猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

獅子国伝奇外伝08b

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獅子国伝奇外伝 第8話(幕間)

 
 
 時間はすこしさかのぼる。
 日も落ちた馬車の中。
 
「悪い、ちょっと二人きりにしてくれ」
 
 そう言って、フェイレンがファリィとサーシャを外に出そうとした。
 
「……わかってる」
 
 そう言って、二人が珍しく素直に外に出ようとする。
 
「すまん」
「気にしないで。ボクたちが見てちゃ集中できないでしょ」
「すぐに終わる」
「そんなに急がなくてもいいよ。外でのんびりしてるから」
「……申し訳ありません」
 
 ミコトが、小さな声で謝る。
 
「ミコトちゃんが謝らなくてもいいよ」
「でも」
「ほんと、気にしないで。夜の景色もいいものなんだから」
 
 そう言って、二人が馬車の外に出る。
 残されたのは、フェイレンとミコト。
 
「……じゃあ、始めるか」
「はい」
 
 ミコトが、かすかに頷いて衣服に手をかける。
 そして、静かにそれを脱ぐと丁寧に畳むと、華奢な裸体を薄い敷物の上に横たえた。
 
「旦那様……お願いします」
「じゃあ、始めるか」
「はい」
 
 静かに目を閉じるミコトの裸身に、フェイレンが、その鍛えた大きな掌からは似つかわしくないような柔らかな動きで指を添わせてゆく。
 
「……んっ」
 
 指が肌をなぞると、ミコトが、かすかに声を上げて身体をこわばらせる。
 
「大丈夫か?」
「はい……どうか、続けてください」
「そうか……無理はするな」
 
 いいながら、さらに円を描くような動きで指を、掌をミコトの裸身に沿わせ、触れるか触れないかの力で動かす。
 真剣な表情のフェイレン。その掌の下で、ミコトが肌を紅潮させ、ときどき喘ぐように唇を開く。
 やがて、掌がミコトの胸へと向かう。そして、左のふくらみを包み込むようにして、ときどき指先に力をこめながら揉むように掌を動かした。
 
「んっ……ぁあ……」
 
 熱っぽい声がミコトの唇から漏れる。その肌にはじわりと汗がにじむ。
 そして、フェイレンは右の掌でミコトの乳房を包み込みながら、もう一方の手を下腹部へと向かわせる。
 
「あ……」
 
 本能的に、ミコトがかすかに身をよじり、掌の動きから逃れたがるようなそぶりを見せた。
 それでも、すぐにその動きを押さえ込み、両の手を握りしめて無理に無防備な姿を保とうとする。
 健気に耐えようとするその姿がいじらしく見える。
 
「ミコト……」
「申し訳……ありません……」
 
 謝ろうとするミコトに、フェイレンが首を振っていう。
 
「大丈夫だ。ミコトは今までひどい目にあってきたのだから仕方がない。だけど、そう力をいれずに、力を抜いて呼吸を整えるんだ。俺は絶対にひどいことはしない」
「はい」
 
 そう言っている間にも、フェイレンの左掌はミコトの下半身に達し、腰から下をゆっくりとなでるように動く。
 かすかにくびれた腰の中心、へそのすこし上から指を添わせて、その下のかすかな茂みまでなぞると、ミコトが身を震わせるようにして喘いだ。
 フェイレンの掌が動くたびに、ミコトは身体の奥から、何か暖かいものがあふれるような気持ちになる。
 全身を包み込むような気持ちよさのなかで、とくんとくんという鼓動にあわせて、その暖かいものがミコトの体内で膨張してゆくような気分。
 そんなミコトに、フェイレンが語りかける。
 
