早朝。
いつものようにカルトの朝は早い。
この世界で生き残るために必要な事とでも考えているかのように一日も休まない。
そんなカルトだが、実は日によって鍛錬方法が違う。
腕立て伏せのような単純な動作を延々と続けるだけの事もあれば、庭の隅に用意した木杭を相手にしての打ち込み、時には套路や瞑想等の多岐に渡る。
これはカルト自身が本来の方法を未だに思い出していないためにその時その時で気が向いた鍛錬を行っているからだ。
そして今日は
「……」
半身で拳を構えたまま動かなかった。
かれこれ一時間近くその姿勢のまま、微塵の動きも見せていない。
ただ僅かに上下する肩だけが呼吸をしている事を示しているだけだ。
今日の鍛錬はこのまま終わるかと思われたその時
「にょあー!!」
「ッ!」
家の中から響いた奇声と爆発音が朝の静寂を引き裂いて響き渡り
「無事か主人!?」
極限まで集中していたカルトは、その集中力を保ったまま家の中に飛び込んだ。
そしてそこで見たものは
「うぬぁ~…」
…何かが爆発したかのような惨状を見せる台所と、その隅で目を回して倒れている朱風の姿だった。
「それで? いや、やはり言わなくていい。どうせ何を囀ろうが躾ける事に変わりはない」
目の前のヒトが異様な迫力をかもし出していた。
顔が怖い。
元々目付きは悪かったし、基本的にあまり表情豊かな方ではないのだが…今は凶悪というかなんというか、これまでに見た事がないほど怒っているのが簡単に読み取れるほど表情に出ていた。
そしてごきり、と指を鳴らす。
これはカルトが相当強烈に躾ける時の癖だ。
(…と言いたい所じゃが実は初めて見る所作なので不安一杯胸一杯と言うかさすがに怖くて混乱しとるなわし!)
と内心で震えながらも何とか釈明しようとする。
「せ、せめて理由を聞いてくれるとわしとしても少しは報われると言うかなんと言うか」
「知るかこのバカ主人」
頭頂部に鉄塊のように硬く握り締められた拳が激突し、目の前に星が散った。
「~~~~っ!」
あまりの激痛に声すら出せず頭を抑えて転がりまわる。
目から勝手に涙が溢れて止まらない。
(今までで一番痛い…!)
頭に穴が空いたのではないかとすら思えるほどだ。
これに比べればこれまでの躾は随分と手加減されていたという事が解るが、だからといって幾らなんでも強烈過ぎると思う。
思うのだが抗議できるような状態ではない。
「それで、一体何をどうすれば台所が爆発するんだ」
「い、今更聞くか」
言葉を発せられない程の激痛がようやくずきずきと疼く程度の痛みになった所で問われた。
相変わらずの迫力と視線に促され、つい正座をしてしまう。
(さすがに怒った時の師匠ほどではないが怖過ぎじゃ)
と昔を思い出した。
実際、師匠が怒るのはほとんどの場合自分ではなくもう一人の方だったが、とばっちりで叱られる事も多かった…と言うよりもほぼ巻き添えだったような気がする。
懐かしい…などと言っている場合ではない。
未だに目の前のヒト奴隷からは嫌な感じの圧力が。
「別に答えたくなければそれでもいい。ただし、今後台所の出入りは禁止する」
「そこまでする事ないじゃろ!」
「…そこまで?」
カルトが無表情で首を傾げる。
どこか人形じみていて不気味と言うか、怖い。
(ま、まだ怒っとるのか)
珍しい。
大抵の場合、どれだけ怒っていても一度躾ければその時点である程度は怒りを収める(とは言っても説教は続くが)カルトがまだ怒っている。
「この惨状を見てまだ『そこまで』と言うのか、主人は?」
「うっ…」
正座させられたまま背後を見た。
そこに広がるのは正しく『惨状』だ。
コンロはもはや原型をとどめておらず、壁や床は言うに及ばず天井にすら焼け焦げがあり、そこら中に散乱した調理器具は幾つかが壊れている。
更にはまだ手をつけていなかった普通の豆腐と炭と化した豆腐が見事な対比で飛び散っており、あたかも幻覚的な前衛芸術のような奇怪な風景となっていた。
子供がこの部屋に閉じ込められたら、恐怖で泣き叫ぶに違いない。
というか自分でもこんな所に閉じ込められたら怖い。
「実はその…油揚げを作ろうとしたんじゃがの」
そう。
油揚げだ。
どうせだから大量に作ろうと思って火力を上げたら上げ過ぎたと言うかなんと言うか。
そもそも魔洸式のコンロは苦手なのだ。
これまでに作った事のある料理ならともかく、初挑戦となるとやはり何らかの失敗はするもので。
…それを言うと記憶が無いくせにほとんど失敗する事が無いカルトに思いっきり負けているような気もする。
「もういい。何となく解った」
「な…話せと言うたのはぬしじゃろ」
「知るかバカ主人が」
はぁ、と大きな溜息をつくとこちらに近寄ってくる。
また躾けられるかと思わず目を閉じた次の瞬間、頬の辺りをくすぐられた。
「んひっ、ちょ、や、い、いきなり何を!?」
「うるさい黙れ」
思わず目を開けると目の前にカルトの真剣な顔があったので恥ずかしくなってまた目を閉じる。
そうしている間にも頬を撫でていた指が額や顎をくすぐり、そして首筋から胸元へと這って行く。
(なー! まままままさか、性的お仕置きとか調教とかそっち方面!?)
一瞬、胸がときめいた。
これでときめくのは自分でもどうかと思うが、ときめいてしまったのだから仕方ない。
だがしかし、次にカルトが口を開いた時に出た言葉は
「特に火傷はしていないようだな」
だった。
(…じゃよなぁ)
と落胆。
だが考えようによってはこれは自分の事を心配してくれたという事で、それはそれでいい事なのではないだろうかと思ってみたりする。
まあこの朴念仁にして唐変木の事だ。
実際には心配と言うよりも怪我をされると世話が面倒臭いと思う割合の方が多いのだろうが…
「まったく。心配させるな面倒臭い」
と思っていたところに不意打ちで投げかけられた言葉に心臓が跳ねた。
「うぅ…卑怯じゃろ、それは」
「?」
何を言っていると言う顔をされた。
やはり卑怯だ、と。そう思った。
(まったく…)
腹が立つ。
私物を壊された事もそうだし、台所を破壊された事もそうだ。
せっかく今朝は昨日買った新しい味醂を使えると思っていたのにこれでは片付けだけで日が暮れる。
使えるようにするには更に数日必要だろう。
そしてそれ以上に腹が立つのは
(俺の心臓を止める気か、このバカ主人は)
あの音と悲鳴が聞こえた瞬間。
ひたすら集中していた自分は、一瞬でありとあらゆる可能性を考えてしまった。
最悪な想像は自分の何らかの不手際が原因で朱風に害が及ぶ事だ。
例えば高い棚にしまっていた解体用の大包丁が落ちて朱風に怪我をさせるなどがあったら…
そんな想像をした瞬間、恐怖に近い感情が心臓を突き刺した。
一瞬ではあるが本当に心臓が止まりかねない程の強さで。
それほど強い恐怖を覚えたのは、恐らく過去の思い出せていない記憶の中で誰かを失ったかそれに近い状況があったからだろう、と推測する。
まあそれについてはどうでもいい。
問題は
(…ただ単に『奴隷としての主人を失う』という感覚じゃなかった、な)
極度に集中していた分、その瞬間の事は鮮明に覚えている。
単純だ。
朱風を失う事が怖かったのだ、と結論は簡単に出る。
ただ、何故その結論に至るのかまでを考えるのは面倒臭いので割愛する。
とりあえずは今この状況を何とかしなければならない。
「慣れない事をいきなりしようとしても怪我をするぞ」
「うぅ、面目ない。じゃが、次は失敗せんから台所使用禁止だけは勘弁しとくれ」
「…やけに食い下がるな」
「ま、愛の告白のためじゃしな」
愛の告白の為に台所を使う必要があるのだろうか?
