猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

首蜻蛉 四話

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首蜻蛉 四話


トンボは演劇に対して強い興味を示します。正確には『ヒーローもの』です。
どれくらいかというと、落ち物で絵本が見つかると真っ先に僕のところに運ばれ、ヤゴ(トンボの幼体)の情操教育と称して朗読をせがまれます。
むしろ大人達のほうが熱中して「そこだーッ! やっつけちまえーッ!」とテンション上がってます。
正義が勝つ、という概念は『つまり強い大国が勝つのよね』と解釈されるので、もっぱら悪役のほうが人気です。
これはトンボが『最大国家:猫の国のド真ん中にある』という事情と、過去に攻められた記憶が関係しています。
世界地図でいえば、猫の国は地図上から見ると『猫女性の横顔』に見えるのですが、その『目』の部分にトンボはいます。
目の部分はクレーターになっており、周囲とは絶壁により隔離され独自の生態系を持つ「陸の繋がったガラパゴス」となっています。
移動はできません。なぜなら、トンボ魔素は特定の植物のみが分泌し、そして空気より若干重いためクレーターに留まります。その環境は『ここ』のみだからです。

 トンボのことを「ただの虫」と侮り、不意打ちで人口の数割を削った猫の国を脅威と捕らえ、トンボを中心に虫達は結束します。
トンボ魔素に任せて攻撃したものの、軍を持たず統率も訓練も無かったため、ネコを追い出したときには人口が半減。
ていうか軍備化もせず急ごしらえで30倍のネコ軍を蹴散らすのが流石トンボ。けど追撃はできません。トンボ魔素が切れますので。
 戦後、即座に『ネコの目のようなクレーター』である地元をスッポリ覆う巨大魔法防壁を展開しました。
魔力に任せて物理的完全鎖国を実現しています。
そこから全ての住民は「魔法の出力訓練」が常識となりました。
また、創意工夫を促すことや世代継承のため、訓練から始まったものが決闘・娯楽・親子のスキンシップまでに浸透します。
すなわち「相互に安全を配慮した戦い」の始まりです。子供や友人を撃ち殺してどうするんですか。
 戦争の記憶を持つ者は、おじいさんとなり、幼少から訓練を続けた孫達が大人となったとき(インクが零れた大きな痕)
    。○
    ・。  ・。
・。      ○・
○・←ベアード達がインク壷をひっくり返した上にベタベタの体で僕の日記を踏みました。気力が切れたので続きは後日。
 …こんな足跡?なんだ。にくきうー。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~けーぶの日記より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そしてさよならだぁッ!!」
 無数の五寸釘サイズのハリが一斉に空を切りご主人様に襲い掛かります。
「アカネ様!」
「なにおぅ!」
 ッパアン!
 回し蹴りで迎撃しました。数十本の五寸釘すべてを、コスプレみたいな半分生足で、同時にです。
トンボの羽は空力学的な推進力はなく、魔力によって重力源に対して自身の干渉を調整して機動します。
反重力で浮いている、というのは1つのパターンに過ぎず、重力の方向を捻じ曲げて推進したり、重力源に対して自身を固定したりまでできます。
よって踏ん張りが効かないはずの空中でも、反動を重力源…すなわち大地に対して直接転送しちゃいます。
「えー、なにそれー!?」
 流石のリートさんも目を仰天させています。
「ふっふ、あなたがトンボから射撃を学んだように、私だってあなたから格闘を学んだのよ! 見よう見まねだけど!!」
「おそるべしトンボ…でもくじけない!」
 手のひらから瞬間的に針を取り出すと(何もない空間から取り出すんですよね、魔法って)すぐさま針を投げます。
 ヒュンカッ
「なんども同じ手をおっとぉ!?」
 僕の目には早すぎて同じに見えるんですが、アカネ様が対応しきれず身をのけぞらすと、頬にカスリ傷ひとつが現れました。
「なにそれ、さっきと違って針が途中で加速したわよー!?」
「あはは、何も分からぬまま逝くがよいーッ!」
 ああ、アカネ様が悪役かと思ったら、リートさんもノリノリだった。
基本楽しんでるんですよねー。ころ試合。
「ほら次ぃー!」
「いやーん!」
 ひゅんひゅんと絶え間なく投げ続けられる針を空中で身をよじるように(ドッヂボールで運動下手な子の避け方。ゲッダンとも)避けています。
なぜか余裕があるようで笑顔を絶やさず避けています。対すリートさんは右手一本で投げています。確実に遊んでますねコレ。

