猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

獅子国伝奇外伝08d

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 フェイレンが床についてうとうとしていると、かすかに寝室の扉が開く音が聞こえた。
 うっすらと目を開けると、そこに寝間着姿のミコトが立っていた。
「どうした?」
 フェイレンが尋ねる。
「ひとり……こわい」
 子供のような舌足らずな口調で、そうミコトが言う。
「そうか……こっちにくるか?」
「はい」
 フェイレンの言葉に、ミコトが少し安心したように返事をした。
「大丈夫か」
 近寄ってきたミコトを軽く抱き寄せて、そう尋ねる。
「……はい、旦那様……」
 安堵したように、フェイレンに身をゆだねてくる。
 その表情を見て、すこしフェイレンは後悔した。
 一人になることへの恐怖。
 それは、ミコトのように、落ちてから今までの間につらい過去をもつ人ならば当然感じる感情なのだろう。
 また誰かにさらわれるのではないか、捕まってひどい目にあうのではないかという恐怖。
 それを見過ごした己の迂闊さが情けなかった。
「もう大丈夫だ。俺がついてる」
 そう言ってやると、ミコトが嬉しそうにフェイレンを見上げる。
「はい」
 そして、安心したように目を閉じた。
「眠れるか」
「はい。……旦那様がいるから」
「そうか。……そうだ、せっかくだし子守唄でも唄ってやろうか」
「子守唄?」
「ああ。これでも、ちょっとは練習したからな」
 そういって、まるで詩吟でもするように唄いだす。

♪ねええんねえぇぇぇんんん~ころぉりぃよおぉぉぉお~おこおろぉりぃよぉぉぉぉぉぉぉぉ……
ぼおおぉやあああ、よいぃこぉだぁ、ねんんねぇしぃなあぁぁぁぁ……

 肺活量がヒトとは桁違いの上に、呼吸の隅々まで鍛えている獣人の歌声が響く。
 音痴と言うわけではないし、むしろ声自体は通っているのだが……
「もぉ、旦那様ぁ」
 ミコトが、くすくす笑いながらフェイレンの口に人差し指をあてる。
「それじゃあ、子供が起きちゃいます」
 そう言って、かわりに唄いだす。

♪ねーんねーん、ころーりーよ、おこーろーりーよ~
ぼーうやー、良い~子だ、ねんねしな……

「優しい声だな」
 フェイレンが褒める。
「赤ちゃんを寝かしつけるには、こんな方がいいんです」
「俺は向いてないのかな」
 そう言って困り顔をするフェイレンに、ミコトが言う。
「そんなことないです」
 そして、フェイレンの首に両の腕を巻きつけてきて、顔を近づける。
「一生懸命ヒトの子守唄を覚えるなんて、旦那様らしいです」
「こっちの子守唄聴いても眠れないだろうしな。……あれでも、けっこう練習したんだが」
「いいお声ですよ。ただ、もう少し小さく唄ったらもっとよくなります」
 そして、鼻と鼻がくっつくぐらいまで顔を近づけてきて。
「そんな優しい旦那様が、ミコトは大好きです」
「優しい……か?」
「はい」
 そう言って、にこりと笑う。
 そんな表情を見せるようになったのも、最近になってからだ。
「ヒトの世界の子守唄なんて、もう聴けないと思ってました。それを旦那様が……」
 言いながら、急に目を潤ませる。
「どうした?」
「ご、ごめんなさい……なんだか……その、嬉しいのに……ごめんなさい」
 そう言って、フェイレンに抱きつくようにして泣き出す。
「……故郷のことを思い出させたか」
「ち、ちがうんです……そうじゃなくて……」
「落ち着いて。何も話さなくてもいい。気が済むまで泣けばいい」
 そう言って、ごつい手で背中をさする。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 泣きながら謝り続けるミコト。
「大丈夫だ。俺の前ではどんな姿を見せてもいい。俺はいつだってミコトの味方だ。これからも、それだけは変わらない」
 頭をなでてやりながら、そう語りかける。
 しばらくして、ようやく気持ちが落ち着いてきたのだろう。
 少し泣きはらした目で、ミコトがフェイレンを見つめる。
「落ち着いたか?」
「はい……」
「悪かったな」
「いえ……違うんです」
 そういって、かぶりを振る。
「いままで、私なんかのためにこんなにしてくれた人がいなかったから……それで」
「……そうか」
 初めて出合った時の事を思い出す。
「つらい目にあってきたもんな」
「はい。だから……旦那様がこんなに優しくしてくれるのが、なんだか信じられなくて……夢じゃないかって」
「夢じゃない」
 そう言って、ミコトを抱き寄せる。
「あ……」
「安心しろ。俺はいつでもミコトの側にいる。俺がミコトを守る」
「……はい」
 その言葉に、ミコトが甘えるように身体を寄せてくる。
「明日な、面白いところに連れて行ってやろうと思ってる」
「面白いところ……?」
「ああ。ミコトもキョータくんも、見たらきっと驚くぞ。そのときが楽しみだ」
「なんだか……わくわくします」
「さ、それまではゆっくりお休み」
「はい。……あ、でも、その前に……」
「何だ?」
「んしょ……っと」
 少し、ミコトが身をよじってフェイレンの顔に届くまで身体を動かす。
 そして。
「ミコトは、旦那様が大好きです」
 そう言って、そっと唇を重ねてきた。
「……おやすみなさい、旦那様……」
 そして、目を閉じる。
「…………」
 最近、ミコトが少し大胆になってきたような気もする。
 腕の中で眠るミコトを見ながら、少しづつ変わってきたのを感じていた。
 少女らしい、年相応の感情を取り戻しかけてきているのだろう。
 そんなことを思いながら、フェイレンも目を閉じ、眠りに付いた。

「…………」
 フェイレンの寝息を聞きながら、そのぬくもりを求めるようにミコトが身体を摺り寄せる。
 そして、ぽつりと聞こえないような声でつぶやいた。
「……このまま……旦那様の腕の中で死んじゃえたら、きっと一番幸せなのかな……」

     ◇          ◇          ◇

 朝の日差しが窓から差し込んでくる。
「ミコト、大丈夫か」
 フェイレンが、ミコトを抱きかかえるようにして起こす。
「あ……旦那様」
「おはよう、ミコト」
「あ、はい……おはようございます」
「よく眠れたか」
「はい」
「よし、じゃあ朝飯食いに行くか」
「朝ごはん?」
「朝の屋台もけっこう美味いぞ」
 そういいながら、抱いていたミコトをそっと床に立たせる。
「この宿舎の飯も悪くはないんだがな、せっかく来たんだし、な」
 そう言って、フェイレンも寝床から立ち上がると着替える。
「ミコトの荷物は自分の部屋か?」
「あ、はい。……その、私も着替えてきます」
「ああ、そうすればいい」
 そういいながら、フェイレンは寝間着を脱ぎ、胴着に袖を通す。
 鬣に櫛を通して適当に梳くと、鏡で少しだけ整える。
 前は鬣に櫛を通すことなんてほとんどなかったが、ファリィだけならまだしも、サーシャからも毎朝のように言われ続けては少し根負けする。
 ミコトに至っては、わざわざ自分のお小遣いで櫛を買ってきて、そして朝になるたびに自分で櫛を持って甲斐甲斐しくフェイレンの鬣を梳くものだから、こうなるといつの間にか自分で櫛を通すようになってしまっていた。
 さすがに、半年に一回ぐらいしか床屋に行かない伸び放題の鬣を、ヒトの少女の力で梳くのがどれほど骨が折れるかぐらい、フェイレンでもわかる。
 着替えを済ませて部屋から出ると、しばらくして皆がそれぞれの部屋から出てきた。
「みんな起きたな」
「うん。食べに行くんでしょ」
「どんなの出てくるのかしら」
 何度か食べているファリィと、初めてウーアンの朝の屋台に行くサーシャ。そしてもちろん、初めての体験になるキョータとミコト。それぞれの反応が楽しい。
「じゃ、とりあえず行ってから決めるか」
「そうね」