「そんなものを誰に対してする気だ」
「ぬし以外におるわけなかろう。何を言うて…」
と、そこまで発言したところで動きが止まる。
まるで時間が止まったといわれても納得してしまいそうなほど完全に、だ。
相対していた俺も一瞬ではあるが停止したので、俺と朱風の二人だけに限れば時間が止まったと表現しても問題はないだろう。
「…はて。わしは今なんと言うた?」
「自分で考えろ」
いきなり何を言い出す、と言いそうになったが幾らなんでも有り得なさ過ぎるので遅れてしまった。
まあ幾らなんでも聞き間違いか言い間違いだろう。
ならば無視するのが一番だ…と思ったのだが。
「いや待て。わしの記憶じゃとなんかこう、ぽろっと何か妙な事を漏らしてしまったような気がするんじゃがそんな筈がないと言うかあってはならんじゃろう」
「意味が解らん」
「わし自身も意味が解らん。じゃからほれ、ちと教えてくれると嬉しいんじゃがのう?」
…朱風の反応からすると言い間違いの可能性の方が高そうだが、もしこれで聞き間違いだとすると色々と面倒臭そうだ。
後々まで何かを言われ続ける可能性が高い。
だから
「面倒臭いので断る」
と言っておく。
まあ、実の所は現在時点で面倒臭いという訳ではないのだが。
「ぬう…ならば『命令』じゃ。わしが何と言うたか、教えてもらおうかの」
「…仕方ない」
…こんなどうでもいい事に『命令』を使うのか。
まあその方が面倒が少なくていい、のかもしれない。
しかし少し困る。
仮に聞き間違いだった場合は朱風に嘘を教える事になり、『命令』を完遂できない。
無理ではない範囲で、という約束ではあるものの、少し引っかかる。
とは言え拒否も出来ない。そういう『約束』だ。
俺にとって『約束』は命より重い。
まあヒトの命は普通の人間と比べると比較的軽いとは思うが、自分の中の比較対象としてはそれなりに重い部類に入る。
つまりは『約束』は相当重い、という事になる。
だから、守る。
「要約すると、俺に愛の告白をするために台所使用禁止は勘弁してくれと言っていた。何故そうなるのか意味が解らんが」
「ほへ?」
「そう言った。少なくとも俺にはそう聞こえた」
「……」
こんな所だろう。
出来る限り『命令』は守れている筈だ。
これで文句があるなら…まあ、鋭意努力しなければならない、か。
まったくもって面倒臭いが仕方ない。
などと考えていると、朱風の顔がいつの間にか赤く染まっていた。
「ばっ、ばばばばばかもんっ!」
「毎回言っているが理不尽な怒り方はやめろ」
この反応からすると、どうやら本当にそう言っていたらしい。
聞き間違いでも言い間違いでもなく。
…俺に愛の告白を?
(…?)
混乱する。
意味が解らない。
「ええい錯覚じゃ気のせいじゃ気の迷いじゃ忘れよ! 『命令』じゃ!」
そんな混乱の最中に発せられた『命令』。
反射的に応じそうになるが
「…断る」
「なっ」
その瞬間、僅かな苛立ちが湧き上がってきて断っていた。
「『命令』は一週間に一度。すでに先程使ったはずだ。それ以上の『命令』は断る」
「え、ええ、と、その…つまりどういう事じゃ?」
「絶対に忘れてやらん。覚えておけバカ主人」
腹が立った。
『命令』を軽く扱っている事もそうだが、それ以外にも形容しようのない苛立ちがあった。
何故かは自分でも解らない。
「…お、覚えとれよバカルトめが!」
「だから忘れないと言っているだろう」
そしていつものごとく涙目で朱風が逃げ出した。
いつもと違ったのは、そのままの勢いで玄関から外へ飛び出していったことだろうか。
普段なら自室に閉じこもるのだが今日は様子がおかしい。
かと言って追いかける気にもなれず…
「一体何を考えているんだ、朱風…」
思わず「主人」ではなく「朱風」と、名前を呼んでいた。
一人の猫が通りを歩いていた。
寒くなって来ているにもかかわらず、活動的な薄着。
灰色の髪に赤いメッシュが入った女性。
賭博組織『灰猫』支部長のレダである。
「にゃーにゃーにゃー、にゃにゃんがにゃー♪」
そのレダが即興の歌を口ずさみながら親友の狐である朱風の家に向かっていた。
手に提げた袋を元気良く前後に振り回しつつ(ちなみに以前、それが原因で痛い目にあっているのに懲りていないらしい)道を歩く。
「にゅふふふふ。今日こそは朱風に旨いと言わせて見せるにゃ」
手に提げた袋の中には新作の焼き菓子。
女性の例に漏れず甘い物好きなレダは様々な店を食べ歩いては気に入った新作をこうして朱風の元へ持っていくのだが、滅多な事では同意して貰えない。
どうやら好みが違うらしいが、いつの間にか勝負事のような色を帯び始め、今では旨いと言わせたら勝ち、そうでなければ負け、と勝手に決めている。
賭け事ではないので勝とうが負けようが特に何かあるわけではないのだが、気分だ。
朱風の屋敷は今歩いている場所の隣の区画、運河を越えればすぐの場所。
なので運河を越えるための橋を渡るのだが…
「んにゃ? あの格好は…」
ふと、何の気なしに橋から運河沿いの道を見下ろすと、見覚えのある格好がとぼとぼと歩いていた。
華奢な体に比べて茶色の大きな耳と尻尾を持っている、この街では珍しい服装の少女…お目当ての相手である朱風だ。
歩いている方向を考えるにどうやら家からは離れていく模様。
一瞬手に提げた菓子を見るが
「んー、カルトを相手にしてもいいんにゃけど…それだとまともに感想返してくれなさそうな気がするしにゃー」
と、朱風を追う事に決め、橋の袂の階段から降りる。
とことこと駆け寄るが
「んにゃ?」
朱風の様子がおかしい事に気付いた。
いつもの彼女らしくない、どんよりとした暗い雰囲気が発散されている。
だがしかし、空気を読めないことに定評のあるレダはそのような事には斟酌せず後ろから肩を叩いた。
「よっと。にゃにしてんの、朱風」
「レダか…」
朱風が振り返る。
ここに来てようやく「何かがおかしい」という事に気付くが時既に遅し。
「どうしたにゃ、朱風。にゃんか借金してまで大金賭けた鉄板が終了直前で盛大にぶっ転げたのを見た時みたいな顔して」
「ひっく…ぐすっ…レダぁっ」
「にゃー! ややや役得? 役得って言うのかにゃこれって言うか朱風がそんな事すると裏ありそうで滅茶苦茶怖いにゃ誰か助けてにゃー!」
鼻を啜りながら抱きついてきた朱風に混乱したレダが泣き叫ぶが、その異様な雰囲気に誰一人として救いの手を差し伸べようとはしなかった。
朝っぱらから開いているなじみの居酒屋にて。
実際にはあの状態で別の場所に行くのも家に戻るのも嫌だったので、手近なここを無理を言って開けてもらったのだが。
今度、礼として珍しい酒の一本でも持ってこよう。
とりあえず時間もたって落ち着いたのと、店主が気を利かせて出してくれた串焼きを一本齧り終わったのを見計らったのか、レダが声をかけてきた。
「んで、何があったのかにゃ?」
やはりアレだけ迷惑をかけた(鼻水で外套一着を台無しにした)以上、説明はしなければならないだろう、と思う。
それ以上に相談に乗って欲しいという事もあるが。
そしてもうひとつ。
「それがのう。自分でも吃驚なんじゃが、自覚していたよりも遥かに強い想いが育っとってな」
証人…というのとも違うかもしれないが、自分以外の誰かに宣言する事で、踏ん切りをつけたい事があった。
「意味がわかんねーけど解ったにゃ」
相変わらずと言うべきか、それともこの猫、頭は大丈夫かと言うべきか…
「…ま、まあ、それでな。端的に言うと」
そこで大きく息を吸い、そして吐く。
さすがに緊張する。
ここ百年では一番かもしれない。
暴れ始める心臓を無視して、レダと、そして誰よりも
「好きなヒトが出来ました」
自分自身に対して、宣誓した。
(ああ…認めてしもうた、な…)
地に足が着いていないかのような奇妙な気分だ。
最近はそうでもないが、それでもヒトに対して恋慕の情を覚えるというのは珍しい。
