仁科学ライオン 第四話:【ファンタジー】
「あそこにはロックスターが立ってます」
「はい?」
「はい?」
ステージを指差したまま、真顔で唐突に懐は言う。それが一体、よくここに来る理由と関係あると言うのか。
「想像すんだよ」
「想像?」
「そ。想像するんだ」
「想像?」
「そ。想像するんだ」
懐は指差したまま、真顔でステージを見る。
「あそこにはロックスターが立ってる。周りはイカれたオーディエンスがメロイックしながら騒いでる。……メロイックって知ってる?」
懐は自分の手でメロイックサインを作って見せる。
だが京にはそれと某総理大臣の孫の決めポーズの違いが解らない。そう言うと懐はむすっとして必死に違いを説明するが、やはりよくわからない。
だが京にはそれと某総理大臣の孫の決めポーズの違いが解らない。そう言うと懐はむすっとして必死に違いを説明するが、やはりよくわからない。
「……まぁいいや。そんでさ、そのロックスターは騒ぐ連中の声が掻き消される程の声で歌い始めるんだ。それを聞いて周りはさらにイカれて行く。
それだけじゃない。ソロでギタリスト同士がバトルしまくったかと思えばユニゾンで弾き倒す。ドラムもベースもソロをやる」
それだけじゃない。ソロでギタリスト同士がバトルしまくったかと思えばユニゾンで弾き倒す。ドラムもベースもソロをやる」
懐はステージを見たまま、子供のような目で言う。青臭いガキの夢を。
「怪物みたいなロックスター。それを想像するんだ」
「想像して……どうするの?
「自分と重ね合わせるんだ。怪物みたいなロックスターと。もちろん理想だよ。でもそうじゃなきゃ意味ない。
理想だから思うんだ。俺もそうなりたい。なるんだ!……って」
「理想かぁ」
「あのステージに立つのはほんの数人だよ。でもそれが何十人何百人、時には何万人も動かす。
それってすげぇ力だと思う。たった数人で、そんな事が出来るんだ。今回の演劇だってそうだよ。あの舞台に立つのは数人。そしてそれを支える為に色んな人が携わってる。それを見てるのが好きなんだ。
たった数人が、すげぇ物を作り上げるって事が」
「ふーん……」
「……俺、クサい事言ってる?」
「かなり」
「誰にも言うなよ?」
「どーしよっかなぁ」
「想像して……どうするの?
「自分と重ね合わせるんだ。怪物みたいなロックスターと。もちろん理想だよ。でもそうじゃなきゃ意味ない。
理想だから思うんだ。俺もそうなりたい。なるんだ!……って」
「理想かぁ」
「あのステージに立つのはほんの数人だよ。でもそれが何十人何百人、時には何万人も動かす。
それってすげぇ力だと思う。たった数人で、そんな事が出来るんだ。今回の演劇だってそうだよ。あの舞台に立つのは数人。そしてそれを支える為に色んな人が携わってる。それを見てるのが好きなんだ。
たった数人が、すげぇ物を作り上げるって事が」
「ふーん……」
「……俺、クサい事言ってる?」
「かなり」
「誰にも言うなよ?」
「どーしよっかなぁ」
「すみません。許してください」
「フフフ。ま、いいだろう。恩赦をやろう」
「さすが京様。感謝します……って、俺、悪い事したみたい」
「ははは」
「フフフ。ま、いいだろう。恩赦をやろう」
「さすが京様。感謝します……って、俺、悪い事したみたい」
「ははは」
京と懐は笑い声が暗闇のホールに響いて行く。誰も居ないホールでは客席からの声もよく反響し、ホール全体に響き渡って行く。
「帰るか」
「そうだね」
「そうだね」
二人はそう言って席を立つ。すると京の隣の席に置いてあった衣装がどさどさ崩れ、二人でそれを拾い半分ずつ持ってホールを後にしていく。
……だが懐はこの時まだ知らなかった。
その二人の姿を獣の目で監視する者が居た事に。
……だが懐はこの時まだ知らなかった。
その二人の姿を獣の目で監視する者が居た事に。
※ ※ ※
「シーカーよりウォッチャー。一時の方角に目標発見。照準せよ」
