猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

わたしのわるいひと 02

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わたしのわるいひと 2話



夜中に物音がするから泥棒かと思ったらご主人様だった。
「夜中に物を食べるなとあれほど言ったでしょう」
冷蔵庫の前で袋をご主人様から取り上げる。するとご主人様は悲惨な声で鳴いた。
「ああ、『イヌまっしぐら』印のジャーキーが!」
「ああ、じゃあありません。夕飯はちゃんと食べたでしょう」
そもそも貴族って夜中に冷蔵庫あさったりするものなのか。しないだろ。
「あんな夕飯じゃ足りないよー。だいたいヨーは野菜ばっか食べたがるし」
「普通のイヌにとっても野菜は適量のはずです。別に食べて悪いものじゃないですしね」
それでも子どものごとく上目遣いでおれを見つめるご主人様に、ふと思いついて言ってみた。
「じゃあ今、『わん』って言ったら食べさせてあげますよ」
「わん」

……ご主人様、半分のイヌ貴族の血と半分のオオカミの血をどこへやったんですか。




そんなわけで、飼っているような飼われているようなよくわからない生活は今日も続いている。
「ご主人様。今日の顧客の件ですが、引き取り価格はこんなもので」
「えー。向こうの希望よりずっと安いよ」
「いいんです。これ以上安くするとこっちの首が回りませんよ若旦那、とでも言っておきなさい」
ちなみにご主人様はおれとソファーで会話しつつばくばくクラッカーを食べている。よく食う奴だ。もし彼女が本当に身売りされてたら、売春宿は食費に困ったんじゃなかろうか。
「にらまれるのは私なんだよ。ヨー」
「そりゃあもちろん、知ってますよ」
おれはさわやかに言った。
「悪人め」
とちらっとワイルドな目つきでにらんでも何とかしたりしませんよ。
大体イヌは義理だの何だの使って客を差別するのが悪い。ネコ商人のほうが信頼されても仕方がない。
ご主人様はあきらめたようにため息をつくと、ふらふらと店へ出て行った。




おれたちは二階建ての家の一階を店と事務所にして、二階に住んでいる。
そこそこでかい家なので、二階におれが住んでいることは他の従業員にばれていないようだ。まあ、中にはおれのことを知ってる奴もいるが。
ご主人様は下で落ち物を売りに来たイヌと話している。ご主人様はおれの言うとおりにしていることだろう。
ご主人様の美徳は素直さだ。これをやれと言われればその通りにする。こんなヒト奴隷の言うことだって簡単に聞く。しかも少しの曲解も誤解もせずに命令をこなす。
彼女は主人というものに向いていないのだと思う。昔は家に通っていたメイドにもなめられていたらしい。むしろ彼女がメイドだったほうが幸せだったかもしれないな、と思う。
そんなことを思いながら、ご主人様が少し残していったクラッカーをかじっていると、階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
「ヨー。あの人怖かったよー」
そしてご主人様が半べそをかいて現れる。おれはクラッカーを置いた。
「見ればわかるじゃないですか。カタギじゃあありませんよあのイヌ」
「先に言ってよ!」
やっぱりご主人様は馬鹿だ。おれは何でこんなイヌの従者をやっているのだろうか。おれは数百回目ぐらいに人生が嫌になった。
「がんばったんだよ私。ほめてよヨー。予定通りだよ」
「はいはい。えらいえらい」
「やる気が感じられない!」
おれは騒いでいるご主人様を見やる。本当に、馬鹿でうっとうしい主人だ。
「じゃあ、ごほうびあげますよ」
「ごほうび?」
目を輝かせ太めの尻尾をぱたぱたさせた。うーん、イヌにしてもそろそろ分別のつく年頃のはずなんだけどな……。
「こっちに寄ってください」
「なになに」
「もっと」
おれはご主人様を隣に座らせる。
「舌出して」
ご主人様はおれの言うとおりに舌を出した。おれはご主人様の顔を掴むと、

ちゅー。

と舌を吸ってやった。
びっくりしたのか半開きになった唇に自分の舌をねじ込むと、口内を嘗め回す。離れようとする体を尻尾を握って制した。
やっぱり犬歯、鋭いな。このまま噛まれたら血まみれになりそうだ。
うめくご主人様の舌を捕まえて、さらにこすり合わせ絡め合わせる。ぬるつく粘液が気持ちいい。彼女の口の中を犯しているのだ、とぼんやりと思う。
とん、と胸を押されて体を引き離された。ご主人様の唇の下にはどちらのものとも知れない唾液が付着している。
その衝撃でおれは我に帰った。一瞬自分が何をやっているのか理解してなかった。魔が差した、というやつか。精神年齢10歳は違うだろう女の子に何やってるんだろう。
「ご主人様……」
何か言い訳をしようとしてご主人様を呼ぶ。そして気づいた。