ましてや自分自身ですら何故あのような無愛想な朴念仁に惚れてしまったのかまったく理解できない。
だがその想いは、心の中の自分でもどうしようもない場所に生まれてしまったのだ。
後は意地の問題だったが…あんな事故のような告白をする事になるとは思っていなかった。
予定ではもっとカルトに自分を意識させて、あわよくばあちらから惚れさせれば最悪でも引き分けに持ち込めたのだが…
今の状態では完全にこちらの負けで、そしてもう一つ言うならば受け入れられる可能性も非常に低い。
それを考えると少し落ち込みそうになるがまだこれからだ、と自分を奮い立たせた。
ついでにその事に関してレダに相談できればなおよし、と考えた所で、目の前のレダの動きが止まっている事に気付く。
(ぬ。さすがに驚いたかの)
まあ、少したてば動き出すだろうと思った矢先。
「え、えーと…ごめんにゃさい!」
「なんでやねん!」
思わず昔教わったヒト世界の風習が出てきてしまった。
「ねーちんから『告白されたら受け入れるにしろ断るにしろとりあえずそう言え』って言われてるにゃ~」
(あ、あのバカ姉めが…)
魂胆は解る。
とりあえずでもなんでもそう言わせておけば、そう何度も返事を聞く気にはなれないだろう。
妹を異常に愛するあの激症性シスコンらしいと言えばらしいが、今回の話はまったく関係ない。
「いや別にぬしに告白した訳ではないんじゃが」
「そうにゃの?」
「うむ」
数秒。
その沈黙でようやくこっちが道ならぬ恋をしている事に気付いたか…と思いきや。
「ど、何処のどいつにゃその寝取り野郎は! ぶっ殺してやんにゃ!」
まったく解っていなかったらしい。
「落ち着けレダ。別にわしとぬしは付き合うとらんじゃろ。それ以前に女同士じゃし」
「うぅ、でも朱風取られちゃうにゃ」
しょんぼりと肩を落とす猫を見る。
(こやつ、普段の態度からは解らぬが、自分から誰かが離れるのを嫌がるんじゃよなあ)
他者への依存度が高い、と言うわけでもない。
愛情に飢えているわけでもない。
ただの寂しがりや…にしてはおかしな部分もあるが、とりあえず
「まったく。安心せい、レダ。別にわしが他のを好きになったからと言うて、ぬしを好きと言う事が無くなるわけではないんじゃから」
「あ、そなの? なら別にどうでもいいにゃ」
「……」
その割にはあっさり切り替わる辺り、軽く考えていいのか深刻に考えていいのか判断に迷う。
それはともかく問題を抱えているのはこっちの方だ。
「まあともかく。どうしたらよいか困っておるんじゃよ」
「にゃんで困るの?」
「相手とこう、身分が違うと言うか種族が違うと言うか」
「ふーん。んじゃ押し倒しちゃえばいいにゃ」
がちゃん、と厨房の方で皿が落ちる音がした。
盗み聞きしていたな、と思うが、こっちもこっちで齧っていた串焼きの串が皿の中に落ちている。
あのレダがいきなりそんな過激な事を言い出すのに吃驚したからだ。
「…いきなり飛ばし過ぎじゃろ、色々な意味で。特に倫理」
もちろん論理的にも随分と飛んでいるような気がする。
「そんな事ないにゃ。とりあえず一発ヤっちゃってからでも遅くはないにゃよ」
「ヤるとか…生々しい事を言うもんじゃな」
「えー、でも行き着くところってそこじゃにゃい?」
「まあ、それはそうかもしれぬが…それでも過激じゃろ?」
「まあ男女が逆だと危ねーけど、女から襲う分はまだ大丈夫にゃよ」
「ぬぅ…」
自分としても男女経験と言う点ではあまり経験がないので、それほど正確な判断はできない。
つまり、こういう部分ではレダの方が上かもしれない、と言う事だ。
ただそれにしても些か極端な気もするが。
「あとは諦めるとか?」
「それが出来れておれば最初から苦労せんわ」
「んじゃどうせ最終的には諦めるか行く所まで行くしかないんにゃから、諦められないなら先にヤっちゃってもいいんじゃないかにゃー」
「ぬう。一理あるやもしれん」
確かに最終的にはくっつくか別れるか、だ。
そしてこちらとしては別れる気は一切無い。
となるとくっつく為にどうすればいいか、なのだが…
(あの朴念仁相手なら…極端な手を使わねばならぬかもしれぬな)
そう。
強敵に対しては最強の手段を最初から使うと言うのは常道。
ならばそれに賭けてみるのも悪くないかもしれない。
こうなったらもう一回開き直ろう、と少しだけやる気が出てくる。
「ところで、相手誰?」
「それに気付いとらんと言うのも相当アレじゃが、相手が誰か解らぬのに押し倒せとか言うとったのか…」
「うにゃ?」
いつも通りのレダに脱力しながら、頭の中では策が組みあがりつつあった。
ガラガラと玄関の戸が動く音がした。
ちょうど風呂掃除が終わり、一時的に止めていた湯を出し始めたところだったが、そのまま聞き覚えのある軽い足音が近付いてきた。
「…帰ったか、主人。散歩にしては長かったな」
「いやあれで散歩に行ったとか思うとるのかぬしは」
思ってはいない。
いないが、かと言って他に上手い言い方が見つからなかった。
それだけの事だ。
それよりも朱風の方からふわりと風に乗って届いた匂いに、思わず顔をしかめる。
「それよりも昼間から酒臭いのはどうかと思うぞ」
せっかく作った朝飯も食わずに酒を飲まれては、奴隷として少々納得がいかない。
「レダと会うての。ちとむしゃくしゃしとったし」
レダ…あの灰色の髪の猫女か。
会えば酒を飲みにいく間柄とも思えないが、だからと言ってわざわざその『むしゃくしゃ』していた事に近付くのも面倒なのでとりあえず流しておく。
それよりも
「昼はどうする?」
ちょうど昼飯の時間だ。
朝食わせられなかった分、今食わせてやろう。
「むー…軽く頼めるかのう。つまみぐらいしか食べておらんでな」
「わかった」
軽く、か…と頭の中に検索をかけると、ちょうど一ついいものを思い出した。
コトリ、と朱風の前に碗を置いた。
中には半透明の出汁につかった米…つまり
「茶漬けか」
「ああ」
酒を飲んでいる状態ではあまり複雑な物を食わせてもまともに味わえないだろう。
ならこんな単純なものの方が良い、と判断した。
「ダシはなんじゃ?」
「昆布」
「ふむふむ」
と早速口をつける。
酔っているとは言え箸の使い方に問題はないようだ。
…たまに思うが、朱風はかなり酒に強い。
酔っ払うときは酔っ払うが、それでもこうした所で鈍るのは見た事が無い。
見た目からは想像できないが大分飲み慣れているような気がする。
常々主張しているように子供ではないのかもしれない。
「む。刻んだ梅干も良い風味じゃの。じゃがこの香ばしさは…?」
「魚の骨を炒って砕いたものものだ」
「ほほう。中々好きな味じゃ」
「そうか」
よし。
カルシウムを補えば少しは落ち着きが出て来るだろうと思って作っておいたのだが、そこそこ好評なようだ。
今後は隠し味として多用してみよう。
「ふう。旨かった。ご馳走様でした」
「ん」
やはりこうして綺麗に平らげてくれると、作った側としてはスッキリするな。
まあ普段から残すような事は滅多に無いのだが。
後は食後の茶でも用意してやろう…と思ったが、その直前に朱風が姿勢を正して声をかけて来た。
「ところで、朝の話なんじゃがの。ほれ、愛の告白がどうとか言うたじゃろ?」
朝…? と、一瞬何のことか解らなかったが、愛の告白云々で完全に思い出す。
「ああ、あれか。まあ別にわざわざ『命令』をしなくても、普通に言えば忘れても良かったんだが」
「泣くぞ」
「…?」
朱風の目が据わっていた。
「好きになった相手に事故とは言え告白しておいてそんな簡単に忘れられるなぞ、女として情けないから泣くぞ」
さすがに、驚く。
あまりに驚いたので手に持って下げようとしていた碗と箸が手から落ちた程だ。
咄嗟に足の甲で受け止めたので床にまで到達してはいないが。
「…本気…だった、のか」
頷かれる。
待て。
つまり、朱風が俺を好きで…?
