猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

猫の宅急便 05

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猫の宅急便 5話



 状況開始です、急いでください。
 金色の夜明け号のブリッジに、フィオの冷静だが緊迫した声が響く。何の対空兵装も持たない母船が戦闘海域をうろうろしていては、それは単に自殺行為であり、何より私兵が戦いにくいのはヴァシリも良く理解している。

<スオウ、ズラかるぞ。ギアを上げろ!>

 拡声器から呼ばれた名前に、上着を腰に巻いた偉丈狐が了解と怒鳴返し、操作厳禁の貼紙を破きながら肩を使いレバーを上げる。
 普段は光の灯らない[第三のギア]試作魔素吸着発動機が唸りを上げ、見る見る輝きを増していく。

「十秒だ!」
<充分です>

 今度はフィオの冷静な返答。狐の舌打ち。

 試作魔素吸着発動機。魔洸発動機開発の初期に生み出された遺物。まだ必要分のみの魔素を取り込む事が机上の空論だった時代に、学者達がただ動かす事を目的に作り出した洗練とは程遠いアイテム。
 機械の寿命など関係無く、整備士の苦労など考えず、周辺どころか使用者の魔素まで食い尽くしてしまう変わりに、それは圧倒的な運動エネルギーを生み出す事が出来た。

 狐が歯を食いしばる。
 「行くぞ」と伝達。
 解放用レバーを全て切り替える。
 最大船速で面舵を切られ、スオウは派手にすっ転んだ。

<おい舵を取る時は言いやがれ!>
 スオウの怒声がブリッジに響く。
「緊急事態ですので、申し訳ありません」
 フィオの涼しい顔。

「何秒だ?」
 力を込めながら舵を切るヴァシリが尋ねる。

「八秒です・・・五、四、三、二、一、止まります。海水注入開始」

 フィオが機関室に「行きます」と短く伝え、三つの注水バルブを全開にすると同時に、船がゆっくりと前進を停止した。

「ご苦労、パーフェクトだ」

 ヴァシリは大きく息を吐いてから、フィオと機関室のスオウを労う。
 フィオはありがとうございますと笑い、拡声器からはけたたましいスチーム音だけが聞こえる。

「二人はどうだ」

 葉巻に火を点しながら質問するヴァシリに、「良い調子と言えます。ですが紅いサラマンダーが二人の戦列を掻き乱しています」彼女が魔法を使う時の特徴である機械的な声色で返答した。
 フィオが眼鏡を外すと同時に何かが船の真横に墜落し、ブリッジにまで水柱を上げる。


「コーディさんの戦果確認。ワイバーン・ストライカーです」
「共に無事か?」
「ワイバーンに関しては翼が折れていますが、ドライバー共に致命傷ではありません」
「スクリューで挽き肉にしてやりたいが協定がある。クロイとイツキに救助させろ」
「憎まれ口を叩きますね、本当はとても優しいお方なのに」
「減らず口だぞフィオ」
「怒りました?可愛らしいですね」
「今にその耳を縛り上げてやる」
「楽しみにしています」

 ド変態め。楽し気に呟いたヴァシリは席を立ち、フィオの横に並ぶと静かに空を望む。飛び交う紅白の輝きと命の鼓動は、いよいよ激しさを増している。

「娘の活躍が楽しくて仕方が無いですか?」

 野太い腕にそっと寄り添う兎の頭を、穴熊が優しく撫でる。

「馬鹿を言え、股とおつむがガバガバな娘を持った覚えは無い。だいたいお前はどうしてクルーの前だと俺に甘えんのだ」
「あら、子供の前でいちゃつくのは情操教育に良くないと言ったのはヴァシリさんじゃないですか」
「むう」

 確かにそんな事を言った覚えはあった。だがそんな事関係無しに、二匹の猫娘は成長している。
 イツキはキンタマのある所を見せた。
 クロイは・・・。

「クロイさんは、きっとこれからですね」

 フィオの補足に、ヴァシリは頬を小さく掻いた。
979 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2010/12/26(日) 21:59:17 6qNmA5NQO
 三騎、四騎、自身と相棒の成長を噛み締めながら、私は次々にスコアを伸ばして行く。
 戦争以外で竜を殺し合いに使ってはいけない。
 大協定の言葉は勿論忘れていないけど、やっぱり戦いに勝つってのは。

