猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

猫の宅急便 01

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猫の宅急便 1話



 猫の国領海、某海域。中型魔洸船[金色の夜明け号]の寝室。パンツ一丁で寝ている私は、二機の水冷式魔洸発動機の騒音と、涎で不愉快にひんやりとした枕に眉をしかめていた。

「コーディ仕事だ!おいなりさんの国境、ポイントハリコフ。超特急だ!」
 寝室の備え付けられた拡声器が、私の怠惰な目覚まをぶち壊す。

「私今日休みよ!?」
 二日酔いに響くアナグマの無駄に良い声が頭痛を増長させる。
「お前のメルカバが一番早いだろ頼む!」
「給料上乗してくれるんでしょうね?」
 とりあえず言ってみるだけ言ってみる。
「間に合えばなコーディ。じゃないと俺の首が飛ぶ」

 誰もアナグマの首なんか取りゃしないよ腰抜け。
「くそがっ」
 とりあえず備え付けの水道で顔を洗い、簡単な化粧をしながら私は肥満体のアナグマに毒づき、腰まで届く自慢の金髪をアップに纏める。
「煙草煙草・・・ふぃー!」
 よし。準備完了!あ、やべ作業着!
「42秒!」
 別の拡声器へ怒鳴る私に、カタパルトから了解の返事。ち、寝起きの強い奴め。
 
 扉を開ける。相変わらずの油臭さ。自室から少し先の階段を飛び降り、船室を走り抜けた先にある螺旋階段の三階最上階、その扉は私を待ち構え口を開いていた。
 後五歩で階段初段。私の足は一気に加速する。
「どりゃああぁっ!!」
 跳躍。一階踊場の手摺り着地。そのまま壁に向かって更に跳躍。剥き出しのパイプに捕まり大回転。
「よっ」
 手を離す。ふわりと上昇。足先が天井に触れた。屈伸。一気に蹴り出す。私は扉に飲み込まれた。

「猫の運動神経ぱねぇにゃあ」
「おめーも猫だろ!」
 四足で着地した私に黒猫のクロイが呆れたので、擦れ違いざまに頭を小突いてやる。

 三つのケージの一番奥、三番に括られたワイバーンが私に気付き身体を奮わせた。
「おはようメルカバ!また私達の仕事だ!」
 メルカバの顔を両手で撫で、シートを背中に固定していると射出手のアマシュが配達物を持って来る。
「防水防圧全部完了。コーディは稼ぐねー」
 相変わらず露出の多い虎娘が魅力的な笑顔を見せる。ち、なんて美人なんだ。

「中身は・・・」
 私はアマシュから受け取った小包をメルカバの腰に縛り付ける。
「それを探らないのが美しい仕事よー」
 アマシュがウィンクを飛ばす。
「そりゃそーだ。さて!行ってくる」
 シートに跨がり、ハーネスをベルトに固定。ラックに掛かったゴーグルを顔に・・・よっしゃ一発でベストポジション!
「はーい頑張ってねー」
 アマシュが開閉レバーを操作すると天井が開き、メルカバを固定していた鉄骨が甲板へせり出した。

 朝日が私の酔いを吹き飛ばす。夏になったばかりの気持ちいい潮風が、私の髪をバタバタと揺らしている。
 ああ、こんな日に飛べる私は・・・
「発射!」
 アマシュの声と共に引かれるトリガー。撃発。魔洸で圧縮された空気が鉄骨を高速でスイングさせ、文字通り私達を大空へ撃ち出した。

 古臭いカタパルトのおかげで、私は真っ逆さまで外界に放り出された訳だが、今は全然気にならない。何故なら今の私は、こんな気持ち良い空を飛べる私は、猛烈に・・・!
「幸せ者だ!」

 放物線の最高高度で、私はメルカバの楔を解き放つ。さぁ、仕事の時間だ!
 畳まれていた両翼が広がり、上昇気流を捕まえる。手綱をクイと手前に引いてやると、相棒が機敏に反応して急上昇。

 切れ味鋭いロール。
 魂まで引き抜いてしまいそうな加重。
 走馬灯よりも早く空が流れる。

 降下してブリッジを横切った直後に右足の踵で一度相棒の脇腹を突いてやると、両腕の皮膜を目一杯内側へ広げブレーキ。三度大きく羽ばたき、派手に水しぶきを上げながら船体に随伴。

「いい子だメルカバ!今日も絶好調」
 ワイバーン。その中でもスリヴァーと呼ばれる種族が、私の相棒だ。小型の体格は重荷に弱いが、しなやかで自由度の高い被膜と、それを支える強固な筋骨。独立して可動する二本の短く尖った尻尾のお陰で爆発的な機動性と運動性を誇る空のじゃじゃ馬。
 私が相棒の胸を叩くと、嬉しそうな唸り声。可愛い奴め!
 
