猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

蒼拳のオラトリア 最終話

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――猫の国 公文書館


「ありました、主任!」
 特別な許可をもらい、以前の奇怪な光を発した落ち物に関する記述を求めて資料を探す調査隊の
主任のもとに、副主任がある資料を手に勢いこんでやってきた。
「騒がしいぞ副主任……間違いないのか」
「ええ、それらしい記述が55年前のものに」
 副主任の開いた資料に目を通す。
「こいつは…」
 主任はそれが、たしかに当たりであることを確信して息を飲んだ。


――内容は以下の通り。

 55年前、公海上を航行中の武装商船『お前のものは俺のもの』号が進路上に緑色の発光現象を
確認。光の中から、突如巨大な鉄の軍船が出現した。
 奇妙なことに軍船にはヒトの姿しかなく、漂流奴隷と判断した船長の号令により略奪を決定。
 交戦状態に陥った数分後、軍船は出現した時と同じく緑色の怪光を発生。白兵戦の為乗り込んだ
数名の乗組員ともども、完全に消失した。以後、それらの消息は不明である。


「鉄の軍船……間違いない、同じ現象だ」
「しかし、前回はヒトを乗せて、今回はほぼ無人で現れた…それも陸上に。一体どういうことなん
でしょうか?」
「わからんな…まったく」
 主任は、不可解な記述に頭を抱えた。彼に追えるのはどうやらここまでだった。


 …一方その頃、薄暗い青龍殿の廊下を進む影があった。
 MB-5……謎のすべてを知る人型の機械。その目には怪しい光が宿っていた。
「お待ちなさい、どこへ行くつもりですか」
 異状に気付いた女官が、その前に立ち塞がる。
≪道をあけて下さい。帰還シークエンスにおいては、すべての機能の使用が許可されています≫
 そう冷たく宣告して、MB-5は小さな掌を女官に向けかざした。



  蒼拳のオラトリア 最終話「あなたが、ここにいてほしい」



  ずどがぁんっ!!

 突然大きな衝撃音がして、風呂から出て着替えていた俺は竦みあがった。
「なんだあ!?」
 ズボンは穿き終えていたので、俺はTシャツを被りながらあわてて廊下に飛び出す。
 同じく音に驚いて出てきたらしいトリアと鉢合わせする。
「何、今の…!?」
「さあ、向こうの方から聞こえたような…」

 振り向いた先から、なにかが飛来してきた。

  ぶおんっ!

「どわあっ!?」
「くっ…!」
 トリアに更衣室の中に押し戻されることで、すんでで二人ともそれを回避する。
「な、なんだったんだ…って、女官さん?」
 廊下におっかなびっくり顔を出すと、飛ばされてきたのは女官さんだった。勢いのまま床の上を
転がったらしく、あちこちに擦り傷ができている。
「ううっ…に、逃げてください…」
「逃げるって…」
「ミナミ、あれ…!」
 トリアにうながされ、俺は女官さんが飛ばされてきた方の廊下の先を見た。
「え…ぽんこつ…?」
 不気味にカメラ付近を光らせたMB-5が、そこに立っていた。じゃあ、あいつが女官さんを…
いやそんなバカな、あのサイズでそんなパワー出せるはずが…。
 パニクってる俺に、ぽんこつがあの合成音声で告げた。
≪ミナミさん、お迎えにあがりました≫
「え…?」

『いかあんっ!!』

「うわっ!?」
 突然、頭の中に龍王様のでっかい声が響き渡った。
「なっ、り、龍王様!? どっから、どうやって!?」
『そんなことはどうでもええ、そやつから離れるんじゃあ! そやつは戦闘用の機械人形じゃ!』
「はあっ!?」
『今、女官が吹っ飛ばされるのを見たじゃろが! そやつは『手を触れずに』それをやってのけた!
魔法とも違う、わしのしらん力じゃ…そやつは危険すぎる! 逃げるのじゃあ!』
「そ、そんなこといわれてもっ!」
 もうそいつは、俺のすぐ目の前にきてるんですよおっ!