     ◇          ◇          ◇

 朝の町並みには、人が多い。
 拳法やら武芸の型を繰り返す集団、仕事前の準備であわただしい集団、そして俺達と同じ、朝の屋台に詰め掛ける人々。
「とりあえず……あそこに並ぶか」
 そう言って、フェイレンさんが列を作る屋台の一つを指差す。
「あ、今日はミンさんの饅頭にするの?」
「とりあえず朝の屋台なら外せないだろ」
「そうだね。キョータくんは初めてだし」
 そう話すフェイレンさんとご主人様に尋ねてみる。
「おいしいんですか?」
「うん。ミンさんとこは朝の名物屋台なんだよ」
「親子四代、饅頭一筋の屋台だ。屋台はいつも朝の一刻ほどしかいないけど、朝だけで全部売り切れる。で、帰ったら一日かけて仕込んで、また次の日の朝売りに来る」
「夕方は昨日食べたヤンさん、朝はミンさんの饅頭がここの名物なの。で、味は……」
「そいつは食べるまで秘密の方がいいだろ」
「それもそっか」
 そう言って、こっちを見ると無言で笑う。
 なんか、途中で止められるとすごく気になる。
 それから二十分ぐらい並んで、ようやく俺達の順番が来た。
「青と白、5つづつ」
「まいど」
 フェイレンさんの注文に、蒸し器の中からふつうの白い饅頭と、もうひとつは……青空のような綺麗な青色をした生地の饅頭が出てくる。
 それを、竹かごに入れて渡す。
 銅銭を十数枚支払ってそれを受け取ると、昨日と同じような、通りに置かれた卓を囲む椅子に腰掛けた。
「白いほうは普通の肉まんだ。まあ、普通とは言っても味付けはいいぞ」
 その言葉に、一個手に取って食べてみる。
「あ、ちょっと甘いです」
「ヤンさんとこと違って、ミンさんは甘口なのが特徴だ。下味の時点で蜜や甜岩を使っているのと、肉も脂身の量を少し増やしてる。……糖分がある分、確かに朝食向きなのはこっちだ」
 荒切りにした豚肉と、それより少し細かくした脂身、そしてそれを包む黒い餡。胡麻のような、少し違うような黒い餡だけど、胡麻とは少し違うような気もする。
「少しざらついた餡だろ」
「はい。……胡麻餡ですか?」
「何だと思う」
 フェイレンさんが逆に尋ねてくる。
「……私には、胡麻ぐらいしか……」
 戸惑うミコトの言葉に、フェイレンさんが笑って答えた。
「答えは、岩だ」
「岩?」
 さすがにちょっと驚いた。
「甜岩といってな。砕くと砂糖のように甘みを感じる岩がこの国の西南で取れる。そいつを大槌と岩挽き臼で時間をかけて粉状にして調味料にするんだ。砂糖とはまた違った甘みが特徴だ」
「へえ……」
 サーシャさんが、少し驚いたように饅頭の中身を見る。
「これ、岩なんだ」
「岩塩みたいなものですか」
「近いかもな。ただ岩塩ほどあちこちで取れるものじゃないみたいだ。よその国ではあまりお目にかからない」
「……たしかに、ちょっと売ってないわね」
 と、サーシャさん。ネコの国では珍しいんだろうか。……いや、地球では珍しい以前に存在しないんだけど。
「甜岩には、植物から取れる糖分とは異なる希少成分がいろいろ含まれてる。そして、消化を助けて腸を整える……食事中に言うのもなんだが、まあ、アレだ」
 そう言って妙に言葉を濁すフェイレンさん。
 まあさすがに、食事中に下の話をされても困るんだけど。
「こっちは面白い色ですね」
 話を変えようと、俺は青いほうの饅頭を手にとって言った。
「ああ、そっちがミンさんとこの本当の名物だ。食べてみろ」
「はい、いただきます」
 そう言って一口食べる。
「あ……こっちもおいしい」
 なにかの穀物みたいな粒状のものと、キャベツのような歯ごたえのある野菜が、甘辛い味噌で味付けされている。
 例えるなら、回鍋肉を饅頭で包んだような感じ。
 そして、饅頭の生地にもなにか食欲を掻き立てる風味が。
「何を入れた生地なんですか?」
「そいつは企業秘密らしくて言ってくれないが、たぶん憐生花って花の種子を練りこんでるんじゃないかなと思ってる。食欲増進と滋養の薬草だ」
 ……れんしょうげ?
「うーん……ボクは閻山葛の根じゃないかって思うんだけどなあ」
 ご主人様が横から口を挟む。……えんざんかつ?
「閻山葛だとこんなに毎日取れるほど量がないだろう」
「でも、色とか匂いは憐生花よりそっちが近いよ」
「それはそうかもしれんが……この値段で毎日これだけ売ってること考えたらな……」
 俺もミコトちゃんも、サーシャさんも取り残されたように話を聞いている。
「……とにかく、何かはわからないけど薬草が入ってるんですね」
 よくわからないまま、そう確認する。
「ま、まあ……そういうことだ」
 フェイレンさんがとりあえず頷いてくれた。

 朝の屋台も結構多い。
「朝食だけの屋台も意外とあってな」
 朝食後の散歩がてら、広場を歩きながらフェイレンさんが説明してくれる。
「麺類、飯物、餅、焼物……夜釣ってきたばかりの刺身なんかも売っている」
 確かに、見ているとそれぞれの店がそれぞれにいろんなものを並べてる。結構バラエティが豊かで、この国って豊かなんだなあと思う。
「そして、朝の特徴はもう一つある」
 そう言って、少し先にある一台の屋台を指差す。
「たとえば、あそこの店主」
 指差す先には、見るからに特徴的な姿の人影。
「……パンダ……?」
 ミコトちゃんが、少し唖然としたように言う。
 確かに、パンダにしか見えない。ただ……
「……パンダ……の、マダラ……」
 丸い耳が頭の上に付いた、目の周辺が不自然に黒いマダラの男が鍋を振っていた。

