猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

首蜻蛉 六話

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首蜻蛉 六話


トンボにとって花の蜜は必需品ではなく嗜好品です。トンボの嗜好品が増えた理由は、主に他種の虫と交流し文化を育んだことによります。
猫国の侵攻は、決してトンボに限った話ではありません。他の昆虫集落も『行軍の邪魔』とか『物資補給の都合』とかで蹂躙されたことがあります。
穏便に通したもの、抵抗して蹂躙され辛うじて逃げ延びたもの。あと、ルート上になかったから難を逃れたもの。
『侵攻ルートを捻じ曲げさせた』規模では、ここ「猫の目クレーターのトンボ」最大です。
住処を失った昆虫達の旗印であり、トンボは同じ苦しみを味わった仲間を快く受け止めました。
元々少ない人口の半分を失い、技術者も欠け、重労働者も失い、子育ての手も教育者も足りず、蹂躙されインフラもままならない。
さらに新しい仲間のために新しい環境の整備も必要です。共同作業はいくらでもあります。

ゆえに「昆虫のルツボ」となった「猫の目クレーター」ですが、各種族は友好的に住み分けています。
理由のひとつとして、昆虫は極めて極端な居住空間を好むため、ほとんど生活スペースが被らないこと。
ヒト世界では捕食・被食関係の種族間でも、代替食があること。「殺人は罪」くらいの意識は当然あります。
各種族代表が集い、一種族一票の議会を持つこと。『虫の楽園連合』は『猫の国』が共通の脅威としてあるため、これを維持する必然性があります。
なお昆虫連合の今年の標語は「猫目にカメムシを入れてやれ」です。当然、今年の議長国の発案です。満場一致のストレート可決だったそうです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~けーぶの日記より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 チューリップといえば品種改良で花粉や花の蜜がないイメージがありますが、このマンモスチューリップたちは野生種なのか多量の花の蜜を分泌しています。
「まるで池だ…」
 分厚い花びらですが、かすかに朝の日差しを吸い込み透き通るようなドームを形成しています。その重みから頭を垂れ、ツボミの口はもはや水平になっています。
「腰まで浸かれるわよ」
 花の蜜はその花弁に溜まり、水面は半径十数メートルにもおよび蜜の色はかすかな日差しで淡く輝いていました。
ちゃぷりとご主人様が花の蜜に手をつけ指先のそれをペロペロと舐めます。手首から蜜が伝い腕を濡らしました。
「ん、熟してるわ」
 取り出したガラス瓶のフタを開け(こういうときにもハンガースペースは便利です)蜜を掬いとると。
「んじゃ、けーぶ脱いで」
 …はあ!? いや、蜜ろーしょんぷれいですかそういうのお好きなんですかまだ僕はじめてなんですけどそういうご趣味なんですかうわーんたべられるー!!
「栄養価が高くって消毒効果もあるからね。アザとかに塗ると効くのよ、てか何で頭抱えてるの?」
「いや、でもおんなのひとに体に蜜を塗ってもらうとか…」
「あーもううるさい!」
 ぱこん、と頭をはたかれました。
「…ふえ」
 グズりだしてしまった自分を、ご主人様はいつものようにすかさずハグしてくれます。そのまま耳元で、小さく囁きました。
「また、ごめんね」


 上半身だけシャツを脱ぎ、腰を下ろすと、ご主人様は背中から少しづつ蜜を塗り、揉み解します。
「こんなにもケガしてたんだね」
 ツボミの中は風が入らず暖かいですが、蜜の池からはほんのり冷気が流れてきます。
「あなたくらいの大きさのヤゴの子ならね。模擬弾を不意打ちして、驚きはするけどアザひとつつかないのに」
 アカネ様は冷たい蜜を手のひらで伸ばし、温め、やさしくマッサージをしてくれます。
「やっぱりあなたはヒトなのね」
 ぬるぬる、ぬるぬると、塗り重ねた蜜を、薄くまんべんなく背中に延ばします。
背骨から円を描き、肩と腰まで手の温もりを帯びた蜜が伸ばされ、なんだかホカホカになってきました。
「むしろ、それでケガしない理由が未だにわからないです」
 ぴく、と一瞬だけ手が止まりました。
「なんでそんなに、やわらかい手なのに」
 背中を向けたまま、そっと手を伸ばして。
「なんでこんなに、あたたかい手なのに」
 肩まできていた手を、そっと掴んで。
「トンボは、ご主人様は、強いんですか?」
 背中越しに見たご主人様は、ちょっと赤くて涙ぐんでいました。

「みんなバカ!」
 ぺちん。手で頬を叩かれた。勢いで顔が前に戻る。
「わーん!」
すぐ手がでる。でもいつもより優しかったから、痛くはなかった。
 ふと気がついたので、僕の横に置かれていたビンひとつをすばやく取り上げ
 バシャーン!
「むきゃー!!」
「しかえしだー!!」
「なにをするー!」
 ご主人様がまけじと蜜の池に飛び込み
ドボン!
 と大きな音を立て、両手一杯の蜜を投げつけてきます。
粘性が高いのでカタマリを両手ですくっては投げつけるカッコウに。
「これでも食らえー!」
「あまーい!」
 いつの間にか、二人で笑っていました。

きっと顔が赤かったのは、チューリップの赤だろう。
そんな気がした。

…涙?花粉症じゃない?
なんてね。

つづく



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