猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

虎の威02

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虎の威 第2話

 
 
 川沿いを延々歩いて森を抜けると、そこは一面、見渡す限りの草原だった。
 その草原を突っ切るように舗装された道があり、そのすぐわきにレンガ造りの建造物がある。
 家――と断言できないのは、その建物があまりにも大きく、まるで海外にある田舎の学校の
ような印象を覚えたからだ。
「あれが俺んち――弟が一人と、従姉妹が一人一緒に住んでる。あと、住み込みの下働きが何
人か。両親は死んだ」
 森で取れる鉱石や薬草を売ったり、動物を育てたりして生活してるんだ――というバラムの
言葉を、しかし千宏は聞いていなかった。
 バラムに背負われながら振り向けば、そこは圧迫感を覚える程の広大な森が広がっている。
 あり得ない。
 だって――だってここは東京で――多摩川が――。
「チヒロ? どうした?」
「……どこ、ここ……ねぇ、まって……川井のキャンプ場は……」
「ここはトラの国の外れだ。あの川を上流に遡って滝を越え、さらに断崖絶壁を延々岩登りす
ると国境がある。カワイ――って地名はきかねぇが、キャンプ場は大分遠い」
「意味が――わかんないよ! なんだよトラって! 国境!? 馬鹿じゃないの! 日本は島
国なのに国境なんてあるわけないじゃない!」
「だからおまえは落ちモノで――」
「知らないよそんなの! もういいよ! 降ろして、一人で帰る! 帰るってば!」
 バラムの背中に爪を立て、さんざ暴れて半ば落ちるようにして字面に降りる。
 森に向かって走り出そうとし、千宏は足を突き抜けた激痛に悲鳴を上げてうずくまった。
「もぉ……なんだよ……なんなんだよ! もういいよこんな夢……明日だって授業あるのに!
単位落としたらどうするんだよ! 必修なのに!」
「チヒ――」
「来ないで! もう、一人にしてよ! わけわかんない事ばっかり言って!」
 こんなに広大な草原があるはずない。
 こんなに広大な森があるはずない。
 視線を上げればそびえ立つ岩山。
 わけの分からないことばかりを言う男。
「もう……変になる……頭おかしくなっちゃうよ……!」
「……森は昼間でも獣が出る。それに、もし密猟者に見つかったらきっと奴隷商に売り払われ
るし、他の街に行くには、徒歩じゃさすがに遠すぎる」
 分かってる――あぁ、分かってる。
 この男の庇護を受けるしかない。自分一人の力では帰れない事くらい分かっている。
 ここがどこかも分からない。誰と連絡を取る事も叶わない。
 
「ごめん……なんか、取り乱しちゃって……」
「いいんだ。じゃあ、ほら」
 バラムが笑ってしゃがみ込む。
 その背中に取りついて首にしっかりと腕を回し、千宏はふと、先程自分が付けた引っかき傷
を見止めて眉根を寄せた。
「ごめん……痛い?」
「うん?」
「引っかいた所、傷になってる」
「あぁ……気にすんな。さすがにヒトに引っかかれたくらいじゃ痛くもねぇ」
 一時間もすりゃ治るよ、とバラムが笑う。
 ふと、バラムが腕を大きく振っておおいと叫んだ。
「弟だ。こっちに気付いた」
「ほんとだ。手ぇ振ってる」
 バラムの肩越しにひょいと覗き込み、米粒ほどに小さいその人影を凝視する。
 