「黥族は、獅子国の西北にすむ少数民族でな。白と黒の毛皮が特徴的な獣人だ」
「やっぱり、パンダ……」
 奇妙と言うか珍妙と言うか、正直ちっょと不気味な感じがする。
「竹に関しては比類なき知識の持ち主だ。竹を利用した料理も豊富で、何らかの形で竹を用いた料理の数は千を超える」
「千……」
 ちょっと想像がつかない。
「明日か明後日には食べに行こう。いろいろ面白い料理がある」
 フェイレンさんの言葉にご主人様が続ける。
「ちまきとか白筍湯とか、いろんなのがあるんだよ」
「サーシャは興味沸くと思うぞ。料理好きにはいろいろ刺激があるはずだ」
「へえ……ちょっと楽しみかも」
 話しながら、少し離れた別の屋台に近づく。
「あと、あいつらも」
 指差す先には、大きな甲羅を背負った、口の尖ったカメ。
「鼈族は川魚と水草を使った粥が美味い。あいつらも、この国の南方の少数民だ」
「獅子だけじゃないんですね」
「朝はな。昼からは役所からのうるさい規則が色々とあってなかなか屋台も出せないが、役所が動く前の時間はそんな規制も有名無実だしな。けっこう有象無象が好き勝手に店を出しては物を売ってる」
「カメの国とか、パンダの国とかあるんですね」
「…………」
 俺が何気なく言った言葉に、フェイレンさんが少し黙り込んで、そして答えた。
「……あった、だな。今は過去形だ」
「あった?」
「かつてのスッポンやパンダの国は、今は獅子国の領土になっている」
「……それって、つまり……」
「征服したってこと?」
 ミコトとサーシャが尋ねる。
「臣従させた、というべきかな。もともと、大戦の終わった頃の獅子国は今の半分程度の領土だった」
 フェイレンさんが話してくれる。
「今から1600年ほど前、元宗の時代から、西方の少数部族を帰順させる形でこの国は領土を西に伸ばしていった」
「2000年ぐらい前、大陸の中央部と東部は絹糸盟約で国境線をけっこう厳密に定められたんだけど、西の方はそうでもなかったの」
「もともと、対狗包囲網だからな。狗国近辺の諸国家はともかく、直接関係のない地域については案外適当だった」
「だから、大陸中央の国家は私達も含めて、皮肉なことに条約で定められた以上に領土を広げることは難しかったのよね」
 そう言って、サーシャさんがため息をつく。
「絹糸盟約は対狗同盟なんだけど、イヌ以外のみんなはこれからも仲良く平和にしましょうね、お互い空気読もうね、みたいな雰囲気があったりして。……ま、戦争なんてふつーはみんな嫌いだから、当然かもしれないけど」
 いろいろと複雑な事情があるらしい。
「……で、そういう理由で中央に侵出できないからこの国は辺境に支配を伸ばした」
 フェイレンさんが話を元に戻す。
「武力で帰属と臣従を迫り、臣従すれば王権と自治を認め、生活に必要な物資を下賜する。他国からの侵略に対しては宗主国として武力で防衛する。その代わりに、年一度の朝貢と正月には王が上京して陛下に臣従の礼を取る……」
 そういうやり方は、地球もここも変わらないらしい。
「そんなこんなで、少しづつ領土を広げ、まあその途中で易姓が三度変わったが、今では獅子国は大陸西方の約五十の少数部族を支配下におさめている」
「いまや西の雄国ね。ハイドゥからはそうやって各地から朝貢された珍奇な品々が輸出されて富を増やしている」
「……じつはそれでも国土面積自体はネコやイヌ、旧ザッハーク帝国より狭いんだが、一応、体裁としては西の雄国ってことになっている」
「広い大陸だからそれぞれに地域差があってね、実は中央に近いところではどんな少数部族も大半は自分の国を持って独立してるのよ」
「たとえばネズミなんかは、東方では小さいながらも独立してるんだが、砂漠の方に住んでるネズミはほとんど獅子国の属領に近い」
「この国みたいに、一つの種族が辺境では他のいくつもの種族を支配しているなんて構造はちょっと少ないかも。……全くないわけじゃないけど、どちらかというとそんなに多くない」
 サーシャさんがそう言ってくる。
「二重統治は何かと面倒だからな。つまらんことで簡単に内乱の元になる。だったら、最初から土地をくれてやって別々の国ってことにしたほうが統治は楽だということだろう」
「一国二制度なんて統治体系だと、王権の衰退が始まればいの一番に被支配種族に内乱起こされるって、ちょっと考えたらわかるもの。内乱起こされて国力弱ったところに他国から攻められて滅びるのが簡単に予想できるわ」
「……まあな。この国でも易姓の変わるたびにどこかで内乱が起きて、新王朝がそれを討つのが恒例のようになっているしな。今の杜朝が衰退し始めたときにどうなるか、あまり考えたくはない」
「でも、そろそろ綻びかけてるんじゃないかな。宦官が政治の場でうろつくようになるとよくないよ。あの時はフェイレンが潰したからいいようなものの」
 と、ご主人様が口を挟む。
「旦那様が?」
 その言葉にミコトちゃんが驚く。
「すっごい、それって救国の英雄じゃない」
 サーシャさんも驚いたように褒める。
「……アレはなあ」
 少し、困ったようにフェイレンさんが言う。
「正直、今となっては後悔もある」
「どうして? 宦官なんて国の害毒そのものじゃない」
 と、サーシャさん。
「……いや、まあ……その、もう少ししてから、それについては説明する。ここよりもその話をするのにふさわしい場所がある」
 少し沈んだ表情のフェイレンさん。あんまりそんな表情は見せないから、少し驚いた。
「……ごめんね、フェイレン。余計なこと言ったかな」
 ご主人様が少ししょぼんとして言う。
「いや。いずれは話さなきゃいけなかったことだ。特に、ミコトにはいずれ言わなきゃいけなかったのを先延ばしにしていただけかもしれない」
「私に……?」
「とりあえず、その話はもうしばらくだけ置いといてくれ。もう少し人通りが少なくなってから、その話をするのにふさわしい場所にみんなで行こう」
「……わかった」
 なんだか、触っちゃいけないものに触れるような予感がしていた。

 それからのことは、実はあまり印象に残ってない。
 なんとなくみんな重苦しい雰囲気になってたのも理由かもしれない。
 お昼前くらいに、フェイレンさんがみんなを少し緑の多い丘陵のような場所に案内してくれた。
「ここって……墓地……?」
「ああ。案内したいのはこっちだ」
 そう言って、フェイレンさんがすこし奥のほうにあるお墓のところにみんなを連れてくる。
「この名前……読めるか」
 墓石に刻まれた名前を見る。
 そこに刻まれていたのは……

 高槻翔也墓

 ……の、五文字。
「たかつき……しょうや?」
「まさか……ヒト……?」
 俺とミコトちゃんが、驚いてフェイレンさんをみる。
「ああ」
 フェイレンさんが少し険しい表情で頷く。
「ここに眠ってるのはヒトだ。そして……」
 その先に続いた言葉に、俺は耳を疑いたくなった。
「俺が殺した」