≪すべてのプロテクトは解除されました。ワタシの任務は『異世界への到達と情報収集』…そして、
『異世界に落ちた人類の発見、および救出』です≫
 なん、だって…?
 トリアと二人して、呆気にとられながらぽんこつの言葉を吟味する。え、『到達と情報収集』?
『人類の発見と救出』だって?
≪『フィラデルフィア実験』を知っていますか?≫
 唐突に、話題がまったく予想もつかない方向に飛んだ。
「え、あ、ええっと…なんか、レーダーから消える実験をしてたら、軍艦が文字通り消えちまった
ってやつだったっけ? 間違ってワープしちまったとかどうとか…」
 なんかそんな映画があったような気がするので、俺はあやふやな記憶のままそう答えた。
≪大筋で正解です。1943年10月28日、ニコラ・テスラ博士の提唱したレーダー撹乱システムの実験
のため、駆逐艦『エルドリッジ』を使用した初の人体実験が行われました。…もっともその理論は
実際には間違っていて、レーダーから消えることはできず、船体消磁によって磁気機雷からの回避
が期待できる程度であろう……と、当初担当者たちには思われていました≫
 俺はごくりと唾をのんだ。
≪しかし、実際に起こった現象は彼らの想像をはるかに凌駕した現象でした。エルドリッジの船体
は突如緑色の発光現象に襲われ、実験関係者の眼前で、乗組員もろとも完全に消失したのです≫
「緑色の発光現象って…!」
 あの軍艦と同じ現象…!?
≪都市伝説では、このとき別の海域にエルドリッジが瞬間移動したことにされています。しかし、
実際には数分間、エルドリッジは完全に我々の世界から消失していました。そして数分後、実験場
にふたたび姿を現したエルドリッジには、予想だにしなかった『招かれざる客』が乗っていました。
それは我々に、たしかな異世界の存在を示唆するものでした≫
「その客って、まさか…」
≪そう……獣人です。驚いた担当者たちが彼らをようやく鎮圧した頃には、乗組員の大半が彼らの
圧倒的な力と未知の『魔法』によって負傷、あるいは死亡していました。無事だったのは、機関室
にこもっていたため彼らの発見を免れた数名の技術者だけだったそうです≫
 なんてこった…。
≪獣人と異世界の発見という事実を隠すため、フィラデルフィア実験には様々なカバーストーリー
が用意され、風説として流布されました。そしてプロジェクトは『異世界への到達と探査』という
新たな目的に向かって、その名を『モントーク・プロジェクト』と改めて続行されたのです≫
「モントーク・プロジェクト…」

≪そしてワタシは、その尖兵たる探査ロボット。『モントーク・ボーイ ナンバー5』です≫

 なんとなく沈黙があたりを包んだ。
 そして、口を開いた俺の第一声は…、
「…ださっ!」
 だった。
 なんだよそれ、引っ張ったわりにひねらなさすぎだよ! もう少しセンスってもんがないのか、
センスってもんが! ジャパニメーションで勉強しろとまではいわねぇけど、せめてもっとこう、
神話的なネーミングとかなかったのかよ『モントーク・プロジェクト』!

≪ださいとはなんですか、ワタシの開発者が夜なべして考えてくださった名称をあなたがとやかく
言う筋合いはありません≫
 声だけ聞くと冷静そうだが、セリフからするとかなり激昂してそうな感じでモボ野郎がばたばた
抗議するような動きをした。もうこいつモボ野郎で決まりな、モントークボーイとか恥ずかしくて
俺にはムリ。もしくはナンバー5だからジョニー5。理由が知りたい人は勝手にぐぐれ。
≪とにかく、ワタシといっしょに来ていただきます。こちらの世界の情報源としてご協力を願った
暁には、あなたの母国にプロジェクトの責任をもってお帰しいたします≫
「え、いや、それは……ていうか、帰れるのか!?」
「くうっ!」
 そのとき、床にうずくまっていた女官さんが、最後の力を振り絞って短刀を投げた。
「っ……なっ!?」
 俺とトリア、それに投げた女官さんが息を飲む。
 投げた短刀は、空中で静止していた。モボ、あるいはジョニー5は、落ち着き払った様子で掌を
構えていた。こいつが…止めたのか?
≪ある科学者の偶然の発見が、エルドリッジを襲った怪現象の根本的な原因を突きとめ、そのこと
によって『モントーク・プロジェクト』は飛躍的な発展を遂げました≫
 ジョニー5がぎぎぎっと掌を握りこむと、その動きにあわせて短刀がねじれ、遂にはねじ切れた。
「ち、超能力…!?」
 こいつ、機械じゃなくてサイボーグだったのか!?
 しかし、その言葉にジョニー5がゆっくりと首を振る。
≪いいえ、超能力ではありません。これは『ハチソン効果』と呼ばれる現象です≫
 そういってふたたび掌をかざすと、女官さんの体がふたたび宙を舞った。
「うあっ…!」
 掌の十センチほど手前の空間で磔にされたように固定された女官さんが苦痛の声をあげる。
≪磁場により零点エネルギーを励起することによって、一見超常現象にもみえるさまざまな現象を
引き起こす……エルドリッジもまた、零点エネルギー励起現象によって異世界に転移したのだと、
我々のプロジェクトは突きとめたのです≫
「っ…やめなさい!」
 トリアが女官さんを助けようと躍りかかる。しかし、ジョニー5は掌をトリアさんに向けると、
女官さんを『射出』した。
「あ……ぐっ!?」
「トリアっ!!」
 咄嗟に女官さんを受け止めたトリアが、勢いにおされて床を転がった。
≪このように、物体の運動に自在に作用することも可能になりました。いまだ研究途上ですので、
不安定な部分も多いのですが≫
「てめえっ、なんてことしやがる!」
≪ワタシの現在の任務は『人類の救出』です。現地人の安否は関知するものではありません≫
「ッ…!?」
 その時、こいつの記憶していたというコマンドのことが脳裏を駆け抜けた。

