仁科学ライオン第九話 第九話:【fate is driving hard】
太陽光線。ギラギラ光るアスファルト。
音。蝉の大合唱。
遥か彼方。にょきにょき伸びるでっかい入道雲。
音。蝉の大合唱。
遥か彼方。にょきにょき伸びるでっかい入道雲。
夏でした。ただ生きるのも辛い程の気温の高さ。アイスクリームは買った側から液状化。冷たいジュースは駆け足で生温く。
夏真っ盛り。そして、青春ど真ん中の少年少女がわくわくする季節。
夏真っ盛り。そして、青春ど真ん中の少年少女がわくわくする季節。
屋上。人っ気無し。否。二人組だけ。
一人は額に絆創膏。顔は青アザ。敗れ去った後。
もう一人は珍しいリボンの結び方した女の子。
一人は額に絆創膏。顔は青アザ。敗れ去った後。
もう一人は珍しいリボンの結び方した女の子。
「……元気だせよ」
「……」
「なんか言え」
「……。ひ~ほえほえ」
「言うに事欠いて何言ってんだ」
「……」
「なんか言え」
「……。ひ~ほえほえ」
「言うに事欠いて何言ってんだ」
懐とととろは相変わらずのデバガメ行為の真っ最中だった。
約一名が珍しく大人しいのでいつも通りとは行かないが、オペラグラスは変わらず幼い愛をロックオン。他人の秘め事を覗くミサイルの如きととろの熱視線は今日も発射されている。
そしてととろの横でごろごろしている懐。痛々しい絆創膏が額にべったり張り付いて居る。いつもならこちらもミサイル発射台と化してデバガメ行為を嗜むが、今日は何やら違ったようで。
約一名が珍しく大人しいのでいつも通りとは行かないが、オペラグラスは変わらず幼い愛をロックオン。他人の秘め事を覗くミサイルの如きととろの熱視線は今日も発射されている。
そしてととろの横でごろごろしている懐。痛々しい絆創膏が額にべったり張り付いて居る。いつもならこちらもミサイル発射台と化してデバガメ行為を嗜むが、今日は何やら違ったようで。
「あんたが大人しいと気味が悪いよ」
「俺だって落ち込む事くらいあるだよ」
「そんなタマかいな」
「ほら、俺ってデリケートじゃん」
「どの口が言ってんだ」
「俺だって落ち込む事くらいあるだよ」
「そんなタマかいな」
「ほら、俺ってデリケートじゃん」
「どの口が言ってんだ」
何があったかはととろの知る由も無し。しかしその額の絆創膏を見れば大方の予想は付くって物である。
懐は誰かと喧嘩して負けたのだ。このバカが落ち込むといったらそれくらいしか無いはずである。うん。そうだ。バカだから。
懐は誰かと喧嘩して負けたのだ。このバカが落ち込むといったらそれくらいしか無いはずである。うん。そうだ。バカだから。
「ったく、よく先生達に何も言われないで済んでるよ」
「忍術で逃げてるから」
「冗談言う余裕はあんだね」
「いやいや、マジで。これで演劇部の襲撃とか回避してるし」
「そんな忍者の末裔じゃあるまいし……」
「あれ? 言ってなかったっけ? その通りなんだけど?」
「……なんだと?」
「忍術で逃げてるから」
「冗談言う余裕はあんだね」
「いやいや、マジで。これで演劇部の襲撃とか回避してるし」
「そんな忍者の末裔じゃあるまいし……」
「あれ? 言ってなかったっけ? その通りなんだけど?」
「……なんだと?」
懐のルーツはともかく、このバカが借りてきた猫のように大人しいのはととろにとっては不気味であるのだ。