「りょーかいっ」
「りょーかいっ」
午後四時半。東棟屋上。
懐はなぜかととろと一緒にカップルウォッチングに興じている。
以前の情報提供を改めて締結し、ざという時の肉弾戦要員として動員されてしまったのだ。
実際はそれも建前で、懐もこういったデバガメ行為は嫌いでは無かったりする。
懐はなぜかととろと一緒にカップルウォッチングに興じている。
以前の情報提供を改めて締結し、ざという時の肉弾戦要員として動員されてしまったのだ。
実際はそれも建前で、懐もこういったデバガメ行為は嫌いでは無かったりする。
「おお? あそこのベンチでは決死のアプローチを試みる若人が! がんばれぇ~!」
「むむ!? ソイツはC組の佐藤じゃないか? また新しい女を!?」
「な……なんだってぇ~!?」
「ほぅら、出て来たぞう元カノがぁ~。……いや、まだ付き合ってるか」
「修羅場だねー!」
「むむ!? ソイツはC組の佐藤じゃないか? また新しい女を!?」
「な……なんだってぇ~!?」
「ほぅら、出て来たぞう元カノがぁ~。……いや、まだ付き合ってるか」
「修羅場だねー!」
知り合いだらけの懐の情報はちょっぴり役立ってたりもする。
「あーあ、結局二人にポイされちゃったよ佐藤君」
「欲張るからだな。さてさて、次のターゲットは……ん?」
「欲張るからだな。さてさて、次のターゲットは……ん?」
ととろから拝借した魔改造オペラグラス二号は、ベンチでうなだれるある男を捕らえる。
これだけ広い学内の、それも大量にそなえられているベンチでもその男は目立っていた。
これだけ広い学内の、それも大量にそなえられているベンチでもその男は目立っていた。
「トオル?」
「ん~? 今度はトオル君って人かぁ? どこだどこだ」「アイツ何してんだ……?」
「ん~? 今度はトオル君って人かぁ? どこだどこだ」「アイツ何してんだ……?」
トオルはがっくりしたまま、明らかに思い悩んでいる様子だった。そういえばあの一件以来話もしていない事を思い出す。
122 名前:仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc[] 投稿日:2010/05/15(土) 08:26:37 ID:Onx3GWl/
「おいッ! どこに居るんだそのトオル君とかいう人とそのお相手はッ!」
「違うよ。一人だよ」
「おいッ! どこに居るんだそのトオル君とかいう人とそのお相手はッ!」
「違うよ。一人だよ」
懐は携帯を取り出してトオルに電話をしてみる。
「おいッ! マジメにやりなさ~い!」
「俺はいつだって大マジメだよ」
「俺はいつだって大マジメだよ」
オペラグラスごしに見えるトオルは着信音にびくっとして、携帯の表示を確認してさらにうなだれる。
俺が何かしたか? そう思った懐だったが、相手の動向をよく観察すると出ようか出まいか悩んでいる様子がわかる。
お構い無しに呼び出し続けるが、トオルはずっとそのままだった。
俺が何かしたか? そう思った懐だったが、相手の動向をよく観察すると出ようか出まいか悩んでいる様子がわかる。
お構い無しに呼び出し続けるが、トオルはずっとそのままだった。
「……あの人何してんだろ?」
「出ないな……。何でだ? 面倒になってきた」
「出ないな……。何でだ? 面倒になってきた」
懐は大きく息を吸い込む。観察に夢中のととろはそれに気付かない。
「今は出たくないんだよー。ほっといてあげ………」
「っっっっっさっさと出ろぉおおおおおおお!!!!!! こっから見えてんだよぉおおおおおお!!」
「~~~ッ!!!」
「っっっっっさっさと出ろぉおおおおおおお!!!!!! こっから見えてんだよぉおおおおおお!!」
「~~~ッ!!!」
とんでもない大声。至近距離で油断していたととろは思わず耳をふさぎ、道行く生徒達は一斉に屋上を見上げる。
トオルもびくっと反応し、ようやく電話から声が聞こえてくる。