――現地の人間とは極力接触をさけよ
――人類が確認できた場合には可能な限り接触せよ

 …そうか、そういうことだったのかよ。
 こいつにとって『現地の人間』とは人類を意味していない。つまり、獣人のことだったんだ…!

「トリアっ!」
 そこに、フーラとノーマさんが駆けつけた。
「このぽんこつ人形っ、あたしのトリアになんて真似を!」
「よせフーラ! お前の力ではこいつには勝てない!」
 無策に飛び出そうとしてノーマさんに止められるフーラの前で、トリアがゆらりと立ち上がった。
「ミナミを…返してっ」
≪なぜです≫
「それは、だって……私は…」
 縋るような目が、俺を射抜く。
「あなたが、ここにいてほしい」
 ああ、それは俺だってここにいたい。けど…!
≪無駄なこと、貴方がたに関する情報はすでに収集済みです≫
 ジョニー5が頭部に内蔵していたらしいフラッシュライトを点灯、眩い光がトリアとノーマさん
を襲った。まずいっ、そういやさっき遮光器を落として…今のトリアには遮光器がない…!
 しかし、目を覆いながらもトリアが叫んだ。
「フーラッッ!!」
「おまかせっ!」
 フーラが息を大きく吸いこむ。胸が胸郭を無視して膨らみ、そして、フーラは黒い霧を噴射した。
 これって、タコの墨…なのか?
≪おおっ≫
 黒い濃霧があたりを覆い尽くす。フラッシュライトは霧に閉ざされトリアたちに届かなくなった。
 そうか、これなら…!

――拘束解除(ブレイク ザ チェイン)!

「――ブロークン・サンダーッ!!」
 霧を引き裂いて、裂帛の気合とともに…トリアの一撃が…!

≪ですが、結果は同じです≫

「…がはっ!?」
 霧が晴れたとき、そこにあったのは…空中に磔にされたトリアの姿だった。
「トリアっ!」
「…ミナ、ミ…」
 苦痛に耐えながら、こちらに手を伸ばそうともがくトリア。
≪残念ですがここまでです≫
 ジョニー5がトリアを壁に向けて…。

「やめろっ!! …わかった、どこにでも連れていけっ…!」

「…ミナミ…」
「だから…トリアは、離せっ…」
 俺の絞り出すような声に、ジョニー5は無言で力場を解除した。どさりと、支えを失ったトリア
の体が地面に落ちる。
「トリアっ!」
 フーラが駆け寄って、トリアを抱き起こした。よかった、なんとか大丈夫そうだな…。
≪それでは、転移を開始します≫
「…ああ…」
 力なく頷くと、ジョニー5は全身のカバーを開き、無数のコイルを剥き出しにした。
≪全テスラコイル、出力最大……次元転移モード・ON≫

  ヴゥゥ――……ンッ

 ジョニー5の全身のコイルがパチパチと放電現象を起こし始め、やがてあたりに、見覚えのある
緑色の発光現象が発生した。床から湧きあがるように起こったそれは俺とジョニー5の体を包み、
体がふわりと浮き上がった。
「迷惑かけたな、トリア……フーラにも」
「謝らないでよ…このバカ…」
 フーラが悲痛な顔で俺を見上げる。
 その時だった。