ご主人様がぼろぼろ泣いていた。

「ああ、ごめんね、びっくりしただけだから」
ご主人様はかすれ声で言う。
おれはヒトだ。この世界では家畜だ。
だからおれはイヌのことなんか知らない。この国が滅ぼうが栄えようが知らない。家畜にとっての主人は生きるための道具だ。ご機嫌取りはするけれどそれも生きるためだ。それがこの世界というものだ。
だけど

「ごめんなさい」
気づくとおれは本気で謝っていた。どうしてだろう? ちょっとした悪戯だ。それに許されている。それでイヌである彼女が傷つこうが犯されようが、自分に不利益がなければどうでもいいじゃないか。
罪悪感なんて、感じる必要がないのに。

「……ごめんなさい」
おれは泣きたくなってきた。もう四捨五入して約30だってのに何やってんだろう。
「ヨー?」
ご主人様がおれを見上げる。涙目ではあるが泣き止んだようだ。おれの態度に戸惑いを隠せないらしい。当然だ。おれも戸惑ってる。
「怒ってないよ。ヨー」
ご主人様はそっとおれに身を寄せる。そしておそるおそるたずねた。

「ヨーは私のこと、好きなの?」

おれは考えて答えた。
「たぶん」
「『たぶん』はひどいよ」
ご主人様は小さな声で言う。
ご主人様、おれは強欲なんだ。人として当たり前の幸せだってほしい。でもそんなもの、ご主人様と分かち合えない。ご主人様はそれでもいいと言うかもしれない。だけどおれは諦めきれないだろう。それがご主人様を傷つけるかもしれない。そのくらいなら最初からこんなことしなけりゃいいのかもしれない。
それでもおれは答える

「好きですよ」
ご主人様はぱっと笑った。ぎゅーっとその体を押し付けてくる。
やっぱりおれは、悪いヒトだなあと思った。




「……倉庫から隠してたジャーキー出してあげます」
「ほんと? やった! ヨー大好き!」
……ライカ様。ご主人様が他の悪い奴についていかないか、奴隷は心から心配していますよ。


――――――――――――――――――――――――

(ライカ・ハッターに仕えたヒト奴隷、相葉陽の手記から抜粋)


おそらくこちらに落ちてきたヒトのほとんどが疑問に思っているだろうことだが、いったいこの世界の住人の体はどうなっているのか。
特にトリなどは、人間世界の鳥は軽いからこそ飛べるのに、こっちでは筋肉隆々の男が飛んでいたりする。不思議でしかたない。
その疑問を少しでも解消すべく、私は己の主人ライカ・ハッターを観察することにした。ソファーの上で手まねきするとほいほい近寄ってきたのでそのまま膝に乗ってもらう。
まずは耳だ。人間の耳は動かなくなっているが、彼女の耳はちゃんとピコピコ動く。手でつまんでもう少しよく見てみる。
やや小さめの立ち耳だ。耳の中の耳毛もちゃんと生えている。
当たり前だが引っ張っても取れない。
動くということはやはりその部分の人間と神経系が異なっていると思われる。精度もヒトよりずっと高く、触られるとむずむずするようだ。
ついで髪を観察する。白くて少々モフモフしている以外は人間と変わらないように見える。しかし、手ですいていると明らかに感触が違う。人間より細くて密度の高い毛だ。
さらによく観察してみると驚くべきことに気づいた。ダブルコート(※注 硬く長い毛と柔らかく短い毛の二重構造になっている毛皮のこと)になっている。
これはおそらく、彼女が寒冷地に適応したイヌだからだろう。しかし女性でもこのようによく見ると種族の違いを多く見受けられるのは興味深い。
ついでに一房つかんで匂いをかいでみたが、別に普通の匂いだった。女性ならあまり体臭はしないのかもしれない。
彼女がもがき始めたので左腕を犠牲にして胴を捕まえる。片腕でメモを取るのは至難の業だが仕方がない。次は尻尾だ。
尻尾は普通の立ち尾だ。中心にうっすらと灰色の毛並みが混じっているのが見える。これは髪の毛にも見られる。イヌにしては珍しい模様だ。もっとも雑種ではさまざまな毛色が存在するが。
右手だけで尾をつかむと、彼女の体が跳ねたが、あまり気にせずに続行する。尾は垂れ尾で、普段からしっかりと感情を示す。今は緊張状態のようだ。
髪の毛と同じく毛の密集した尻尾はかなり気持ちがいい。上質な毛皮だ。しごくように触っているとさらに彼女が動くので、もっときつく胴を固定する。
しかし本当にモフモフだ。本物の尻尾だ。どうしてこんなものがついてちゃんと動いているのだろうか。握ってやると耳もぴくぴくと震える。私はもっと詳しく観察すべく、

(血痕)

彼女に突き飛ばされて、机で頭を打った。彼女に悪気はなかったようなので仕方ない。
忘れていた。狼犬はイ(血痕により判読不可能)それより切った頭(判読不可能)ほうたい

(以下白紙)

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