猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

キツネ、ヒト 06

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キツネ、ヒト 6話



「しかし良く寝るな」ココの呆れる様な声。
「生死の境をさ迷ったからの、当然じゃろうて」優しい声、誰だろう。
「こ、これでツケをチャラにしてもらうにゃ」
レダ、さすがにそれは・・・。
「ダメに決まってるだろ!」
「お父さんうるさいっ」
「ごめん・・・」店長弱いなぁ。
「おい目を醒ますぞ」男の人、初めての声だ。


「アキラ君・・・」ゆっくり瞼を開けた先に、泣きそうなカナの顔が目の前にあった。
「良かった・・・良かった」 そのまま顔をおれの胸元に落としたカナは、何回も良かったと言いながら、肩を震わせた。
 俺はひどく重い気がする腕を上げ、カナの髪を、出来る限り優しく撫でてやる。昔妹に、してやった様に。んん、恥ずかしい・・・。
 周りを見ると色々な人が居た。ココとレダはニヤニヤしながら見下ろしている。店長は泣きそうだ。
 浴衣風の服を着たカナみたいな女の子は、多分凄く強い人間みたいな男の人と何か喋っている。ん?
「にんげん・・・」疑問を思わず口に出してしまった
「俺も落ち物だ」
 答えを出してくれたその人の、沢山の何かを抱えた瞳の奥に、確かな優しさが垣間見える。
「ほらカナ。そんなに密着してアキラの顔が真っ赤になってる」ココがニヤニヤしている。後で覚えてろ。
 まだ泣き止まないカナが鼻をぐずぐずやりながら離れて行く。ああ、なんか勿体ない。
「アキラ、今勿体ないと思うたじゃろ」
「お、おもってません!ええっと」
「朱風じゃ」
「あけかぜさん!」この人心が読めるのかな?!
 
 ゆっくりと上半身を起こす。チクリとした腹部の痛み。鼻に残る硝煙の匂い。記憶のフラッシュバック。
「セルゲイ!くそっ」やはり殺しておくべきだった。「アキラ君!」カナがまた抱き着く。お腹に彼女の手が触れたが、痛みは感じない。
「リーダーのガキもだっ。みなごろしにしないとほうふくされる!」それが戦場のルールだ。
「もう一週間も前の話だよ!」カナは離れない。
「でも!」カナがまた、危ない目に会ったら、おれはっ・・・・・・!

「アキラ!」
 ココの一喝。彼女はおれの隣で腰を下ろし、机に仕舞っていたはずの煙草を一本取り出すと火を点けた。
「吸いなさい」
「今は!」そんな場合じゃっ。
「良いから吸いなさい!」
 鋭い声。おれはどうも、ココに敵わない。良く解らないけど、何か彼女に怒られると酷く悪い事をしている気持ちになる。
 久しぶりの喫煙、たっぷりと吸い込み吐き出すと、少しだけ頭が冷えてくる。あけかぜさんが少しだけ目をしかめたので、慌ててココに煙草を返す。
「落ち着いた?」
「少しだけ」
 ココは煙草をいつもの瓶に入れながら、間を置いた。
「アキラは子犬一人とマスードを残して皆殺しにした」
 マスード?リーダーの名前か?
「カナがマスードを助けた。彼はそれを認めた。それで手打ちになったの」
「うそだ」そんな上手い話、あるわけない。
「本当よ?最後私に、カナには手紙だけどありがとうって言ってた」
「そんなのおれだっていえる」
「彼は隣で眠る君を、殺さなかったわ」
「動けなかっただけだ」
「あら、私と一緒に煙草をふかしたわよ?」
「でも!」
 おれなら必ず殺しに行く。最後までやり遂げる。喉まで出欠けた言葉は、カナの言葉で封じられてしまった。
「頼んでないよ・・・」
 やっと聞こえるカナの小さな声。
「アキラ君が助けに来てくれた時、嬉しかった」
 カナの腕にどんどん力が入る。
「でも、あんな危ない目にあって、あんな怖い顔して、私・・・」
「助けてなんて頼まない、頼めないよ、アキラ・・・」
「カナ」おれは上手い言葉が思い付かず、ただ名前しか呼べない。

 重苦しい空気。何か言わなきゃ。店長が狭そうにココの隣に座る。
「二人とも生きて帰った。今は、それで充分だ。お帰り。要芽ちゃん、アキラ君」
 店長が固い蹄とは裏腹な優しさで、おれとカナの頭を撫でくれる。いやさすがに蹄はイタ、イタタ。
「いたた」カナが耳をぴくぴくさせた。