「あのな、主人。俺はヒト奴隷で主人は狐で主人だぞ」
「そうじゃな。ぬしの子が産めぬと言うのが残念じゃ」
「……」
さすがに、そんな事を言われるとどう反応していいのか判断できない。
あるいは記憶があれば…と思ったが、さすがにこんな状況の返答が思い浮かぶような記憶などある方がおかしいような気もする。
「な、何か反応せぬか! 自分で言うておいてなんじゃが、かなり恥ずかしいんじゃぞ!」
一体どう反応しろと言うのか。
「本気、なのか?」
「さっきからそう言うとるじゃろう」
「だが…」
命の恩人で、飼い主で、主人で…まさか好かれているなどとは夢にも思っていなかった。
そもそも俺が誰かに好かれるなどということがまったく想像できない。
告白されたこの瞬間ですら、まったく実感が無い。
「ええい何をぐちぐち言うておる。こんな可愛い美少女に好かれて何が不満なんじゃ」
…好かれている、と言う事自体は良い事…だとは思う。
思うのだが。
「その…こういう場合、返答が必要な気がするんだが」
「ぬ? ま、まあ、確かにそうかもしれぬな」
「今すぐ必要か?」
「……」
今度は逆に朱風が止まった。
とは言え今すぐ必要と言われたとしても答えられないので、結局俺の方が止まる事に変わりはないのだが。
「…い、色好い返事なら」
「う…」
そう言われてますます困る。
道理と言う点では告白に応えないのが正しいのだろう、と思う。
ただ、それをすると今後の生活に差し支える。
…否。
それ以上に、自分の中でそれを決断しかねている部分がある。
肯定でも、否定でも。
時間が欲しいとそう思う。
だから
「あー…その、だな。別に俺は…」
次の瞬間、目の前には朱風の拳があった。
「くっ」
当然回避する。
が、完全に不意を打たれていたのでかなり危なかった。
「いきなり何をする」
「ええい五月蝿い! こうなったらもう自棄じゃ!」
返事をするのを少し待ってくれと言おうと思っていたのだが、どうやらあちらはそうは思わなかったらしい。
確かにやや否定的なニュアンスはあるかもしれないが、それにしても反応が激烈過ぎだろう。
「落ち着け」
「これが落ち着いていられるかあああ!」
ぶん、と今度は逆の手が振り回された。
当たっても対して被害は無いとは思うのだが、いつ符を取り出してくるか解らない。
朱風の符術は厄介だ。
だから
「なるべく手加減はするが、気をつけろよ」
なるべく穏便に気絶させ、落ち着かせた後に再度話を試みよう。
「ふーっ、ふーっ」
「……」
ただ、あまりにも興奮しすぎているのか、こっちの言葉が伝わっているようには思えない。
まあそれはそれで冷静さを欠いていると言う事なのでむしろやりやすいか。
と朱風の拳を掻い潜りながら脇をすり抜け背後に回る。
狙いは首筋、頚動脈。
叩けば気絶する箇所だ。
まあ躾の一種だと思って我慢してもらおう、と手刀を叩き込もうとしたその瞬間。
「な!?」
腕に…否、全身に『糸』が絡みついた。
咄嗟に下がろうとしたが、既に全身に絡みついたそれからは逃げられない。
「かかりよったな、うつけが」
目の前には…先ほどまでの興奮が嘘だったかのように悠然と腕組みをしている朱風がいた。
「ぐ…演技、か…」
「はん。狐の演技力を甘く見るでないわ」
舐めていたつもりはない。
ただ、さすがに食事前に仕掛けられた罠までは見破れなかった、と言う事だ。
(くそ…不甲斐ない)
かと言って今更どうしようもない。
俺の体は確かに頑丈で魔法も効きにくいようだが、だからと言ってこういう形での拘束を振り解くにはそれなりに時間がかかる。
「しばらく寝とれ。わしも少々準備があるでな」
そしてその時間を与えられる事無く、なにか妙な匂いのする布を口元に押し当てられ、意識が闇に落ちた。
寒い。
もう冬だ。
干した洗濯物が凍らないように気をつけないといけない…?
いや、待て。
何故俺は寝ているんだ?