トオルもびくっと反応し、ようやく電話から声が聞こえてくる。
《……せ……先輩?》
「ようやく出たか。あんなとこでうなだれてるから心配したぞ」
《あ……あの……その……ちょっと》
「何だ? 言ってみろ」
《出来れば……直接会って……その》
「いいよいいよ。じゃあ学食であお――」
「ようやく出たか。あんなとこでうなだれてるから心配したぞ」
《あ……あの……その……ちょっと》
「何だ? 言ってみろ」
《出来れば……直接会って……その》
「いいよいいよ。じゃあ学食であお――」
ドスッ
「横でバカでかい声だすなー! 心臓止まるかと思った……」
《先輩……? ……先輩!?》
《先輩……? ……先輩!?》
※ ※ ※
紅茶とクリームソーダ、それとクリームたっぷりのドリップコーヒーが学食のテーブルに並んでいる。
ととろは紅茶に砂糖を入れながら、トオルに話しかける。
ととろは紅茶に砂糖を入れながら、トオルに話しかける。
「あー、で。トオル君はこのバカに何のお話が?」
「その前に……。先輩大丈夫ですか……?」
「気にするな……」
「その前に……。先輩大丈夫ですか……?」
「気にするな……」
123 名前:仁科学ライオン ◇wHsYL8cZCc[] 投稿日:2010/05/15(土) 08:27:19 ID:Onx3GWl/
懐は脇腹をさすりながら先ほど見舞われた見事なレバーブローを振り返る。
懐は脇腹をさすりながら先ほど見舞われた見事なレバーブローを振り返る。
「で、どうした? 話あんだろ?」
トオルは両手でクリームソーダを抱え、もじもじしながら、そしてぼそぼそ言う。
「あの……その……。出来れば……その」
「ふんふん」
「僕の曲に……歌メロ付けれるのは……。その……先輩だけで……」
「ほう?」
「つまりはその……あれで……」
「また一緒にやってくれんの?」
「うあ……! あの……先輩が……いいのなら……ですけど」
「……もちろんだ。ありがとな」
「……う。や……やった……!」
「ふんふん」
「僕の曲に……歌メロ付けれるのは……。その……先輩だけで……」
「ほう?」
「つまりはその……あれで……」
「また一緒にやってくれんの?」
「うあ……! あの……先輩が……いいのなら……ですけど」
「……もちろんだ。ありがとな」
「……う。や……やった……!」
喜ぶトオルそれを見ていたととろはつんつんと懐の脚を突き、耳打ちをする。
「(ちょ……。大丈夫なの!? とてもバンドやるようには見えないけど……)」
「(人を見かけで判断するな。こう見えて超正統派のメタル書きやがる。おまけに多作。……正直勝てん)」
「(それホント?)」
「(これホント)」
「(人を見かけで判断するな。こう見えて超正統派のメタル書きやがる。おまけに多作。……正直勝てん)」
「(それホント?)」
「(これホント)」
ひそひそ話を終えて再びトオルのほうを見る。
メンバーの一人は戻った。問題はぽっかり空いたギターとドラム。
メンバーの一人は戻った。問題はぽっかり空いたギターとドラム。
「じゃあ後はそこだな」
「でも……心当たりは……?」
「……無い。俺が弾きながら歌うって手もあるけど、俺そんなに上手くねぇしなぁ。それにギターは二人欲しいし」
「それにドラムは……」
「うーん……。ぶっちゃけ、あの偽ヨシ○と変態より上手い奴って言ったら……」
「居ない……ですよね……」
「だな……」
「でも……心当たりは……?」
「……無い。俺が弾きながら歌うって手もあるけど、俺そんなに上手くねぇしなぁ。それにギターは二人欲しいし」
「それにドラムは……」
「うーん……。ぶっちゃけ、あの偽ヨシ○と変態より上手い奴って言ったら……」
「居ない……ですよね……」
「だな……」
「はぁ……」「はぁ……」
二人のため息は深~い悩みの証だった。
前:仁科学ライオン 第三話 Sorrowは早漏で候 次:[[]]