猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

せんせい!節分ですよ!

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「せんせい!節分ですよ!」


 珍しいことになんの前触れもなくチヨコ(とおまけ)が家にやってきた。
律儀なところのあるチヨコは、アポなし訪問などしない。ということは確実に後ろの灰色の都合だろう。しかもなんだろうかこの衣装は。チヨコの服ではなく衣装。赤紫の矢羽パターン模様の上衣とそれにあわせたスカートのような下衣に両足そろって長靴。よくサバトラが義足をはかせたものだと思うが、キモノっぽいものに編み上げ長靴?
「キモノに長靴って正解なのか?」
「正解です。それとちょーかじゃなくてブーツって言ってください」
「春にむけて予約受付中です」
意味のわからぬことを言うなサバトラ。それとあまり重たい履物を履かせるな。まさかここまで歩かせてきたとか言うのか、この寒そうな格好で。ついジト目でサバトラを見てしまう。
サバトラはにやっと笑って、コートを広げる。お前のではないのか。
「チョコの外套ならここに」
外套…コートじゃだめなのか。長靴といい外套といいなにかこだわりでもあるのか。胡散臭いものを見るような表情になってしまう。
「外は冷えますからせんせいもなにか着てください」
「なんだ飯でもおごってくれるのか?」
チヨコに雪が降りそうだから早く、とせかされる。ならば壁にかけたコートもマフラーも戦闘準備ができている。チヨコも外套に包まりサバトラに担がれる。
はなれて生活し始めても、三日に一度はいっしょにチヨコとすごしている。これは、とても、うれしいことだ。昨日の昼も来たばかりだ。
「チヨコは何が食べたいんだ?」
「「恵方巻!」」
なんだそれは。おいこら、サバトラハモるな。私はチヨコに訊いたのだぞ。

 恵方巻…酸っぱい米の中に生の魚介やら卵焼きやらが包まれ、さらにノリという海草を乾燥させた物に包まれた棒状の食べ物。それを一息に食べるとなんか一年イイ感じ、というチヨコの大雑把すぎる説明に私は頭を抱えたくなる。
チヨコの食の好みはよくわからなくなることがある。なぜ、海草を食べる。なぜ、生で魚介類を食べようとする。どうして米は主食だと言えるのに、豆と芋は主食ではないと主張するのか。あと豆をわざと腐らして食べようとするな。それでチーズが嫌いってなんなのだ。豆のほうがくさいぞ。グルタミン酸中毒とはなんだ、そんな症例聞いたことがない。
チヨコの言う、ノリが手に入らなかったため、恵方巻は完成しなかったらしい。コケで代用する案がでたらしいが、実行されなくて良かったと思う。
その恵方巻に代わって、皿の上に鎮座するのはロールケーキだ。
通常売られているロールケーキよりもずいぶんと細い。が、それが丸々一本皿にのっているというのは妙な絵だ。しかも各一皿。
「これを食べるのか」
生クリームがたっぷり入っている。これを一息に、か。ため息が出そうだ。実際、尾が正直に動いてしまったらしく。
「せんせいは生クリーム苦手でしたか?」
「ぼくのバタークリームのと交換します?」
ちがう、そうじゃない。不安げな顔のチヨコに手を振る。
「で、エホウってどっちなんだ」
「え、王城の方角でいいんじゃないですかね」
だいたいあっち、とチヨコが指差した方向にみな向き直る。だから何かが変だって。

 ロールケーキを完食後どこからかチヨコが取り出したのは豆だった。ジップ付の大袋の中には大量の豆が封入されている。
「もしや、それも食べるのか」
ああ、生クリーム一気はきつかった、と茶を飲みつつ尋ねる。訊いてみてくださいよ!という顔をチヨコがしているから、発言した訳であって私は特に硬そうな豆に興味はない。煮豆は好きだが。それよりも籠に収まっているミカンの方が気になる。まさか、「私がむいてあげますね、ハイあ~ん」なんてやっていないだろうか。私もしたい。というか、サバトラの眼球に果汁を吹き付けたい。
「もちろんですよ、せんせい」
「なんかねー年齢分だけ食べると一年健康なんだそうですよー」
木製の器に音をたてて移される豆。ローストしてある。なんだこれつまみか?
座布団のふさふさした飾りをいじりながら思う。私とサバトラが年齢分食すのはキツクはないだろうか。
おい、ウエダはいくつ…食べるのだ、と言おうとすると、間を読んだようにそれは発言した。
「ぼく、20コにしとこ」
図々しいにもほどがある。ミシン普及前から生きているヤツが20個とはひどい。しかも、自覚があるのかヒゲがピョコピョコと小刻みに揺れている。だが撤回しないあたり面の毛皮の厚いじじいだ。
チヨコを見やる。他のヒトと肌の質感を比較しながらだいたい彼女も22・3か、と検討をつける。そういえば年齢なぞ聞いたことがなかった。
「じゃあ私は17歳で」
じゃあ、ってなんだチヨコ。しかし、この流れで私が実年齢を言うのも空気読んでない感満載で気が引ける。そのまま黙っていれば、チヨコが勝手に15個豆を置いた。ポリポリと音を立てて豆を食べるチヨコ。同居時も思っていたが、彼女はマイペースだ。夢のようだ、と現実乖離していたのとは別に、奔放である。まあ、女性というものは区別なく奔放であるが、彼女は虐げられた過去を持つのだ。よそのヒト奴隷はけっこうビクビクしているものだし、何かが振り切れているか肝が据わっているのだろう。
ポリポリポリポリポリポリポリ………とただ豆を咀嚼する音だけがする。今日は、本当に変な日だな…よく眠れそうな気がする。

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