「う……」
「ぬ。思っていたより早く起きるもんじゃな。もう一服盛っておいた方が良かったかのう」
「主、人?」
ぐらぐらと揺れる頭でなんとか状況を把握しようとする。
仰向けに寝ている何故か服を肌蹴させられている俺。
その俺に馬乗りになっている『裸』の朱風。
あとはこの妙な煙…香か何かだろうか。
むせ返るほどの甘い匂いがする煙が、締め切られた朱風の自室に充満していた。
…とりあえず何か危険な状態だ、と言うのはとてもよく解った。
「何を、している」
思考にも靄がかかっているようで、言葉を発するのも一苦労だ。
「解らぬか?」
考える。
幾つか可能性は考えられるが、しかしどれも現実感が無い。
「…ああ」
「ぬしの格好とわしの格好を見て解らぬのであれば、教えてやろう」
と、馬乗りのままこちらに顔を近づけて囁く。
「ぬしを、犯してくれる」
一番有り得ないと考えていたものよりも、更に有り得ないと思うような選択が正解だったらしい。
大丈夫だろうか。主に頭。
ちなみに俺の、ではなく朱風の、だ。
「……はぁ」
「な、なんじゃその呆れたような溜息は。わしは本気じゃぞ」
いきなり何を言い出すかと思えば。
「無理はするな。子供の癖に」
「こどっ…!」
確かにしようと思えば出来るだろうが、まだ体が出来上がっているようには見えない。
中身はどうだか知らないが少なくとも『体』は子供だ。
そして俺は子供に欲情するほど…いや、するにはするかもしれないが、少なくともそれを抑える程度の理性は持っている。
何故か微妙にその理性が今弱っているのは自覚しているが、それでもまだ大丈夫だ。
「…のう。カルト」
ゆらり、と朱風が立ち上がる。
目には殺気にも似た気配。
隙を突いて逃げるか躾けるかしなければ、と思ったが体が動かない。
見回しても先ほどの糸や符の類は見えないが、やはり何らかの対処はされているか…
「子供子供と言うておるが…これを見てもそう言えるかのう」
と、朱風が何処からともなく一枚の…真っ黒い紙に見える符を取り出した。
黒く見えるのは…あまりにも細かく複雑な文様が刻まれているからだ、と気付いた次の瞬間、朱風はそれを僅かにある二つの膨らみの中央に押し当てた。
まるで溶ける様に符が消える。
次の瞬間
「う…く」
「主人…?」
「く…最近修錬をサボっとったからちとキツいの…!」
朱風が苦しげに呻いた。
それも気になったが、それ以上に目の前の変化に気が取られる。
朱風の姿がまるでアンテナの調子が悪いテレビ映像のようにブレて、拡散していく。
しばらくすると…
「どうじゃ」
「何をした」
「本性を現しただけじゃよ」
そこにいたのは、普段の朱風と僅かに違う姿の朱風だった。
本性、と言う事はこの姿が本当の朱風、と言う事だろう。
恐らくはあの符が鍵となって朱風を元の姿に戻したのだ。
特に目立つ違いと言えば尻尾の数。
ただでさえ大きな尻尾が四本に増えている。
そのため身体に尻尾が付いているのではなく、尻尾に身体が付いているのではないかと思えるほどの面積比となっていた。
「…以前にも尻尾が増えた事があるのはそのためか」
「いや、尾は別での。普段から四本あるんじゃが擬似的に一本に纏めて幻術で誤魔化しとるんじゃよ。気を抜くとすぐ解けてしまうんじゃが」
「なるほど。だからよく見るのか」
幸い、見た目以外は普段の朱風のようだ。
「おかげで一本にまとめとると四倍敏感になってしもうてな…って」
しかしそこで不満げに声を荒げる。
「他にも言う事はあるじゃろう。ほれ」
「髪や尾の毛か?」
審美眼をまるで持っていないと自覚している俺ですら、その髪や尻尾が美しい事ぐらいは解る。
純白の絹糸よりもなお細く滑らかで、白でありながら銀以上の光沢と落ち着きを持っている髪。
ただでさえ四本に増えている上に、髪と同じような色と光沢、そして見ただけでも手触りのよさを思わせる尻尾。
綺麗だ、と表現して間違いない。
恐らく、狐の中でもこれほど美しい尾を持っているのは珍しいのではないだろうかと思わせるほどだった。
まあ別の狐を見た事はほとんどないので実際のところは解らないが。
「胸とか尻とか育っとるじゃろうが!」
…が、朱風が主張したかったのはそこではなかったようだ。
こちらとしては半ば意図的に無視して視線を外していたのだが、それが不満らしい。
「だから見ていないのに何が不満なんだ」
少女(とは言えそこそこ女性らしい体付きではある)、それも朱風相手ならそれ程意識せずに見ていられた。
だが今の朱風は確かにまだ少女の範疇内だが、その…意識しようと思えば意識できてしまう程度の体になっている。
「あのな…主人は女で俺は男だぞ」
「むしろ望むところじゃぞ」
「意味が解らん」
溜息をつく。
だがまあ、このままでいても進展はなさそうだ。
仕方無しに見ようとするが…
「ちょ、こっちを見るでない!」
「…どうしろと?」
理不尽なのは朱風らしいと言えなくも無いが、だからと言って状況が進展するわけでもない。
本当にどうしたらいいのだろう。
何とか脱出できないかと朱風から見えない位置で身体を動かそうとしているが、身体の麻痺は目覚めた直後よりむしろ悪化しているように感じる。
筋肉が動かないのではなく、まるで意思と身体が切り離されてしまったかのような感覚。
これではどうしようもない。
「ぬぐぐ…ええい、こうなれば体に教えてやるから覚悟せい!」
何がなんだかわからないがどうしようもないので諦める。
もう抵抗する方が面倒臭い。
「…はぁ。もういい。好きにしろ」
「うむ」
と、四つんばいになってにじり寄って来た朱風が半脱ぎだった俺の服を完全に脱がし…
「…い、意外と大きいのう」
「そういう事は言うな」
と股間に目をやって呟かれた。
こんな状況は完全に想定外なので一体どう返せばいいのか。
「何か話しとらんと不安なんじゃ」
「…あのな」
だったらもう止めろ、と声をかけようとした瞬間
「う…」
指がそこを這った。
おかしい。
やけに敏感になっている。
(これは…薬、か?)
感覚を敏感にする薬か何かを使われているような気がする。
少なくとも普段ならばこの程度の事は我慢できると思うのだが、今は何故かまったく自制が出来ない。
たちまちの内に反応してしまう。
「くふ。反応したな? やはりぬしもなんだかんだ言って雄、という事じゃの」
「……」
どう返せばいいのか思いつかない。
そうこうしている内に、今度は
「んむ…ふぁ…」
「くぅっ」
舌を這わせてきた。
恐る恐るといった感じだが、それでも敏感になったこちらとしてはかなり厳しい。
反応しないようにと精神を集中しようとするが、その集中ですら靄のかかったような意識では無理がある。
「…の、のう」
「なんだ」
「これ…また大きくなったような気がするんじゃが」
「…だからそういう事を言うな」
「あ、あれかの、わしに興奮しとるという事かの?」
「……」
この沈黙は…肯定だ。
ことここに至っては興奮していないとは言えない。
まあ、朱風自身に興奮しているかと言うとそれは微妙に違うような気もするが、少なくとも朱風の行為は原因の大部分を占めている。
なら朱風に興奮している、とは言える。
そして
「わしの事を抱きたいか?」
もっと返答しにくい問いかけが来た。
その問いかけの最中にも根元から舐めあげたり、先端を含んで見たりと朱風の愛撫は続いている。
頭にかかる靄がますます酷くなって来た。
「……」
「正直に言えば開放してやってもよいぞ」
「…抱きたくない」
何とか乏しくなってきた理性を振り絞って答えを返す。
今ならまだ間に合う…のか?
