猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

太陽と月と星10

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

太陽と月と星がある 第十話


 
 外もだいぶ暖かくなり、早咲きのたんぽぽが綿毛になる頃。
 
「おかえりなさい…御主人様?」
「ん~…」
 ある雨の日、出掛けた筈の御主人様が早々の帰宅しました。
 半ドンです。お昼用意してませんよ。
「どこか、具合が悪いんですか?御飯は召し上がれますか?」
「…食う」
 どうも目の焦点が合っていない雰囲気です。
 ヘビって、雨の日も雪の日みたいになっちゃうものなんでしょうか…。
 気だるそうな御主人様というのも、それなりにそれなりな感じで…まぁ…役得ですが…。
 因みに私は「雨の日はネコ来ないからお休み」との事でエセナース休業です。
 チェルもサフも遊びに行っちゃったみたいだし…。
 きっと二人とも全身泥塗れで帰ってくるんだろうなぁ…、
 ヒトなら雨の日に遊ぶなんで考えないのですが、こちらの子供は元気が有り余っている分、天候に左右されていません。
 左右されるのは、洗濯物だけです。
 洗濯物を綺麗に乾かす魔法…って無いのかなぁ…。
 あっても使えないから一緒ですけど。
 
 先日やっと手に入れたお米…期待よりもだいぶパサパサで長めのヤツ…の冷凍御飯を解凍しつつ、フライパンに油を敷き、溶き卵を流し込み、火を通してから解凍した御飯を入れて薄めに塩胡椒、あり合せの野菜のミンチを追加、最後にニャバラ黄金のタレという胡散臭さ満載のソースを入れて、手抜きチャーハンの完成です。
 御主人様も居るので、野菜のミンチを流用した中華風スープもつけてみたりして。
 チャーハンだからそんなに熱くないし、スープも温くしたからバッチリなわけですよ。ヘビなのに猫舌な御主人様にも!
 妙にぺったりしている御主人様を椅子につかせ、作り置きの惣菜とスープとチャーハンを並べ、私もその向かいに座ったりして。
 よく考えたら、御主人様と二人で食事って、初めてじゃないだろうか?
 いつもはサフやチェル、もしくはジャックさんが居るわけだし…折角だからじっくり観察しておこうと思い食べながら様子を見ていると、御主人様と目が合いました。
「お味、どうです?」
「コレが美味いな」
「それは良かったです」
 御主人様がフォークで刺した紫色の物体…。
 それは先日とうとう巡り合えた狐の雑貨屋さんで買った柴漬けです。
 ちなみに雑貨屋さんでは注文すれば、本国から仕入れてくれるそうなので色々入荷待ち状態です。
 和食にあうお米とか、大豆とか、醤油とか味噌とか小豆とか…納豆とか。
 楽しみ過ぎて最近不眠気味です。どうしよう。

  ***
 
「御主人様?」
「ん~…」
 コレは発見です。
 雨の日は気温が低いので、御主人様も動きが鈍いようです。
 寒いのか、やけに距離が近いです。湯たんぽ代わりですか?全然構いません。
 ご飯も食べ終わり、夕食の下ごしらえも終わると後はできる事も無く…暇です。
 御主人様も暇なのかだらりとしています。訊ねても生返事です。
 というわけで、私は字の勉強と称した読書です。
 英語が苦手だった私が、こんなに早く文章を読めるようになるとは思いませんでしたが…ジャックさんて教え方上手なんですね。
 本は、ジャックさんお勧めのペーパーバックです。
「これ、なんだ?」
「闘(トウ)・愛(ラブ)ル という本です」
 猫少年が犬の国で格闘修行をしつつ女の子にモテまくりという…ご都合主義小説です。
 犬国の風俗が書き込まれつつ、様々な種族の女の子が出てくるのが人気の秘訣らしいです。
 マッド科学者な幼馴染猫少女とか。
 ライバルの犬マダラ少年とか。
 剛毅でスレンダーな虎少女とか。
 ツンデレヘビ少女とか。
 剣の師匠のカモシカ姉妹とか。
 巨乳でストイックな狼娘とか。
 兎の美熟女とか。
 ミステリアスな狐巫女とか。

