「アトシャーマの音楽隊」
むかしむかしあるそうげんに、一人のウマが住んでいました。
ウマは小さい頃から働き者で、力持ちでまほうもつかえ、頭もよかったのですが、あるときいいよられたながれもののウサギにだまされて、
じまんのきょこんもたたなくなるくらいに搾られていらい、こわくておんなのこを抱くことが出来なくなってしまいました。
まわりのなかまはそんなウマをあざ笑ったので、恥ずかしくなったウマはさっさとそうげんを逃げ出してシュバルツカッツェにやってきたのです。
たいりくでいちばんさかえているシュバルツカッツェのおいしゃさんなら、きっとじぶんのトラウマもなおしてくれるにちがいないと。
でもでも、そうはうまくいかないのが現実というもので、どんなおいしゃさんに見てもらってもおんなのこがこわいのがなおりません。
なんねんたってもなんねんたっても治らなかったのですが、あるときウサギのくににはこころをいやすおいしゃさんがいるといううわさを聞きました。
ウサギのくにに行くなんてほんまつてんとうだ、とウマはおもったのですが、それいがいに方法がないのなら仕方ありません。
かばんひとつを背にしょって、とおいとおいゆきぐにへの道のとちゅう、げっそりとした一人のイヌがたおれているのをウマはみつけます。
「やあ。とても疲れているみたいだけど、いったいどうしたんだい?」
ウマの言葉に、イヌが答えます。
「いやあ、ついさっきのはなしなんだがね。ぐんたいぐらしでずっとたまってたもんで、ついついウサギのしょうふを買っちまったのさ。
とても気持ち良かったんだが、かねも精もすっかりはきだしちまって……うっかりいっしゅうかんもいりびたっちまってね。
それでぐんたいをたたきだされて、悔しいからってもういっかいウサギに挑んだのがいけなかった。これからどうしたものかなあ」
「ふーん。きみもウサギのひがいしゃなんだね」
と、ウマは言いました。
「おれはこれからアトシャーマヘ行くところなんだけど、きみをごえいにやといたいな。お金ならそれなりにあるんだ。
……それに、ウサギあいてにいっしゅうかんももつなら、おれのあいてだってできそうだしね」
それを聞いて、イヌはすっかり喜びました。イヌもウサギのせいでおんなのこがこわくなりかけていましたし、
もともとぐんたいにいたころからだんしょくにきょうみはあったからです。多めのおきゅうりょうもみりょくてきでした。
それからしばらくしたある日のこと、一人のネコが道ばたにすわりこんで、まるでこの世の終わりのような顔をしているのを二人は見つけました。
「おやおや、かわいいこねこくん、なにをそんなに悲しそうにしているんだい?」
と、ウマはたずねました。
「ぼくは、ふごうのひとりむすこだったんです。だけどおとうさんがウサギに入れ込んで、家業をほったらかしにして散財して、
おまけについ先日駆け落ちして……いまでは借金取りに追われる毎日なんです。もう疲れたんです。縄があったら首をつっているところです」
「ふーん。じゃあ、おれたちと一緒にアトシャーマヘ行こうじゃないか。死ぬならウサギに文句の一つでも言ってからでも遅くないだろう」
ネコは、それはいい考えだと思ったので、みんなと一緒に出かけました。かれはとてもかわいい姿をしていたので、
イヌとウマにそれは丁寧に可愛がられました。最初はあまり乗り気ではなかったかれも、だんだんとおとこの快楽におぼれていきました。
三人はどんどんと街道を進んでいきます。アトシャーマへあと二週間、と言ったところで、かれらは一人のニワトリに出会います。
ニワトリはまっかなトサカをぶんぶんと振りながら、ありったけの声でさけびたてていました。
「き、きみは、あたまをゆさぶるような大きな声で歌を歌っているが、いったいどうしたんだい?」
と、ウマが聞きました。
「愛するひとが去ってしまった悲しみを歌っているのさ!コケーッ!」
と、ニワトリは答えました。
「タンポポの綿毛のようにふわふわなあのひと!啄みたくなるまっしろな長い耳!それにあのとろけるような……コケーッ!
アトシャーマにあのひとは帰っていった!ワタシは追いかけたい!追いかけたいのに!寒さに弱い私はきのみきのままではこれ以上北へは進めない!
だからお金を稼ごうとせめて得意な歌を!のどの破れるほど!響かせているのさ!ケッコー!」
「おいおい、なにを言っているんだい」
と、ウマが言いました。
「そんな歌じゃあ必要なお金がたまるまでどれだけかかるかわかったもんじゃない。それよりおれたちと一緒に来たらどうだい。
目的は違うけれど、おれたちはアトシャーマヘ行くところだ。第一、きみの声はもっと別の事につかった方がいいとおもう」
ニワトリはまさに渡りに船と、感謝の気持ちを歌で表わしました。その大きさと言ったらあたりに積もりかけていた雪が爆音でふっとんでしまうほどでした。
ニワトリを攻略するのはウマにとってさえ難しい事でしたが、心はともかく身体を靡かせるのには成功しました。
かれは種族柄イってしまうのがとてもはやかったのですが、それをおぎなってあまりある量を出す事が出来るのです。
さてさてそんなこんなでくんずほぐれつの四人はアトシャーマに向かっていったのですが、あいにく雪がひどくてすすめません。
一行はとある森で夜を明かす事に決めました……。