「あっ、トリア…!?」

 一瞬だった。
 起き上がったトリアが、ジャンプして俺の体に抱きついていた。
「バカっ、実験動物にされちまうぞ!」
「いいの…ミナミのそばに、いたいから…」
 まったく、この人は…。
「仕方ねぇ…こうなりゃ、二人でモントーク・プロジェクトとやらをぶっ潰しちまおうぜ!」
「…うん!」

「トリアーーーーッ!!」

 フーラの絶叫が耳に届く前に。
 俺たちは、この世界から転移していた。



――そして、半年がすぎた…



「またここにいたのか」
 ノーマの声が聞こえたが、それでもフーラは海を見ていた。
 あの二人が暮らした砂浜。駆け抜けるような一ヶ月近くのことを思い返し、フーラはただ静かに
そこに佇んでいた。
「…ここにいれば、あの二人が帰ってくるような気がして」
「うん…そうか…」

 二人はミナミの世界に辿り着けたのだろうか。辿り着いて、今も問題のプロジェクトを叩くため
戦っているのだろうか。
 …あるいは、敗北してしまったのだろうか。単なる尖兵が、自分たちを凌駕する力を持っていた
のだ。勝算があるとは言いがたい。

 だけど…きっとあの二人なら大丈夫だろう。なぜだかそう思っ


  どばっしゃあああああんっ!!


 突然、目の前に水柱が立ってフーラはずぶ濡れになった。
 茫然としていると、水柱の立ったあたりから間抜けな合成音声が聞こえた。
≪うわああ、水だああっ。壊れてしまう、たすけてえ≫
 その声に厳しくつっこむ声も聞こえた。
「この間改良して平気になっただろうが、だぁほっ! ったく、さんざん寄り道しやがって、この
ポンコツ・OF・ポンコツが!!」
≪うわあ、たすけて、機械人権侵害~≫
 そして、とても懐かしい声がそれに続いた。
「不毛な喧嘩はよしなさいってば……あ、フーラだ。ただいま、フーラ!」
 ぱくぱくと口を開け閉めしているフーラの元に、海から上がってきたトリアがにっこり微笑んだ。
 その眼は大きなサングラス(ターミネーターとかいうのがしてるのに似てる)でしっかりガード
され、ライダースーツかダイビング用のウェットスーツのようなぴっちりした服を着ていた。
「いやあ、このポンコツのおかげでひどい目にあったぜ……元の世界に全然帰らずにヘンな世界に
ばっかり飛ばしやがって!」
 その後ろから上陸したミナミも、革ジャンにぴっちりしたタイツのような服を着て、ジャングル
ブーツを履いていた。なんだか以前見た時に比べ随分たくましくなったようにもみえる。ついでに、
腰にはなぜか日本刀を差していた。
≪申し訳ありません。もう一度この世界を基点に転移をやり直しますので…≫
「もういらんわっ!!」
 ぱこんっと殴られるMB-5も、細かい意匠がだいぶ違ってしまっていた。ランドセル部分から
突き出してる取っ手のようなものは、まさか武器なのだろうか。あまり深く考えたくはない。
「ごめんね、ここまで帰るのに五年近くかかっちゃった……あ、でもそんなに浜が汚れてないね」
 のんびりと言うトリアに、フーラはついに感極まって抱きついた。

「おかえりっ、トリア……!!」




――同時刻
――モントーク キャンプ・ヒーロー基地


「帰ってこんのぅ…」
「ですねぇ」
 予定日をはるかに超過してしまったカレンダーを見ながら、あの現場責任者のご老人はため息を
ついた。
「今回も失敗かのう。すまんなぁ…わしの生きておるうちに、お主たち夫婦を『元の世界』に還す
こと…かないそうにないわい」
 肩を落とす老人に、給仕の姿をした女性は微笑んで言った。
「いいえ、お気になさらずお坊ちゃま。私たちにはまだ時間がありますし、それにこっちの世界も
これで結構気に入ってますのよ?」
 機嫌がよさそうに、その女性は『虎縞の猫耳』をぴんぴんっと撥ねさせた。
「…わしゃもう70過ぎじゃ、ええかげん坊ちゃんはやめてくれんか」
「私たちの年齢からすれば、ほんの坊やですわ」
「やれやれ…この調子じゃと死ぬまで坊ちゃんじゃなぁ」
 奇妙な主従のティータイムは、とても穏やかにすぎていった。



(おしまい)

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