「走るぞ」
「ぇあ――わ、う、うわぁああぁ!」
 ぐん、と全身が背後に引っ張られるような感覚に慌ててバラムの首にしがみ付き、千宏はそ
の、人間ではあり得ない速度の疾走に絶叫した。
 自転車で急な坂道を駆け下りた時よりなお早い。
 思わず両目をかたく瞑ってバラムの背に顔をうずめると、ほんの数秒でバラムが走る速度を
緩めた。
 ばてた――?
 恐る恐る目を開ける。
 それと同時にバラムも止まり、瞼を開くなり千宏は呆然となった。
「あそこからここまで十秒もかかるのか? さすが、マダラは走り方もお上品でいらっしゃる」
「馬鹿。背中の荷物が見えねぇのか?」
「あぁ、それな。なに持って来たんだ? 獣でも仕留め――」
 虎だ――しかも、白黒の。現実逃避のように、あぁ、ベンガル系だな――と思った。バラム
より更に頭二つ分は背が高い。
「ぁ……あ……あぁ……」
 喉が引きつるばかりで、ろくに声も出てこなかった。
 その代わり、
「うわぁあぁあ!」
 虎の方が絶叫して飛びのいた。
 全身の毛を逆立て、まるで威嚇するように千宏を凝視する。
「何考えてんだてめぇ! どっから盗って来た!」
「落ちてたんだ。カッシルに食われそうになってたのを助けた」
「落ちモノがそうほいほい落ちててたまるかよ! 近くに主がいたんじゃねぇのか?」
「だったら本人に聞きゃいいだろ! なぁチヒロ――チヒロ?」
 バラムの声が遠くに聞こえる。
 虎が――二足歩行で、喋って――。
「――気絶してるぞ」
 虎の呆れたようなその言葉を聞いたのを最後に、千宏は再び気を失った。
 
 ***
 
 扇の大陸――と、彼らはこの世界を呼ぶ事があるらしい。
 落ちモノとはつまり、この世界ではない別の世界から、何らかのきっかけで落っこちて来て
しまった生物の事だという。
 彼らはこれをヒトと呼び、先程バラムが言ったとおり、高級奴隷として売り買いする。
 この世界では、バラムのようなヒトに近い造形の男性の事をマダラと呼び、これはとても稀
少なのだと言う。
 つまりこの世界の男の大半は、獣とヒトが混じったような容姿をしているから、一般的なの
はこいつなんだとバラムは虎を指差した。
 名をアカブと言うらしい。
「それにしても、まさか落ちモノを拾っちまうとはなぁ! どうするんだ? 売るのか?」
「いくらヒトでもメスじゃたいした値は付かないんじゃない? 折角拾ったんだから家に置い
とこうよ、自慢になるし」
 黒と白の丸耳をぴくりと動かし、興味津々にこちらを覗き込む銀髪の少女は、バラムの従姉
妹で、パルマと言う。
 この世界の女性はヒトの姿に獣の耳や尻尾が付いているのが一般的で、女性がアカブのよう
な獣の姿をしていると、それはケダマと言ってマダラよりも希少らしい。
 そんな事を次々と説明してくる三人の人外を前に、千宏はもはや口をきく気力も残ってはい
なかった。
 異世界召喚――異世界召喚?
 やめてくれ。どこの漫画の話だ。異世界なんて存在するわけがないではないか。
 
 しかし、確かに今、目の前にそれはある。
「あの……あたし、帰りたいんだけど……」
「それは無理だよ。落ちモノはもとの世界に帰れないって、何かの本に書いてあったもの」
「でも……だ、だけど、お父さんとお母さんが心配するし……」
「ねぇ、この子私の部屋で寝かせていい? 明日服とかアクセサリーとか買いに行こうよ。こ
の子可愛い方だよ。着飾ったら絶対みんなに自慢できるって!」
 パルマがまるで話を聞かず、ぱたぱたと尻尾で床を叩く。
 動物の生態学――猫の場合。これはこれから何をしようかをわくわくしながら考えていると
いった所か――。
 
