猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

虎の威12

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虎の威 第12話

 

 くるみ割り人形の旋律が、しんしんと冷え込む夜にぎこちなく流れていた。
 昨夜、温泉から家に帰って四人で話し合った結果、しばらくは毎晩バラムの部屋に通い、慣
れてきたらアカブに抱いてもらう事で話がついた。
 最初は薬や魔法を使い、ゆるやかに体を男に慣らしていき、最終的には二人同時に相手に出
来るように頑張るからと意気込むと、パルマに真剣な表情で命が惜しかったらやめておけとさ
とされた。
 そういえば前に、パルマはバラムの体力についていけないのだと聞いた事がある。バラムは
マダラだから、アカブよりも体力は無いだろう。
 千宏よりはるかに丈夫なパルマが、アカブよりも体力のないバラムの相手をしきれないのだ。
なるほどヒトの千宏が二人同時に相手にしようなど、完全に自殺行為である。
 オルゴールによる単調な演奏が終わり、再び部屋に沈黙が満ちた。窓の外には風もなく、二
つの月が凍えながら空に輝いている。
 ぱたん、と布張りのオルゴールのふたを閉じ、千宏は枕を抱いて立ち上がった。

 バラムの部屋へ続く長い廊下を、息を白くしながら歩く。
 四階建ての最上階。階段を上りきった正面にある大扉から、左に二つ目のドアがバラムの部屋だ。
 この世界に落ちてきてバラムに拾われ、この家で生活するようになって随分経つ。それなの
に千宏は、一度もバラムの部屋に足を踏み入れた事がなかった。
 探検と称して家の中を歩き回った時も、四階に上がって大扉を見た瞬間にそれ以上先に進む
のが怖くなってすぐさま階段を降りてしまった。
 呼ばれてもいないのに、立ち入ってはいけない。
 そう思わせる緊張感が、あの大扉を中心に四階全体に広がっているようだった。
 だが、今日はちゃんとバラムに呼ばれていて、用があってきているのだ。千宏は階段をのぼ
りきり、あらためて大扉をまじまじと観察した。
「……地獄の門……っぽいかな」
 有名な彫刻家、ロダンの作品だ。堅牢な岩の扉で、びっしりと彫刻が施されている。
 この大扉も、複雑な紋様や文字がびっしりと刻まれ、恐ろしげな獣の彫刻や、美しい女性の
彫刻がこちらを威圧するように掘りこまれていた。
「不気味だよな」
「うわ!」
 何の前触れもなく、すぐ隣に現れたバラムに千宏は声を上げて飛びのいた。
「子供の頃、この扉が怖くて泣いた。戦争のための部屋だ。使われたことは、大戦以後一度もねぇ」
「そう……なんだ」
「それでも、必要な部屋だ。例え数千年に一度しか必要とされなくても、常に万全じゃなきゃ
意味がねぇ」
 数千年に一度、必要とされる時。
 それは明日かもしれないし、百年後かも知れないし、数千年後かもしれない。あるいは、
永遠に必要とされないかもしれない。
 それでも、決して無視できない数千、数万、数億分の一の確立のためだけに、常に完璧で
あり続けなければならない物が、確かにある。
「俺と同じだ」
 呟いて、バラムはそっと扉を撫でた。
「存在し続ける事が仕事なんだ」
「……つらいの?」
 思わず訊くと、バラムは意外そうに千宏に振り向いた。
「そうだな――どうだろうな」
 苦笑いして、バラムは千宏の髪をくしゃりと撫でた。
「一人だったら、辛いかもな」
 いとおしげに髪を撫でるバラムの指が、とても弱々しく感じられた。頬をひと撫でして離れ
ていくバラムの手を、思わず掴んで再び頬に引き寄せる。

「一人じゃないよ」
「……チヒロ」
「ずっと一緒にいる。嘘じゃない」
 昨夜、森で言った言葉は嘘ではない。自由を得ても、力を得ても、千宏はずっとここにいる
と心に誓っていた。
「……部屋、入るぞ。廊下は冷える」
 困ったような、照れたような表情で視線をそらし、バラムが不機嫌そうに低く命じる。
 大人しく頷いて、千宏はバラムに呼ばれるままに薄暗い部屋に足を踏み入れた。

