猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

笑顔のカケラ 二章

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笑顔のカケラ 二章


次の日、起きるともう太陽が高く昇っていた。
自分が寝ているのはやっぱり医務室?のベッド。
誰かいないかなと思って見回すと、昨日のオッサンが椅子に座って何か書き物をしていた。
ベッドから降りて、ぺたぺたと歩く
「おはよーす、・・・何、してるんすか」
オッサンは書く手を止めないまま答えた。
「おはよう、ちょっと、仕事をね。・・・ヒディーキ、顔は大丈夫かい?」
顔は大丈夫かって、失礼な。
「ひどいっすよ、顔はこれでも普通よりは上でー」
するとこっちをチラッと見て、遮るように言った。
「違う違う。そうじゃなくて、顔の怪我だよ・・・。その分だと、大丈夫そうだね」
それを聞いて、思い当たる。あ、顔怪我してたんだっけ。
実際、痛みは引いていたが、今はそれよりも目の前のことの方が気になった。
紙を覗きこんでみると、知らない記号っぽいものが並んでる。
「おお、何だコレ。ハハ、わかんねー。へー・・・ほー・・・、なに書いてるんすかぁ?」
「怪我人の記録みたいなもんだ。これはお前のだな。」
「ふーん、そーなのかー」
相槌を打ちながら、寝ぼけた頭でボーッと考えた。
そうかー、ここ外国だからなー、文字が違うのも当然か・・・。
でもヤダなー・・・文字が違うってことは言葉も違うのか。
てことは一から勉強しないとってことで、うわぁ英語苦手なのになあ。
あれ、でも日本語通じるよな?会話できるし・・・ってアレ?
日本語が通じてでも通じなくて英語が苦手だから文字が・・・
「君は何をぶつぶつ言っているんだい?ニホンゴとかなんとか・・・」
話しかけられて我に帰る。
「あ!!イエ、こっちの話でゴザイマスっ!」
びっくりしたので語尾がおかしなことになってしまった。
オッサンは少し首を傾げてから続ける。
「?・・・まあいいが、昨日の話は考えてくれたかい?」
きのうのはなし、キノウノハナシ・・・あ、昨日のアレか!
えっと・・・あの綺麗なおねーさんの話し相手、だっけと記憶を引っ張り出す。
あの綺麗な人と話せるのは嬉しかったので、何も考えず即答した。
「はい!やりま~す」
「嫌ならほかの仕事でも・・・って、いいのかい」
急にテンションが上がった自分にオッサンはたじろいでいたが、気にしない。
「是非、是非お願いするッス!」
びっくりした顔でこちらを見たまま、
「いや、もっと葛藤があるかと思ってたのだが。
立場は違うが、実情は召使や性奴隷とあまり変わらん。
ヒトはそういうのを好まんと聞いたもので・・・まあ受け入れてくれて何よりだ。
姫も話したがっていらっしゃったからな」
「いや全然っスよもう!」
綺麗な女の人と話せるってだけで心が躍る。
学校では、バカ扱いされてばっかりだったからな~。
男友達とツルんで騒いだり、女子にからかわれたりで結構楽しかったけど、
ちょっと真面目な話しようとすると、
「うわ、何、ヤーモ、風邪でも引いたか」とか、
「明日は雪だー!!」とか、
「ちょっとキモーイ!変なこと言わないでよー」とか、
告白しても、「なに、え?あたし?まさかー、ただの友達だって。
それ以上でも以下でもない」とかはぐらかされたりでまともには
・・・いや、待てよ?考えてみりゃあアレ昼飯の時か。
周りに人がいたから恥ずかしかったのかも。まだ、とか聞こえた気もするし。
キッパリ断ったにしては顔が赤っぽかった気が、てことは何?実は両想いだった?
ヤター!でももう遅いか。
いやいやいや、新しい世界で新しい恋を探すんだ。
と、独自の思考を繰り広げている間に表情が目まぐるしく変わっていく。
不意に、腫れていた方の頬が引っ張られた。
「あにすうんでふか」
目の前の顔を見る。
「ちょっと意識がどこかに行っていたものでね」
手を離して、
「早速今から案内しようか、姫も会いたがっていることだし」
そう言われて、とりあえずうなずく。
「あ、おねがいしまーす」
「ついておいで」
そう言って、オッサンは机の上もそのままに、立ち上がった。

