カップルウォッチャーととろ
537 名前:◇46YdzwwxxU[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 23:14:40 ID:5EpmPXIZ
さあ、一晩寝かせた昆虫採集の仕掛けを覗き込む小学生の気分で。
まずは定番スポットから。
中庭のベンチ。
やっかみ混じりの視線も意に介さず、ひたすらいちゃつき倒すバカップルを確認。
まずは定番スポットから。
中庭のベンチ。
やっかみ混じりの視線も意に介さず、ひたすらいちゃつき倒すバカップルを確認。
(いいなぁ。羨ましいぞ、このっ、このっ!)
芸術棟三階ベランダ。
素直になれないばかりになかなか関係が進展しない、初々しくももどかしい恋愛初心者マーク。
素直になれないばかりになかなか関係が進展しない、初々しくももどかしい恋愛初心者マーク。
(いやぁ青春だねぇ)
正門前。
誰彼構わず愛想を振り撒くナンパ男子と、それをすげなく袖に振る女子たちの構図。
誰彼構わず愛想を振り撒くナンパ男子と、それをすげなく袖に振る女子たちの構図。
(うん、あれは無理。……だから無理だってば身の程と引き際を弁えろさんぴん野郎がー)
正面玄関。
赤いはぁとで封をした便箋を手に意中の人の下駄箱をちらちら見ている二年生。……そのすぐそば、入学式か
らウン週間も経たないうちにすっかり有名になった夫婦漫才コンビのボケ役(“後輩ちゃん”)は、ツッコミ役
(“先輩くん”)の上履きに興味津々のご様子。いいのかあれ。いっか。
赤いはぁとで封をした便箋を手に意中の人の下駄箱をちらちら見ている二年生。……そのすぐそば、入学式か
らウン週間も経たないうちにすっかり有名になった夫婦漫才コンビのボケ役(“後輩ちゃん”)は、ツッコミ役
(“先輩くん”)の上履きに興味津々のご様子。いいのかあれ。いっか。
(もーしょうがないなぁ。……トクベツにあたしが許しちゃおうっ!)
オペラグラス越しに少年少女たちを温かく見守る女子高生は、晴れ晴れとした笑顔で、いきすぎた愛の為せる
わざを不問とした。こういうとき、彼女は無条件に恋する乙女の味方をすることにしている。犯罪行為ギリギリ
アウト気味なところまでエスカレートしてもキレイに見逃し、ついでにグッと親指を立ててエールなんて送って
みた。向こうからじゃ見えやしないだろうケド。
覗きに勤しむ少女のリボンはぴんと天を指し、不思議な生き物の耳を思わせた。お腹にたっぷり布地が余るサ
マーベストのために、その体型は今もって女の子の秘密だ。
仁科学園普通科二年、近森ととろ。摩り下ろした山芋呼ばわりしてしまったうっかり屋の精神的外傷が癒える
兆しはない。
彼女は自らを“カップルウォッチャー”であるという。おしゃれにいうなら“野鳥の会の女”であるとも。
このマンモス学園の恋愛模様について、およそ近森ととろの張り巡らす情報の網から漏れることなどない。
それだけではない。彼女は足を動かし、目を光らせては怪しい噂の裏をとり、また新しい噂を撒くという。毎
日の昼食代をちょろまかして魔改造を繰り返した愛用のオペラグラスは、ガワこそ安っぽいが中身はカリッカリ
のモンスターだ。
嗚呼、果たして何が彼女をそこまで駆り立てるのか――。以前、本棚の魔女を気取る三年生から、「カップル
ウォッチングは、恋愛に憶病なキミ自身の代償行為だ」というようなことを指摘されていた。そうかもと思う。
わざを不問とした。こういうとき、彼女は無条件に恋する乙女の味方をすることにしている。犯罪行為ギリギリ
アウト気味なところまでエスカレートしてもキレイに見逃し、ついでにグッと親指を立ててエールなんて送って
みた。向こうからじゃ見えやしないだろうケド。
覗きに勤しむ少女のリボンはぴんと天を指し、不思議な生き物の耳を思わせた。お腹にたっぷり布地が余るサ
マーベストのために、その体型は今もって女の子の秘密だ。
仁科学園普通科二年、近森ととろ。摩り下ろした山芋呼ばわりしてしまったうっかり屋の精神的外傷が癒える
兆しはない。
彼女は自らを“カップルウォッチャー”であるという。おしゃれにいうなら“野鳥の会の女”であるとも。
このマンモス学園の恋愛模様について、およそ近森ととろの張り巡らす情報の網から漏れることなどない。
それだけではない。彼女は足を動かし、目を光らせては怪しい噂の裏をとり、また新しい噂を撒くという。毎
日の昼食代をちょろまかして魔改造を繰り返した愛用のオペラグラスは、ガワこそ安っぽいが中身はカリッカリ
のモンスターだ。
嗚呼、果たして何が彼女をそこまで駆り立てるのか――。以前、本棚の魔女を気取る三年生から、「カップル
ウォッチングは、恋愛に憶病なキミ自身の代償行為だ」というようなことを指摘されていた。そうかもと思う。
(でもでもっ、仕方ないよね! だってお年頃だもん!)
