーーー!!」

 びゅごー。
 ごばごばごばこばごば。(※効果音。風。はためく2人のコート。)

「着いてきてくれなんて一言も言ってねえーーーーー!! ああああくそ寒ぃ死ぬほど寒いぃぃ!」
「それはなぁぁぁ、お前みたいな外国人がなぁぁぁ、雪山で遭難なんかすればだなぁぁぁぁ、
延々探しに行くのは俺たちの仕事だからだー!
糞ったれ雪中訓練なめんなぁあああああああああああああ!」
「ぃぃぃやっほう冴えてるね旦那ぁー、一緒に死ねば探す手間はぶけるもんねー! あーはははははははは」
「死ぬのはお前だけだ、ああ畜生、クソッタレ!! 何で勝手に不凍薬の中身すげ替えやがったこのモヤシ!」
「あははははー、あんな淫猥な功能の黄色い水なんか飲めるか馬鹿ーーーーーーー!!」
「そんなこと考えるのはお前だけだ、お前だけだ!? あああああ寒い寒い寒い、馬鹿野郎、ちくしょー!!」

 ごごごー。
 ごごごごごごごー。(※効果音。風。風音に飲まれて音声が途切れる)

「………! …!! ……………!!」
「…! ………………!!」

「っああああああ、大人しく八房くんちでお節ご馳走になってりゃよかった、寒いよーーーーー!」
「ヤツフサ!? やつふさって誰だ、男か、男なのか!? お前ひとの名前勝手につけるの
なんとかしろよ、紛らわしいよ、リストアップ面倒くさいって諜報部から文句来てるんだよ!!」
「あはははははははは寒いー! 聞こえねえー! 自分の声も聞こえねえーーー!!」
「ああああ畜生、山荘はどこだーーーーー!! 2人っきりで暖めあうんだーーーーーー!!」

 びゅごーーー。しゅもぉぉぉぉぉ(※効果音。横殴りの雪)

「…いいかんじに追い詰められてきたのにゃー。もーちょっと置いとくと、
この一杯のスープの値段もうなぎ上りなのにゃ。はー、おこたぬくぬくにゃー」
「ご主人様ぁ。悪趣味ですよ。こんな山小屋まるごとひとつ幻術で隠すような事までして。
もういいんじゃないですか? 中に入れてあげましょうよ」
「にゃーはいま信仰を広める偉大な活動をしているのにゃー。追い詰められた後ほど
人の優しさは身に染みるのにゃ。どんな悪人でも改心するほどにゃ。ほらいいからさっさとお蜜柑剥くのにゃ」

 びゅごー。
 ごごごごごごごー。(※効果音。風。)

「……寒いよう寒いよう寒いよう。さむいー。さむいよー…。やだよー死ぬのはいやだよー」
「黙ってろ……体力を……消耗するから……山小屋……やまごや…」
「あああ手足の感覚がない……どこに行ったんでしょう私の手足……だから寒冷地仕様のオートメイルに
換えてくればよかったんだ……さむいよう…」
「寝るなー! 起きろーー!」
「寝てないー。寝てないー。すいませんー寝てましたー。
……、おとーさんおかーさーん、どうか、ハードディスクは物理的に消去してください、
押し入れの奥の段箱は中身を見ないで焼いてください、それだけが、それだけが私の願いです…」
「起きろー!」
「こんなこともあろうかと、ちゃんと空間転移用マイクロブラックホールを用意しました、お姉さま…
あああっ、お姉さま!? お姉さま、鉄下駄が曲がっていてよ!?」
「あんまり寝言ばっか言ってると口ふさぐぞこの野郎」
「……。っは!? やばいオレいま寝てた!? 旦那、旦那、いまオレの目の前にピ●クレディーがいて!
パンもろで歌って踊るレディーが、男は狼だから気をつけなさいって懐メロ熱唱で!」
「ちっ、起きたか。……気を引き締めろ、寝たら死ぬからな、背負われるの嫌なら死ぬ気で着いて来いよぉぉぉ!」
「ああああああ、眼が覚めたらよけいに寒いぃーーーーーーー!! 骨が骨が凍る染みる寒いぃぃぃぃぃぃ。
…っく、だああああああ! 旦那ぁぁ! コート! コート出せコート! コートぉー!」
「ああ!? 俺のコートはお前が着てるのは気のせいかおい!?」
「知ってんだよそのリュックの底に趣味悪ぃ黒コート入ってんだろ出せ出せ出せ貸せぇぇぇぇぇぇぇ」
「っ!?(見られた!?) ない、そんなものは無い、幻覚だ錯覚だ、気のせいだ! …いやほんとに!
(土壇場で口には出せないアイテムに入れ替えたから)」
「いいからとっとと出せ、見なかったことにしてやっからさっさと出せぇぇぇぇええええ!!」

「…にゃんと!? マダラのヒツジがイヌに襲い掛かったにゃ!?
ヒツジ攻めのイヌ受け、下克上逆カプにゃ!? こ、これはますます目が離せないのにゃ!?」
「うわー! その流れでなんで僕を押し倒すんですかー!? あっダメ、いやああああんっ」


◆ ◆ ◆


 同日某所。住宅街。

「はふぅ…栗きんとんうまうまー…。あっ、オレ、お餅なら雑煮じゃなくてお汁粉がいいなー♪」
「ダメに決まってんでしょ。ほらせっかく作ったんだから食べなさいっての。
ほーら、大人が好き嫌いしておかししいでちゅねー」
「わ、わかったよー、食べればいいんだろぉ……もそもそもそもそ」
「あ、そういえばねー、昼間に顔面ゔみ゙っからお歳暮来たよ」
「げほげほげほ」
「すっごい疲れた顔のムカデが届けに来たから、無記名だけど間違いないと思うなー、うん」
「………何したいんだろうな、あいつ。それで、開けてないよな?」
「ん、とーぜんでしょ。中から本人が飛び出してきて、やあびっくりした? とか言いそうだもん。
お散歩のとき、マタタビと石くくりつけて町外れの湖に沈めといたー」
「……そっか。じゃあ、氷が解ける季節までは平和だねえ。ごちそーさま」
「ばかたれ、食べ残してるじゃない。んもー、はい、あーん」
「あ、あーん…」

 それでは皆様。よいお年を。


◆ ◆ ◆

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