部屋を出て、お姫様の寝室まではすぐだった。
オッサンがドアの前に立って、
取っ手についた金具をコンコンと鳴らすと、扉に向かって声を掛けた。
「姫様、ヒディーアキを連れて参りました」
あ、この人、また人の名前を間違えてる。
「ヒディーアキじゃなくて、ひ、で、あ、き、です」
「スマン、発音が慣れなくてな。ほら、静かにしろ」
「人の名前間違えといてー」
そう口論していると、扉から声がした。
「どうぞ、お入りなさい。鍵は開いておりますわ」
それを聞いて、一拍置いてからドアを開ける。
部屋の中は、結構広い。少なくとも、さっきの診療室よりは大きかった。
豪華とは言わないが、素人目にもそこそこ高そうな調度品が並んでる。
そのなかで、一つだけ物凄く上等そうな、天蓋付きの大きめのベッドに、
あの女の人は腰掛けていた。
でも、昨日見たときとは違って、それこそ風が吹いたら倒れてしまいそうな、
可憐とかじゃなくて弱々しい、そんな言い方が正しいような、そんな感じ。
そんな『お姫様』はまず、自分に声を掛けてきた。
「お怪我は大丈夫ですか?
初対面だというのに、昨日は済まないことをしてしまいました。
許して頂けるといいのですが・・・」
「も、もう大丈夫ッス。痛みも引いたし、この通りですよ。」
そう言って、頬をペタペタと叩く。
ちょっとヒリヒリするけど、気にしない。
「ほんとうにそうならいいのですが、まだ腫れは治まっていないようですし」
「ハハハ、もとは俺が言い出したことなんだから、気にしなくてイイっスよ」
「・・・わかりました。・・・貴方がそこまで言うのなら、気にしないことにしましょう。」
それから、オッサンの方に向き直り、
「ウェルドーク、貴方にも、迷惑をお掛けしました。
すみませんね、面倒事を増やしてしまって」
それに対して、部屋に入って黙りっぱなしだったオッサンが口を開く。
「滅相もございません。姫様の頼みとあらば、いつ何時でも応じます。
 貴方も姫なのですから、滅多にすみません、なんて口にするものではありませんよ」
「そうかもしれませんね。でも、これは性分ですから、今更治るものでもありません」
オッサンは軽いため息を漏らした。
「そうですか。・・・先ほど申し上げたように、今回は、ヒディアキを連れて参りました」
「ということは、承諾して頂けた、と」
女の人が、自分を見て言う。
「あ、はい、俺はいいと言いました」
なんか少し緊張してしまう。変な汗が出ているかもしれない。
「これから、仲良くしましょうね、ヒディアキ」
そう言って、こっちに笑いかけてくる。
意識していないのに、勝手に心拍数が上がってしまう。
でもなぜだ、目の中の寂しそうな光は消えない。
ただでさえ綺麗なのに、何か足りない気がした。
「こ、こちらも、よろしくお願いします!!」
とりあえず、そんな考えを振り払うように、元気良く返事をした。
「では、私は戻りますので、失礼致しました」
オッサンはそう言ってから軽く俺の背中を叩いて、そのまま退出していった。

部屋の中には俺と、あの女の人が取り残された。
何をするべきか考えて、しばらくボーッと立ち尽くす。
「ほら、そんなところに立っていないで、近くにいらっしゃいな。
 せっかく来ていただいたのですし、お話しましょう?」
そう言われて、我に帰ると、女の人が自分の傍らをゆっくり叩いてる。
ずうっとそうしているのも変だな、と思ったので近づいたけど、
すぐ傍に座るのも気恥ずかしかったので、少しだけ距離を開けてベッドの縁に座った。
「じゃ、そうさせて貰いま・・・、ってうわ!?」
腰がふわっと沈み込む。うわ、きもちいい~。何だコレ。信じられないくらいふかふかだ。
これで寝たら、いい夢が見られるんだろうなあ、なんて思う。
話す事も見つからなかったので、とりあえず自分の座ったベッドについて言ってみた。
「スゴイっすね、このフカフカ~って。ホントにあるんだ、こんなベッドって」
「ヒディアキのいたところでも珍しい物なのですね。これは」
「はい、そうっスね~、とにかく大金持ちとかじゃないと持ってないような感じで」
「私もいいと言ったのですが、お父様は寝具くらいは、と」
それを聞いて部屋の中を見回す。
「たしかに他のも高そうだけどなんかコレだけ別格っぽい」
「寝ていることが多いものですから・・・私は、こんなですので」
ちょっと言葉に陰りが・・・。あれ俺、地雷踏んじゃった?
イヤマジ?ちょっと勘弁よー。
励ましに来といてイキナリ落ち込ませたじゃシャレになんないからオイ!!
仮にもお姫様だよ?首とぶよクビ。フォローだ!フォローだよ俺!!
ここまで考えて、慌てて言葉を継ぐ。
「イヤイヤイヤイヤ、そうじゃないって、嬉しい気遣いっすよ、うん。
 お父さんも頑張ったんですよ、きっと、ベッドは一番使うだろうからって」
あ、あれ?フォローになってない?むしろ追い詰めてるよ俺っ!
「あ、そういう意味じゃなくてその」
なんだっけ?えー、あれだアレ。テレビでやってた。
「人は人生のうちでかなりの時間寝てるって、三分の一?いや四分の一だったかな、半分?
 とにかくたくさん!えっとだからホラ、それで」
大げさな身振り手振りを加えながら早口で取り繕おうとする。
傍から見ると変な踊りを踊って何か召喚しているようにしか見えない。
その時、唐突に女の人がニコ、と微笑んで言った。
「いいんですよ、分かっています」
それを聞いて、思考と動作がフリーズする。
・・・?
「今のは、少しからかってみただけですわ。ごめんなさいね?」
「はあ」
突然のことでびっくりしてるけど、とりあえず頷いておく。
だけど、少しだけ話しやすくなった気がした。



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