これは大地震の前触れか。巨大隕石の接近か。はたまた第三次世界大戦でも始まるのか。
これは大地震の前触れか。巨大隕石の接近か。はたまた第三次世界大戦でも始まるのか。
そんな大袈裟で的外れな予想がととろの頭の中を埋め尽くす。
大戦を引き起こす訳にも行かないのでなんとかいつもの懐に戻って頂きたいと切に願った。
が、この男は意外と頑固者。
大戦を引き起こす訳にも行かないのでなんとかいつもの懐に戻って頂きたいと切に願った。
が、この男は意外と頑固者。
「……はぁ」
「元気だせよ」
「僕は……今日も……元気です」
「さっき落ち込んでるとか言ってたでしょ」
「ほら、ととろちゃん。蟻さんが健気にポテチのかけらを運んでいるよ」
「何見てんの?」
「元気だせよ」
「僕は……今日も……元気です」
「さっき落ち込んでるとか言ってたでしょ」
「ほら、ととろちゃん。蟻さんが健気にポテチのかけらを運んでいるよ」
「何見てんの?」
だめだこりゃ。そう結論付けたととろ。
これでは気分が乗らないので今日はもうさっさと帰ろう。そう言って屋上を後にする。
相変わらず懐は大人しい。ま、一日二日すりゃ元に戻るだろう。そう楽観視していたのも相俟って、意外と厳しいととろさん。
これでは気分が乗らないので今日はもうさっさと帰ろう。そう言って屋上を後にする。
相変わらず懐は大人しい。ま、一日二日すりゃ元に戻るだろう。そう楽観視していたのも相俟って、意外と厳しいととろさん。
「ほらさっさと歩く!」
「はいはい」
「男の子だろ。ビシっとしろよ」
「ぅん」
「ほんと不気味だなぁ。何か起きなきゃいいけど……」
「はいはい」
「男の子だろ。ビシっとしろよ」
「ぅん」
「ほんと不気味だなぁ。何か起きなきゃいいけど……」
この時、実は本当に第三次世界大戦級の、少なくとも懐にとってはそれほどの大事件が迫っていた。当然ながら、彼らはまだ知らないのだが。
そしてその目撃者の一人になるであろうととろは、一体その時何を思うのか。きっと、驚くだろう。もしかしたら懐についての印象ががらりと変わるかも知れない。
それほどの大事件が迫っていたのだ。
ぽっかり開いた罠の入口に、二人はこれから向かっていくのだが……?
そしてその目撃者の一人になるであろうととろは、一体その時何を思うのか。きっと、驚くだろう。もしかしたら懐についての印象ががらりと変わるかも知れない。
それほどの大事件が迫っていたのだ。
ぽっかり開いた罠の入口に、二人はこれから向かっていくのだが……?
※ ※ ※
『いらっしゃいませ』
「こんにちは」
「こんにちは」
昇降口付近の自販機でいつもの缶コーヒーを買う。喋る自販機に律儀に挨拶し、冷えた缶のプルを引く。
下駄箱周辺は綺麗に掃除されていた。夏休みが近いので、大掃除でピッカピカにされていたのだ。ここだけではなく、学校全体がこざっぱりと変化し、しばしの眠りにつく準備をしている。
目覚めた時、季節は変わって居るはずである。
下駄箱周辺は綺麗に掃除されていた。夏休みが近いので、大掃除でピッカピカにされていたのだ。ここだけではなく、学校全体がこざっぱりと変化し、しばしの眠りにつく準備をしている。
目覚めた時、季節は変わって居るはずである。
「なぜ多次元空間に逃れた重力と電磁波は三次元空間に現れず、強い力と弱い力のみ三次元の粒子間に働くのか?
