猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

首蜻蛉 七話

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首蜻蛉 七話


 人間世界ではトンボがどこで寝ているかなど不明な種も多いそうです。
この世界のトンボ族はわりとどこでも住めるようです。
アカネ様と僕が住む場所の場合、アリ族さんの力を借りて洞穴をベースに掘り進め床を平らに削り床に藁を敷いています。
さすがに玄関や客間にはクモ族さんから絹の絨毯を頂いておりますが、高級で汚れに強いけど厚みがないから岩肌で足が…。
冷蔵庫や調理器具など一見家電製品もありますが、その実はトンボお得意の魔法装甲板を応用し最も簡素な加熱・冷却魔法を組み合わせたものです。
それをトンボが定期的に触れることで無意識の魔力補充を繰り返します。
本来、魔法装甲板は術者から離れるとゆっくり時間をかけて「蒸発」して消滅します。しかし家庭機材は蒸発しないよう調整されています。
原理はよくわからないのですが、魔素が霧散しないよう時空間にコーティングをかけているそうです。
ただし、所定の位置から少しでもズレるとコーティングが剥がれ蒸発してしまいます。
不動家電のみ存在するってことですね。
…そのわりにシャワーとかがなかったり。毎朝はご主人様に連れられて川で水浴び+水汲みです。妙なところでローテク。で変なところでオーバーテク。
なんなんだトンボって。いや、虫って。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~けーぶの日記より抜粋~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 我が家のご主人様はトンボ。空を飛べます。
洞窟を加工して住んでいる我が家の一室の天井はドーム状で、その部屋の頂点に一つだけある窓から日光が差し込みます。これが玄関です。
天窓玄関には魔法錠がなされており、アカネ様が許可しない生物・物質・風・ゴミは、魔法陣の描かれた半透明の白い結界が弾いてしまいます。日光は常時許可。
その部屋でそのご主人様が天井(約15m)を額にしわを寄せて見つめています。
「どうしました?」
「いやあねー」
 ご主人様の頭の上にもっちりとベアトンボが居座っています。
「けーぶも外に出やすいように家を改築しようと思うんだけどさ、どんなのがいーのかなー?」
 そのベアードの上にさらに別のベアードが着地しました。
「…飛べない虫族基準でよろしいかと」
 次々とベアードがアカネ様の頭頂部に重なり、すぐさまトーテムポールとなりました。頂上の一匹がその羽を伸ばして天井を突いて遊んでいます。
「や、けーぶは垂直オーバーの逆立つ壁とか掴めないでしょ?」
 くるりとこちらを向く拍子にトーテムポール(15m)も一斉にこちらを見つめます。キモい。あ、数匹落ちた。
「たしかに、ご主人様って羽がなくても壁つかんで天井に張り付きますよね…」
「それが普通だから。けーぶはどうすれば自力で外出れるんだろう?」
 またくるりと視線を天井に戻します。今度は全員なんとか耐えたようです。若干揺れています。
「…ねえ、まさか『階段』って知りません?」
「なにそれ」
 僕は床に敷き詰めてある藁を使って簡単に図形を作って説明しようとしたら、アカネ様がかがんだ拍子にベアードタワーが総崩れを起こしてベチベチ当たります。ウザい。
「…えーなにそれー、賢いじゃない!」
「いや人世界では普通ですけど」
「なんで初めて家に来たとき教えてくれなかったの?」
 と言うなりすたすたと玄関に近づいて、僕が一つ息を吸う間に「格納亜空間ハンマースペース」から「屋内用ショートハンマー(2m)」を引き擦り出し、僕が隣の部屋に全速力で緊急退避し終わる前に床を叩くと。

 ボゴン!!
「みゃー!!!」
「ニョホホーイ!!」


 爆音に続いてパラパラとホコリが舞います。家、洞窟だけど衝撃とか大丈夫なの…?ベアードはいつもどおり楽しそうです。
「だからご主人様そういうことは急にやったらびっくりするじゃないですかーーー!!」
「あ、ごめーん」
 粉塵に蒸せながら玄関部屋を見ると、なんと一瞬にして「螺旋階段」ができあがっているではないですか!
その先は丁寧にも天蓋玄関に繋がっています。
「うわー!!なにこれ階段一瞬でできたんですけどー!?」
「どう? 私のアーマー作成技術応用してみたんだけど」
 螺旋階段は玉虫色で、表面が七色に輝いています。一本の円柱を機軸にプロペラ板のように段が生えています。
「昇ってみて」
 恐る恐る足をかけてみると、しっかりとした踏み応え。子洒落たマンションの非常階段のようです。
カン、カンと乾いた金属音と共に、この洞窟に射す日へと近づきます。
自分の足で外に出たのは、半年ぶりだったっけ。
「外だ…」

 まぶしさに一瞬目がくらみます。雪解けのように取り戻した視界には、熱い目頭で、ただぼやけるばかり。

 とん、と軽い足音と共にアカネ様が僕の横に着地しました。
「これで外に出れるよ、けーぶ」
「ありがとうございます…」
「…どうしたの?」
「ひっく、ひっく」
 ううっ、涙がっ。
「えー、何で泣くのー!? どこ泣くとこなのー!!? わ、私が悪いの!?」
「いえ、ぜんぜん…ぐしゅっ…でも…でも…!」
 泣き崩れそうな僕をご主人様がぎゅっと抱きしめてくれます。
「でも?」

「こんなに簡単に階段できるんだったら半年も何も言わなかった自分がバカじゃないかあ~~~」
タオル代わりにベアードを差し出されました。鼻かみました。嫌がってました。
ベアードは粗末に扱うものなので問題ありません。

つづく



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