「しかし本番はこれからだ!アキラ君。君はまだしばらく働けないね?」店長の眉間にシワが寄る。
「ご、ごめんなさい」お、怒ってる・・・クビ、か。
「だから、早く治して、またアルビオンを盛り上げてくれ。な?君のファンだって、心配していたぞ?」
「え?」クビじゃないの?
「お父さん何で素直にまた働いてくれって言えないの?」
「ココナート!物事には様々な段階と言うのがあってだな」
「暴れないでよ狭いなぁ!」
「ご、ごめん怒らないでよう」

 ああ、いつもの親子漫才だ。これだけ色々な人に気を使わせて、また、働けるなんて、おれはそんな、大した人間じゃないのに。
 くそ、なんか泣けてくる。おれはみんなに見付からない様こっそり布団で顔を、あれ?なんかカナがぷるぷるしながら布団に顔を押し付けてる
「二人共、ズルイ」そう言って堪え切れず、笑い声を零すカナ。萎んでいた尻尾が、今はおれの足元で元気に動いている。うん、カナは笑った顔が・・・。

 結局カナを皮切りにみんなが笑い出す。ああ、やっぱり店長は、凄い人だ。

「さて、一応怪我人相手じゃ。余り騒がしくては身体に響くでの」
「あけかぜさん。あの、ありがとうございました」
「なに」子供みたいに小さな手が、おれの髪の毛くしゃくしゃとやる。
「これも縁じゃ」屈託の無い彼女の笑顔。それを見守る男の人の優しい表情。きっと、凄く仲が良いんだろうな。
「そういえば、ここは」凄く今更な質問だけど、ほら、なんか聞くに聞けなくて。
「わっちの城にゃ!」レダが踏ん反り返って鼻を鳴らした。
「こいつの、まぁ簡単に言うとお店かな?レダはここの店長」ココの何か秘密にした表情が気になるけど・・・
「店長!レダすごいじゃないかっ、えらかったんだな!」真剣に感心してしまった。
「ま、真面目に褒められるとてれるにゃ」尻尾をうねうねさせたレダが続ける。
「今はただの空き部屋だから存分に使うといいにゃ。元々ここは来客の、その・・・」
 あれ?レダの様子が・・・真っ赤だ。
「女の子に何て事説明させるにゃっ!!」
 この変態!と付け加えたレダは走り去ってしまった。と、とにかくありがとう。

 それからしばらく、おれは三人と久々の会話を楽しんだ。店の近況やマーゼルが手酷くフラれた事、雑貨屋の再開。店長が新しく拾ったCDの事を話そうとした瞬間ココに「つまんないからいいよ」とへし折られた時、思わず二人の中を勘繰ってしまった。
「さって、お父さん帰るよ」
 そっか、少し寂しい気持ちもあるけど、お店があるもんな。
「嫌だ!お父さん息子の様子が心配すぎて働けない!働きたくない休みたい!」 それは店長の願望じゃないかと心の中で突っ込んでおく。あれ?なんか今凄く照れ臭い事を言われた様な。
「甘えるんじゃねー!それに」
 ココが店長に耳打ち。正座しながら話を聞く牛の姿は、正直面白い。
「あー!はんはんはん何!?わぁお、ウシシシシ」
 店長狙ってる。絶対狙ってる。
「成る程。ではココナート、私達は帰宅を」
「そうねお父さん」
 二人同時の輝く笑顔、怪しいなぁ。
「あ、じゃあ私も」
「いやいやいやいや違うだろ!」
 立ち上がろうとしたカナを制止する白い指と蹄、タイミングも腰に手を当てるポーズも全て一致。今、おれは奇跡を目前にしている。
「でも」
 当然の様にうろたえるカナをサンドイッチした二人が同時に耳打ち。
「ごにょごにょごにょ」
「!」
「ぺらぺらぺらぺら」
「!!」
 見る見る内に赤くなるカナ。その表情は前髪が掛かって見えないけど、肩越しに主張する尻尾はぴんぴんになっている。
「でも」
 泣きそうなカナ。
「大丈夫!」踊る蹄
「勇気を!」踊る猫耳
 薄っぺらいガッツポーズを取る親子。
「・・・・・・頑張って、みる!」
 まるでこれから戦場へ向かう女の子の表情をするカナ。嘘、伝染してる?

 一仕事終えた様な顔で部屋から出ていく二人が漏らした赤飯だとか犯罪レベルのショタコンだとかの言葉の意味が解らないのは、きっとおれが孤児だからだろう・・・・・・。

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