もし多次元に逃げているとしたらその力の総量は絶大になり、重力と電磁波とのエネルギーの総量との不和で統一エネルギーの可能性が薄れ……」
「……どうしちゃったのよホントに」
もし多次元に逃げているとしたらその力の総量は絶大になり、重力と電磁波とのエネルギーの総量との不和で統一エネルギーの可能性が薄れ……」
「……どうしちゃったのよホントに」
突然の独り言は懐のキャラクターからはほど遠い内容である。それに重力と電磁波の総量はたぶんもの凄い量なので、統一理論に影響はないはずである。多分。
とにかく、ととろがガチで心配そうな表情をしていたのはお分かり頂けるだろう。
とにかく、ととろがガチで心配そうな表情をしていたのはお分かり頂けるだろう。
「大丈夫なの……。色んな意味で」
「色んな意味でやばい」
「あたし先帰るよ?」
「さようなら……。さようならととろ……」
「んな今生の別れじゃあるまいし……」
「色んな意味でやばい」
「あたし先帰るよ?」
「さようなら……。さようならととろ……」
「んな今生の別れじゃあるまいし……」
いつもここでお別れしている。一緒に帰る事は滅多に無い。というよりいつも懐は消え失せてしまう。
なので今日もいつも通りに外へ飛び出し、さっさと帰ってオペラグラスのチューンでもしようかと考えていた矢先。
なので今日もいつも通りに外へ飛び出し、さっさと帰ってオペラグラスのチューンでもしようかと考えていた矢先。
「きゃっ!」
誰かとぶつかり転んでしまった。まるで壁にでも衝突したかのような衝撃は小さなととろを難無く吹き飛ばす。
「いたた」と言いながら、ぶつかった相手を見上げる。
そこに居たのは、有名人犇めく仁科でも、トップクラスの有名人達――!
「いたた」と言いながら、ぶつかった相手を見上げる。
そこに居たのは、有名人犇めく仁科でも、トップクラスの有名人達――!
「やっぱりこの娘と居たか。一人だとどこ行っても見つからないし」
「こっち尾行して正解だったな」
「あ……あんた等は……!」
「こっち尾行して正解だったな」
「あ……あんた等は……!」
その頃の懐は、外から迫る危機に気付く訳も無く、いまだ下駄箱相手にグチグチ喋っていた。そして、ついに最初の罠が襲いかかる。
「あの~?」
「ふぇ?」
「ふぇ?」
背後から声。振り返ると、見事な長身に見事なプロポーションの女性。日本人っぽくは無い。
「あー。あんた知ってるー」
「えー。知ってるの?」
「うんうん。ロニコちゃんっしょ。目立つもん。で、何?」
「えー。知ってるの?」
「うんうん。ロニコちゃんっしょ。目立つもん。で、何?」
その女性の目線は懐と同じレベルにある。女性としてはかなりの長身。さらには超高校級のマッシブエロボディは目立つなというほうが無理な話だ。
女の子に話し掛けられてテンション上がるのは男の性である。多少なりとも元気になって速攻でバカ話に持ち込んで行く。
じゃあ、さっきまで一緒のととろじゃテンション上がらんのかというと、それは単なる馴れという物である。美人は三日で何とやらと言うだろう。
女の子に話し掛けられてテンション上がるのは男の性である。多少なりとも元気になって速攻でバカ話に持ち込んで行く。
じゃあ、さっきまで一緒のととろじゃテンション上がらんのかというと、それは単なる馴れという物である。美人は三日で何とやらと言うだろう。
ととろへのフォローが入りつつ、ついついお喋りに夢中になっている懐は周りへの集中を欠いている。そして、それこそが罠である。いかにこのバカを引き止めるかが彼らの狙いだったのだ。
「あの~ところで?」
「え? 何何何なに?」
「後ろ見て?」
「うしろ?」
「え? 何何何なに?」
「後ろ見て?」
「うしろ?」
振り向く。視界に入ったのはぬりかべ、では無く肉の壁。
真っ黒なタンクトップの恐らく鳩尾から上あたりが見える。少し上を見たらば、高校生とは思えぬ超巨体。仁科運動部系の超人達の一人。重量挙げ部、重利挙!
真っ黒なタンクトップの恐らく鳩尾から上あたりが見える。少し上を見たらば、高校生とは思えぬ超巨体。仁科運動部系の超人達の一人。重量挙げ部、重利挙!
