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先輩、/犬派ですか/猫派ですか/閑花ちゃん派ですか?

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

先輩、/犬派ですか/猫派ですか/閑花ちゃん派ですか?



「先輩! 先輩って健気な犬派ですか、小悪魔な猫派ですか、それとも世界一可愛い閑花ちゃん派ですか?」
「三択目はダミーとして。俺が犬猫のどっちを選んでも、そつなく自分にこじつけようって気マンマンなのは分
かった」
「そこに気づいていただけるとは! やっぱり先輩と私のキモチ、ちゃんと通じ合っていましたね! 私たち、
結婚しました!」
「しねーよっ!」

 ……『選ばない』を選んでもこじつけやがった……。
 誰もが鞄を引っ掛けてそれぞれの時間の流れに帰っていく放課後のことだった。
 自分で自分を世界一可愛いといううちの後輩さまは、今日も扉バーン!で俺たちの教室に入り浸っていた。大
迷惑としか言いようがないが、もうクラスメイトのみんなも、慣れっこを通り越して、窓から吹きこむそよ風く
らいにしか思っていない節がある。仁科学園生の適応力が怖い。

「そんなお茶目な“コウハイックジョーク”はともかく、……あっ、『世界一可愛ーい!』とか、『先輩と結婚
したーい!』とかは、ジョークじゃありませんよ」
「ジョークでいいよっ」

 ……少なくとも、自分を『世界一可愛い』と吹かしたのはジョークのつもりだったということにしておいたほ
うが、まだいくらか可愛げもあったろうに。
 というか、どこまで本気なんだろうコイツは……。

「えーとそれでマジメな話、先輩は犬と猫、どちらがお好きなんですか」
「……ほんとうにマジメな質問なんだろうな」
「想い人のことなら、どんな小さなことでも知っておきたい。できるなら本人の口から語ってもらいたい。それ
もまた、恋する乙女の乙女ちっく乙女心であるのです。どうかアンケートにご協力ください」

 バカめ。今さら後輩ごときの上目遣いおねだりなど、俺には通用しない。
 ……しかし、だんだん面倒臭くなってきたのも確か。別にどうという内容でもないし、さっさと答えてお引き
取り願ったほうがいいかもしれん。
 こういうその場しのぎの妥協が積み重なって、俺たち二人の間の腐れ縁を香ばしく醸成している気もするが。
 どうせもうここから赤の他人同士に戻るのは無理臭いので、一線を越えないよう注意しながら“先輩”をやっ
ていこうかなというのが、最近の俺のスタンスだ。
 本人の意識や周囲の状況もだいぶん明るいほうに変化してきているから、以前ほどぐつぐつと深刻に考えなく
ても大丈夫だろう。

「……犬か猫かだったな。どちらかというと、犬かな。猫も嫌いってわけじゃないけど」
「では、牛肉と豚肉と鶏肉を好きな順番に並べてください」
「鶏、牛、豚……って続けるのかよっ!」

 てっきり一問だけで終わるものだと思っていた。面食らった俺は、メンカウラー王などという全く関係ない人
名を思い出してから、後輩にツッコミを入れた。

「いい機会ですし。アンケートですから。……スカートとズボン、女の子が穿くなら?」
「……スカートだ」

 当然ながら、後輩はクレームなど物ともしなかった。俺はこの際だと諦めて、怪しい質問を警戒しながら答え
ていくことにする。

「ぶっちゃけサド? マゾ?」
「案の定、だんだん質問が怪しくなってきた……! 回答を拒否する」
「ちっ。……ではお米とパンならどちら?」
「基本的には、コメで」
「源頼朝と源義経、どちらに味方したいですか?」
「頼朝」
「……静御前と弁慶も付けますよ……?」
「頼朝だ」

 心細そうな演技(ふり)をする後輩を切って捨てる。こう言ってはなんだが、ちょっと情け容赦なしの鎌倉武
士の気分だった。

「黒髪おかっぱと黒髪ロング、恋人にするなら黒髪おかっぱにキマリ!」
「回答させろよ」
「では仁科学園(うち)の夏服と冬服、どちらが萌えます?」
「冬」
「海と山、恋人と出掛けるなら」
「……山もいいかもな」
「究極の選択です。カレー味のカレーと、ウ」
「カレー」

 さすがに嫁入り前の娘にそんなことばを口にさせるのは憚られ、俺は先手を打った。

「結婚式挙げるなら和風、洋風どちら?」
「花嫁に選んでもらう」
「ラーメンといえば、醤油、味噌、豚骨のうちどれ?」
「醤油」

 ひとつ前の質問との落差が泣けてくる。
 ランダムなアンケートにかこつけて本命の質問を混ぜてくるつもりなのは分かっていたが、それにしたってこ
の女、ごはんの問いとセクシャルな問いをもう完全に同列に扱っている。

「リンゴとバナーナ、食べるなら」
「リンゴ。……ってお前は俺がリンゴ好きなのは知ってるだろうに」
「すっ!!」

 後輩は何に反応したのか、ここぞとばかりに俺に食いついた。

「そうですよね、す、好きなんだ……。じゃあじゃあっ、リンゴと私、どちらがより大好きですか?」
「……もし俺に『リンゴよりお前が好きだ』って言われて、お前それ嬉しいか……?」

 後輩はさすがに考えるように目線を上にやり、可愛らしく小首を傾げて答えた。

「じゃっかん」
「若干かー」

 そっかー。

「……」
「……」

 どちらからともなく窓の外を見た。なぜだか無性にそうしたくなった。
 物悲しい晩秋の夕陽が、目に痛い。
 校庭の隅っこで中くらいのチンピラとピンクのスーパーヒロインがめんこで戦っている光景が見えた気がする
が、気のせいだと思う。
 こうして、妙な空気を教室に残してアンケートは終了した。
 だが。
 事件は、ここで終わらなかったのだ……。


 ※

『後輩/お前が好きだ。/リンゴより/好きだ。/嬉しいか?/させろよ。/豚/どちらかというと、犬かな』
「……ハァハァ。せんぱい、にくしょくけい……」
「こっそり録音して悪意ある編集して最低な携帯の着信にしてるー!?」

 しばらく口を利かなかった。



 おわり



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