それすら判断できない。
そして
「嘘じゃな」
と返された。
(ああ…嘘だ、な)
言われて自覚する。
朱風が抱きたい。朱風を抱きたい。
肉欲に負けたと自覚しているが、しかし何故かそれ以外の部分もあると言う事も朱風の言葉で自覚した。
「この期に及んで嘘を吐いた罰じゃ。今すぐ犯してくれる」
と、朱風が体制を変え、こちらの腰の上に膝立ちになった。
手を添えて位置を調節するが
「こ、こう、かの…いやもそっとこっち、か?」
と手間取っている。
しばらく時間がたち…
「え、ええい、笑うでない」
「笑ってない。ただ、止めるなら今の内…」
「っ! このバカ!」
何が癪に障ったのか、突然怒り声を上げた次の瞬間。
ぞぶり、と、一気に飲み込まれた。
「ひぐっ、うあ、ああ…」
怒りに任せて一気に腰を落としてしまった朱風の悲鳴が聞こえる。
だがこっちはそれを気にする余裕がなかった。
痛みとそれを凌駕する快感。
朱風の中はあまり潤ってはいなかったため、こちらも引き攣れるような痛みがあったが、朱風の痛みの方がずっと上だろう。
それ以上にこちらは強く締め付けられる快感で今にも達してしまいそうだった。
「く…締め付けすぎだ。力を抜け…!」
「ぬ、抜き方、なぞ、解らん…っ」
「ならせめて動くな。辛いだろう」
「ぐ…バカ、もんっ」
朱風が目に涙を限界まで溜めながら無理矢理動き始めた。
「こ、の…何を、しているんだ」
「うるさ、い、ぬしは、黙って犯されとれば、いいんじゃっ!」
実際にはむしろ朱風の方が犯されているものの表情なのだが。
「ひぐっ…つ、うっ…」
「く…」
それでも強く締め付けながら動かれると、どうしようもなく快感が高まっていく。
「く、ふふっ…感じとる、な?」
「……」
「わしのナカで随分と元気よく…って入ってきた時より硬くなっとりゃせんか?」
「何度言えばわかる。そういう事を言うな」
何と言うか、お互いに経験が無いからか、会話もどこかチグハグだ。
ただこっちはもう限界が近い。
自分で動けるなら調節も出来るのだが、指一本動かせない状態では…
「ん…はぁ…っ」
「ぐ…」
「ひぐっ…お、大きく、なったぞ」
限界だ。
頭にかかる靄がますます酷くなってきている。
「出すんじゃな、出せ、全部、ナカに、全部…!」
その言葉の意味を全部理解する前に…
「ううっ」
「あ、つっ、ひうっ!」
びくん、と朱風が震え、腰を一番下まで下ろした。
同時にとうとう放出が始まったが…その瞬間、俺の意識は完全に靄に飲み込まれていった。
「まだ出て、る、一杯、全部、凄…っ」
最奥まで飲み込んだカルトから出される熱が下腹を焼いていた。
火傷するのではないかと思うほど熱い精液が、まだ痛みの残る箇所に染みる。
「…はあっ、はー、はー」
反動で止まってしまうのではないかと思うほど心臓が激しく動悸を刻んでいた。
呼吸も荒いし股間もまだ痛みと違和感が酷い。
ただ、それをあまり見せたくはない。
あくまでもこちらが上位であり大人の女である事を見せつけないと、今後に差し障る。
だから、無理矢理とは言え結ばれた嬉しさや、初めてだった事の感慨を押さえ込んで、演技を続行する。
「くふっ、くふふふふ…どうじゃ? 気持ち良かったじゃろ?」
「……」
カルトの胸板に手をついて顔を覗き込む。
暗いので表情は見えないが…
「何か言わぬか。照れとるのか? それとも怒っとるのか? 子供じゃのう」
「……」
「…カルト?」
不安になってくる。
確かに無理矢理襲うと言うのは正直怒っても仕方がない。
だが、襲われたのが男の方ならあまり気にしないのではないかとも思っていた。
事実、最中のカルトの発言でもむしろこちらを心配するかのような発言すらあったほどだ。
言葉も出さないほど怒ると言うのは考えにくい。
ましてや照れるような性格ではない。
「…の、のう、少しは反応してくれても…って」
そこまで来て一つ、大変な事に気付いた。
先程から…否、始まる前からしていた甘い香り。
それがますます濃くなっている。
「ししししもうたっ! 香炉を消すのを忘れとった!」
その大元は枕元にある香炉だ。
この中には師匠直伝の調合法で調合した精淫香…簡単に言えば男をその気にさせる為の香が入っている。
ただ少々効き目が強過ぎるので、あまり長時間焚くとその気になるどころか理性が消し飛び、最終的には廃人化しかねないため、門外不出となっていた香だ。
自分で使う事はないだろうと思ってすっかり使用方法を忘れていたのが仇になった。
「は、早く消し…否、カルトを部屋から出すのが先決…あ、つっ」
慌てて香炉の火を消そうとしたが、それよりもまずはカルトを香の無い部屋の外に出すのが先、と考えて立ち上がろうとしたが、その為には自分に突き刺さっているモノを抜かなければならない訳で。
恐らくは香の効果だろうが、未だに萎えるどころかむしろ射精前より硬く大きくなっているような気さえするそれを抜くには一苦労だ。
「ひうううう…い、痛過ぎじゃ…っ」
先程までの行為でも充分痛かったが、改めて抜こうとすると内臓が引っ張られるかのような違和感とそれに倍する痛みで涙が出てきた。
「くう…我慢じゃ、我慢。それより早う動けるようにしてやらねば」
そして床下や壁にある符の効果を切る。
これは直接的な術が効きにくいカルトに対して、目には見えない手枷足枷を作って行動を制限するためのものだ。
いくら薬を嗅がせているとは言え純粋に身体能力では勝ち目がないため保険として用意したのだが、今となってはむしろ邪魔…と、カルトがのそりと立ち上がった。
まだ無事だったらしい。
「だ、大丈夫かの? もうこの煙を吸うてはいかん。早う外に…」
と襖を開けようと振り向いた瞬間
「ひやああああっ」
後ろから抱き付かれ、そのままうつ伏せに倒された。
しかもカルトが上からのしかかってくる。
(ま、まさか遅かった?)
「ちょ、待てカルト、落ち着け! ぬしは香で理性が飛んどるだけ…ってそんな状態に説得が通じるわけないじゃろ! 阿呆かわし!」
慌てて逃げようとするが、本性を現したとは言え体格差はあまり縮んではいない。
それにカルト本人は否定しているが、その身体能力は猫どころか犬に匹敵するレベルだ。
たとえ理性が飛んで普段の体術が使えなくなっていたとしてもこちらの力で抜け出せるわけがない。
「このっ」
何とか使える符を出そう…とした所で、裸になっていた事に気付く。
今使えるのは拘束用に準備していた符だけだが、これは先程解除したばかりで、再び力を込めなおさなければ使えない。
せめて指一本でも届けばすぐに充填できるのだが、そのためにはもう少しだけ前に腕を伸ばさなければ…
「ひ、ぐうっ!」
その瞬間 奥まで 一気に 貫かれた
「は…あく、あ…っ」
ゴリゴリと文字通り抉るように最奥を突き上げられた。
先程出されていたためか一度目に比べると引っ掻かれるような痛みではないが、別の種類の痛みが脳天を突き抜ける。
串刺しにされた、と言うのが表現としてはぴったりだ。
「ば…か…、強過ぎ…じゃ…!」
背後から押しつぶされるような体勢で苦しい中で何とか抗議する。
だが、理性の飛んだカルトに通じるとは思えない。
ただでさえ強めに調合した香をあれだけ大量に吸い込んだのだ。
この様子だと下手に我慢などさせようものなら理性どころか精神が破壊されてしまう。
(わしも頭沸いとったと言う事か…っ)
後悔しても後の祭りというものだろう。
だから、覚悟を決める。
幸い先程押し倒されたときに香炉が倒れて火が消えている。
これ以上悪化する事は無い。
あとは、カルトから香の効果が抜けるまで耐え抜けば…
「くあああああっ!」
ずぐん、と勢いよく突き上げられた。
そのまま連続で引き抜かれては激しく突き込まれる。
(は、腹が突き破られそうじゃ…っ!)
