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創作部日常風景3

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創作部日常風景3



「崇人、部室先いっちょってー。飲みもんこうてくるき」

創作部の部室を士乃と二人で目指していたが、士乃はそう言って食堂のほうへと走って行った。確かに「何か飲みたい」とは言ってみたが、性格上こんなに早く食いつくとは思わなかった。何か少し怪しい。
人の好意にいちいち難癖をつけるのは良くないと、自分を心の中で叱咤し一人で創作部部室に向かう事にした。
その創作部部室の前にたどり着き、秀逸な動きで部室のドアを開けた。
とたん、部室内には何かが蔓延しているかのような匂いがした。良く嗅いでみる。

「ん・・・これは・・・」

誰でも嗅いだ事のあるような、原始的な甘味の・・・・

「わかった、芋だ」
「崇君正解~」

緩そうな声が聞こえた瞬間、口の中に何かを突っ込まれた。
一瞬、拍子に吐き出しそうになったが、堪えて良く噛んでみた。口に広がる芋(か、どうかは知らんが)の滑らかなペーストと風味が心地よい。
味を楽しむ中、目の前を見るとニンマリとした顔が自分の顔を覗いている。

「スイートポテトか?中々美味しいな」
「あらっ、崇君にそう言われると作った甲斐がありました」

顔のところに手を当てて笑う様は子供のころから見覚えがある。何せ長い付き合いだ。
彼女、日野飾は自分と律の幼馴染に当る。
資産家の娘で親がこの学校に投資しているらしく、親の勧めもあり、この学校に入学したのだという。



「葎ちゃんと士乃ちゃんと和くんも呼んでくれますか?」
「一人はもうすぐ来そうだけど・・・」

扉がゆっくり開く音がし、扉の方向に顔を向ける。
そこには、並ぶと身長の差が目立つ男女二人。
「あらら日野先輩、最近見ないと思ったら」
「飾姉、来てたんだ。・・・・良い匂い」

心地よい香りを嗅ぐように、うっとりとした表情の葎が飾に近づき「何か出せ」と言った目つきで飾を見る。
そうすると飾はニッコリと笑って作業台の上にある皿上のスイートポテトを葎の口の中へ持っていく。アーンと口を開けて幸せそうにほうばる葎を見ると、昔を思い出して何とも和やかな気持ちになる。

「和君も一つ・・・あら、せっかちですね」
「こんな良い香り漂わして食わずにはいられませんよ」

飾が進める前に手を伸ばスイートポテトを食べた和を見て飾は少し残念そうな顔をする。
元々母性が強いのか、菓子なんかを作って年上以外に振る舞う時には必ずと言っていいほど「食べさせる」
という行為をする。思春期には気恥ずかしい行為なのか和はそれをいつも避けている。自分は昔ながらの行
為なので受け入れているが、他人から見れば少しおかしな行為に見えるだろう。お菓子だけに。

「崇ちゃん、今何か変な事考えなかった?」
「?・・・」

葎に駄洒落を思いついたのをみすかされ少しがっくりくる。見抜いた本人は寒気耐えるような眼をしてお
り、心底悲しい目つきをしている。自分のジョークセンスが日の目を見るのはまだ先らしい。
そんなやりとりを見つめていたらしい飾は、楽しげで優しい笑い声を上げる。笑い声にも母性が宿っているのだから天性のママさん体質である。



「崇君と葎ちゃん、何時まも通じ合ってるみたいで、とっても面白いです」
「まあ幼馴染だし、分りあってる方が自然であんまり違和感無いんだよね」
「・・・崇ちゃんと飾姉だけだから」

アラアラと口元を押さえて眼で笑う飾の仕草は、どうしようもないぐらいに見慣れている風景だったが、
何故かこちらまで綻んでしますような、不思議な魅力をもっていた。

「まったく以心伝心って奴?お前らが言うと妙に信憑性がハフゥ!!」

奇妙な声をあげた崇人を見ると頭に缶の様なものが直撃し、空中を舞っている。
その瞬間に、スパーンと古典マンガの様な擬音をたてて部室のドアが開く。入ってくる人影はどう考え
ても浅野士乃その人である。
和の頭に当った缶は作業台の角にぶつかり鈍い音をたてて落ちる。どうやら中身は入っているらしい。
因みに士乃がドアを開ける前は半開きになっていたらしい。