 トラはそれほど光を必要としない。
 千宏の世界でそうであったように、トラに限らず猫科の生物はみな一様に夜目が利く。
 それなので、夜、千宏が薄暗いと感じる空間で、バラム達は平気で活動する。それにしても、
暗すぎだった。ロウソク一本ともっていない。
「真っ暗……」
 呟き、千宏は何かにぶつかったりはしないかと手探りで足を進めた。
「こっちだ」
 バラムに手を引かれ、暗い部屋を真っ直ぐに突っ切って行く。
「ここが部屋なんじゃないの?」
「ここは応接室だ。奥が寝室になってる」
「応接室……」
 客なんて来ないじゃないか、と思ったが、まぁ来た時の事を考えればあった方がいいのは
間違いない。
 バラムに導かれて寝室のドアをくぐると、思っていたよりずっと明るい部屋に千宏は安堵の
息を吐き出した。
「酒は?」
「飲んだほうがいい?」
 問い返すと、バラムは一瞬意味を問うように振り返り、しかしすぐに苦笑いした。
「そうだな……飲んだ方がいい」
 とくとくとグラスに透明な酒を注ぎ、バラムは千宏に差し出した。
 甘い果物の香りがする、千宏が気に入っている酒だ。トラ国原産の酒は全て千宏には強すぎ
てとても飲めたものではないため、旅の商人からネズミなどが飲む物を手に入れている。
「ありがと」
 礼を述べてグラスを受け取り、ちびりと舐める。その目の前で酒瓶からぐいぐいと酒をあお
るバラムに負けじとこちらもグラスを大きく傾け、飲み干すと共に千宏は急激に回ってきた酔
いに後押しされて羽織っていた上着を脱ぎ捨てた。
「よっしゃぁ! やるかぁ!」
 ここまで来たらもう後戻りはできない。気合を入れて声高に叫ぶと、バラムがぎょっとして
酒を吹き出した。
「お、おまえな! やるかって……そんな決闘じゃねぇんだから……」
 バラムの咎めるような視線を無視してずかずかとベッドに歩み寄り、千宏はベッドに腰掛け
て睨むようにバラムを見た。
「さぁ! ご随意に!」
 ご随意に、と言われても、敵を見るような恐ろしい目つきで睨まれてはバラムも手を出し
にくい事この上ないだろう。
 しかし、恐らくこれがこの場において千宏が出しきれる精一杯の勇気である。
 数秒間の気まずい沈黙を挟み、バラムは諦めたような溜息を吐いて酒瓶を置き、ゆっくりと
した動きで千宏の隣に腰を下ろした。
「おまえを拾った日の夜も、こんな風に並んで座ってたな」
 その言葉にぎくりとする。
 千宏が今着ているのは、ゆったりとしたワンピースの寝巻きで、腰でゆるく縛るタイプの物
だった。あの日、パルマから借りてきていた物とは随分違う。
「俺な」
「うん……」
「おまえのこと、面白い玩具くらいにしか、思ってなかったんだ」
「まぁ……うん。普通、そうだよね……」
「おまえが泣いて、あんな風に抵抗できると思ってなかった」
 それは、この世界での常識だ。
 千宏だってバラムを異常者だと思ったし、アカブを見た時など恐怖で気を失った。