無理だ。
耐えられる訳がない。
異常な身体能力を持つカルトが理性の飛んだ状態で犯しに来ているのだ。
香が抜けるのが何時間後かは解らないが、それまでに確実に壊される。
だが…
(ここで逃げてはカルトの方が壊れかねんから…とは言うても、ちとキツ過、ぎ、じゃな)
「あぐ、ひ、ダメじゃ、もっと、ゆっく、り、んぐう!」
ご、ご、と内臓を直接打撃されるかのような衝撃と痛みが背後から叩き込まれている。
たまらず逃げようと手を前方に伸ばすが、逃げるどころか
「やあっ」
腰を掴まれてずりずりと引き戻されてしまった。
貫かれている下半身だけが膝立ち状態で上半身は畳に突っ伏している体勢だ。
痛みと羞恥心で顔が熱を持つ。
そして勝手に涙がぽろぽろと零れていた。
「ひ、っく、ぐす…あ、ぐ、んぅっ」
子宮を殴られるかのような異様な感覚に、思わず爪で畳を掻き毟り歯を立てようとすらするが、自分でもどうにもならない。
もうあといくらもしないうちに、耐え切れず意識を失うだろう。
いっそそうなった方が楽かもしれない。
「んぐ、う、やあああっ!」
そう思った瞬間、思わず大きな悲鳴をあげていた。
それと同時に、信じられない事だが、理性を失ったはずのカルトがぴたりと動きを止める。
「ん、く、カ、カル、ト?」
畳に押し付けられた顔をなんとか横に向け、背後にいるカルトを見上げる。
すると僅かにこちらの腰を掴んでいた腕の力が抜けて来ていた。
まさか、香の効果が抜けたのだろうか?
いくらなんでも早すぎる。
香炉が止まったとは言え、密閉された部屋の中ではそれほど早く香が全て消えるわけではない。
事実まだ強く甘い香りがしている。
(なら、何故…?)
「く…主人」
「い、意識が戻っとる、のか?」
「…逃げるか、何か、するなら…さっさと、しろ…多少…慣れて、きた、が、我慢…が出来なく、なる」
「あ…」
まさか、と思った。
あの香はまだ効果を発揮している。
それもかなり強烈に。
そんな状態にもかかわらず、このヒト奴隷は意志の力で無理矢理自分を止めているのだ。
何という精神力だろうか。
(随分辛そうじゃが、の)
カルトの発言どおり、こうして抑えられるのはほんの少しの間だけだろう。
事実、動かないでいるだけで消耗しているらしく、ぶるぶると腕が震えている。
それどころか滝のような脂汗を流し始めている始末だ。
こんなものを我慢などしては、人格が壊れてもおかしくはない。
それは、そんなものは、許容できない。
だから
(…ま、死にはしない方に賭けるかの)
覚悟を決めた。
自業自得だし、それ以上にカルトが壊れるのは見たくない。
「ふ、ふん。この程度で逃げるわけなかろう。まあ乱暴なのは勘弁じゃが、半分自業自得じゃからの。好きにしても構わぬぞ」
自分の身を捧げる位の事はしてもいい、と。そう思った
責任もあるし、それに心の奥底では好いた男に壊される事に倒錯的な快感を覚える自分もいる。
なら、もういい。
カルトが楽になるまで犯されるぐらい、どうと言う事はない。
「じゃが、出来る事ならあまり痛くしないで欲しいと言うか何と言うか…無理かの?」
「…努力は、する」
そして、陵辱が再開された。
「んくっ」
まだ多少は理性が残っているのか、動き自体はゆっくりだった。
むしろ最初にこっちから襲ったときよりもずっと優しい。
さすがに痛みはあったが、以前の痛みの割合の方が大きく、新しく刻まれる痛みは少ない。
(く…遠慮するな、と言いたい所じゃが、わしもまだちと怖いんじゃよ、な)
「ふぁんっ」
しかしその時、自分の口から漏れた声に驚く。
先程までの苦痛の声ではなく、自然に漏れた甘い声。
(え、え?)
混乱する。
「ん、やっ」
ひくん、と自分の中が震えるのが解った。
(まさか)
これは…快感だ。
これまでも感じてはいたが、それを遥かに凌駕する痛みで塗りつぶされていた。
だが強烈な痛みを感じていた分、それ以下の痛みに対しては順応し始めており、ここに至って素直に快感が感じられるようになって来たのだ。
ず…ず…と優しいとすら言えるほどの速度で突き入れられると、その度に甘い声が漏れるのを止められない。
「や、ん、あん、ふぁ、くふぅんっ」
(あ、あっ…す、ご、今、カルトに、『抱かれてる』…っ!)
心の中が一瞬でピンク色に染まった。
最初も無理矢理とは言え結ばれた事に多少の幸福感を味わったが、それも今の比ではない。
女として好きな男に抱かれるのは幸せ以外の何物でもない。
たとえそこに心の繋がりがない事に一抹の寂しさを覚えていたとしても、だ。
「ひ、くぅ、ん、あっあっ、ん、そこ、気持ちいいぞ、カルトっ」
くちゅ、ちゅぷ、という音が聞こえる。
いつの間にか溢れた愛液が随分とカルトの動きを滑らかにしていた。
既に引き攣れるような痛みは随分とマシになっている。
「ぐ…う…」
しかし、こちらが快感を感じ始めているのに対し、カルトからは苦しげな呻き声が聞こえてきていた。
「ん、はぁ…っ、カル、ト」
「…ぐ…」
「あ…その、辛ければもう少し強めに動いても、よい、ぞ? んああっ」
最後の小さな叫びは誘うように腰を左右に振った時、かなり感じる箇所を偶然擦られたからだ。
だがそれがトドメになったのか、カルトの腕が急に力強さを増した。
(あ、あ、来る、きっとさっきみたいに強いのが、奥まで全部入ってくる!)
ずぐんっ!
「ひあああああああっ!」
来た。
無理矢理押し広げられるような感触…いや、すでにそれは無理矢理ではなかった。
既にカルトに慣れ始めているのか、さほど抵抗を見せずに通す。
それどころか入ってきたのを歓迎するかのようにひくひくと痙攣して絡み付いていくのが自分でも解った。
何故ならば、そうなるとより強い快感を受け取る事になるからだ。
だが
「やっ、そこ、奥はっ」
痛い、と言おうとした瞬間
「ひああ!」
一番奥、そのうちの一箇所をごりごりと抉られて悲鳴をあげてしまう。
しかし
(なんで、なんでこれ、さっきは痛いだけだった、のに!)