そう。これはきっと仕方がないことなのだ。だって、どうしようもなく気になる。
カップルがいちゃいちゃしているのを見ていると思わずニヤついてしまう。ふんにゃりと蕩けた頬はしばらく
はそのまま。どんなスイーツだって、あの甘やかな幸せを感じさせてはくれまい。
さらにいうなら目の回るような駆け引きや、不誠実の暴露される修羅場は手に汗握る緊張感。
また心地よいオトモダチの関係が壊れてしまうことへの恐れ、恥じらい、そして勇気――。恋愛を取り巻く心
の機微はこんなにも美しく、味わい深い。
自分に累が及ばないだけ余計に、近森ととろにとって他人の恋愛沙汰とはこの上ない“娯楽”といえた。
カップルがいちゃいちゃしているのを見ていると思わずニヤついてしまう。ふんにゃりと蕩けた頬はしばらく
はそのまま。どんなスイーツだって、あの甘やかな幸せを感じさせてはくれまい。
さらにいうなら目の回るような駆け引きや、不誠実の暴露される修羅場は手に汗握る緊張感。
また心地よいオトモダチの関係が壊れてしまうことへの恐れ、恥じらい、そして勇気――。恋愛を取り巻く心
の機微はこんなにも美しく、味わい深い。
自分に累が及ばないだけ余計に、近森ととろにとって他人の恋愛沙汰とはこの上ない“娯楽”といえた。
(まさに恋愛は人生の縮図。壮大なドラーマ……)
そんなこんなで怖いものなしのデバガメ少女・近森ととろは、今日も見た目オモチャっぽいオペラグラスを片
手に学園を徘徊するのだった。
手に学園を徘徊するのだった。
「でも……」
カップルウォッチャーは表情を引き締める。彼女の地獄耳には、不穏な情報もまた滑り込んできていた。
愛の楽園であるべき仁科学園の抱える、いと深き闇。
妬み。嫉み。僻み。持たざる者の怨念ともいえるか。
幸せの撲滅を掲げ、カップルを別れさせようと示威行為に及ぶ、度し難き者達がいる。
それは今時“巨大リーゼント”“中くらいのモヒカン”そして“ちっこいハゲ”のズッコケ三人組であるとい
う。……そんな周回時代遅れなんだか、一度核の炎に包まれた腐りきった時代を先取りしているんだか分からな
いヘアスタイルでモテようというのがそもそも甘くない?と年頃の娘としては思うのだが、それはいうまい。
とにかく。そいつらは幸せいっぱい夢いっぱいのラブラブカップルを見るや、人のものとも思えぬ奇声を上げ
つつ跳びはね、怪しげな手つきで襲い掛かってくるという。そして獣じみた怪力で愛し合う二人を引き離し、あ
あ、これ以上はいえない……。タイミングが合わず、まだ正確な情報と確かめられたわけではないのだが、噂と
しては概ねそんな感じだった。ひどい話だ。
愛の戦士たる“カップルウォッチャー”にとっては、まさに目の上のたんこぶ。滅ぶべき悪か。
愛の楽園であるべき仁科学園の抱える、いと深き闇。
妬み。嫉み。僻み。持たざる者の怨念ともいえるか。
幸せの撲滅を掲げ、カップルを別れさせようと示威行為に及ぶ、度し難き者達がいる。
それは今時“巨大リーゼント”“中くらいのモヒカン”そして“ちっこいハゲ”のズッコケ三人組であるとい
う。……そんな周回時代遅れなんだか、一度核の炎に包まれた腐りきった時代を先取りしているんだか分からな
いヘアスタイルでモテようというのがそもそも甘くない?と年頃の娘としては思うのだが、それはいうまい。
とにかく。そいつらは幸せいっぱい夢いっぱいのラブラブカップルを見るや、人のものとも思えぬ奇声を上げ
つつ跳びはね、怪しげな手つきで襲い掛かってくるという。そして獣じみた怪力で愛し合う二人を引き離し、あ
あ、これ以上はいえない……。タイミングが合わず、まだ正確な情報と確かめられたわけではないのだが、噂と
しては概ねそんな感じだった。ひどい話だ。
愛の戦士たる“カップルウォッチャー”にとっては、まさに目の上のたんこぶ。滅ぶべき悪か。
(人の心の幸せを壊すヤンキー許せない……。見つけたら、ただじゃおかないんだからっ!)
近森ととろは知らず拳を握り締める。
カップルウォッチャーとカップル撲滅計画が相まみえる日は、恐らくそう遠くはない。
カップルウォッチャーとカップル撲滅計画が相まみえる日は、恐らくそう遠くはない。
つづく