「そんな……」
 ショックを受けたように、ふらりとするミコトちゃんを俺がとっさに支える。
「ファリィが言った、国政に口を挟んできた宦官というのが彼だ」
「……それって」
 俺も、ショックでちょっと考えがまとまらない。
「獅子とヒトなら子供は生まれないから、去勢はしていないがな。ともあれ、その男は落ちた後、後宮で后妃達の世話をしていた」
「後宮のお后さま達の下働き兼、夜のおもちゃ、ね」
「そうなるな。そしてしばらくした頃には、男は後宮内で后達と深いつながりを持つようになっていた。……帝は一人で、后や側室はたくさんいたからな」
「要求不満気味の后達と情を深めていったのね」
「……最初から計算づく立ったのか、それとも、そういう関係を持つようになってから野心がわいたのかはわからない。だが、一つだけ確実なのは、男はその頃から国政の話を后達を通じて手に入れていたということだ」
 高槻翔也と刻まれた墓石の前でフェイレンさんが話し続ける。
「今にして思えば、ある日突然異なる世界から落ちてきて、右も左もわからぬままお前は奴婢だと言われたら、それを理不尽だと感じ、何とかしようと思っても不思議ではない」
「…………」
「男は、後宮から外に出ることは許されなかったが、后達から世界の情報を言葉巧みに聞き出し、そしてまた言葉巧みに彼女達の思考を誘導した。后達を肉欲に溺れさせながら、彼女達を操り人形にしていった」
「この国の皇帝陛下は、お后さまたちの言葉に甘かったのかしら」
「……結果から言えばそうだった。后達の甘言に惑わされ、税を取り立て、何やかやと大工事を始めた。……その中には、あきらかにヒトのための施設らしきものもあった」
 フェイレンさんの言葉を、ご主人様が補足する。
「その頃から、急に取り立てる税金が重くなって、労役も増えて、各地に不平が渦巻き始めてたの。そんな中で、各地の道場や寺院や武人の有志たちが『くんそくのかん』を取り除くっていう相談を始めてたわ」
「君側の奸、つまり皇帝を操り国家を壟断する奴のことだ。この場合だと、彼……タカツキ・ショウヤを討つということだ」
「……旦那様が」
 まだ少し動揺しているミコトちゃん。
「そうだな。あの頃は、俺もガキだった。物事を単純に考えて、簡単に密謀に参加していた」
 そして、フェイレンさんはその頃を思い出すように少し空を見上げて話し続けた。

 白獅寺の武僧たちが、宦官討滅の首謀者だった。白獅寺の道場に集まっては、ひそかに策が練られていた。
 そして、密謀の参加者が二百人を超えたあたりで、決起の方法が決まった。
 節句の閲覧式の夜、伝統的に宮廷では白獅寺と三絶寺による武芸上覧、そして酒宴が開かれることになっていた。
 その日の夜遅く、酒が回った頃を見計らって、演舞上覧の名目で内部に入り込んだ死士が宮廷に火を放つ。
 その混乱に乗じて、宮廷外に潜んでいた俺達も乱入、一気に後宮に乗り込んで君側の奸を討つ……まあ乱暴と言うか適当な策だが、そういうものだった。
 当時はみんな、義のために命を惜しまないっていう一種の狂気に覆われていた。
 もっと言えば……ヒトが国政を壟断することへの理由のない憎悪があったのかもしれない。

「二百人って、結構少ないわね」
 サーシャさんの言葉にフェイレンさんが頷く。
「王宮内は近衛兵三万だからな。まあ無謀もいいところだ。いくら、鍛え上げた武僧がそこらの兵士よりは数倍強いと言っても、今にして思えば狂気の沙汰だ」
「それで、フェイレンが最後にこのヒトを倒したのよね」
「…………」
 ミコトちゃんが困惑した表情をフェイレンさんに向ける。
「……そうだな。酒宴の最中に火を放たれ、王宮内は大混乱になっていた。近衛兵たちは酔いが回っていたのか、混乱して組織立った動きは出来なかったが、それでも数で追い詰め、襲撃した連中は次第に討ち取られていった」
「一歩間違えていたら、旦那様も……」
「死んでいたかもしれんな。運なのか、それとも何かしら天命とかそういうのがあるのかはわからないが、ともあれ、俺は生きて後宮内に乗り込んだ」
「……そして、見つけたんですね」
「ああ。混乱の中で、なぜかその男はすぐに見つけられた。……そのときの俺は、ただ正しいことと信じて、丸腰のヒト相手に本気で鉄棍を突き刺した……」
「…………」
 みんなが言葉を失ったように、フェイレンさんの話を聞いていた。
「そのときの顔が、今でも忘れられん。恐怖の表情は一瞬だけで、次に見せたのは、なんともいえない悔しそうな表情だった」
 フェイレンさんはその後の顛末をこう話した。

 俺は、そのまま庭から外へと逃げ出した。結局、二百人を超える闖入者のうち、九割近くは討ち果たされるか処刑された。
 白獅寺にも問責使が送られたそうだが、さすがに近衛兵三万がいていいように宮廷を荒らされたとはおおっぴらにしたくなかったのだろう、いつの間にかうやむやにされ、コウゼン道場には問責使はこなかった。
 一方で俺は、しばらくは高揚した気分だったが、時間と共に自分がやったことが正しかったのかどうかわからなくなってきた。
 あの環境に落ち、奴隷から解放される方法を模索すれば、果たして他に生きる道があっただろうかというとわからなくなってきていた。
 それを、俺は民のためとか言うお題目を間に受けて丸腰のヒトを殴殺したということ。時間がたつにつれて、自分のやったことは本当は間違っていたんじゃないかと思うようになってきていた。

「……俺がやったことは、結局何の解決にもなっていないんだ」
「でも」
 ご主人様が何か言おうとするのを軽く手で制して、フェイレンさんが続ける。
「たしかに、タカツキという一人の男によって増税と労役が課され、民は貧苦に喘いでいた。一人のヒトを殺すことで、確かにその時は増税も大工事も止んだ」
「……そうだよ。フェイレンがやらなきゃ、きっとたくさんの人が苦しんで犠牲になってたんだよ」
「しかし、また偶然、同じ環境に落ちてくるヒトがいれば、きっとまた同じことが繰り返される……今のままでは」
「…………」
「その、民を苦しめる根源に、俺を含めて誰も手をつけようとしなかったし、今もつけてはいない」
「………………」
「また、ヒトがあの環境に落ち、またおなじことを企んだ場合。どうすればいいんだ? また俺は、丸腰のヒトを殴り殺して問題を先延ばしにすればいいのか? ……そう考えると、頭を抱えたくなる」
「……旦那様」
「ともあれ、その頃の俺はしばらく暗澹としていたんだが、しばらくして槐公主に会いに行って、三日ほど一緒にいてやっと立ち直ることが出来た。……あんなのでも、一応恩人ってことになるな」
 ……小高い丘の上にいる、大樹仙人の槐公主。
 俺が慰められたように、ああやって、いろんな人を癒し慰めていたんだろう。

