学園シャコ@クリスマス
時はまさに年末である。
冬場の水泳部は何も活動しないのかと思いきやまったくそんなことはなく、俺がここに
入部できなかった時の次善の策として考えていたスポーツクラブの屋内プールが水泳部の
冬場の活動場所になっていた。
顧問のファルム先生の知人が経営してる会社の系列だとかで、贅沢にも貸切である。
外は時折雪もちらつくようになってるっていうのに、温水が湛えられて暖房もしっかり
きいた屋内プールはまるで別世界だ。
「お疲れ様、ミナミくん、マトーくん」
練習後、熱いシャワーで茹だった肌をマトーと並んで冷ましていると、両手にスポーツ
ドリンクを持ってトリアさんがやってきた。
「あ、お疲れっす」
「トリア先輩お疲れ様ですっ」
勧められたドリンクを感謝して受け取り、マトーと並んで封を切る。
部内でたった二人の男子部員だけに、最近は大体マトーといっしょに行動している感じ
になっている。
…それはいいんだが、時折俺とマトーが並んでるところを遠巻きに見ながら熱の籠った
議論をしてる女子部員どもがいるのはどういうことなんだろうか。お前ら練習しろ。
「明日はいよいよクリスマス会だね」
「あー、そういやそんなのやるって言ってたっけ」
毎年の部の恒例行事らしいんだが、俺は今年度編入してきたばかりなのでどんなことを
するのかはよく知らなかった。
「どんなことするんでしょうか、今から楽しみです」
純粋に期待に目を輝かす後輩(部では実質ご同輩だが)に、俺はそうだなと同意しよう
としたが、
「…知らぬが仏というやつね」
ふぅ、やれやれ……というような仕草をしながらフーラが湧いたのでひとまずそっちに
突っ込むことにした。
「どういう意味だよフーラ」
「明日になればわかるわよ。出来れば欠席したいけど、あれ強制参加なのよねぇ…」
ほんとに何やるんだ一体。
「心配しなくてもみんなで楽しく騒ぐだけだよ」
トリアさんはにこにこと笑いながらそう言うが、それならフーラの「欠席したい」発言
の理由がよくわからない。
「まあ、トリアは学園入るまで家でクリスマスみたいな行事はしたことないって言ってた
から、あの会が普通に見えるのかも知れないけど……はぁ」
フーラはくてりとわざとらしく俺の隣の席にくずおれると、背もたれに横向に頭を乗せ
妙にしなを作って囁いた。
「ミナミ、あんた私とトリアつれてエスケープする気ない?」
「トリアさんはともかくなんでお前までつれてかなきゃならんのだ」
「あんたはトリアと一緒がいい、私はトリアと一緒がいい。じゃあ三人でフケるのが当然
ってことにならない? いいじゃない、ちょっとくらいならサービスするわよ?」
なんのサービスだなんの。
「純真な後輩のいる隣で何の話をしてるんだお前は……ほらみろ、マトーが固まってる」
「あうあう…ぼ、僕、聞かなかったことにすればいいんでしょうか…」
「ふふふ、そんなに固くならなくていいのよ。なんだったら一緒に来る?」
「だからやめろって…」
フーラへの対応に追われていた俺は、そのせいでトリアさんの変化に気づけなかった。
なもんだから、
「…ミナミくんといっしょなら、いいよ」
真っ赤な顔でそうぶちかましたトリアさんの一言で、他の二人ともども唖然とする事に
なったのだった。
そういうわけで翌日のクリスマス、俺はトリアさんと一緒にすごす事になったのである。
フーラのおまけつきだが、まあそのくらいはよしとしよう。
なお、口止めと口裏あわせを頼んだマトーから後日クリスマス会の概要について聞いた
ところ、ファルム先生が教頭先生と一緒に女子部員をはべらせて酒盛りしていたそうだ。
マトーも余興の一環として女装して酌をさせられたんだとか。
……エスケープして正解だったかもしれない。