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先輩、部活動見学です!(4)

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先輩、部活動見学です!(4)


569 名前:[[◆46YdzwwxxU]] [sage] 投稿日:2010/01/08(金) 00:19:12 ID:v0V+s7jU

 後輩が拗ねている。
 部活動見学で美術部を訪ねてからずっと拗ねている。
 そこの部長を務める女子生徒と俺が妙に親しげだったのが気になって仕方がないらしい。後輩とは違った魅力
の美人なものだから、尚更思うところがあるのだろう。……いや、事情はもう少し複雑だったが。
 しつこく繰り返すが、俺にとってこの後輩の少女は恋愛対象ではない。異性同士であるというだけで、あくま
でも先輩と後輩だ。彼氏彼女の間柄になるには、俺達の隔たりはいかにも遠い。
 後輩も今のところそのへんの筋を通すつもりはあるらしく、感情に任せて当たり散らすようなことはしない。

「私というものがありながら。……先輩のバカ、朴念仁、おたんこなす……」

 昨今ラブコメでもそうはお目に掛かれないような古めかしい言い回しが、聞えよがしな独白として不満げな唇
から漏れていた。
 俺が話題を振っても素っ気ない反応、そのくせ強烈な構って構ってオーラを全身から発している。
 後輩がこんな不機嫌モードになることは、実は割とよくある。まず十中八九が俺の気を引くためのポーズだ。
今回も端々のあざとさから演技と見抜く。
 そういうとき、俺は下手に宥めたりはせず、努めて普段通りの振る舞いをするようにしていた。面倒臭いし、
何よりこいつの我が侭を斟酌してやるのは癪だ。どうせしばらく放置していれば、向こうから勝手に態度を軟化
させるのだし。

 ずももももも……

 催促するように、後輩から滲み出すダークゾーンとでもいうべき翳が廊下を侵食していく。空気が重たい。対
向して歩いて来ていた男子生徒が負の感情に気圧されて、俺達と擦れ違う前に回れ右をした。
 このままでは学園が闇に呑まれてしまう! 誰か何とかしてくれ!
 まるきり他人事のようにそんな妄想を弄びながら階段を下る。

「次は創作部といったか」
「……」
「何をする部活なんだ。創作か?」

 我ながら頭の悪い発言をしてしまった。
 創作部の活動内容が創作でないのでは、それはもはや創作部ではない。
 会話が成立しないまま、俺達は歩いた。

「ほら、着いたぞ」

 扉に『創作部活動中』と貼り紙。この教室に間違いない。
 後輩がブーたれたままなので、特別サービスで俺が開いてやる。

「失礼します」
「……失礼します」

 何が起こったのか分からなかった。
 紙コップが飛んで来た。
 放物線を描いて俺の足元へ。躱す――後輩に当たりかねん。蹴っ飛ばす――被害が拡大するだけか。
 ごちゃごちゃ考えるだけ考えて何のアクションもとれないまま、落下の瞬間を迎える。棒立ちしていた俺の右
膝から下があら不思議コーヒーまみれになった。もったいねぇ。

「あちゃー。ごめんねぇ。……祟人が避けたき」
「俺のせいにするなバカ士乃」

 腕を振り切った投球フォームのまま、訛りの強い少女が謝罪の言葉を口にする。
 後輩の嫌がらせじみた求愛行動で慣れているので、さすがにこの程度では怒りは湧いてこない。ぶらぶらと手
を振ってなあなあで済ませた。面倒臭いのはごめんだ。
 ……苦労していそうな眼鏡を掛けた男子生徒には少し同情する。

「って誰かと思ったら“先輩”じゃないか。……なんだ、噂の後輩ちゃんとラブラブデートか」
「えへへ。分かります?」
「貴様と俺とは同期の桜だ。っておいコラ後輩、いきなりテンション上げて関係を捏造するんじゃない」

 その男、壱羽祟人とは、友人とまではいえないがちょっとした知り合いくらいの面識があった。さすがに忘れ
られている心配はしていないが、不本意なあだ名の広まりには戦慄を禁じえない。

「ふーん、入部希望者やったが」
「あいつがな」

 俺がもろもろの事情を説明している間に、すっかり調子を取り戻した後輩は、部屋の隅で作業をしている小柄
な女子部員に急接近していた。
 いきなり纏わりつかれて困惑している彼女は、確か金城葎といったか。
 学習机に広げられたきめ細かい布きれの上で、レンズやプリズムといったガラス製の部品が陽光に煌めいてい
る。どうやらなかなかいい性能の双眼鏡を分解したらしい。傍らに無造作に置かれた安っぽい外装は、なんだか
見覚えのあるカラーだった。

「何を創作する部なんだ。ジャンルは?」
「ひとそれぞれ。例えばこいつは土器、俺は詩、あっちの葎はオモチャなんかが得意かな。あいつ、和はいろい
ろやってる」
「どっ――焼き物ってゆうてや。陶器とか」