「自慢つったっておまえ、まさか宴席に顔でも出すつもりか? やめとけやめとけ。偏狭の国
境監視役の領主なんざ歓迎されねぇよ。第一、おまえにダンスが踊れるわけがねぇ」
 アカブがゲラゲラと笑いながらパルマをからかう。
 なんですってぇ、と尻尾を立てるパルマを無視して身を乗り出し、今度はアカブが千宏の顔
を覗き込んだ。
 その、剛毛に覆われた指からはえた鋭い爪が、髪をそっとかき上げて額の横辺りを見る。
「まぁ、それはともかくとして服はいるな。パルマ、傷の手当をしてやれ。いやその前に風呂
だな。バラム、部屋は与えるのか?」
「当たり前だろ。ヒトだぞヒト」
「えー! 私の部屋で寝かせようよぉ!」
 尻尾を逆立てて憤慨するパルマを無視し、バラムとアカブが立ち上がる。
 ちぇ、と唇を尖らせて、パルマもぱっと立ち上がった。
「これからよろしくね、チヒロ!」
 満面の笑みを残して去っていく。
 瞬間、千宏はずっと胸の辺りに引っかかっていた違和感のような物に気がついた。
 あぁ――そうか――。
「あたし、ペットなんだ……」
 
 ***
 
 風呂に入れられ、パルマの物だと言う取り合えずの着替えを与えられ、捻挫と額の傷の手当
てを受けて広すぎる部屋を与えられた。
 きちんと片付いた部屋の真ん中にあるベッドはふかふかで、自分の家の小さなベッドの三倍
はあろうかと言う程である。
 机も椅子もがっちりとした木製で、床に敷かれたカーペットは何の毛皮か判別不能だが、裸
足の足裏に心地よい。
 さすがに冷房は無いようなので昼間は暑さを感じたが、だんだんと日が暮れてくると風が出
てきて少し寒いほどだった。
 パルマは余程千宏を気に入ったのか、出会ってから夜になるまで十回は部屋に来て、果物を
置いて行ったり話を聞きたがったりと落ち着かないことこの上なかったが、パルマの純粋な好意
は気分の悪い物ではなかった。
 例えそれが珍しいペットに対する好奇心と保護欲的な物であったとしても、それは拒絶すべ
き物ではない。
 一度だけアカブが様子を見に来た時に、あいつには女兄弟がいないから、おまえを妹みたい
に思ってるんだと教えてくれた。
 廊下ですれ違う下働きの虎男達はみんな黒と黄色の縞模様だったので、他の者とアカブを見
分ける事が出来ない――という弊害が発生しない事にほっとした。
 虎を何頭も並べられて見分けろと言われても、動物園の飼育員でも動物学者でもない千宏に
は不可能である。
 
 バラムはあれで忙しい男だからあまり顔を見せられないだろうが、見かけたら声をかけてや
ると喜ぶだろうと言い残し、アカブは部屋を出て行った。
 恐ろしい外見に似合わず、たぶん、優しい男なのだろう。
 
 ――それは無理だよ。落ちモノはもとの世界に帰れないって、何かの本に書いてあったもの。
 
 ふと、パルマの言葉が頭を過ぎり、千宏はぶんぶんと頭を振ってそのままベッドに倒れこんだ。
「帰れる……帰れるよ」
 眠ってしまおう。
 目が覚めたらひょっとしたら、病院のベッドの上かもしれない。
 そんな事は絶対に無い――もう二度と帰れないのだという確信は、もう随分と前から意識の
ずっと奥の方で千宏を苛め続けていた。
 ただ、希望がなければ絶望で押しつぶされてしまう。
 お父さん、お母さん。沢山の友達、好きだった人。
「あたし、あっちでは死んだ事になるのかなぁ……」
 両親は泣くだろうか。
 友達は責任を感じるだろうか。
 ひどく苦しかった。帰りたい――帰りたい。
 その時、部屋にノックが響いた。滲んできた涙を慌てて拭い、ベッドから身を起こす。
 どうぞ――と言う間もなくドアがあき、風呂上りと思しきバラムがひょいと顔を覗かせた。
「悪い。寝てたか」
「ううん……横に、なってただけ……」
 そうか、と嬉しそうに笑う。
「果実酒持ってきたんだ。飲むだろ?」
「お酒? あー、でも、あたし未成年だから……」
「未成年?」
 なんだそりゃ、とバラムが首をかしげる。
 あぁ、そうか――この世界にはそんな法律などないのだ。
「なんでもない。飲む」
 木のゴブレットに並々と透き通った酒を注ぎ、バラムが千宏に差し出した。
 自分はその隣に腰掛け、瓶に口をつけて直接煽る。
 うわぁ――と思った。虎だから酒好きなんて、そんな安易でいいのだろうか。
 しかしまぁ、ゴブレットから立ち上る甘ったるい果物の香りはたまらなく魅力的だ。胸いっ
ぱいに香りを吸い込んでから一気にあおり、瞬間、千宏は思い切りむせ返った。
「なん――だこりゃぁ! きつッ! 辛ッ! アルコール度数何パーセント!?」
 胸が熱い。
 気管が狭まって息苦しい。
 慌ててバラムが背中をさすり、それに甘えてひとしきり咳き込むと、唐突にバラムが吹き出した。
 笑い事ではない。死ぬかと思った。
「おまえ、こいつぁほとんど子供向けの寝酒だぞ? ヒトってのは酒の一つものめねぇのか」
「子供にこんなもの飲ますな馬鹿!」
 ぜぇぜぇと息を乱しながら、唇にこぼれた酒をごしごしと拭う。
 