そこでがばっと振り返る。ロニコが「ゴメンね~」と言って手を振っていた。「騙された!」そう思っても時既に遅し。
こうなればたいがいの人間は腹が立つだろう。
もちろん懐も同様であり、あまつさえ先日激しくバトルしたばかりである。燻っていた物が再び燃え上がる。
ちょうどいい鬱憤晴らしだ! そう思い、さらに振り返りつつアゲルの鳩尾に自慢の腕力を活かしたスウィングブローをぶち込む! が、今回は相手が悪すぎた模様です。
こうなればたいがいの人間は腹が立つだろう。
もちろん懐も同様であり、あまつさえ先日激しくバトルしたばかりである。燻っていた物が再び燃え上がる。
ちょうどいい鬱憤晴らしだ! そう思い、さらに振り返りつつアゲルの鳩尾に自慢の腕力を活かしたスウィングブローをぶち込む! が、今回は相手が悪すぎた模様です。
「……。え~っと、アゲル君? お腹にタイヤでも入れてるのかナ……?」
「えい」
「えい」
ビンタ一発。
「ぶぼぁあ!」
ティッシュのように吹き飛ぶ懐。パワーが違いすぎる。「あ、殺すなって言われてた」そう言ったように聞こえた。つまりその気なら殺せたって事かい。吹き飛びながら懐は考える。
そして吹き飛んだ懐を受け止めたのは、これまた肉の塊。彼の顔は懐もよく知っていた。同じクラスの人物だったのだ。
そして吹き飛んだ懐を受け止めたのは、これまた肉の塊。彼の顔は懐もよく知っていた。同じクラスの人物だったのだ。
「てめぇ……。ノビル!」
「すまんな懐。俺達のサプリ代の為、犠牲になって貰うぞ」
「何!? まさかお前等……! 黒幕は誰だ!」
「迫先輩だよ。どうしても会いたいそうだ」
「やっぱりか! この野郎、モノで釣られるとは情けな……うわぁああ!」
「すまんな懐。俺達のサプリ代の為、犠牲になって貰うぞ」
「何!? まさかお前等……! 黒幕は誰だ!」
「迫先輩だよ。どうしても会いたいそうだ」
「やっぱりか! この野郎、モノで釣られるとは情けな……うわぁああ!」
バスケットボールの如く懐をアゲルへとチェストパス。キャッチしたアゲルは背後から羽交い締めにし、動きを殺す。
「こ……この野郎! 二人がかりとはスポーツマンシップのかけらも無い!」
「大変なんだよ俺達も。プロテインだけならまだしも、BCAAにEAA、グルタミンにクレアチンにコンドロイチンに……」
「……なんだその物質は……?」
「まぁそういう訳だ。覚悟しろ懐」
「ノビル……。それは、ホームセンター等でお馴染みのトレ用品、セ○バンド(青)!」
「そうだ。このセラ○ンド(青)で縛りあげてやろう」
「やめろ! 強度高めの○ラバンド(青)で俺を拘束するな! うわゴム臭ぇ!」
「はっはっは。往生際の悪い奴め」
「や……やめてぇ!!!」
「大変なんだよ俺達も。プロテインだけならまだしも、BCAAにEAA、グルタミンにクレアチンにコンドロイチンに……」
「……なんだその物質は……?」
「まぁそういう訳だ。覚悟しろ懐」
「ノビル……。それは、ホームセンター等でお馴染みのトレ用品、セ○バンド(青)!」
「そうだ。このセラ○ンド(青)で縛りあげてやろう」
「やめろ! 強度高めの○ラバンド(青)で俺を拘束するな! うわゴム臭ぇ!」
「はっはっは。往生際の悪い奴め」
「や……やめてぇ!!!」
※ ※ ※
「あ~あ。捕まっちゃった」
「こんな事しなくても普通に呼べばいいと思うんですけどね」
「まぁバカが三人集まるとこうなると」
「こんな事しなくても普通に呼べばいいと思うんですけどね」
「まぁバカが三人集まるとこうなると」
懐が蹂躙されている様子を見つめていた乙女二人。ととろとロニコ。