「なあ、ミコト」
「はい」
「俺がいつか必ず、ミコトを“お母さん”にしてみせる」
 
 心地よい暖かさに包まれ、朦朧とした意識の中で、その言葉にミコトは小さく「はい」と答える。
 
「俺がミコトを幸せにする。ミコトに、この世界で生きたという証を残させてやる」
 
 優しさと力強さの混じった声。
 
「いつか必ず、ミコトが“お母さん”と呼ばれる日を……俺が作る。いつか必ず、ミコトに、自分の子供を抱かせてやる」
「はい……だんなさま……」
 
 熱っぽい瞳がフェイレンを見上げる。
 
「……もっとも、そうは言っても、あとはキョータくんの甲斐性次第だけど」
 
 ミコトから目をそらすようにしながら、そう言って苦笑するフェイレン。
 
「大丈夫ですよ……キョータさんとは、きっと運命の白い糸でつながってるんです」
「白かよ!?」
 
 落ちものの風習はよく知らないが、たしか糸の色は赤だったような気がする。
 
「……その、ちょっと粘っこい、白い糸でつながってるんです」
 
 そう言って頬を染めると、恥ずかしげにミコトも目をそらす。
 そのそぶりが妙にかわいらしく、フェイレンが笑いをかみ殺すようにして言う。
 
「なるほどな。たしかに、運命の糸は白くてどろっとして粘っこい」
 
 馬車の外では、ファリィとサーシャが夜空を見上げながら話している。
 
「ミコトちゃん……ちゃんと治るのかな」
「きっと大丈夫よ。気の力って、すごいんでしょ」
「……うん。人間の生命の力そのものだから、それを極めたら病気にならなくなったり、肉体の回復力をぐんと高める」
「そういう力なら、回復魔法よりもミコトちゃんには向いてるはずよ」
「そうなんだけど……」
「だけど?」
 
 不安そうなファリィに、サーシャが尋ねる。
 
「もし、ミコトちゃんがこのままだったら……ミコトちゃんが可哀想すぎるよ」
「大丈夫だって。フェイレンだって一生懸命やってるんだし」
「フェイレンだって……あんなにミコトちゃんのために一生懸命なのに」
 
     ◇          ◇          ◇
 
 半年ほど前。
 ファリィがたまたま医務室前の廊下を歩いていると、医務室の中からフェイレンの珍しく怒ったような声が聞こえてきた。
 
「どういうことだっ!!」
「ち、ちょっと、その、そんな僕の胸倉掴まれても困るよ」
 
 リネン先生のなだめるような声。慌てて、フェイレンが謝る声が聞こえた。
 
「あ、いや……すまん。それより、本当にどういうことなんだ」
「うん……つまり、ミコトちゃんの場合、まだ身体が未成熟な状態で繰り返し嬲りものにされている。それに加えて、懲罰のつもりか知らないけど、腹部に暴行を受けた形跡もある」
 
 コウゼン道場で医局を受け持っているリネン先生の落ち着いた声。
 
「たぶん、顔に傷を付けたくないから腹部に暴行を加えたんだろう。だけど、そういうこともあいまって、ミコトちゃんの生殖器に損傷を与えている。……最悪の場合、すでに子供を産めない体になっているかもしれないんだ」
「なっ……」
 
 息を呑むようなフェイレンの短い声。
 
「向こうさんからすれば、性欲さえ満たせればそれでよかったんだろう。ひどいことをする」
「……冗談じゃない。ミコトを何だと思ってる……」
 
 声がかすかに震えている。
 
「落ち着いて、フェイレン。今から追いかけてミコトちゃんを苦しめた連中を皆殺しにしても、それは解決じゃない」
「だが……」
「それよりも、君の力で、ミコトを癒してあげるんだ」
 
 リネン先生の言葉を、すこし力のない声で反芻するフェイレン。
 
「ミコトを……癒す?」
「君の強い“気”の力なら、ミコトちゃんの傷を癒すことは可能だと思う。これは気休めじゃなく、医師としての真剣な意見だ」
「おれの……“気”の力……」
「時間はかかるかもしれない。だけど、気はそもそも人間の生きる力だ。あの子の傷を癒し、生きる力を与えることができるとすれば、それは君だ」
「……俺が……ミコトを」
「君以外の誰がやるんだい。君がミコトちゃんのご主人様なんだろう?」
「……ああ」
 
     ◇          ◇          ◇
 
「ボクには……見守ることしかできないのかな」
 
 すこし悲しそうな声。
 
「そんなことないでしょ。ほら、元気出して」
 
 慰めるサーシャと、まだすこし落ち込んだ様子のファリィ。
 
「うん……」
「病は気からって言うじゃない。私達はミコトちゃんが明るく幸せになるように、盛り上げていけばいいのよ。じーっと暗く沈みこんでたら、治るものも治らないわよ」
「そっか……うん、そうだよねっ」
 