「全くここのガッコの自販機はどうなっちょるがか!」

悶える和には目もくれず、投げた缶を拾いビニール袋に入った缶と一緒に作業台の上にまとめて置く。

「士乃ちゃん飲みモノ買ってきてくれたの?丁度よかったわ~。用意してなかったから」
「あっ飾さんやん!余分なもんが出たから丁度よかったわ~」
「出た?」

そう突っ込むと凄い話したがるヒトの様に目をカッチリ開き食いついてきた。

「それがねぇびっと聞いてくれる!?五百円入れて四本色んなジュース買おって思うたのに故障か知らんけんど午後茶のミルクティーしか出てこんかったがよ!」
「えぇー、俺午後茶飲めないぞ」
「そう思うてホラ」

作業台の上を指差した士乃の先にあるのはコーラだった。かなり側面部分が陥没している。多分和にぶつけた物だろう。これを見越して投げたのかコイツ。



「お前、投げるなら数がある方にしろよな。それともアレか。俺だからか」
「愚問!」

ビシッとサムズアップを決める士乃。和なら蹴りでもかましているところだ。

「まあまあ、お詫びに奢っちゃうけん。勘弁してくれて」
「そうか。ご馳走さん」
「みんなも私の奢りやけん、お金気にせんでええよー」
「あらあら士乃ちゃん太っ腹ねぇー」
「「「HAHAHAHAHAHAHAHA」」」

「いや、何か危篤な人がいるんだけど・・・」
「コルァァァァァアァ!!体張って挙句無視かぁぁぁぁ!!」

鬼の形相となった様の和が怒声をまき散らす。全く騒がしい奴だ。
「何だ和、生きてたのか」
「生きとるわぁ!でも当りどころが悪かったら死んでたわボケェ」
「まあ自分の日ごろの行いが災い…いや、幸いしたってことでいいじゃないか」
「何言い間違えてんだアホォ!って加害者が悠々と菓子を食うなぁぁぁ!!」

士乃の関心は元より和にはなく、すっかりスイートポテトに向かっていた。お決まりの様に飾に食べさしてもらっている。士乃はこの行為は満更でもない様に嬉しそうにしたがっていた。

「あぁ~美味いねぇ。口の中で柔らかく広がって癖になるわ―。って和君、何そんなに食べゆうが!私の分も残しちょってよ!」
「へぇーん!これ食べてるの全部士乃のやつだし!報いヴぉうけてごぉぜんん・・・」

無理に食べたのか、口の中に含んだまま喋り何を言ってるのか分らない。
見かねた葎が午後茶を和に持っていく。

「宇佐野、コレ」
「うっ・・・あぁ―スッキリした。りっちゃんありがとな」

士乃を見るとなにやらむくれている。和の言葉を真に受けたのだろうか。士乃は悪ふざけはするがそれなりの仕返しを受けるスタンスを絶対に曲げない。
それなりに耐えがたいっ仕返しだったのか下を向き今にも爆発寸前と言った所である。



「っぅぅぅ・・・・・・・!!」
「どうした士乃ぉ!もうお前の分は無いぞぉ!悔しいかぁ!?はははははは!!というより中々美味いですねこれ。まだありますか?」
「がああああああああああああああああああああ!!!」

あっ、キレた。少し後ずさり、醜いドックファイト現場より離れた場所の椅子に座る。

「なんでこんなことするがぁ!乙女の成分はお菓子が大半ながでぇ!」
「乙女は午後茶を男子の頭に当てねぇよ!どんな乙女だよ!戦乙女か!」
「だっ、誰がヴァルキリーか!」
「分りずれーよ!誰が横文字で訳せと言った!」
「細かい事言うな!やから和君は何時まで経ってもギャルゲー主人公の親友みたいな位置ながよ!」