アゲルと衝突し、懐捕獲作戦を少し聞いたととろはひょこひょことアゲルについて行き、その様子を一部始終みていた。
が、その様子はもはや滑稽。助ける気にもなれない。仮になったとしても肉塊二つが相手ならば最初からどうにもならないのだが。
アゲルと衝突し、懐捕獲作戦を少し聞いたととろはひょこひょことアゲルについて行き、その様子を一部始終みていた。
が、その様子はもはや滑稽。助ける気にもなれない。仮になったとしても肉塊二つが相手ならば最初からどうにもならないのだが。
「あのバカがこうも簡単にやられるとは」
「正直ここまで簡単に引っ掛かるとも思いませんでしたけど……」
「で、どうするのアレ」
「演劇部の部室に拉致するとか」
「あちゃー。よりによって天敵の所か。まぁ、面白そうだからついて行くけど」
「意外と薄情ですね」
「そうかな?」
「正直ここまで簡単に引っ掛かるとも思いませんでしたけど……」
「で、どうするのアレ」
「演劇部の部室に拉致するとか」
「あちゃー。よりによって天敵の所か。まぁ、面白そうだからついて行くけど」
「意外と薄情ですね」
「そうかな?」
二人が話している間に、懐はセラバン○(青)によって青いミイラのようになっていた――。
※ ※ ※
「おやぁ~? 懐君、キミは珍しい体型だねぇ」
「肩から腕が発達しやすいようだねぇ。アームレスリングとかやらないかね?」
「ボディビルでも有利だぞう。デカイ腕は審査員の目を引くぞう」
「パワーには向かないねぇ。体幹が少し細いねぇ」
「腕は割と長いからデッドは有利かもねぇ」
「もがもが……(何を言っているんだコイツ等は……?)」
「肩から腕が発達しやすいようだねぇ。アームレスリングとかやらないかね?」
「ボディビルでも有利だぞう。デカイ腕は審査員の目を引くぞう」
「パワーには向かないねぇ。体幹が少し細いねぇ」
「腕は割と長いからデッドは有利かもねぇ」
「もがもが……(何を言っているんだコイツ等は……?)」
青ミイラと化した懐はアゲルとノビルの二人に担がれ運搬されていた。
さすが肉体を追求する連中だけあり、懐の身体的特徴を見抜いたが、知識が偏っている為に懐には何を言っているかよく解らない。
その後ろではととろとロニコがとことこ付いていた。
ととろはついでに仲良しの葱に会いに行こうと思っていたのだ。
さすが肉体を追求する連中だけあり、懐の身体的特徴を見抜いたが、知識が偏っている為に懐には何を言っているかよく解らない。
その後ろではととろとロニコがとことこ付いていた。
ととろはついでに仲良しの葱に会いに行こうと思っていたのだ。
そして、部室の前に到着。成す術なく拉致された懐の心境は察するに余りあるが、現実は冷たく。「演劇部」とかかれた標札が堂々そこにある。
「もがもがもが……!」
「もう諦めろって。迫先輩~。ご注文の品でぇ~す!」
「もう諦めろって。迫先輩~。ご注文の品でぇ~す!」
ドアが開く。出迎えたのは当然、迫である。
「よくやった。そして、ようやく捕まえたぞ……懐」
「ぐもももも……!」
「ああもう。そんな嫌がるなよ……」
「あの、俺とノビルはどうすれば?」
「ああ、あとはこっちに任せてくれ。例のモノは後日改めて届けよう……」
「了解。まいどあり。撤収!」
「ぐもももも……!」
「ああもう。そんな嫌がるなよ……」
「あの、俺とノビルはどうすれば?」
「ああ、あとはこっちに任せてくれ。例のモノは後日改めて届けよう……」
「了解。まいどあり。撤収!」
走り去る重量挙げ部の面々。取り残された青ミイラ。それと珍しいリボンの女の子。
見下ろすは眼鏡をかけた男子生徒一人。
見下ろすは眼鏡をかけた男子生徒一人。
「ぐるるるる~……」