 ごとん、とバラムが酒瓶を床に置いた――と言うよりも転がした。
 まさか飲みきったのか。一瓶全部。信じられない酒豪である。
「あー……パルマに借りた服汚しちゃった。染みになるかな」
 酒で服の襟元が濡れてしまった。
 ゆったりとした白いワンピースで、袖なしのブイネックと呼べない事も無い。背中は大きく
開いていて紐で結い上げてあり、袖や襟に刺繍で飾りが施してある。一応一般的な寝巻きなの
だと言う。
「舐めてやる」
 
 ――え?
 一瞬、言葉の意味が分からなかった。
 その一瞬の隙を見逃さず、バラムが懐に潜り込んでくる。
 たっぷりと唾液を含んだ舌が、服越しに押し当てられる感触に、千宏は心底からぞっとした。
「やめ――!」
 反射的に押しのけようとした腕を、あっけなく捕まれる。
 じゅるる、と音を立てて唾液をすすり上げ、ざらざらした舌が鎖骨から首筋にかけてをねっ
とりと舐め上げられて、千宏は必死に逃れようと身を捩った。
 どうして――どうして。
「やめて……やめてバラム! 嫌だ、なんで――!」
「大丈夫だ、落ち着け。抱くだけだ」
 抱く――だけ?
 ぐいと体を持ち上げられ、広いベッドに仰向けに倒される。
「安心しろ。乱暴にはしねぇよ。ヒトのメスは弱いらしいからな」
 に、と安心させるようにバラムが笑う。
 尻尾が期待するようにふらふらと揺れていた。こんな状況でも、その様は無条件に可愛らしい。
 背中に回された指先が、背中を編み上げる紐を解くのを意識した。
 するすると抜き去られ、上半身が外気に晒される。
 心臓が早鐘のようだった。
 喉が引きつってろくに悲鳴も出てこない。
「ひッ……」
 べろり、とざらついた舌で無遠慮に乳首を舐め回され、千宏は歯を食いしばった。
 嫌だ――嫌だ――。
「いやだ……」
 ちゅう、と音を立てて、立ち上がりはじめた乳首を吸う。
 甘い声がこぼれる事はなかった――怖い。ただ、怖い。
「いてぇか?」
 嬌声を上げない千宏を訝るように、バラムが不意に顔を上げた。
 風呂上りで湿った銀色の髪。薄暗い部屋のため、丸く瞳孔の開いた金色の瞳。
 