「……七年も前のことだ。今更取り返せるわけもないし、やったことはやったことだから、俺はそいつを一生背負っていくしかない。ただ……」
「ただ?」
「俺はもう、願わくば二度と俺のせいでヒトを悲しませたくはない。……ミコトやキョータくんは、俺が全力で守る。今の俺に出来るのは、それくらいだ」
「……それだけで、十分です」
 ミコトちゃんがフェイレンさんに言う。
「旦那様がつらい事を私に話してくれたこと、感謝しています」
「……ミコト」
「……フェイレン、ボクにもそういうことは今まで話さなかったよね」
「悪い。正直、いざ自分のしでかしたことを話すと言うのは怖くてな」
「そりゃ、そーかもしれないけど。ボクにまで秘密にするのはズルいよ」
「ズルいって」
 俺が口を挟むと。
「だって。一人だけ悩んでたらボクだってどーしていいかわかんないじゃない。みんなで一緒に悩んでたら何かいい方法が思いつくかもしれないじゃない」
「……そうだな」
 フェイレンさんが、かすかに微笑を見せる。
「すまん。これからは……」
 と、言いかけて。
「逃げろっ!」
 突然、フェイレンさんが叫び、そして俺とミコトちゃんの襟首をつかんで跳んだ。

 何がおきたのかわからなかった。
 ただ、急に空を切るような音が起こり、そして……
 さっきまで俺達がいたところに、何十本もの矢が降り注いでいた。
「な、なな……」
 驚いて声が出ない俺とミコトちゃんをかばうように立ち上がるフェイレンさん。
 背にさした鉄棍を抜いて、構え……
 そこに、また矢が降り注いできた。
「くっ!」
 フェイレンさんは短く叫ぶと、鉄棍を振り回すように奮い、降り注いできた矢を次々と弾き飛ばす。
 周りを見ると、ご主人様とサーシャさんも武器を構えて、そして矢を避けたり弾いたりしていた。
 二回目の矢が一段落付いたと思った直後。
 俺達の周囲から、武器を持った鎧姿の獅子の兵隊達が俺達に襲い掛かってきた。

「うわあああっ!」
 俺はと言うと、自分でも情けなさすぎる悲鳴を上げて腰を抜かしてしまってた。
 いや、だって。
 殺されるかと思ったし。
 ていうか、確実に死ぬと思ったし。
 だって。
 百人以上も、フェイレンさんと同じぐらいの体格の獅子が、槍持ってこっちに襲い掛かってくるんだから。
「二人とも、俺の側を離れるな!」
 と、フェイレンさんが言う。
 そして、俺とミコトちゃんをかばうように仁王立ちになると、右から左から突き出される槍を鉄棍で跳ね上げ、払い、その場からほとんど動かずに、逆に次々と襲い掛かってくる襲撃者を倒していく。
「な、なによこいつら! ご挨拶ね!」
 サーシャさんの声。そっちを見ると、サーシャさんが少し変わった形の槍を持って、やっぱり前後から襲い掛かってくる襲撃者を……こっちは突き刺し、切り捨て、返り血を浴びながら次々と倒してた。
「キョータくん、ミコトちゃん、大丈夫!?」
 ご主人様の声。こっちに駆け寄ってくると、フェイレンさんと背中合わせになるように、俺達を挟んで立つ。
「フェイレン! こいつら近衛兵じゃないの?」
 そして、背中越しにそう聞く。
「この鎧はそうだ! 畜生、油断してた!」
 忌々しそうにフェイレンさんが叫ぶ。
「仕方ないよ! それより、こうなったら全部叩き潰すしかないわよ!」
「わかってる! ファリィ、こっちの二人は俺が守る! ファリィとサーシャは……」
 フェイレンさんが言い終わりかけるのと同時に、ご主人様が駆け出しながら答える。
「任せて! 反撃はこっちがやってく!」
 そして、ご主人様は両手に持った二本の鋼鞭を縦横に奮い、近づいてくる兵士を片っ端からなぎ倒していく。
 長柄の槍のふところに潜り込んでは、鎧の上からでもお構いなく鋼鞭を叩き込んで、倒す。
 鎧がぐしゃりと潰れ、青黒い顔で血と何かをはいて倒れる兵士達。
「ミコトちゃん、見ちゃだめだ!」
 とっさにミコトちゃんの目を防ごうとして、抱き寄せてミコトちゃんを両手で包む。
 ……後から思えば、結構恥ずかしいことしてるんだけど、その時は無我夢中だったし。
 ともあれ、ご主人様は身軽な動きで襲撃者を翻弄しながら、次々と倒していく。
 ……バキとかグチャとか、何かが砕けたりちぎれたりする嫌な音と、雄叫びのような断末魔がそのたびに聞こえてくるけど、こっちが死ぬよりは……まだ、うん。

 その間も、フェイレンさんは俺達の側から一方も動かないまま、四方八方からの槍をことごとく弾き、払い、それでも捌ききれない槍はすれすれで身を交わすようにして避け、そして次々と倒していく。
 向こうでは、サーシャさんも。
 正直、見ていて一番不思議だったのがサーシャさん。
 槍の動きが大きく、一見すると無駄が多そうなんだけど、なんていうか……
 大きく動かす槍に、相手が勝手に突っ込んで言って刺されてるように見えた。
「どこの誰だか知らないけどっ! 仮にも“大陸無双”リナ様の門下に槍で喧嘩売るっていい度胸ね!」
 ……なんていうか、本当に不思議。
 いつものサーシャさんとはまるで別人みたいな怖い顔で、本当に躊躇い一つなく何人も、何十人も刺し殺してる。
 怖い。
 ……だけど、なんか綺麗。返り血さえ赤い宝石みたいにきらきらとして見える。
 今更ながら、サーシャさんって本当は強いんだって思った。

 俺達は何も出来ず、ただフェイレンさんの後ろで震えてるだけだった。
 そんな俺達に、フェイレンさんが言う。
「大丈夫だ。俺が守ってやる」
 当たり前のように、そう言ってくれるフェイレンさんの姿がとても頼もしかった。
「……旦那様」
 ミコトちゃんが、俺の腕の中でフェイレンさんを呼ぶ。
「ミコト」
 フェイレンさんが、それに応える。
「安心しろ」
 短い、たったそれだけの言葉。
 だけど、それだけで十分だった。
 だって。
 フェイレンさんがやられるはずがないって、そうわかったから。
 
 じっさい、真後ろでフェイレンさんをみていると、なんていうか……襲ってきた獅子の兵士達とは強さのケタが一つか二つ違うって、そんな風に見えた。
 だって、向こうは両手で思いっきり突き出してくる槍を、ぱーんと鉄棍で簡単に弾き上げて、そのまま目にも留まらぬ速さでがら空きの鳩尾を突き倒す姿を見れば、見た目は同じでも、中身が全然違うってぐらいに感じるわけで。
 それは、ご主人様もサーシャさんも同じ。
 なんていうか、これっぽっちも倒されるイメージがわかない。
 大体、お墓って場所的に戦いにくいはずなんだけど。
 盾にするには頼りないし、かといって移動するには邪魔だし。
 そんな足場の悪さなんか、これっぽっちも気にしてないみたいな。
「つよい……」
 いつの間にか、ミコトちゃんが周りを見ていた。
「あ、ミコトちゃん……」
「旦那様も……お嬢様もサーシャさんも、みんな……すごい」
「うん……」
「私達……こんな人たちに守ってもらえてたんだ……」
「そうだね……」
 これって、結構すごいことなのかもしれない。
 それにしても、フェイレンさんって凄いと思ったのは、後ろを見なくても、俺達をちゃんと守ってくれること。
 時々、フェイレンさんじゃなく、フェイレンさんの後ろで震えてる俺達を狙って槍が突き出されるんだけど、そういうのまで全部防いでくれる。 
 だから、俺達も……そりゃ、少しはやっぱり怖いんだけど、割と安心していられたり。