「あーん、なんで加速するかわかんないー!?」
 僕はリートさんの手元をぐっと注視します。
彼女は必ず「2本」1セットで投げているようです。五寸釘サイズと、隠れるように一本の小さなクギです。
しかしアカネ様側は(身を悶えるような避け方から察するに)1本しか届いていないようです。
ふと思い当たる節があり、僕の足場となるジャンボチューリップのツボミから下を覗くと、案の定大量の小さいほうの釘が散らばっています。
「ご主人様ー! それ針を針で後ろから押して途中で加速してますー!」
「にゃにぃー!」
「む! さすがけーぶ君は鋭いなぁ!」
 リートさんが上空から僕のほうに指を刺してきます。
トンボさんはケンカに美学があるんです。ざっくばらんにいえば「演劇的なカッコよさ」です。
演出のためなら攻撃の手を止めます。あと演出中の攻撃は無粋なのでダメです。
なんというか日本のお侍さんです。トンボ社会は他国と隔絶してるのでローカルルールだからですね。
「そうよ、これはメインの針を後ろから別の針で押して加速させるのよ!」
 えっへんといわんばかりに胸を突き出して自慢げです。
ていうか高速で飛ぶ針の後ろから別の針をそれ以上の速度で正確に当てるとかどんだけですか。
「でもサブの針がどうして見えないの? 衝突で減速した後くらい見えそうじゃない!」
「それはね、不可視魔法よ! そっちのほうがビックりするじゃない。ちょっと消音魔法のほうは間に合わなかったけど!」
「うわあ、見えない弾ってセコいじゃない!?」
 セコいですね。避けゲーで透明弾はご法度です。コンボ○の謎じゃあるまいし。
「そうよ! だから透明弾じゃ直接は狙わない、弾道制御専用よ!」
「むむ。なるほど、それならセコくはないわねぇ」
 避けゲー好きは間違いなくドMなのでBOSSはダブル・ド・Sといえます。ただしサービスのSです。よってセコいかどうかは大問題です。
「でもソレさえ分かれば!」
 アカネ様はホバリング状態から速やかに体を傾け急激に間合いを詰めます。
「途中で急激に加速する弾が対応しづらいなら、あえて前に出るッ!」
 すなわち「セオリー」。トンボは圧倒的物量の幾何学的攻撃に対し極めて高いセンスがあります。
「ふふふ、かかったなおバカさんめ!」
 リートさんは2本セットから全部を五寸釘に切り替えます。そして「両手」です。
「なにッ!」
「2本セットから1本単位で弾密度2倍!それを両手で更に2倍!それに自己弾狙撃に集中する必要がないから回転率3倍!さらに距離が近くなったので密度3倍!」
「食らえ、36倍フルニードルラーッシュ!!」
 ネーミングの悪さからさっき思いついたことが窺い知れます。
「なんの、こっちにはバリアーが…ッ」
 リートさんの指から針が離れたかと思うと、なんとリートさん本人が「自分の針を追い越して」迫ります。
「たしかに針じゃバリアを破れない! けど私の拳で破れることは実証済みよ! 反撃だって来ると分かれば恐れるに足らず!」
「しまった!?」
 バリアに喰らいつくように拳を叩き込みます。
「さらにダメ押しのゼロ距離フルニードルラッシュ(片手)! 死ぬがよい!!!」
「……!!」
「アカネ様ーー!?」

 つづく



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