猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

笑顔のカケラ 三章

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笑顔のカケラ 三章


それから、多少ぎこちなかったけれど、
お互いのことから始まって、色々話をした。
始めは不安だったけど、いつのまにか忘れていた。
そうこうしているうちに、窓から燈色が差し込み、
この世界にも夕焼けはあるんだな、と不思議な気持ちになった。
そう思ったら、急に家や家族や友達が恋しくなった。
「この夕焼けは、地球と同じなんだ」
そう言いながら窓の外を見やると、なぜか頬を冷たいものが伝った。
緑も白も青も肌色も、みんなオレンジに染められて、とにかく凄く美しかった。
せめて今、この景色を思い通りに描けたら。
そう思っても、ここにはキャンバスも、筆も無い。
「辛いのですか?泣きたければ泣いてもいいのです。
 理不尽ですものね」
話しかけられ、ふにょん、というような柔らかい感触が視界を奪う。
それが何かを考える余裕もなく、目が潤んできていたが、その時だった。
「ぐううう~~~~~っくっ」
理不尽な音が、容赦なく空気をぶち壊した。
そういえば、今日まだ何も食べてなかった・・・。
慌てて体を離し、何か話題はないものかと慌てるけど、
なにも出てくるはずがなく。
「夕食はもう半時ほどでできるはずですわ。」
「あ、ありがとうございますー・・・」
いつもなら感情にまかせて
やったー!ちょうど腹減ってたんだよな~オネーサン、ありがとねー
いやーほんと、どんな料理なのかな、楽しみーイヤッホーイ!!
てな具合だけども、今はそんな気分じゃない。
取り合えず、お礼だけ言っとく。
アタマ足りないのは自分で分かってるはずなのに、何考えてんだろ、オレ。
悲しいかな、その少年の気持ちも、
持ち前の立ち直りの早さで、半時も立たないうちにどこかへ行ってしまうのだが。

夕食はそれなりに豪華なものらしかった。
もちろん、値段がどれくらいするかなんてわからないし、
材料も聞いたことのないものばかりなので、見た目だけでの判断だけれど。
コックのガールドさん曰く、
今日は新しい仲間が増えたから、いつも以上に腕によりをかけて作った、らしい。
そのおじさんはというと、かなり大柄で、顔も虎みたいなおかげで
一見モンスターにしかみえないが、
話してみると、面倒見のいいオヤジ、といった風だった。
想像してみるといい。ゆうに2.5mもあってしかも怪人顔で筋骨隆々な生き物が、
真っ白なコック衣装を着て包丁を持っている様を。もう異様以外の何物でもない。
ぶっちゃけ自分が料理されるかと思った。
この屋敷には自分も含め十人くらいしかいないから、
夕食のときはお姫様も含めて一緒の食卓で食べるのだそうだ。
全員がそろうと、なにかお祈り?みたいのをみんなでした後に食事が始まった。
あとから聞いた話だと、この地域では主な収入が毛織物、畜産や農業などで、
そのために豊穣の神だかが信仰されてるんだとか。
「せっかく皆揃っているわけだから、自己紹介でもしましょうか」
ということになり、口々に自己紹介をする。
まず自分が立って言う。
「もう知っている人もいるかもしれませんが、オレは山本英明ッス
 異世界から来た、ってことらしいです」
次はさっきのトラの人だ。
「俺はガールドだ。この屋敷でコックをやってるが、非常時には戦闘もするな。
年は190。料理なら誰にも負けねえと自負してる」
次の人は医者のオッサンと同じく、頭に丸い角があった。
「私はテュールと言うものです。ここの警備担当です。以上」
そしてその横の人。筋肉質な女の人だ。
「同じく警備担当のぺルセインです。すみませんね、こんな人でして。
 悪気はないんですよ」
そして医者のオッサン。
「魔法医のウェルドークだ。ウェルでいい。もう話したからわかるよな?」
「助手のタフミルです!!先生には劣りますがそこそこの治療ならできます!」
そしてメイドさんっぽい人。結構年はいってそうに見える。
「私はベルリアと申します。以後お見知り置きを」
何か独特の雰囲気を持った人だ。
もう一人のメイドさんは若い人だった。自分と変わらないか、少し上の外見だ。
そばかすがあるけど、それを差し引いても可愛いと思う。
「メリーと申します。メイドをやっております。
 一緒に頑張りましょうね、ヒデ、アキさん」
頑張ってしっかり発音しようとしているのがちょっと嬉しかった。
一通り回って、最後にお姫様の番。
「初めて会ったときにも言いましたが、シンシアです。一応、この館の主人になります」
あ、名前忘れてた。シンシアさんだ。
あぶねーあぶねー。名前出てこなかったなんて言えない。
今度はちゃんと覚えとこう・・・。
とか考えつつ、相槌を打った。
改めて、ぐるりと全員を見回してみると、一人だけ虎の怪物っぽいのがいる以外は
みんな耳が似た感じの、コスプレした人間みたいだった。
みんな結構イイ奴で、そのまま自然に話が弾んでいった。
相変わらず、シンシアさんはあまり笑わなかったけれど。