「あの日の夜な。俺、どうせ逃げられやしないって……一人になったら生きていけないんだか
ら、俺たちに頼るしかないんだって……そのうち、自分から懐いてくるだろうって、そんなこ
と考えてたんだ」
「……バラム?」
「アカブが、おまえを家族として扱おうって言った時……おまえが、一人で生きる力が欲しい、
ペットなんて嫌だって言った時……自分に吐き気がした」
 膝の上で組んだバラムの両手に、骨が軋むほど力がこもる。
「あいつらがいなかったら俺……おまえのこと壊してたかもしれねぇ。おまえにも家族がいた
なんて、おまえにも誇りがあるなんて、考えもしなかった」
「それは……だって、仕方ないよ。それがこっちの常識なんだし、それに――」
「あいつは自分でそれに気付いたんだ!」
 怒鳴って、バラムは金色の輝く瞳で真っ直ぐに千宏を見た。
「薬がある」
「え?」
「男に体をならすなら、ヒト用の薬や、道具がある。無理に俺を使う必要はねぇんだ。俺なん
かよりあいつと、そういうのでゆっくりならしていけばいい」
「ま、待ってよバラム! ちゃんとみんなで話し合って、それでこういうことに決めたんじゃ
ないか! そんな今更――」
「まだ選べる。大切なことなんだろ? 打算で決めるな。焦る必要はねぇんだ」
「それで――あんたを選んだんじゃないか」
 ぽかん、と、バラムが千宏を凝視した。
 痛くないように、怖くないように、ゆっくりと男に体を慣らす。それだけが目的ならば、
道具や薬でどうとでもなる。
 その選択肢を知った上で、千宏はバラムに与えてもらう事を望んだのだ。昨晩、あの雪景色
の中で確かにそう伝えたはずだ。
「アカブだって、バラムにしてもらった方がいいって力説してたじゃん。あたしだってバラム
のこと信頼してる。道具なんかよりバラムのほうがずっといい」
「そりゃ……まぁ……そう、かもしれんが……」
「確かにさ、あたしにだって意思があるんだって最初に気付いてくれたのはアカブだよ。でも、
バラムはそれを受け入れてくれたじゃないか。ヒトを家族として扱うなんて馬鹿馬鹿しいって、
切り捨てる事だって出来たのに」
 しおしおと、バラムの尻尾と耳がたれていく。
 やはり可愛い。無駄に可愛い。
「だからさ、気持ちよくしてよね。ご主人様」
 言って、ぽんぽんとバラムの肩を手の平で叩く。
 不意に、バラムが力なく笑い出した。ヒトの途方もない強さに呆れたように、弱々しく首を
振って肩を揺らす。
「あぁ……絶対に痛くなんかしねぇ。くせになるくらい感じさせてやる」
 宣言して、バラムはそっと千宏の唇に口付けた。
 先ほどバラムがあおっていたきついアルコールの味が、冷めかけていた千宏の酔いを再び
激しく呼び起こす。
 マダラのキスは、蕩けちゃうくらいいいんだから、とイシュは繰り返して言っていた。確か
にその通りかもしれないな、と、千宏はぎゅっとバラムの服を握り締めた。柔らかな唇。繊細
な舌。アカブとしたキスとはまるで違い、ぼんやりと意識がとけていく。
 ヒトのようなバラムの手がすべすべと千宏の脚を撫で、くすぐるように指先で太腿をなぞる。
そのままベッドに押し倒されて、千宏は不意に頭をもたげた恐怖に近い緊張に気付くまいと必
死にバラムの首にしがみ付いた。
 自分から触れるのことには、もう随分と慣れたように思う。だが、相手に主導権を握られる
のがひどく怖い。
「チヒロ」
「……ん」
「俺の目を見て、繰り返せ」
 命じられるままに唇を離して顔を上げ、千宏はぼんやりと金色の輝く瞳を凝視した。
「怖くない」
 すっと、乾いた砂にしみ込むように、その言葉があっさりと心に染み渡ってくる。
 薄らいだ恐怖心に戸惑いながら、千宏は自分の口で、怖くない、と繰り返した。