 すこし笑顔を見せるファリィ。
 
「ファリィがいるから、キョータくんもミコトちゃんもああやって元気で明るくやってられるのよ。それはファリィがいつも明るく元気でいるからじゃない。だから元気出してよ。ね?」
「うん……ごめんね、サーシャ」
「そんな、いいわよ別に。私だってファリィと一緒だと毎日がすごく楽しいんだから」
 
 そんな話をしながら、また夜空を見上げる。
 
「そろそろ、終わったかな」
「そうね、そろそろじゃないかしら」
 
 馬車の中。
 ミコトが潤んだ瞳を天井に向け、喘ぐように息を吐く。
 呼吸のたびに上下する小振りな胸のふくらみには汗が浮かび、桃色の突起がつんと尖っている。
 
「だんな……さま……」
 
 切なげな声でフェイレンを呼び、すがるようにその手を握る。
 ミコト自身の身体の内側からこみ上げてくる何か熱いもの、そして包み込んでくるような“雄”のエネルギーに流されるように、無意識のうちに太股をこすり合わせている。
 そのたびに、茂みの奥からじゅんと染み出してくるように蜜が漏れる。
 雌の匂いを漂わせてはいるものの、まだ少女の幼さを残す裸身と潤んだ瞳に理性を押し流されそうになるのをじっとこらえて、フェイレンはじっと気を送り続ける。
 
「苦しいか?」
 
 フェイレンの問いかけに、ミコトが小さな声で訴える。
 
「だんなさま……あつい……」
「もうすぐに終わる。あと少しだ」
「……はい……」
 
 後から後からこみ上げてくる熱い何か。それが疼くようにしてミコトの全身を苛む。
 できることなら、今すぐにでもフェイレンにしがみついて、その腕の中で全身の疼きを止めてもらいたいのに、それは許されない。
 とめどなく湧き出して全身を焼くような欲情を必死にこらえて、愛撫ともいえないようなただ掌が肌をなぞるだけの行為を受け続けることは、時として耐え切れないほどの苦行となる。
 身体をこわばらせて、湧き上がるような肉欲をこらえていると、すっとフェイレンの掌がミコトの肌から離れた。
 
「あ……」
 
 ちろちろと燃えるような欲情の炎を、ミコトの身体の芯に残したまま、行為が終わる。
 
「よく頑張ったな」
 
 そう言って笑いかけるフェイレン。乾いた布で全身の汗をぬぐってくれる。
 
「だんなさま……」
 
 裸身をフェイレンにあずけ、無言で下腹部の疼きを訴えるミコト。
 そんなミコトの素振りに気付いていないのか、フェイレンはまるで大切な宝物でも扱うかのように、丁寧に身体の汗をぬぐう。
 そうしていると。
 