 襲撃者が次々と倒されていく中で、女性の声がした。
「引けっ!」
 その言葉で、残された兵士達が一斉に周囲に散る。
 後には、墓地を血に染めて倒れる兵士達と、その中に立つフェイレンさんたち……あと、結局しゃがみこんで動けなかった俺ら。
「……ったく、命令が遅いよ」
 フェイレンさんが吐き捨てるように言う。
「ユファ! いるんだろ、出て来いよ!」
 その言葉に応えるように、一人の女性が姿を見せた。

 赤い鎧を着た、美人……なんだけど、ちょっと気が強そうな目つきの女性。ご主人様よりはちょっと年上っぽいけどフェイレンさんよりはちょっと年下に見える。
 ……いや、実はご主人様とフェイレンさんは同い年なんだけど。なんかご主人様は実年齢より子供に見えてしまう。
 たぶん、この赤い鎧の女性がユファさんなんだろう。
「……化け物め」
 短く、そう罵るのが聞こえた。
「ご挨拶だな。いきなり人に矢の雨降らしといてそれか?」
「殺す気だったからね」
 物騒なことを言っている。
「……お前なぁ」
 フェイレンさんが困ったように言う。
「恨まれるのは結構だが、この犠牲者の山どうすんだよ。犬死もいいところじゃないか」
「あの、フェイレン?」
 ご主人様が口を挟んでくる。
「あの子、誰?」
「……タカツキにベタ惚れしたお姫様だ。ずっと前から、都に来るたびに刺客送られてたんだが、さすがに近衛兵引っ張ってこられたのは初めてだ」
 ……刺客って。
「あっさり言うわねー……」
 サーシャさんが呆れたように言う。
「で、ずーっと返り討ちにしてたの?」
「ま、正当防衛だしな。昨日も二、三人殴り飛ばしたばかりだったんだが」
 ……昨日、一人で行動してたのはそういう理由もあったらしい。
「……それにしても、これは陛下に言い訳できるのか? 近衛兵は国の財産だぞ」
「素直に討たれていればよかったのだ」
「そうもいかんから困ってる。俺だけならともかく、この二人に手を出すとなると、こっちも容赦はできない」
 そう言って、俺達を見る。
「ヒトを殺した貴方が、自分のヒトは守る? 身勝手な話ね」
「言っとけ。主従ってなそんなものだ。申し訳ないが、ヒト一人守れない奴が一丁前に『ご主人様』名乗る資格ねえよ」
 わざと挑発的に言った言葉が、相手の怒りを誘発したっぽい。
「き、貴様っっ!」
「一方的にご奉仕を迫るだけの関係で、ご主人様名乗られちゃあたまったもんじゃないだろ。従の“献身”に対しては対等の“保護”で応えるのが主の責任ってもんだ」
 ……挑発だからなんだろうけど、きついこと言ってる。
 力のない奴はヒト養うなっていってるようなものだし。
 まあ、ご主人様は普段あんなだけど、やっぱりこういうときちゃんと守ってくれてるし。
 そうは言っても、普通に考えて、ご主人様やフェイレンさんみたいな理不尽に強いご主人様の方が少ないよなあ……。
「旦那様、普段はあんなこと言わないんですよ」
 ミコトちゃんが言う。
「ああ」
「でも、前にも私に『奉仕を受けるなら、それに対する等価の報酬を与えるのは主の義務』だと言ってました」
「そうなんだ」
「旦那様と出会うまで、そんなこと言ってくれる人いなかったんです。みんな、私をおもちゃにするだけで」
「…………」
「きっと、その……タカツキさんってヒトを手にかけたことで、何かが変わったのかもしれません」
 ミコトちゃんと俺の話を聞いていたのか、振り返らずにフェイレンさんが言う。
「そうかもしれん。あいつを殺したことで、いろいろと心にも変化はあったからな」
「……旦那様」

「さあ、どうする? 黙って引くならいいが、これ以上手を出してくるとなるといささか厄介なことにもなるぞ」
「…………」
 ユファさんは黙ったまま応えない。
 そのまま、しばらく対峙していると。
「何をなされているのですかっ!」
 獅子の老人が、転がるように割り込んできた。
「姫ッ! このようなことをされてはまた陛下が御心を痛めますぞ! ここはこの爺の顔に免じてなにとぞ……」
 泣くように懇願している。
「あのおてんば姫の侍従なんだろうな。あの年でかわいそうに」
「……わかった、帰るから泣くな!」
 困り果てたのか、怒るように言う。
「それがいい。こっちも、てめえの殺した相手の墓参りぐらい落ち着いてやらせてくれ」
「貴様を許したわけではないぞ! 爺の顔に免じて……」
「わかったわかった。それと、隠蔽工作はそっちでやってくれ。これだけの死体を片付けるのは骨が折れる」
 ……そりゃまあ、確かに。
 そう思っていると、侍従の老人がこちらに向かって来た。
「フェイレン殿、とにかくこのような事態がこう何度も起きてはこの爺の寿命が縮まり申す。昨日もあのように大立ち回りされたばかりというのに」
「……俺に言われても困るんだ。こっちはそれなりに後悔もしてるし、墓参りにも来てるんだから」
「そこをなにとぞ……」
「まあ、できるだけ見つからないようにする。こっちもやったことはやったことだから、あまり胸も張れないからな」
「お願い申しまするぞ。近頃は怪しげな導師まで姫に近づいてきて閉口しておりますのに」
「導師?」
「内内のことゆえ、詳しく申したくはござりませぬが。とにかく、なにとぞご自重を……」
「わかってる」
 何度もこっちを見ながら、生き残った兵士達と一緒に老侍従が去って行った。
 その姿を見ながら、導師と言う言葉が妙に気に掛かるのを感じていた。

「……俺が乗り込んだ頃、あのお姫様はまだ子供だったからな。きっとあいつが言葉巧みにたぶらかしていたんだろう」
 死体をそのままにして、墓地を管理する寺院に向かいながら、フェイレンが話す。
「たぶらかす……」
「俺がやったことは問題だが、しかしタカツキが全くの無実だったかと言うと違うからな。目的があったにしろ、あいつが口と肉体で後宮の后や幼い王女をたぶらかし、操り人形にしたのは間違いない」
「……どっちもどっち、か」
「ああ。どっちも正義じゃない。その上で、俺がやったことは本当に正しかったのかと言うと問題があると思っているんだ」
「……難しい問題なのですね」
「そうだな。しかもあの手のお姫様は世間知らずだからな。おまけに妙に俺にご執心ときたものだ。……ああいうのに限って、なにかの間違いで今度は花束と刃物持って追いかけてくるんだ」
「嬉しいんじゃない?」
 サーシャさんがからかう。
「……さすがに御免だ。ファリィだけでも頭抱えてるというのに、あんなのに付きまとわれたら胃に穴が開く」
「あーっ、フェイレンひどぉい!」
「まあ、バカ言ってるうちが華だ。あと二、三年もすれば近衛兵の中から若手の将軍の一人も見つけて、そっちに付きまとうだろう」
 そんなことをいいながら、墓の前でフェイレンさんが拝礼する。
 その姿を見ると、やはり言葉では言い表せない、だから俺達にもまだ十分に話していない何かがあるんだろうとは思った。
 でもそれは、きっと聞かないほうがいいんだろうなと思った。