これもまた先程とは異なった感触だった。
肉襞を擦られる快感とはまた違う、感じる箇所を叩かれる快感。
それを最奥のある一点で感じたのだ。
カルトの先端はその感じる箇所からほんの少しずれた箇所を叩いたので、実際にはもどかしいと言っていいほどの強さなのだろう。
だが、この種類の快感は初めてでどう受け取っていいのか解らない。
未知の快感に大して恐れにも似た感情が湧き上がってきたが
「ひっ」
カルトがその感じる箇所を探るように、小刻みに周辺を先端で突いてきた。
「あ、ん、あ、あ、あっ」
まったく同じタイミングで嬌声が漏れるのを止められない。
(こ、こんなやり方、カルト、絶対、経験が…っ)
快感でぼやけ始めた思考の中で疑惑を感じるが
「やっ、あ、そんな、ふぁっ」
一番感じる箇所に近い場所を突かれてたちまち疑惑が霧散する。
カルトの方も手ごたえを感じたのか、その周囲を重点的に探り始めた。
本当に少しずつこちらの反応がより強い方へと突く場所をずらしてくる。
(あ、や、嘘、ここでこんなに感じてるのに、そんな所突き上げられたら…っ)
既に痛みはほとんど感じていない。
いや、正確には違う。
痛み自体はそれなりに強いのがあるが、それ以上に強い快感が湧き上がってきている。
依然とは逆だ。
快感で痛みが塗りつぶされている。
それほど強い快感がますます強くなってきている。
それに対してほんの少しの怯えはあるが、カルトがそんな事を斟酌してくれるはずもなく…
「あ、んあ、あああああっ!?」
とうとう、『そこ』をつつかれた。
軽くだったのであまり強くなかったにも関わらずこれまでとは段違いの快感が背筋をぞくぞくと駆け抜ける。
思わず軽く仰け反ってしまった。
「あ、あ…」
ぶるり、と一度体が痙攣する。
それは…これから先に感じる快楽に対しての恐怖、だったのかもしれない。
何故ならこちらが悲鳴に近い声を上げた瞬間、カルトが動きを止めたからだ。
それはこちらの事を案じている雰囲気ではなかった。
「んくうううっ!」
むしろこれからが本番とばかりに、先程叩いた場所を確認するかのようにぐりぐりと押し付けてきていたからだ。
思わず逃げようとしてしまったが、腰をガッチリと固定されて逃げられない。
そして…
「ま、待て、さすがにそれはっ」
「……」
ごちゅんっ!
「ひああああああああっ!」
入り口付近まで引き抜かれたカルトの肉棒が、これまでで一番力強く、そして寸分の狂いなく一番感じる場所に打ち込まれた。
最大の快感が背筋から脳まで走り抜け四本の尻尾が一斉に逆立つ。
尻尾どころか耳まで全力で突き立ち、舌まで突き出して快感を逃がそうとするがそんな事が出来るはずもない。
あまりにも強い快感のためか、全身がびくびくと痙攣し、きゅるきゅると肉襞が絡みつきながら締め付けを繰り返した。
四本の尻尾も外側の二本は腰を捕まえているカルトの両腕に巻きつき、内側の二本は根元は全力で真上を向き、先端までも力が入っているためまるで鉤のような形になっている。
だが、当然それで終わりではなかった。
「んく、あ、あああっ、嘘、なんじゃこれ、おかし、ひいいっ」
そして続けてずん、ずん、と一撃目に比べればさすがに弱いが、その分連続で叩き込まれたのだが…何かがおかしい。
突き上げられる快感だけでなく、肉襞を擦られるのも以前に倍するほどの快感を呼び起こしているのだ。
(ま、まさ、か、今、わし、達してた…!?)
一度イった後は敏感になる、という事は知っている。
ただ先程感じたのは自慰等で感じるそれとは大きく違っていたため、そうとは気付けなかったのだ。
だがカルトはもはや完全に理性が消えたのか、乱暴とすら言えるほどの強さと激しさで快感を叩き込んできた。
肉のぶつかる音が聞こえてくるほどだ。
「こ、こんな、の、こんなの耐えられ、な…」
何とか正気を保とうと首を振ったり唇をかみ締めて声を我慢しようとするが
「ひああああんっ!」
ごりゅ、と抉られてあっさりと瓦解した。
それどころか先程以外の部分でも感じる箇所を見つけたのか、そこも的確に叩かれる。
そしてソレが来た。
「う、そ、これ、ダメじゃ、来る、来たらダメじゃ、もっと変、に…っ」
ぐちっ
「っ! う、くあ、あああああっ!!」
今度は、感じる箇所に先端を押し当てたまま抉るように動かれた。
突かれるのとは違って鈍く重い快感が湧き上がる。
その快感で、また、達した。
だが
「ダメ、ダメじゃ、ダメになる、壊れる、イかされ過ぎて壊れてしまうっ」
カルトは、止まらない。
「ひ、あ、あ、あ、ああ」
「あああああっ!」
「もう、許し…!? な、そこ、嘘、そんな所も弱…~~~!」
「いやああああ! また、また来るの、もうや、やなの、にぃ」
「ダ、メ、壊れ、るの、壊れてる、の、てる、から、も、うああああっ」
「ひあああ! そんな、激しすぎ…う、あ、大きくなって…!? あ、ダメ、や、今出されたら、またイ…あああああああっ!」
「っく、うあ、あ…」
「ぐちゃぐちゃになって、るの、奥まで、全部ぅ」
「は、はあ、っく、はっ」
「も…ダ、メ…なの、に…」
「うぁ、んっ、ひぃんっ」
「すごっ、奥、お腹、揺れ、て、っく、あああ!」
「ああっ、あ、あくっ、カルト、や、凄い、の、全部…ひあっ! あ、あっあっあぅっあっ!」
「ひ…あ…」
「や、あ、壊し、て、くれ」
「もっと、もっと、奥、全部、ナカ、壊れてもいい、からあ、壊してぇっ!」
「あ、出す、のか、出して、奥、孕ませて…!」
どれだけ時間がたったのかは解らないが、既に何回達したのか覚えていない。
ただ解るのはカルトはまだ動き続けている事と、こっちはとうに限界を越えている、という事だ。
絶頂するたびに全身に力が入るためか、腕も足も全身が疲労しきっていた。
喉も擦り切れるほどの痛みがあるし、顔は汗や涎や涙でぐちゃぐちゃだ。
下半身に至っては汗と溢れた愛液と精液と、そして漏らした小水で恐ろしい事になっている。
まだ意識を保っているのが不思議なほどだ。
いや…もう、正気は無かっのだが。
「あ…は…」
何度目かは解らないが、子宮に流し込まれた精液が許容量を越えて逆流する感触にまた達し、それを締まりの無い笑みで悦ぶ。
もう声もほとんど出せない。
だがカルトはまだ続けるつもりらしく、力なく垂れた尻尾を邪魔だとばかりに四本纏めて根元から握ってどかす。
「んうっ」
尻尾を握られた事で、また軽く達する。
もう体自体は動かず、ただ突き入れられている場所だけが愛しいカルトに絡み付いてもっと愛して欲しいと主張している。
そして
「ぐ…そろ、そろ、なんとかなりそう、だぞ」
「ん、カル、ト、か?」
「ああ…っく。あと一回、出せば、恐らく…く、う」
「あ…よいぞ。全部、ぬしを全部、わしに、くれ。わしを全部、ぬしにやる、から」
「ん…解った」
こちらも限界だった。
いつ気絶してもおかしくない。
そして、カルトの最後の放出が始まった。
「あ…あ、あ、ああっ!?」
(う、そ、これまでで、一番、凄…っ!?)
ごぷ、ごぷり、とまるで尽きる事が無いかのような勢いで…種付けされている。
これまでの刺激で完全に子宮が開いたのか、大量の熱が下腹部に注ぎ込まれていた。
「や、なんで、変じゃ、なんでこんな、たくさん、またイ、くっ…!」
達する。
だが、カルトがおかしいのと同じように、こっちもおかしい。
「え、え、なんで、イってるのに、イってるの、に、また、イ…っ!?」
達している最中に、また達する。
そしてまたその最中にまた、だ。
すでに力が入らないと思っていた全身ががくんっ、がくんっ、と達するたびに大きく痙攣する。
絶頂中の絶頂中に絶頂する、という異常な状態に神経が焼けていく。
(ほ、ホントに、死ぬ、死んで、しま…!)
「く…うっ」
どくん、と、カルトが最後の塊を吐き出し終えると同時に、ようやく意識の安全装置が働いたのか、目の前が暗闇に染まっていった。
…一瞬心臓が止まっていたような気もするが、とりあえず後で目覚められたので大丈夫だったのだろう。
多分。