 
 …ダンディーな犬主人とラブラブなヒト女性とかが出てきます。

 
 べ、ラブラブなんか羨ましくないもん。
 本当に、全然。私だって、優しくされてるし、御飯食べられるし無理強いされないし。
 これで幸せじゃなかったら、相当な我侭だ。だからラブラブなんか全然羨ましくないもん。
 …字だって教えてもらえるもん。
「ここ読み方が判らないので、読んで頂けますか?」
 御主人様今凄い嫌な顔しました。
 肩に顎載せられているので確認できませんが、間違いありません。
 指したのは、ダンディーだけど脳味噌ピンクな犬主人がヒト女性を口説いている箇所です。
 指したのは、読めない単語があるからで、別に深い意図はありません。
「人差し指を頬に…」
「いえ、その隣の」
 あ、溜息つきました。
 首筋が気になります。
 髪留めを取られ、髪の毛が解けている所為です。
 取りあえず、スカートの裾直しておこう…。
「君は薔薇のように香しく、百合の様に清らかだ」
 棒読みです。
 エライ勢いで棒読みです。
 おまけに尻尾で首筋ざりざりされました。冷たいです。
「かぐわしい、ですね。わかりました。ありがとうございます」
 たかが台詞なのに凄い反応です。
 そんなに言うの嫌ですか。
 本当はもっと長いのにはしょりましたよね。
 ジャックさんと違って、御主人様は好みの女性にしかそういう事を言わないんだろうなぁ…あ、それが普通か。
 落胆しつつ、ページを捲ると情事シーンでした。
 若年層向けライトなノベルだと思ったのに。
 ジャックさんお勧めだからか、そうなのか。
 凄い汁ダクです。ヌルヌルエロエロです。
 凄いなぁ…フィクション…男は穴があればいいわけだからあるかもしれないけど、女側はほぼ演技ですよね。あんなの薬とか使わなきゃ……痛いだけだし。
 あー…でも隣の部屋の子は…まぁ、どうでもいいです。
「ページ飛ばすな」
 読んでたんですか。
 耳元でそんなどうでもいい事を囁かないで下さい。困ります。
 ページを戻して、ちらりと文章に目を落すと相変わらず凄いラブラブでした。
 しかも子供がどうのとか嫁がどうのといってます。
 どうやら結婚するらしいです。
 本の中だからヒトと人の間でも子供が出来る薬とかあるみたいです。
 …正直、作者の顔を見てみたい。夢見すぎ。いいのか、創作だから。
 その後は、主人公と幼馴染ネコ少女と延々いちゃついてます。
 いつまで続くのピンクページ。
 正直、ちょっと苦痛。
 御主人様は普通に読んでるみたいだし…。
 …御主人様、こういうの好きなんだ。
 …ヘェ…もっと堅い人だと思ってましたけど……ふぅん…
「官能的ですよね、発情します?もし宜しければ抜きますけど」
 視線を落したまま訊ねると(肩に顎載せられているので振り返れないのです)重さが引き、振り向くと至近距離の美貌が固まってました。
 目が大きく開かれ、瞳ははいつもと違う鬱金色…キケンなサインです。
 攻撃色です。絡んでいる指が痛いです。
 尻尾がうねり肌に鱗の感触が伝います。
 色々な意味で鳥肌が立ち…堪りかねて、私はその場をフォローするために口を開きました。
 
「…なんちゃってーうっそぴょーん」
  
 ジャックさんの嘘つき…こう言えば御主人様怒らないって言ったのに……。
 いや、御主人様の許容範囲外の分際で下世話な事を聞いた私が悪いワケですが……。
 前職がアレだし、ジャックさんがアレだからつい同じノリで…すみません言い訳です。
 痛むこめかみを撫でつつ、御機嫌をとる為に御主人様好みの超濃い目のコーヒーを用意し、私はそれに大量のミルクと砂糖を入れたものを用意しました。
 おやつはどうしよう。
 生クリーム塗って「デザートはワタシ(はぁと)」ってバカ。
 久しぶりに読んだ娯楽小説のせいで気持ちが高揚しているようです。
 だって、エロシーン多いけど、他は普通に面白いし。
 けどさっきの今でこんな事言ったら張り倒されるの請け合いです。痛いのは避けたいです。
 ちょっと落ち着こう、自分。
 アレです。御主人様がいつもと違ってぺったりしてるからです。
 素直に湯たんぽとしての役得だと思っとけばいいものを、なんとなく期待してしまうから不興を買うわけで。
 御主人様の様子を伺うと、御主人様はソファーを占領し本を読み耽っています。

 私が読んでたのに……。
 そういえば、何で今日に限って早かったのか聞いて無いや。
 見るだけで胃が痛くなりそうなコーヒーを手渡すと御主人様がこちらを向きました。
 目が普通になってます。
 もう怒っていないようです。
「今日、どうかなさったんですか?」
「今日?」
 御主人様って、なんでこう美形なんでしょうね。
 美形じゃないマダラの人が居るかどうかは知りませんが。
「普段よりもお帰りが早いようなので」
 私が休みだったからいいものの…下手するとまたカエル料理の可能性がありました。
 自分が早いときにまた作ると宣告をされた恐怖はまだ生々しいです。
 危険です。全力で避けたい所です。
 その辺はジャックさんの同意を得ています。サフも全面協力してくれるそうです。
 持つべきものは同じ感性の持ち主です。
 御主人様はコーヒーを一口飲んでから目を細め、ネコは雨が嫌いだからな、と言いました。
「清清しいほど学生が居なくてな、留学生と講師だけじゃ授業にならんので臨時休講になった」
 …休講、留学生…
「御主人様って、学生だったんですね」
「逆だ」
「え、先生?」
 うわー!知らなかった。
 御主人様が教壇に?授業にならないでしょう、容姿的な意味で。
 見蕩れてノートとか書けませんよ!
 あー…だからトカゲ男で外うろついてるのかな?
 そのままじゃ動く誘蛾灯ですもんね。大変です。
「どうしてまたネコの国に…」
 ヘビならヘビの国やもっと南の方が過しやすいと思うのですが。
 …あ、どうやら聞いてはいけない事柄だったらしく、御主人様が無言です。
 ヘビの国って、紛争が絶えないんだっけ…色々あるんだろうな。
「やっぱりなんでもないです。お菓子持ってきますね」
 先生かぁ…、道理でサフやチェルに色々教えてると思った。
 いいなぁ学校。
 せっかく先輩と同じ高校受けたのになぁ…。
 先輩、元気かなぁ…恋人とか、出来たんだろうなぁ…
 