     ◇          ◇          ◇

 フェイレンにとっては、あまり楽しくはない一日だった。
 いずれは言わなくてはならないことだったのだろうが、それを口にし、またいまだに憎む相手がいるということを知られたというのは少し辛い。
 墓地を管理する寺院に頼み込んで湯浴みと着替えを用意してもらい、そのまま宿舎に帰ってきたが、さすがに墓場で大立ち回りやらかしたものだから視線が冷たかった。
 そもそも、せっかく大環楼に行く予定がすっかり吹き飛んでしまった。……見せたいもの、面白いものがいろいろあるというのに。
 そんなことを思っていると。
「……旦那様」
 ミコトの声がした。
「ああ、ミコトか」
「入っても……よろしいですか?」
「ああ、お入り」
 そう言うと、ミコトが扉を開けて入ってきた。
「今日は、旦那様の知らない面をちょっとわかったような気がします」
 そう言って、ちょこんと寝台に腰掛ける。
「すこし刺激が強かったみたいだな。大丈夫か」
「はい。……今日、それを知ることが出来てよかったと思います」
「……本当は、もう少し隠しておきたかったんだがな」
「私は、今日知ることが出来てよかったと思います」
 ミコトがきっぱりとした口調で言う。
「もっと前なら、旦那様を信じられなくなっていたかもしれない。もっと後なら、何故今まで黙っていたのかと思うかもしれない。今なら……受け入れられましたから」
「……ミコト」
「私は、これからも旦那様を『旦那様』とお呼びしたいです」
「いいのか?」
「……はい」
 そう言って、ミコトが立ち上がる。
「それで……その」
「どうした?」
「今日は……」
 言いながら、帯を解く。
「旦那様に……その」
 かすかな恥じらいの表情をうかべつつ、衣を脱ぐ。
「……ミコト、お前……」
「旦那様に……抱いて欲しいんです」
 そう言って、寝台に腰掛けるフェイレンに裸身をゆだねてきた。
「私は……これからも旦那様のそばにいたいんです。でも、それをどうやって伝えたらいいか……」
「言葉だけで十分だ。そして、側にいてくれたらそれだけでいい」
「……でも、それだけ時や私の方が不十分なんです。私は……ミコトは、こんな日だから旦那様にもっと近づきたいんです」
 そう言いながら、幼い裸身を押し付けてくる。
「……それとも、こんなミコトはお嫌いですか?」
 少し、声が泣きそうになっている。
「……いいや」
 フェイレンが、ミコトを両の腕で抱き寄せながら言う。
「俺は、ミコトの全てが気に入っている」
「……旦那様」
「だから、こういうミコトも嫌いじゃない」
 そう言って、優しく抱きかかえる。
「旦那様っ……」
 フェイレンの首に手を回して、ミコトがしがみついてくる。
「お願いします……ミコトを抱いてくださいっ……」

 幼さの残る裸身を寝台に寝かせ、フェイレンが愛撫する。
 仰向けになったミコトの裸身に掌を当て、柔らかくその肌を揉むと、紅潮した肌に汗が浮かぶ。
「ああっ……はぁ……だ……だんなさまぁ……」
 火照った肌にふっと息を吹きかけて、舌を這わせ、肌を吸う。
 仰向けになったまま、両手で敷布団をわしづかみにして、甘い快楽を耐えようとするが、すぐに我慢できなくなって身体を上下させ、甘い声をあげて喘ぐ。
「大丈夫か」
 舌を這わせる顔を上げて、フェイレンが問う。
「は、はい……どうか、お構いなく……もっと、ミコトを……はぁんっ……」
 汗ばんだ華奢な両脚が、甘い刺激を受けるたびにびくんびくんと跳ねる。
 フェイレンの指がミコトの恥部に潜り、そっと秘裂をなぞった。
「ああっ!」
 普段からは考えられないような大きな声をあげてのけぞる。
「ミコト」
「だ、だいじょうぶ……です……どうか……」
 すでに焦点の合わない瞳で、それでも健気に応える。
 が、その表情はすでに無理させられない状態だとフェイレンは感じていた。
「……ミコト」
 少し心配そうな声。
「だ……だんな……さまぁ……」
「それ以上、無理しなくていい」
「そ……んな……だいじょうぶです、むりなんて……」
 ろれつが回らなくなった口で、そう訴えかける。
 いじらしい姿だが、それがかえってフェイレンの心を痛ませる。
「ミコトは、まだ子供なんだ。今まで、ひどい男達に捕まって残酷な目にあってきたけど、本当はまだこういうことをさせていい身体じゃない」
 そう言って、裸のミコトを抱き寄せる。
「そんな……みことは……まだ……」
「本当は、ヒト以外の性器を入れられる大きさじゃないんだ。ヒトのキョータくんならともかく、俺のはまだミコトの身体には大きすぎる」
 噛んで含めるように言い聞かせる。
「あと二年もすれば、ミコトの身体はこういうことが出来るようにちゃんと成長する。それまでは、俺はミコトの主として、無理な負担はかけたくない。わかるね」
「……だんなさまあ……」
 朦朧とした意識の中で、それでもフェイレンの気持ちはわかる。
 そして、フェイレンが心配してくれているのもわかる。
 それでも、わがままを言いたい自分もいる。
「…………」
 無言で抗議するように、力の入らない裸体をフェイレンに押し付ける。
「はなれませんから」
「……おい」
「旦那様が愛してくれなきゃ、ミコトは離れませんから」
 ワガママなのはわかっているが、それでも、ワガママを言いたかった。
 そんなミコトに、フェイレンが優しく言う。
「じゃあ、無理しない程度に気持ちよく眠らせてあげようか」
 そう言って、ミコトを腕の中に抱き寄せ、赤子をあやすように背中を撫でる。
「あ……」
 性的な刺激とは違う甘い快楽がミコトを包む。
 きっと、フェイレンの“気”が流れてきているのだろう。
 ぎゅうと、ミコトがフェイレンに抱きつく。
「二年ですよ……二年たったら、約束ですからね……」
「ああ」
「私は……ミコトは、ずっと待ってますから」
 そう言って、幸せそうに目を閉じた。
 そんなミコトに、フェイレンが歌う。