 荷物と一緒に渡された音封石を上着のポケットから取出した私は、それを耳に当てた。そこにはボスの声で受け渡し時間と航路、ランデブーポイントが記録されている。
 この季節は積乱雲があるから、外洋を飛ぶのは危険か・・・でもそこを抜けないと間に合わない?冷徹な奴だ!。
 最後に観測手から土産をせびる冷静なメッセージ。遊び行くんじゃねーっつの!

 私は手綱を短く一度横に切る。メルカバも短く身体を傾け元に戻す。行ってきますの挨拶だ。すると・・・光信号でさっさと行け?
「フローラにばれて沈んじゃえ!」
 できる限り大声で罵声を飛ばし、再び上昇。最近ちらほらと見る様になった魔洸船に比べ、明らかにおんぼろな[金色の夜明け号]の旧式タービンから昇る水蒸気よりもっと高く。
 限界高度ぎりぎりでバレルロール。
 太股でメルカバの身体を強く挟む。
 咆哮一閃。翼を閉じたメルカバは、弾丸みたいな速度で私を連れて急降下していった。

「こちらにサインをお願いします」
 雨に当たったお陰ですっかり崩れた化粧をごまかす様に、私は満面の笑みを浮かべる。
「定刻通りで助かるわ。化粧ごめんなさいね?」
「いえいえ仕事ですからっ」
「勇ましいのね・・・はい、四十セパタ。お釣りはいらないわ?」
「あ、でも・・・」
「気にしないで?ほんの気持ちよ」
「あ、ありがとうございます!」
 ラッキー!
「また機会が有ったらお願いするわ?えーと」
「コーディ・・・コーデリアですっ」
「そう」
 薄く笑った狐の女性は「またお願いするわ、綺麗なドラゴンライダーさん」と言って去って行った。
 いやいや、お客さんのが美人じゃないですか!!

「ドラゴンライダーかぁ」 私はメルカバにシュバインの干肉をやりながら、一人反芻した。
 ドラゴンライダー。翼竜操者の中でも、エース中のエースに与えられる選ばれし者の称号。そのメダルには伝説のエンシャント・ドラゴンが彫られている。

「ドラゴンライダーだってぇ」
 緩みきった私の顔をメルカバがチロチロと舐める。そっか、メルカバも嬉しいんだ!って臭!血生臭い!
 最高に旨い一服を済ませ腕時計を見る。ランデブーポイントまでの時間を計れば・・・晩飯に間に合う!今日は何てラッキーなんだ!「帰ろうメルカバ!シュバインの生肉をプレゼントしてあげるっ」
 私は相棒の口元にキスをして背中にまたがる。滑走には充分な平地。両踵でメルカバの脇腹を突くと、皮膜を広げて走り出す。

 離陸はお尻が痛くて半泣きだけど、安定したらそれは大空が呼ぶサイン。
「いけっ!」
 思い切り手綱を引く。力強い羽ばたき。不安気な浮遊感は、やがて風を捕まえ優しい物に変わる。
「クロイの奴。ちゃんとビール冷やしてるかな」
 私の独り言にメルカバが頷いた気がして、優しく頭を撫でる。
 化粧はボロボロだし、汗で身体はベタベタだけど、今日は最高にラッキーな一日だったな!

「えー!!ご飯ないの!?」
「こんな早いとは思わなくて、ごめんねー」
「アマシュ気持ちがこもってないないよう」
「でもー。一番食べてたのはクロイだよー?」
「クロイてめぇ!ぶち殺してやるクソ童貞!」
「さ、差別だにゃー!委員会に言い付けるにゃー!!ま、待つにゃ落ち着くにゃ、ぎにゃあぁぁぁ!!」

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