「嫌だぁあぁあ!」
 ようやく、まともに声が出た。
 その絶叫に驚いたように、バラムがばっと千宏から距離を取る。
「お、おい、どうした。どこか痛くしたか? 見せてみ――」
「来ないで、来ないで――こないで!」
 叫んで、千宏はベッドから転がるように飛び降りた。
「チヒロ!」
 服の前を押さえてドアに飛びつき、取っ手を握る。
 呆然として取り残されていたバラムが、ようやく声を上げて立ち上がった。
 ほんの一瞬で間合いを詰められ、千宏はドアから引き剥がされて悲鳴を上げた。
「やだぁ! はなせ、はなせよ馬鹿! もうやだ、やだ、帰りたい! こんな所もう嫌だ!」
「落ち着けチヒロ! どうしたんだよ、なんで泣く! くそ、わけがわからねぇ!」
「どうした!」
 ばん、と荒々しくドアが開かれ、アカブとパルマが部屋に飛び込んできた。
 泣いている千宏とそれを拘束しているバラムを見比べ、責めるようにバラムを睨む。
「おまえ、何したんだ一体……」
「ひっどーい! か弱いヒトを虐待するなんて神経疑う。一体何させようとしたわけ?」
「俺だって分からねぇよ! ただ抱こうとしただけだ!」
「ヒトのメスはヒトのオスよりずっと弱いのよ。トラの私たちが乱暴にしたらすぐ壊れちゃう
んだから!」
 パルマが人差し指を突き立てて、偉そうに説教する。
 
「チヒロ。どこか怪我したか? 骨とか折られてないよな?」
 アカブがその巨体からは信じられないほど優しげな声を出して千宏の体を気遣った。
 猫なで声――という言葉が頭に浮かんだ。
 自分もたしか、猫の尻尾を踏んだ直後に、こんな声を出した記憶がある。
 涙が溢れて止まらなかった。
 あぁ――なんだ、そういう事か。
「出て行く……もうやだ。出てく……!」
 
 自分は愛玩物なのだ――と改めて理解した。
 犬が芸を仕込まれるような物だ。
 この世界でのヒトとは、きっとそういう物なのだろう。
 飼われるならば、性欲処理の道具として働くのが当然の義務なのだ。
「バラム! おまえ本当に何しやがった!」
「チヒロ、ねぇ機嫌直して? バラムにはちゃんとキツく言っておくから!」
「本当に何もしてねぇって! なぁチヒロ、なんで怒ったんだよ? 言ってくれなきゃわかん
ねぇだろ?」
 長い尻尾がふらふらと振れ、丸い耳がぺたりと頭に伏せていた。
 パルマも同じように耳を伏せ、おろおろと千宏の様子を伺っている。
 アカブが溜息と共に面倒くさそうにがりがりと耳の後ろをかいた。
「あぁもう! 考えたってわかんねぇよ。ほっとけほっとけ」
「ひどーい! アカブったら冷たい!」
「うるせぇなあ。こちとら晩酌邪魔されてんだ。落ちてきたばっかで疲れてるんだろ、休ませ
てやりゃあ機嫌もなおるさ」
 アカブの言葉にバラムがようやく手を放し、千宏はその場に崩れ落ちて泣き出した。
 心配そうに千宏の背を優しく撫でるパルマを置いて、バラムとアカブが部屋を出る。
「ねぇ、泣かないでチヒロ。なにか欲しいものある? 果物持ってきてあげようか」
「パルマ! 早く出てこねぇと鍵、かけちまうぞ」
 愕然として、千宏は声の主を凝視した。
 アカブが、鍵の束を持って立っている。
「閉じ込めるの……?」
「そうじゃない! ただ、ヒトって凄く弱いし、高価だからよく悪い奴に狙われたりするの。
だから、勝手に出歩くと危ないでしょ?」
「やだ、やだよ……やだ、やだ!」
 アカブの冷たい金色の瞳が千宏を捕らえ、そしてゆっくりと閉ざされた。
 パルマが駆け足で部屋を出て行く。
「鍵は俺が管理するから、連れ出す時は俺に声掛けろな」
 ぱたん、と静かにドアが閉まり、鍵をかける音が部屋に響いた。
 パルマの笑い声がする。
「明日はね、町に行って首輪買うんだ。人用の首環って凄く可愛いんだよ、知ってた?」
「興味ない」
「私、チヒロが来てくれて凄く嬉しい。バラムに感謝しなくっちゃ」
 
 
 

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