♪ねんねんころりよおころりよ
 坊や良い子だねんねしな……

 昨日、ミコトが唄ったように、優しく寝かせつけるように唄ってみた。

     ◇          ◇          ◇

 王宮の一室。
 香を立ち込めさせた部屋に、ユファは入っていた。
 窓のない真っ暗な部屋。昼でも燭台の明かりだけが頼りの部屋は、掃除の奴婢はおろか、侍従の爺さえ立ち入らせぬ、ユファだけの部屋だ。
 絨毯を敷き詰めた豪奢な部屋に、香木の寝台。窓がないことをのぞけば、帝国の息女の寝室にふさわしい豪勢な部屋の片隅に、無言で立つヒトがいた。
 絹の衣を着た、青白い顔色の男。
 耳は顔の横に付き、尻尾は生えていない。
 ヒトだ。
 若いヒトの男が、そこにいた。
 だが、普通のヒトとは様子が少し違う。
 微動だにせず突っ立っているそのヒトは、生気のない青白い肌をして、そして額には呪文らしき模様の刺青が彫られていた。
 ユファは、その明らかに異様なヒトの前に来ると、そのオスヒトの帯を解き、服を脱がせてゆく。
 服を脱がせたその下の肌も、生気のない青白い色。そして、左胸には手術痕らしき傷跡が残っていた。
「……タカツキ……起きよ」
 ユファが、そうささやくように言うと、青白いヒトがまるで操り人形のようにぎこちなく腕を動かし、ユファを抱き寄せる。
「タカツキ……」
 ユファが、墓地で見せた険しい表情とは一転した甘い表情で、歓喜の声を漏らす。
「七年になるのお……私も、そろそろそなたと釣り合うてきたか……」
 七年前。まだ幼かったユファの目の前で、お兄ちゃんと呼び親しんできた男が何者かによって殺害された。
 ほのかな慕情は一瞬で打ち砕かれ、以来憎悪だけが生きる力だった。
 そんなユファの前に、奇妙な導師が現れたのが半年ほど前のことになる。
 導師が連れてきたのは、かつて目の前で殺害された『お兄ちゃん』だった。
 僵屍。
 朽ちず腐らず、死者にして死者にあらず。そのような存在として現れた、かつての想い人。
 それを穢れと嫌う人もいるだろうが、ユファにとってはそれでもよかった。
 数年ぶりに出会った『お兄ちゃん』を、ユファは寝室に隠した。
 王宮の中に僵屍を入れるなど、見つかってはただ事ではすまないことぐらいわかっていた。
 夜になると、時々話をしたりした。
 無論、返事をするわけではないのだが、ただ話をするだけでも十分だった。

 時々、導師がやってきて、僵屍というものについて話してくれた。
 今は動きもぎこちなく、言葉も話せないが、時間と共に生前の能力を取り戻すと。
 その言葉の裏の意味をユファは気付いていない。ただ、無邪気にタカツキが蘇ると喜んでいた。
 そして、今夜。
 ユファはタカツキを寝台へといざなった。
 青白い肌をいとおしむように頬擦り、舌を這わせてその姿を確かめる。
 いささか乾いた肌は、まだ自力では修復できないといっていた。
「背を向けよ……香油を塗ってやろうぞ」
 命令どおり、ぎこちなく背を向ける僵屍に、ユファは恍惚の表情で香油を塗る。
 乾いた肌が油を吸い、すこし肌らしさを取り戻す。
「そなたが戻って来てくれて感謝している」
 返事はない。
「この私が、そなたの力になってやる」
 言いながら、昼の墓地での会話を思い出していた。
「こんどは、私がそなたを守ってやろう。これからは、私がお前の主だ」
 背中に香油を塗り、そして前を向かせる。
 僵屍の顔、肩、腕、胸、腹と両の掌で香油を塗ってゆき、そして。
「ここも……塗ってやろうぞ」
 冷たい下半身に、ユファは手を伸ばした。

 冷たいが固い僵屍の肉棒を、ユファは香油のついた手で何度も撫で愛しむ。
「ずっと……こうしたかったのだ」
 そう言って、香油で光る肉棒を、ユファが口にくわえる。
「そなた以外の男など、想うたこともなかったのだ」
 帝の息女ともなると、功臣を取り込むために政婚の具とされることも少なくない。むしろ、そうやって有力な一門を増やすために積極的に婚姻を結んでいた。
 ユファも、いずれはそうやって誰か功臣の妻となるのだろう。それはわかっていたが、心の中では常に『お兄ちゃん』だけを想っていた。
 数年来の想いを遂げようとするように、口の周りを香油まみれにしながら、舌を這わせ、唇で挟み込む。
 ちゅぱ、ちゅぱという淫靡な音が暗い寝室に響く。
 そうしていると。
 動かぬはずの僵屍の肉棒が、かすかに動いた。
(……む……?)
 それは、動きはゆっくりであったが、しかし確かに動き、ぐいといきり立つように上を向いた。
(おお……おおお……)
 口を離し、タカツキに話しかける。
「タカツキ……蘇りつつあるのだな……そなた……」
 表情は変わらない。空ろな顔で、一点を見ている。
 が、それでも良かった。
「そなたは……私のものだ……」
 そう言って、ユファは僵屍に抱きつき、両の腕で思いきり抱きしめた。
「お楽しみ中、無礼いたしますよ」
 地の底から響くような暗い声。燭台の炎がわずかに揺れ、壁から溶け出してくるように小柄な老人が姿を見せた。
「導師殿か」
「くひひ……」
「感謝するぞ。そなたのおかげでタカツキが蘇ろうとしておる」
「くっひひ……お褒めいただき恐悦ですとも」
「それにしても、一人どうしても気に食わぬ男がいての。何とか積年の恨みを晴らしたいのだが、何しろ近衛兵百人で勝てぬ、化物の如き男だ」
「くひ……墓地のあの男ですかな」
「見ていたのか」
「もともと、墓地はねぐらですよ。くっひひ……」
「…………」
 気味の悪い笑い声だけはいつまでたっても慣れない。
「もう四日もすれば満月ですな、くひっ……」
 突然、天井を見上げながら導師が言う。
「仇を討つのでしたら、本人が取るべきでしょうな、くひひ……」
「本人……とは、どういう……?」
「くひ……太陰の極まるとき、僵屍はその力を最大限に発揮するのですよ……姫の目の前で、憎き仇を討ち果たすのもまた一興」
「……強いぞ。認めたくはないが」
「我が僵屍は、もっと強うございますよ、くひひひひ……」
 その言葉に、ユファは僵屍に語りかける。
「タカツキ……ぬしが仇を討つか……?」
 それは、導師に操られているのか自分の遺志なのかはわからない。
 ただ、僵屍はすっと立ち上がると、片膝を付き、手を重ねて受命の礼を取った。
「かくの如しですよ」
「……タカツキ……」
「僵屍は不死にして、たとえ鉄の棒で殴っても砕けぬものですよ。されば敵ではないと申しましょうか……くひ」
「…………」
 ユファの心の中に沸き起こる奇妙な感情。それにはお構いなしに、導師は言葉を続ける。
「今夜はとくとお楽しみあれ……ここまでくれば、男と女のまぐわいもできましょうぞ……くひっ、くひひ……」
 そう言い残すと、導師は再び壁に溶け込むように消えた。
「…………」
 残されたのは、ユファと僵屍のみ。
「……タカツキ」
 ユファが、僵屍に呼びかけると、僵屍は顔を上げる。
「……参れ。今宵は……男と女になろうではないか」
 いまは、それだけで十分だと思っていた。

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