飾は面白い生物を見るような眼で、葎はヤレヤレといった風に午後茶を飲みながらじっとりとした眼でドックファイトを観察している。みんな自分に被害が及ばない限りそこまで止める必要はないと結論付けている。現に見ている方は少し面白い。
葎たちから少し離れた所にいる自分に気付いたのかニコニコ笑顔で飾が近づいてくる。

「相変わらず楽しいところですね。私の工業科には余り女の子がいませんから、士乃ちゃんと話すときはいつも楽しみなんですよ」

飾は女子にしては珍しくこの仁科学園の男臭比率が最も高い工業科の自動車整備コースに在学している。最近余り部室に顔を出さな
ったのは三年時の卒業試験に向けた補習であまり放課後に時間を取れなかったのだという。

工業科は第二グラウンドがある工業科・芸術科校舎にあるため、休み時間などに気軽に会えるような場所にないから、
部室に来れるのは必然的に放課後だけになる。



「高校に上がった時に初めて知り合ったのが士乃なんだよ。だからこのバカ騒ぎには正直もう飽き飽きしてるよ」
「ふふ、贅沢な事ですね。少し羨ましくなりました」
「なら普通科にくればよかったのに」
「いまさら遅いですよ。それに結構楽しいんですし、みんな優しいですしね」

飾がなぜ工業科に入ったのかは幼馴染の自分と葎にも話されてない。あまり追求するのもよくないので聞かないでいるが、
飾は工業科の話をすると楽しそうな顔で話すのだ。
内容は工業科の男たちが芸術科の女子達に集団で「求婚」をしに行ったり、普通科の女子のプール授業時に授業をすっぽ
かして観覧に言ってたりと男が聞けば涙で前が見えなくなるほどの学園戦記であった。山田軍と佐々木隊の民主主義的議決(ジャンケン)
による教師かく乱作戦、通称「桜花の嵐」の佐々木隊玉砕時の話には和と一緒に涙を眼に溜めながら工業科の方角へ十字を切ったものだ。
葎と士乃の二人は、葎は汚物を見るような眼で、士乃は大爆笑しながら話を聞いていた。これだから女は分らん。



「楽しいのか・・・。安心した。卒業まで頑張れよな」
「うん・・・・ありがとう。崇君」

そのお礼には母性らしきものは見受けられず、中々気恥ずかしいモノがあった。
悪戯っ子の様に飾は笑い、スイートポテトを進めてくる。ひとつを手に取り口
の中に入れ優しい味を堪能する。随分喉が渇いたので何か飲み物が無いかと辺り
を見るが、そういえば士乃にコーラを買ってもらっているのだった。コーラを探
と作業台の上に置いたままだった。作業台に近づきコーラを手に取り、ブシュっとプルタブを開ける。
が、そこから出てきた炭酸の泡。コーラをよく振るとこうなったりするのだが自分がこうした覚えはない。
慌てて部室に常備しているタオルを手に取ったところですべてを悟った。
そもそも普通に考えると士乃が一人でジュースを自ら率先して買いに行
く事なんかは、罰ゲームだったり、同行を頼んだりするものだ。
そうかこの為か。トラップにかける為か。和に向かって投げたのも
コレの予防線を張る為だったのか。正直この泡の量は丹念に降らないと出てこない量だ。
士乃と和の方を見るとまだ醜いドックファイトを繰り広げている。話しあいでは言い
訳を駆使して逃げられそうなので直接折檻するしかないと判断する。

「どうしたんですか?」

そう飾に聞かれ自分は只一言、「混ざる」と士乃たちの方向を見て口にした。
飾は優しく微笑みながら、顔の前に手を当て、こう言う。

「いってらっしゃい」

「いってきます」と答え、早歩きで混ざりに行く。
そのやり取りは少しだけかっこよく思えたような気がする。やりに行く事は折檻だけど。
                                       了




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