「終わった?」
 
 外から、ファリィとサーシャが戻ってきた。
 
「ああ。待たせたか」
「ううん、大丈夫」
「そうか。……ちょっと今日は俺も疲れた。すこし外で夜風に当たってくる」
 
 そう言って、ミコトの汗をぬぐった布を床に置くと、立ち上がって馬車から出ようとするフェイレン。
 
「…………」
 
 取り残されるミコトが、すこし切なげな表情を浮かべてフェイレンを目で追う。
 そんな姿を目ざとく見つけたファリィが、ミコトに抱きつくようにして覆いかぶさる。
 
「えへへ~っ♪ はだかっ、はだか、みこちゃんのはだか~っ♪」
「きゃ!?」
 
 ぺたんと、床に押し倒されるミコト。
 
「あははっ、裸のミコトちゃんかわい~っ♪」
 
 そういって、すりすりと頬を寄せてくる。
 
「あっ、やん、お嬢様、何を……」
 
 裸のまま押し倒され、戸惑ったような声を上げるミコトに、ファリィが楽しそうにじゃれつく。
 
「えへへっ、ミコトちゃんのおっぱい、ぷにっぷに~」
「きゃ……そんな、お嬢さ……やんっ、そんな、ダメですっ……」
 
 ファリィの指が、おもしろいおもちゃでも見つけたようにミコトの胸を揉む。
 それだけでは飽きたらず、桃色の乳頭を舌でつついたり、吸ったりする。
 
「やぁんっ、だめ、だめですぅ……」
 
 言葉では拒絶するものの、身体の芯に欲情の炎を残されたままの身体は、ファリィの指に勝手に反応して悶える。
 
「そんなこといっても、結構気持ち良さそうだよ」
「そんなこと……んっ」
 
 太股の内側に触れてくる指。それがくすぐるようにして両脚の付け根に這い上がってくる。
 
「ほらほら~濡れてる濡れてる」
「ひゃあん……おじょうさま、ズルいですぅ……」
 
 ファリィの指と舌がミコトの肢体を襲うたびに、ミコトの身体からは力が抜け、抗えなくなる。
 そして、抵抗できなくなったところで、あとは一方的に敏感な場所を悪戯され続ける。
 
「やぁん、だめですぅ……」
「そんな潤んだ瞳で言われたら、誘ってるようにしかみえないよん♪」
「あんっ……そんな、おじょうさまぁ……やんっ、そんなところ、ゆび……」
 
 ファリィの指が、ミコトの秘所にもぐり、蜜をかき出すように蠢く。
 
「あんっ、あっ、こんなの、だめですぅ……」
 
 甘えるような声を出すミコト。その唇を、ファリィの唇が塞ぐ。
 
「んん~っ……」
 
 力の入らない両腕が、無意識のうちにファリィの首にからみつく。
 
「えへへ……ミコトちゃんも、意外とえっちな子なんだ」
 
 その言葉に、ミコトがふるふると首を振って言い訳する。
 
「それは……だって……だんなさまが……」
「そっかあ。フェイレンが抱いてくれないんだ」
「べ、べつに、それはその……」
「あははっ、赤くなっちゃって。かっわい~♪」
 
 馬車の外。
 フェイレンが、無言で拳の型を繰り返している。
 空を切る鋭い音。一心に繰り返す姿は、何かを振り払おうとしているようにも見える。
 
「それだけ身体が動けば、とても疲れてる様には見えないわね」
 
 後ろから、サーシャが声をかけてきた。
 
「そう見えるか?」
「うん」
「これでも、結構気を使ってるんだ」
「なるほどね」
「ミコトの様子はどうだ?」
「ファリィと遊んでる」
「そうか」
 
 そう言って、草原に腰を下ろす。
 
「修行してて良かったと思うのは、こんなときだな」
「どんな風に?」
「欲望に負けないで済む。……つまらん真似をして、あいつを悲しませずにすむ」
「ミコトちゃんのこと?」
「ああ。一応、俺も男だからな。毎日あいつの裸を見て触ってってのは、それはそれで精神衛生上良くない」
「あははははっ」
 
 その言葉に、サーシャが笑う。
 
「フェイレンも大変ね」
「大変だ。ケダモノにだけはなりたくないしな」
「ミコトちゃんはどう思ってるんだろ」
 
 その言葉に、夜空を見上げながら答える。
 
「前はそれほどでもなかったんだが、最近はときどき、返事に困るような態度をとられることが増えてきた」
「抱いちゃえばいいのに」
「……そういうわけにもいかないからな」
 
 短い沈黙の後、真剣な声で返事が返ってくる。
 
「俺がここでミコトを抱いたら、ミコトを孤独にさせるかもしれない」
「……どういうこと?」
 
 ミコトを抱くという行為と、孤独にさせるという言葉が繋がらず、サーシャが問いかける。
 
「いままで、ミコトは誰からも肉欲の道具としか扱われてこなかった。俺が見つけたとき、あいつは心身ともにボロボロで完全に壊されてた。俺と出会うまでにどれだけひどい目にあってきたか、想像したくもない」
「…………」
 
 フェイレンの言葉に、サーシャが黙り込む。
 
「せめて俺だけは。この世界に一人ぐらいは、あいつを道具じゃない、一人の人間だと思う奴がいてやらなきゃ駄目なんだ。もし、ここで俺が自分の肉欲に任せてミコトを抱いたら、あいつはこの世界でまた独りぼっちになる」
「俺だけは、って言わないでよ」
 