 今日のお菓子は近所でも有名なお店のリンゴパイです。
 美味しいです。
 嬉しいので大事に食べていると、御主人様がぼそりと。
「俺の分も食え」
「いいんですか!?」
 二倍です。美味しいです。太るなーコレは。でも仕方ありません、別腹ですから。
 御主人様は、相変わらずぼーっとした様子で本を捲っています。
 ときどきこちらを見るのはなんなんでしょうか。やっぱり食べたいのかな。
 でも残念ながらコレが最後の一口です。
 名残惜しく指についたジャムを舐めると、何故か頭を撫でられました。
「そういえば、御主人様は学校で生徒さんになんて呼ばれているんですか?がっくん?やっぱりガエスタル先生?」
 ヘビよりもネコの方が数倍寿命が長いわけですから、生徒の方が年上というのはありそうです。
 口調とか、大変そうですよね。
 返事が無いので顔色を確認したら、また無言で固まっていました。
「御主人様?」
 あ、動いた。
「もう一回言ってくれ」
「生徒さんからの呼ばれ方って、ガエスタル先生なんですか?」
 目線が横を向いています。
「そっちじゃない方だな」
「がっくん?」
 愛称呼びの先生かぁ…学校ではフレンドリーなんでしょうか。
 御主人様は妙な雰囲気になっています。
 余計な事を聞いてしまったかな?もしかして、…私が便宜上でもがっくん呼びしたから怒ったのかな。
 いや、そんな体育会系じゃないはずだけど、一体何が。
「キヨカ」
「はい?」
 御主人様、無表情に眉間に皺が刻まれています。尻尾が床を叩いているのが不穏です。
 相当な沈黙の後、やっと御主人様が口を開きました。
 重い空気にじっとりとイヤな汗が背中を伝います。
 なんとなくソファーの背に凭れようとしたら尻尾に当たりました。
 正直、長過ぎじゃないでしょうか。
 持て余してますよね。
 進化の法則的に淘汰される側ですよ。これは。
「俺の事、どう思ってる?」
「御主人様」
 眉間の皺が深くなりました。求めていた回答じゃないようです。
「マダラのヘビ…カエル好き…おもったより鮫肌…変温…兎の友を持つ懐の深い人…」
 尻尾が元気なく垂れてます。肩ががくりと下がりました。
 な、何が違うのでしょうか!
「面倒見いいですよね!あと器用だし!子供の扱い上手だし!」
 無言です。項垂れてます。
 褒めてますよね?これ以上言うの?手が綺麗とか?優しいとか?尻尾が素敵とか?私の性癖バレるから言いたくないですよ。ドン引きですよ。
 あと客観的な言い方は…
「美少年。オリエンタルエキゾチック美形」
 あ、反応した。
「しょうねん?」
 訝しげな表情です。反応するのそっちですか。
 美形呼びは当然過ぎてて効果無しですか。そうですか。
「オマエよりかなり長く生きてるが」
「ヒトの倍の寿命だそうですね」
 サフなんか三倍ですから、私よりも年上だけど三で割れば小学生程度です。
 そういうと、御主人様は凄く微妙な表情になりました。
 何故頭を撫でるのですか。全然構いませんが。
「俺の事呼んでくれ」
「御主人様?」
「そうじゃなくて」
「ガエスタル様」
 あ、また皺が。
「両方禁止にしたらどうなる?」
 …オティスさん、はマズイから…
「が…ガエス様?ガエスタル…さん?君?スタル様?」
 うわ、言いにく。
 御主人様は溜息をつきコーヒー飲みだしました。
 さっきまでの妙な空気は霧散しています。
 何故、背中を尻尾で叩くんでしょう?痛くないけど。
「あの…本の続き、読んでも宜しいでしょうか?」
 差し出された本にはしおりが二つ。
 勝手に読みつつもちゃんと私が読んだ部分をキープしていたようです。
 やっぱり優しい……。
 しかし読んでいる最中に尻尾巻きつけてきたり髪の毛触るのはどうにかならないものでしょうか。
 
 サフやチェルが居るときは、こんな事しないのに。

 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー