猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

キツネ、ヒト 05

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キツネ、ヒト 5話



 夢を見ていた。楽しかった家族との夕食。普通な事の様に戦いに備え、落ち物の兵器に馴れていった事。
 自分の目の前で、人間に両親が殺された事。クリスタルや孤児達と出会い、大嫌いなはずの落ち物に頼り、初めての殺人を犯し、走り続けて結局、それは落ち物の手により全て壊されてしまった。

 随分と柔らかい感触に親しめず、マスードは目を醒ます。見た事の無い装飾が施された一室、質の良さそうな寝具、遠くから喧騒と様々な色の光が届いて来るる。
 腹部に鋭い痛みを感じ思わず当てた手の平ごしに、大量の符が貼られているのをマスードは見た。
 寝息を聞き取る。知っている匂い。身体を這わせて隣を覗く。穏やかに眠るアキラの顔が、そこにはあった。
 体温が上がる。クリスタルの言葉を思い出す。武器を使わずに命を奪う方法なんて、幾らでもある。

「他にやる事ないの?まず命の恩人にありがとうございますって言ってみるとか」
 咄嗟に銃を構えようとするが、直ぐに無い事を思い出す。
「残念でした・・・・・・重っ」
 自分の銃を構えた猫眼鏡が顔をしかめ、それをバッグに仕舞う。
 殺してしまおうかと思ったが、眼鏡の奥に映る隙の無い彼女の瞳に、マスードはそれを諦めた。

「たのんだきおくはない」
「魂は生きたがったてた。だから君は死ななかった」
「バカな話を」
「真実だよ」

 女が近付き、細巻きに火を点ける。
「いる?」
 マスードは答えない。
「素直じゃねーなぁ」

 二人は縁側に座り、煙りをくゆらせる。言葉は無い。奇妙な時間が流れた。
「なかまはどうなった」マスードが呟く様に話し出す。
「アキラがみんな殺しちゃった。あ、セルゲイ?って子犬は無事らしいよ」
「セルゲイ。あいつは生まれつきうんがある」
「そっか」
「クリスタル、にんげんの女は・・・」
「死んでた」
「そうか。いや、かくにんだ」

 再び沈黙が訪れた。少し寒さを覚える秋風が、上昇した体温と暗い憎悪の炎を何処かに飛ばしてしまったのか、穏やかな心をマスードは感じていた。



「謝らないから」次は彼女が沈黙をやぶった。「アキラが君の全てを壊した事、謝らないから」
 マスードは驚いて彼女を見たが、そこには慢心も罪悪感も無い、穏やかな表情があるだけだった。
「君が、カナやアキラを深く傷付けた事も、別に考える必要無いから」ココが続ける。
「へんなことを、言う女だ」
「そう?でも本心だよ。成るべくして事は起きた。そして結果が残った。後はせれぞれが生きて行くしかない」
「俺にはもう、何もない」
「命だけは残った。また初めから作れば良い」
「かんたんに言うな?」
「難しい事だよ。でも私もアキラも、多分クリスタルって女の人も、そこから始めたんだ」
「俺にはころすぎじゅつしかない」
「なら、うちで働く?」
「いや」一瞬迷う。
「やめておく。それは、何かちがう気がする」
「そう」

 ココが細巻きを瓶に入れ、新しいのを口にくわえる。
「いる?」
「ありがとう」

 その一本が無くなる間、お互い何も喋らなかった。
「すまないがじゅうを返してほしい。その」マスードがゆっくりと立ち上がる。
「ココナート=リバティ。ちょうど重くてきつかったんだ」ココが微笑む。
「ありがとう」差し出された銃をマスードが掴む。
「ジャー=マスードだ」
「君もやっぱり、それが無いと眠れないの?」ココが辛そうな表情を見せる。
「いや。それもあるが、おやじのかたみなんだ」
「そっか」

 随分と軽い銃。弾は抜かれていた。薬室を覗く。弾丸の鈍い輝き。一瞬ココを人質にしようかとも思ったが、良く見ると少しだけ震えている彼女。それを見たマスードは、何故か様々な事が過ぎ去ったのだと感じた。
「俺が、こわかったのか」
「少しだけ」
「そうか」

「はは、今になって震えて、格好悪ぃ」
「すまない」
「気にしないで」
 マスードが踵を返す。
「もう少しだけ、ねどこをかりる」そのまま振り向かず付け加えた。
「いのちをすくってくれて、ありがとう」
「お礼ならカナに、君が人質にした女の子に言って?あの子、君がここで死にかけた時、大泣きしたんだから」
「今は、合わせるかおがない。きっと、こわがる」

「そのうちさ?」
「そのうち、な」

 夜明けを待たず、短い置き手紙を残して、マスードは姿を消した。アキラが目を醒ます、一日前だった。

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