「どうしよう……怖くない。凄い、ほんとに、全然怖くなくなっちゃった。これ、魔法?」
「ああ。魔法ってのは言葉だからな」
 前にアカブが同じことを言っていたが、今ならば理解できる。
「楽しめ。それがトラ流だ」
 笑って、バラムは突然千宏の服をまくりあげ、あろうことか容赦なくくすぐりはじめた。
 一瞬なにが起こったのか理解できなかった千宏は、しかし直後にけたたましい笑い声を上げ
てベッドの上を暴れ回った。
「いやぁあぁ! 無理! これ無理まじむり! うひひゃはははは! だ、だめ、や、やぁめ
てえぇえ!」
 必死に逃れようと逃げ惑っても、所詮はトラとヒトである。千宏に逃げられる術などあるわ
けもなく、苦し紛れに千宏は楽しげに揺れるバラムの尻尾を引っ張った。
「ば! てめ、尻尾は――!」
 びくん、と大きな肩を震わせて、バラムが千宏から距離を取る。その隙にさっと体制を整え
なおし、千宏は弱点見切ったとばかりにわきわきとバラムの尻尾を狙い始めた。
 そのまま、一分近い睨み合いが続く。
 先に根負けしたのは千宏だった。思い切り吹き出して、げらげらと笑い出す。つられたよう
にバラムも苦しげに笑い出し、二人はベッドの上で何も言わず、ただげらげらと笑いあった。
 じゃれあいに疲れてうつぶせに倒れ込んだ千宏を追って、背中から抱きすくめるような形で
バラムもベッドに横たわる。
 二人とも悲惨なほどに着衣が乱れ、最早半裸に近かったが、そんな事など気にならないほど、
たまらなく楽しかった。
 バラムの指が太腿をなでさすり、小さな胸をやわやわともみしだく動きにすら、肩を揺らさ
ずにいられない。
「やだ、きもちいいよ」
「上手いだろ。繁殖相手でもねぇのに俺と毎晩寝られるなんて、光栄に思えよ」
「そっちこそ、ヒトと毎晩寝られるなんて最高の贅沢なんだから、幸福を噛み締めてよね」
 お互い、希少生物同士である。
 ふと、ようやくそのことに思い至って顔を見合わせ、二人は再び笑い出した。
 初めて市場に行った日、イシュが言った言葉の意味がようやくわかった。マダラがヒトを
犯している場面など、一級品の見世物だろう。それだけで食っていけるに違いない。
「ん……あ、は……あん……んん……」
 ふかふかとした長い尻尾が、すっかりとさらけだされた千宏の白い素肌をなぞる。くすぐったい
よと文句を言うと、お前こそ耳を触るなと文句を言われ、千宏は全身を這い回るバラムの指と
唇に切なく呼吸を乱しながら、文句や軽口を叩き続けた。
 やがて、つぷりとバラムの指が浅く埋められ、ぎくりとして肩を竦ませる。
 十分に潤っていたため痛みを覚える事はなかったが、鈍い違和感に千宏は顔を顰めてそこを睨んだ。
「いてぇか?」
「ううん……なんか、でも、はいってる……」
「じゃ、これは?」
 指が二本に増えて、ぐにぐにと動かされる。
「なんか……もぞもぞする。指、に……なんか、力入って……落ち着かない」
 だが、快楽と認識できる程のものでは無い。