「唸るなよ。別に捕って食うわけじゃ無いんだし……」
「唸るなよ。別に捕って食うわけじゃ無いんだし……」
そう言いながら、ずるずると奥へと懐を引きずる。中に居るのは当然演劇部の皆さん。あと客が一人。ととろはそれに見覚えがある。
「あ、亮太さんだ」
「おや、久しぶりだね」
「おや、久しぶりだね」
身長二メートルの大男再び。
寝そべる懐が見たのは、宿敵、迫先輩に葱とあかねの演劇部。そして、薄情にも付いて来たととろと、最近復学したばかりという空知亮太という男。
一体何事か? そう思ったがぐるぐる巻きにされて身動き出来ない懐には何も出来ない。
寝そべる懐が見たのは、宿敵、迫先輩に葱とあかねの演劇部。そして、薄情にも付いて来たととろと、最近復学したばかりという空知亮太という男。
一体何事か? そう思ったがぐるぐる巻きにされて身動き出来ない懐には何も出来ない。
「わーい葱ちゃ~ん」
「わーい近森先輩」
「わーい近森先輩」
実は葱もカップルウォッチングのメンバーである事実を知る者は少ない。が、それ故か二人は仲がいい。
あかねも加え、さっそくお喋り開始。
あかねも加え、さっそくお喋り開始。
「このおバカを捕まえてどうするの?」
「さぁ? 私もよくわかりません。それより酷いんですよッ! 懐先輩は私を見る度にネギネギネギネギって……!」
「いつも捨て台詞はそれなんです」
「なにそれ酷い! 謝んなさいよこのバカ!」
「もがもが……(今どうしろと……)」
「さぁ? 私もよくわかりません。それより酷いんですよッ! 懐先輩は私を見る度にネギネギネギネギって……!」
「いつも捨て台詞はそれなんです」
「なにそれ酷い! 謝んなさいよこのバカ!」
「もがもが……(今どうしろと……)」
迫はそのやり取りを尻目に懐へと歩み寄り、硬く縛られたセラバン○(青)を解く。バチンと音を出して弾けるようにそれは解かれ、懐はようやく自由になる。鬱血していた。みんなはセラバ○ドを正しく使おう。
解き放たれし懐はそれでも警戒を緩めず。隙あらば逃走しようとすら考えていた。
迫は眼鏡をクイっと上げてため息一つ。そしてようやく、この拉致作戦の目的を語る。
解き放たれし懐はそれでも警戒を緩めず。隙あらば逃走しようとすら考えていた。
迫は眼鏡をクイっと上げてため息一つ。そしてようやく、この拉致作戦の目的を語る。
「……。ようやく捕まえた。ホント手間かかった……」
「何が目的なんだお前は……」
「いや、まぁ普通に会って話せれば一番よかったんだが……。驚くほど避けられてるし、こうするしか無かったんだ。許せ」
「許せるか! また三人で洗脳しようと企ててんだろ!?」
「まさか。もう諦めてるさ」
「じゃ、何の用だよ?」
「お前の力を見せてくれ」
「は?」
「何が目的なんだお前は……」
「いや、まぁ普通に会って話せれば一番よかったんだが……。驚くほど避けられてるし、こうするしか無かったんだ。許せ」
「許せるか! また三人で洗脳しようと企ててんだろ!?」
「まさか。もう諦めてるさ」
「じゃ、何の用だよ?」
「お前の力を見せてくれ」
「は?」
迫は奥へと目をやる。そこに居るのは噂の大男、空知亮太。懐は一目で解る。この男もメタラーである。
臭いがするのだ。同類の臭いだ。
臭いがするのだ。同類の臭いだ。
「あいつがどうしてもお前の実力を見たいそうだ。……ついでに、葱とあかねにも見せてやって欲しい」
「何をだよ」
「簡単だよ。いつもやってる発声練習見せてくれ。ロングトーン一発でいい。葱とあかねに、本物の発声練習って奴を見せてやってくれないか?」
「そんな事の為に拉致したの?」