「ゾクゾクする!」

 沸騰する血液とメルカバの獣性を存分に解き放つ。この堪えがたい快感の前には頬を伝う汗も、手足に回り始めた痺れも、ヤニ切れも気にならない。
 とは言え。

「こうもぽんぽん打ち出されるとねぇ、これで?六騎目?あーあー槍なんか持ち出しちゃって」
 ・・・殺し合いじゃないっつってんのに。全く。

「上等ォ!」

 ウエストポーチとベルトにの間に挟みこんだハチェットの柄を握り締め、呼吸するよりも自然に突撃。二回切り結び、三回目は槍の切っ先で手綱を引く。
 ジャックナイフは最高の切れ味。
 宙返りする私達を相手は見る事も出来ない。
 擦れ違いにまたねと囁いて、敵の手綱を切り裂きワイバーンのケツを引っ叩いてやる。
 明後日の方向に飛び去る相手を無視し、三日月号を睨み付ければ・・・。

「くそまたかよ!」

 しっかり防衛配置のワイバーンが一匹。無限かよ畜生!

「面倒くせぇ!まとめて出て来い短小野郎共が!」

 大声で叫んでから私は違和感に気付く。いくら私がプリチーな猫娘とは言え、この戦力を見せ付けられたら普通は数で圧倒したくなるはずだし、三日月号ならそれが可能なはずだ。だいたい今射出されたばかりの敵も、威嚇こそすれ立ち向かって来る気配がまるで見えない。
 何なんだ一体、この尻尾の先っちょにぴりぴりと来る感覚は。
 ふと相棒の気分が逸れているのが解り、注意しようと視線を移せばその頭は下を向いている。その気はやがて明確な敵意となり、いよいよ唸り声を上げ始めた。

「何?」

 眼を細め海面を凝視。
 三日月号から伸びる三つの白い泡は、黄金の夜明け号へ向け猛然と海中を進んでいる。
 無くしていたパズルのピースがピタリとはまる。
 が、それは最悪の答だ。
「くそっ!」

 メルカバを翻し、私と母船の中継地点で戦っているアマシュへ向かう。
 あの泡は恐らくシーサーペント、海を進む水竜の眷属だろう。私達が空に気を取られている内にシーサーペントが肉薄、そのまま白兵戦にて一気に制圧・・・そんなシナリオが脳裏をよぎり、氷柱をぶっ放したくなるが、水精の強い加護下にある連中にそんな物効かないだろう。
 くそ、こんな単純な作戦に載せられるなんて・・・!
 目視でアマシュを確認し指笛を短く二回鳴らす。それと同時にこちらを見たセンチュリオンが私目掛けて炎を吐き出した。
 咄嗟に頭を下げ、耳がちりちりと焼ける感触と共にそれをやり過ごすと後方から悲鳴が聞こえた。
 よし。私達は親友で戦友、アマシュは背中を任せるには最高のヤツだ!

 交差するランデブー。
 一瞬センチュリオンの額に口づけし、同時に魔法陣を描く。
 イメージは弾け飛ぶ果実だ。
 一つに纏めた巨大な氷柱が発現と共に爆散し、周囲が厚い霜に覆われた。かなり寒いけど、目眩ましくらいにはなるはずだ。

「アマシュ愛してる最高の援護だった」
「当然ーちょうど休めたから良かったよー」
「疲れてる中悪いけど緊急事態、船が白兵戦になる」
「イツキ!!」
 狼狽する表情は気持ちの現れかな?
「センチュリオンならまだ間に合うよ。みんなを頼んだ!」
「分かった!コーディは?」
「鷹野郎をぶっ飛ばす!」
「たっのもしー。気をつけてあいつ中々やるよー」
「了解っ」

 センチュリオンを翻し、霧散した冷気を突き破りアマシュが金色の夜明け号へ戻って行く。元殺し屋のアイツなら問題無いだろう。最悪兎もいるし、ね。おおっと!
 クリアになった視界には肉薄する、あのサラマンダーが迫っていた。

「逃がさん!」鷹野郎が吠え、私をスルーして降下運動に入る。

「よそ見は駄目ぇ!」

 風を叩く紅いサラマンダー下顎に、メルカバの額を食らわせてやる。お前の相手は私だ!

「猫・・・また女か?」
「女で悪いかチキン野郎!」
「は!口も腕も一級だな?名前は」
「コーデリア!相棒はメルカバっ」
「俺はメンフィス。相棒はレオパルド」
「私、貴方とヤりたいの!」
「イカせてやるよ!」

 レオパルドの火球が広がり、回避運動を取る前に瞬間目の前で爆散した。無数の火の粉が目前に散らばり、私は思わず目を閉じる。
「しまった!」

 煙りを払った先に迫る逞しい尻尾にメルカバを反転、急降下。海面スレスレを飛行する私の背中には、きっちりとメンフィスが食い付いている。くそ!