ここでの初めての食事で出てきた料理は、どれも知らないものだったけれど、
特にあの肉料理、何だったっけ、ワッフーだったかモッフーだったかのやつはうまかった。
こってりしてるんだけどしつこくなくて、あの肉汁がどうすごいかわかんないけどすごくて、
なんて言ったらいいか分かんないけど、とにかく、うまかった。
さっきのことを思い出しながら、とりあえずベッドに横になる。
この部屋が空いてるから使うといい、とあてがわれた部屋。
机が一つとベッドだけで、他は何にもない。
でも、家の自分の部屋よりは広かった。
「近いうちに必要な家具は運び込むから、何かあったら言ってくれ」
と怪人コックが言ってたなとぼんやり思う。
がらんとした部屋を見回して、ふと、オレみたいだな、なんて思った。
どこがかなんてわからない、ただ漠然と、そう思っただけ。
気分が沈んできたのに堪えられなくなって、思考をトリップさせた。
考えてみたらここファンタジーじゃーん、それって凄くね?
剣と魔法、召喚、俺ここに来たってことはもしかしてヒーロー?
そんで色々あってお姫様と仲良くなってアレして・・・よし、なんて
こうしちゃおられない、オレの力は?なにかあるんじゃないか?
こう何か、反則的なのが・・・。
ここまで考えて、いくつか確かめてみることにした。
まず服を全部脱いで、身体のどこかに痣や傷はないか、もしくは印がないか見てみる。
鏡がなかったので見れない部分があったが、無いようだった。
次はぶつぶつ呪文っぽいのを唱えてみる。
何の脈絡もなく色々言ってみたが、何も起きなかった。
よし次、今度は瞑想をしてみる。
なにも考えずに、ポケーッとしてみる。
・・・涎が垂れそうになっただけで、何も起きない。
心の中で色々叫んでみる。
―――どことなく空しいだけで、何も起きない。
ひたすら[シークレット]な妄想をしてみる。
///ちょっと元気になっただけで、何も起きない。
世界のどこかにいる敵に向かって、シャドーボクシング。
馬鹿らしくなってきた。
いいかげんやめようかなと思っていると、ガチャリと音がした。
「せっかく休んでいるところ、少し頼みごとがぁ・・・・・・すみません」
バタン。
今のは確か、メイドさんの・・・そばかすの子。
そこで気付く。やけにスースーするな。あ、オレ、全裸じゃん?
これはひどい。慌てて服を着てドアへ走った。
「あ、ちょっ、アレは違うって、で、頼みってなんスか」
「あー、あったんですけど、やっぱりいいです、ごゆっくりどうぞ・・・」
あれー、目、合わそうとしないよ?最後の方、声、消えかけてるよ?
つーか顔赤いよ?ひきつってる気がするよ?
誤解だ、誤解ですおねーさーん。
「あ、ワカリマシター」
それ以上何も言えず、自分の部屋にまわれ右。
明日からどうしようか。
・・・いや、どうにかなる。なるんだヨ、絶対。
そう思わないとどうしようもない。
しょうがないので、さらなるファンタジーの世界へ逃げることにした。



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