 すこし怒った声。
 
「私だっているし、ファリィもキョータくんもいるんだから。ミコトちゃんのことを大切に思ってるのは、フェイレン一人じゃないでしょ」
「……ああ……そうだったな」
「もう」
「けど、それくらい思いつめてたんだよ」
「気持ちはわかるけど」
「けど、それくらい真剣に思ってるんだよ。……もう、どれくらいになるか……忘れようにも忘れられない夜がある」
 
 フェイレンが草原に腰掛けて話す。
 
「夜……あのころは俺もバカだったから、あいつの気も知らずに、当たり前のようにあいつを抱いて寝てた。男と女が床を共にするわけだからだから……やることもやってた」
「…………」
「そんなある晩だ。俺の指に何かが絡みつくような感触で、俺は目が覚めた」
「指?」
「ああ、指だ」
 
 そういって、サーシャに親指を見せる。
 
「……それでうっすらと目を開けると、ミコトが裸のまま、まるで赤ん坊みたいに俺の指を吸っていたんだ。……まるで生まれたての赤ん坊みたいに、表情もなく、ただ指を吸っていた」
「幼児退行……」
「その顔を見たときな……つくづく、自分のバカさ加減を思い知らされた。俺は何をやってたんだって。あんな小さなミコトに、俺は何ておぞましい真似をしてたんだって」
 
 夜空を見上げながら、フェイレンが続ける。
 
「あの時、俺は決めたんだよ。いつか必ず、あいつに笑顔を取り戻させて見せる。あいつを絶対に孤独にはさせないと」
「……フェイレン」
「抱かないとはいわない。あいつが、もし俺を必要とするなら、俺はミコトの側にいつまでだっている。……だけど、ただ性欲を満たすために抱くことだけは、俺は絶対にしない」
「だけど」
「何だ?」
「好きなんでしょ、ミコトちゃんのこと」
「まあな」
 
 あっさりと答える。
 
「だったら、抱いてもいいんじゃないかしら」
 
 サーシャの声に、それでもフェイレンは首を横に振って答える。
 
「……それでも、駄目なんだ」
「どうして?」
「あいつは、俺を拒めないから」
 
 馬車に目をやって、フェイレンは続けた。
 
「俺は、ミコトの主だから。俺があいつを好きだからといって、それを口に出したら、あいつはそれを拒めない。……拒むことができないんだ。今までの恐怖が植えつけられているから」
「拒む……ったって」
「俺は、あいつを幸せにしてやりたい。……何が幸せなのかはまだわからないけど、いつか……ミコトに家庭を持たせてやりたい」
 
 ごろりと、草原に寝転んで夜空を見上げながら言う。
 
「あいつが、この世界に生きた証を残してやりたい。あいつの血を次の世代に残してやりたい。いつか家庭を持ち、母親になり、自分の子供を育てさせてやりたい。あいつに、人並みの幸せを与えてやりたい」
「……フェイレン」
「それなのに、俺がバカなことを言ったら、あいつはそれに縛られる。あいつが、もし俺を好いてくれるなら、それは身に余る光栄だが……あいつが誰を選ぶか、最後の選択肢は俺が奪っちゃいけない」
 
 サーシャに言うというより、自分に言い聞かせているようにも思える口ぶり。
 
「もしも、俺のせいであいつが縛られるくらいなら……俺の気持ちなんか、一生隠しといたほうがマシだ」
(……とーへんぼく)
「何か言ったか?」
「べーつに」
 
 立ち上がり、背中についた草を手と尻尾で払うフェイレン。
 その背中に、そっとサーシャが身を寄せてくる。
 
「……何を」
「我慢してるんでしょ」
 
 その手が、下半身に伸びる。
 
「って、おい……」
「たまには出さないと、身体に悪いよ」
「…………」
 
 誘うような声。サーシャもそんな声が出せるのかと、フェイレンは思った。
 
「ずっと我慢してたら、そのうち暴発するかもしれないゾ」
 
 ひょいと、背中に飛び乗るようにして、鬣のすぐ横に顔を寄せてくる。
 
「だから、その前に……ね」
「……ここで、か?」
「ん~……もうちょっと向こうの方がいいかな。あんまり見られたくないしね」
「それもそうだな」
 
 ようやく、フェイレンが笑う。
 
「たまには、悪くないか」

 
 

 

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