「チヒロ、目」
 言われて、千宏は再びバラムの目を見た。
 輝くような金色の瞳が、ごく至近距離にある。
「気持ちいい」
 ぞくりと、背筋を這い上がってくるものがあった。下腹部の下の、更に奥の方がきゅうきゅうと疼く。
「繰り返せ、ほら」
 促されて、千宏は乾いた唇を舐めた。
 言うのが少し怖くなる。
「……怖くない」
 最初にそう呟いて自分を奮い立たせ、千宏は恐る恐る囁いた。
「気持ちいい」
 瞬間、ぐっとバラムが中で指を折り曲げる。千宏は甘く悲鳴を上げて仰け反った。
「う、うわ……嘘、なにこれ、うわ……!」
「ほら、もう一度」
「ひゃあん! あ、や……きもちぃ……あぁあ! バラム! それ、い……あ、やぁ、きもち
い……きもち……よすぎ……うあぁああぁッ!」
 重く、鈍く弾けるような快楽が立て続けに襲ってきて、千宏は大きく弓なりに背を反らせた。
 ねっとりとした水音を響かせて、バラムの指が抜き去られる。
 休む間もなく大きく脚を割り開かれ、千宏は快楽に潤んだ瞳でバラムを見た。
「いいか。俺が今からする事に、痛みなんか少しもない。ただ、気持ちいいだけだ」
「……今からバラムがする事は、少しも痛くない。気持ちいいだけ」
「そうだ。いいか、俺がいいって言うまで、絶対に他の事は考えるな。いいな?」
 こくん、と頷き、千宏はまっすぐにこちらを見ている金色の瞳を同じく真っ直ぐに見返した。
 はっとするような熱の塊が、とろとろに蕩けた秘所に押し付けられる。
「痛くない、痛くない、痛く……な……あ、んぁ……!」
 つぶり、と先端が埋まり、千宏はぞくぞくと襲ってきた快楽に言葉を詰めた。
「繰り返せ。休むな」
「痛くな……い、きもちぃ……きもち、い……うぁあぁ! だ、ばら、む……そんな、ゆっく
り、じゃ……」
 奥まで、もっと奥まで貫いてもらわなければ、このぐいぐいと押し上げられるような切羽詰
った苦しみからは解放されないような気がして、千宏は嫌々と首を振った。
 痛みなど無い。本当に、少しも痛みなど感じなかった。ひたすら、ただひたすら、視界が白
むほど、苦しくてもがくほどの快楽に涙がこぼれる。
「すげ……んだ、このキツさ……」
 苦しげに呻いて、バラムが一瞬動きを止め、千宏の腰をしっかりと抱えなおした。抜ける
ギリギリまで引き抜かれ、直後に最奥突き上げられる。
 千宏は声にならない悲鳴を上げてぐっとシーツを手繰り寄せた。
 トラの体温は、ヒトのそれよりいくらか高い。風呂の湯を固めて押し込まれたような感覚に
千宏は歯を食いしばって小刻みに肩を震わせた。
「あつ……い、よぉ……なか、あつ……」
「泣くな、楽しめ」
 それが礼儀だと囁かれ、千宏は握り締めていたシーツを離し、バラムの長い銀髪に指を絡め
て逞しい首に腕を回した。
「気持ちいいだろ?」
「ん……」
「俺もだ。すげぇいい。パルマには悪いが、さすがはヒトだ。こうしてるだけでたまんねぇ」
 バラムの肩越しに興奮した様子の長い白黒の尻尾が見える。
 そうか、バラムも気持ちいいのか。
 そう思うとまた、なんだか妙におかしくて、千宏は泣きながらくすくすと笑い出した。
「楽しい……楽しいよ、これ。すごい面白い」
 考えてみれば滑稽だ。
 耳と尻尾を生やした男と、異世界からやってきた少女が、裸で腰をつき合わせて汗だくにな
りながら出来もしない子作りに励んでいるのだ。
 これが、笑わずにいられようか。その上千宏は処女なのに、気が遠くなる程に気持ちいい。
 千宏が笑い出すとバラムも笑い、そして、激しく腰を突き上げ始めた。
 静かな部屋にじゅぶじゅぶと愛液の掻き乱される音が響き、それに混じって千宏の甲高い
嬌声や、子供がはしゃぐような笑い声が上がる。
 これは娯楽だ。
 この上なく気持ちよくて、この上なく楽しくて、異常で、背徳的で、滑稽で、その癖最も
純粋な娯楽なのだ。

「あぁあぁ! いく、い……も、あぁあぁ! ひん! ふ……あぁ――バラム、バラム!」
「違うだろうが。ほら、ご主人様だ」
「ご主人さ、ま……ご主人様ぁ! ごしゅじ……ん、さま……あぁあぁ!」
 叫んで、千宏は力任せにバラムの背に爪を立てた。
 痛みに近い感覚を覚える程に熱く滾った白濁が、どくどくと子宮に注ぎ込まれる。
 ぐったりと脱力して弛緩した体をベッドに投げ出し、千宏は乱れた呼吸でぼんやりとバラムを見た。
 くしゃりと、子供にするように髪を撫でられる。
 中から抜き去られてしまった熱の塊を寂しく思いながら、千宏はぐいぐいとバラムの髪を
引っ張ってキスを求めた。
 求めるままに与えてもらった口付けに満足し、バラムの胸に圧し掛かるようにして目を閉じる。
「あー……なんか、幸せだな」
「あぁ……そうだな」
 同意して、ふと、バラムは思い出したように千宏を見た。どうかしたかと問うように見上げ
ると、に、とバラムが歯を見せて笑う。
「おまえらがいるから、つらくねぇ」
 その、底抜けに幸せそうな――ともすれば間抜けに見える動物的な笑顔に、千宏は一瞬面く
らい、弱々しく吹き出した。

 

 

 

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