 陶芸をやるという浅野士乃は、俺の聞き慣れないアクセントで喋る女子だった。たぶん大阪か……いや高知あ
たり……さすがに九州ではなさそうだ。西日本の方言はよくわからんな。
 壱羽祟人が詩、浅野士乃さんが陶芸、金城葎さんがオモチャ、最後のひとり宇佐野和は手広く。これで全員な
のだろうか。

「めいめいが好き勝手に創作する部活か」
「まあね」

 なるほど。
 部員同士の関係は概ね良好と見た。
 ただ、仲良しグループの延長のような雰囲気があり、後輩が馴染めるかというと際どい。
 創作部が閉鎖的といっているわけじゃない。そういう親密なコミュニティに、後輩はなかなか後から入ってい
けないのだ。メンバー全員が初対面とか、もうひとり新入部員がいるとか、余地が大きければだいたいにおいて
問題はないんだが。

(と、いかんな)

 いくら何でも過保護すぎた。ただの後輩、ましてや高校生なのだ。
 こういうのは俺が口を出すべきことじゃない。

「ちょっと何か創作していくか? 必要なら材料も貸すが?」
「いや俺は。……後輩、お前はどうする?」
「オトナの玩具とかに、興味津々です!」
「ってことはりっちゃんやね!」
「待てい」

 壱羽のツッコミは俺より早かった。
 取り敢えず関西弁っぽい子への対処は壱羽に任せ、俺は最近付き合いで覚えた輝ける指なる技で歩く猥褻物を
黙らせに掛かる。決着はものの数秒でついた。空しい勝利だった。

「む~。どうせならキスで塞いでくださればいいのに……」
「なんでお前が喜ぶことをせにゃならんのか」
「仲良いなお前ら」

 いらん誤解が深まりそうだった。あとできっちり訂正しておこう。
 結局、後輩の部活動体験は、愛の詩歌や川柳を詠むというところに落ち着いた。さすがに恥ずかしいのでコソ
コソ退出しようとしたら、なぜか金城さんに無言で出口を塞がれた。もっと引っ込み思案なタイプだと思ってい
たので、少々驚く。

「『いつの日か 呼んでみたいよ 俊輔さん』、後輩心の一句」
「ピンポイントすぎんだろ」
「いや、そういうのもアリかな」

 ねーよ。
 「目新しさがない」と一蹴した宇佐野はナイスガイだと思う。

「『足りないの 後輩だけじゃ 巫女・ナース 猫耳・メイド お姉さん属性』。……字余り」
「先崎にはそんな趣味が……」
「違うから」

 列挙された好みの初っ端と最後に悪意を感じる。とんでもない女だ。
 というか『いつの日か~』の川柳も字余りなことに気づいてないのか。

「『お姉さん属性』もいいけど、もう少し性格面に踏み込んでみるのはどうだ」
「それは充分性格っぽくないか? 包容力っていうのか。『後輩』と対比になっているかというと微妙だが」
「『年上属性』……『おっとり属性』……うん、やっぱり『お姉さん属性』がいい」
「センパイってお姉さん萌えやったが?」

 俺が知るか。
 喧々囂々たる議論は数分間も続いた。たぶん、本来はそういうことを活動内容にしてはいないんじゃないかと
思うのだが、さすがに創作には真剣だ。
 アドバイスを参考に想いをかたちにした後輩は、創作部の面々と結託してしきりに感想をねだってきたが、俺
のほうは照れ臭くて口にできたものじゃなかった。
 それでも後輩は大満足で創作部を後にした。

「創作部にするのか」
「うーん……。どうでしょうか。楽しいところでしたけど」

 尋ねてみると、気のない返事が返ってきた。

(脈なしか)

 まあ、そう焦って決めることもないだろう。まだまだ部活動は多い。マンモス学園といわれる割りにひとつの
部あたりの人数が少ないのは、それだけ細分化しているからだ。
 やっていることは大して変わらなくても人間関係の事情で別に創部したとか、大所帯の部活でも少人数の派閥
で固まって他のグループとは活動を共にしないなんて例も、実は枚挙にいとまがなかったりする。
 以前は学園側も、部活動と認定する最低人数を上げるといった対策を講じたことがあったが、それはそれで軋
轢を生んでしまったらしい。ままならんものだな。

「思わぬ時間を食ったな。計画通り回れるのか?」
「回れなかったら、このラブラブデートの日数が延びるだけです」

 廊下の窓から射しこむ光を浴びながら、後輩は花が咲くように笑う。

「誰がそうそう付き合うかッ。最悪、どこかの幽霊部員でもやればいい」
「そしたら放課後もずーっと付き纏っちゃいますよ?」

 む。そうだった。いつの間にか後輩の部活動探しを親身に手伝っていたが、俺の目的は噂の払拭とこいつを忙
殺することにあったのだ。忘れるなよ、俺。
 ……最近、何だか後輩に対して負けがこんでいる。
 こいつのお守を安心して押しつけられるスパルタンな部長なり顧問なりはいないものだろうか。
 俺は密かに運動部の検討をも視野に入れながら、まだまだ先の長くなりそうな自由気ままの薔薇色学園生活に
思いを馳せるのだった。



 つづく


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