 炎の音が大きくなる。
 後方確認と共に光が炸裂。
 空気を焦がしながら、十数発の火球が連続発射。
 素早く手綱を引きナイフエッジ。
 皮膜を縫って次々と上がる水柱が真後ろに続く。
 二度フェイントを入れ急上昇。

「なんつってぇ!!」

 レオパルドが上を向いた瞬間を狙い、限界まで皮膜を広げ急ブレーキ。このままオーバーシュートでぇ!
「いただき・・・」

 慢心の報酬は直ぐに訪れる。私が見たレオパルドは想像の、間抜けにメルカバを追い越すサラマンダーでは無く、上昇反転しながら、真っ赤な光を口から漏らしながらしっかりこちらを見据えていた。

 私は二度短く舌を打ち再び降下、炎を噛み消したレオパルドが即座に反応、食らい付く。くそ、何なんだあの鳥野郎!機動でも運動ても、サラマンダーが勝てる相手じゃねーのに!

「おいどぉしたよ子猫ちゃん?びびって魔法が使えねぇか!」

 横に並んだメンフィスの軽口が、私の闘争心に火を点ける。上等だ!

「幼女のケツだ!追っかけんのは得意だろ?」

 出綱を三重に巻き付けながら、私も言い返す。

「しっかり付いて来なっ!」

 再び上昇。
 もう後ろは望まない。
 メンフィスも一撃で決めるつもりか、背中には猛烈な戦意のみ。
 もう少しで限界高度。まだだ、後少し、もう少し!
「今だ!」

 ギリギリでメルカバに頭を下げさせた瞬間、翼を大きく右に切る。
「ーーー!」
 鋭い錐揉み回転と加重に身体が悲鳴を上げる。
 オーバーシュートしたレオパルドと交差する形で短くロール。
 白む景色の中、やっと捉えた背中は愛しさすら感じさせる。

「行けっ・・・!」
 もう限界だったのか、発射された氷柱はたったの一発。その上メンフィスに命した瞬間粉砕してしまった。あーあ、せっかく当てたのに、くそが。

 滞空するのがやっと、まぁ正確にはメルカバはピンピンしているが、私自身、もう手綱を握るのもきつい。ま、やるだけやったよ。悔しいけど。
 そんな事を考える私の前にレオパルドが滞空し、炎を零す。フライドキャット。け、まずそ。良く見たらメンフィス、片腕しか無いのか。それであそこまで操れるのか。相手が悪かったと言うか、何と言うか・・・。
「大した奴じゃん。メンフィス、あんたにやられんならまぁ、許せるかな」

 目を閉じ、ゆっくりと深呼吸。今際が相棒の上なら、それは悪く無いかな?死ぬ時はせめてトライバーとして・・・。

「ってか早くしてよ!結構怖いんだからさ!」

 しかし。目前にレオパルドは見えない。
 変わりに映るのは、巨大な騎兵槍を構える犬と、悠然とたゆたう灰色のワイバーン。
 強く逞しい、今一番見たくなかった背中。

「邪魔して悪いな。だが祭は終わりだ、海軍が向かってる。抜き身のカットラスに羽の旗[人形エッダ]のお出ましだ」

 私に犬の声は聞こえない。空には信号弾が両艦から打ち上げられ、曇天をイエローに切り裂いている。
 メンフィスの姿は、もう見えなかった。

「俺達も退くぞ。と言っても、臨検は避けられんだろうが・・・おいコーディ」

 うるさい。
 うるさいっ!!
「うるせぇなバカ犬!畜生、何でアンタなんかに・・・私は満足してたんだっ!」
 あのままやられても、別に後悔は無かったのに・・・!
「ふん。怖いと漏らした口で良く言う」
「なんだと!?」
「とにかく今は帰るぞ。安心しろ、別にお前を助けに来た訳じゃない」

 翻るクルセイダーの、アレンの背中を私は最後まで睨み付けた。
 操竜師は戦闘目的、及び戦闘区域以外での武器の使用・携帯を禁ずる。
 駆け出しの、新米の操竜師でさえ、誰でも知っている大協定の基本。
 仕事に向かったはずの犬野郎が、得物を携え現れる。
 それが意味する事に、私は小さく、くそと呟吐き捨てた。

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