「こうでもしないと会えないだろ。それにあの二人もお前が何出来るか疑問視してるし。この際だからレベルの違いを見せてやれ」
「お前等は演劇でしょ? 種類が違うし」
「グダグダ言うなよ。ほら、さっさと頼む」
「えぇ~」
「なんで嫌がるんだよ。そこまで嫌われたか俺達……」
「いや、そうじゃなくて……」
「なんだよ?」
「……。練習見られるの恥ずかしい……。ポッ」
「さっさと立て」
「何をだよ」
「簡単だよ。いつもやってる発声練習見せてくれ。ロングトーン一発でいい。葱とあかねに、本物の発声練習って奴を見せてやってくれないか?」
「そんな事の為に拉致したの?」
「こうでもしないと会えないだろ。それにあの二人もお前が何出来るか疑問視してるし。この際だからレベルの違いを見せてやれ」
「お前等は演劇でしょ? 種類が違うし」
「グダグダ言うなよ。ほら、さっさと頼む」
「えぇ~」
「なんで嫌がるんだよ。そこまで嫌われたか俺達……」
「いや、そうじゃなくて……」
「なんだよ?」
「……。練習見られるの恥ずかしい……。ポッ」
「さっさと立て」
半ば無理矢理立たされる。お喋りしていたととろと葱とあかね状況の変化を察知し、静観していた亮太もじっとその時を待っている。
「……。そんな見るなよ」
「変な所で恥ずかしがるなお前は。いつもやってるだろ」
「集中出来ないから……。ちょっと待って……」
「変な所で恥ずかしがるなお前は。いつもやってるだろ」
「集中出来ないから……。ちょっと待って……」
懐は部屋の隅へと移動し、一人で何やらあーあー言って居た。軽く高低を付け、裏声を出し、喉の準備運動を行いながらコンセントレーションをする。
じっくりと、少しずつ。普段のバカさを消して行く。
じっくりと、少しずつ。普段のバカさを消して行く。
「……。ま……まだなんだからね! もう少し待って」
あーあーという声に少しずつビブラートが入る。緩い揺れから細かな揺れまで、意図してコントロールして行く。変わって行く。歌う為に。
壁に頭を付ける。大きく深呼吸し、腹筋の動きを確認する。限界まで息を吐き出す為だ。
首をコキコキ鳴らす。集中してきた証。
振り向くと、普段の脳天気な表情は消えうせている。目つきは鋭い。懐が普段、滅多に見せる事のない、本当に本気の表情。
壁に頭を付ける。大きく深呼吸し、腹筋の動きを確認する。限界まで息を吐き出す為だ。
首をコキコキ鳴らす。集中してきた証。
振り向くと、普段の脳天気な表情は消えうせている。目つきは鋭い。懐が普段、滅多に見せる事のない、本当に本気の表情。
「……音は要るか?」
「要らない。ロングトーン一発なら音域全部出す」
「後は?」
「特にないけど」
「要らない。ロングトーン一発なら音域全部出す」
「後は?」
「特にないけど」
ふう、と一息付き、懐は天上を見上げる。
思い切り息を吸い込み、もう一度深呼吸。今度は体を丸め、体内の空気を全て吐き出そうという程に深い。
顔を上げ、もう一度首をコキコキ鳴らす。
思い切り息を吸い込み、もう一度深呼吸。今度は体を丸め、体内の空気を全て吐き出そうという程に深い。
顔を上げ、もう一度首をコキコキ鳴らす。
「じゃ、やるか」
また息を吸い込む。肩をリラックスさせ、そして。
低音から静かにそれは始まった。まだそれはほんの触り程度。少しだけそれが有り、遂に本領が発揮され始める。
解き放たれる、メタルシンガー、懐の能力。
低音から静かにそれは始まった。まだそれはほんの触り程度。少しだけそれが有り、遂に本領が発揮され始める。
解き放たれる、メタルシンガー、懐の能力。
続く。
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