カップルウォッチャーととろ/夏の大三角形(前編)
※
――……が……で……夏の台さんカッケーですっ
「む?」
「む?」
今日も今日とて幸せ撲滅運動と称して羨ましいカップルに睨みを利かせていた大型台は、ふと自分のことを噂
されたような気がした。憧れに華やいだ女の子の声に聞こえた。
まさかのモテ期到来か。まいったぜ。ま、確かに今日の俺は我ながら激マブにキマっていると思うが? 鉄面
皮の裏でそんなことを考えながら、さりげなく頭に手をやって自慢のリーゼントの形が崩れていないかササッと
チェック。大丈夫だ。……イケてるイケてる!
演劇部員顔負けの動きのキレで振り返る。もこもこのちんぴらリーゼントが方向転換し、気合も充分に中庭の
一角を差し示した。
されたような気がした。憧れに華やいだ女の子の声に聞こえた。
まさかのモテ期到来か。まいったぜ。ま、確かに今日の俺は我ながら激マブにキマっていると思うが? 鉄面
皮の裏でそんなことを考えながら、さりげなく頭に手をやって自慢のリーゼントの形が崩れていないかササッと
チェック。大丈夫だ。……イケてるイケてる!
演劇部員顔負けの動きのキレで振り返る。もこもこのちんぴらリーゼントが方向転換し、気合も充分に中庭の
一角を差し示した。
「ですから先輩、夏の大三角形を見に行って、その下でチュッチュしましょうよ!」
「しない。後半がいらない」
「じゃあ、夏の大三角形の下でちゅーまで……?」
「まだ削れるな」
「しない。後半がいらない」
「じゃあ、夏の大三角形の下でちゅーまで……?」
「まだ削れるな」
そこには軍手をした少年と、箒を振り回す少女がいた。どちらも見覚えのある顔だった。
アプローチに余念がない女のほうは高等部普通科一年、後鬼閑花。文脈によっては“後輩”で通る。あるいは
本名よりもそちらがよほど有名だった。
それをあしらう男のほうは同じく二年の、確か先崎。後輩と対になった“先輩”というニックネームが定着し
ている。……定着しすぎて名前は忘れられがちだった。
誤解している者も少なくないが、このふたりは、まったく恋人同士ではない。嫉妬の果てにカップルのおよそ
全てを見抜く眼を得た大型台には分かるのだ。彼らは嫉妬心を刺激しない。
“幸せ”かどうかすら判断の難しいところで、撲滅運動の対象からは外れていた。当面はたまの監視でよいの
では?というのが、仲間たちと出した取り敢えずの結論である。
アプローチに余念がない女のほうは高等部普通科一年、後鬼閑花。文脈によっては“後輩”で通る。あるいは
本名よりもそちらがよほど有名だった。
それをあしらう男のほうは同じく二年の、確か先崎。後輩と対になった“先輩”というニックネームが定着し
ている。……定着しすぎて名前は忘れられがちだった。
誤解している者も少なくないが、このふたりは、まったく恋人同士ではない。嫉妬の果てにカップルのおよそ
全てを見抜く眼を得た大型台には分かるのだ。彼らは嫉妬心を刺激しない。
“幸せ”かどうかすら判断の難しいところで、撲滅運動の対象からは外れていた。当面はたまの監視でよいの
では?というのが、仲間たちと出した取り敢えずの結論である。
(……というか、何だこのオチ)
大型台の肩から目に見えて力が抜けた。自分の魅力に気づいた女の子が「台さんかっこいい!」と黄色い声を
上げたのかと思ったが、別にそんなことはなかった。どうしてくれよう、この脱力感……。やるせなさすぎる。
上げたのかと思ったが、別にそんなことはなかった。どうしてくれよう、この脱力感……。やるせなさすぎる。
「先輩が彦星さまで、私が織姫さまです。彦星さまと織姫さまは相思相愛です!」
「そうかい」
「あっ、でも七夕にしかイチャイチャできないのはイヤですよね。ここは天帝さまをポッとひと突きして、同棲
を認めてもらえるよう説得しましょう!」
「それ天帝さま死んでね?」
「そうかい」
「あっ、でも七夕にしかイチャイチャできないのはイヤですよね。ここは天帝さまをポッとひと突きして、同棲
を認めてもらえるよう説得しましょう!」
「それ天帝さま死んでね?」
聴けば聴くほどに頭が痛くなる会話だった。後輩の言動は今更なので置いておくとしても、先崎も先崎だと思
う。妙なところにツッコミをさせられて、いろいろ言質を取られている。このままなし崩し的にペースを握られ
て、いっしょにロマンチック天体観測→なんかが既成事実化というオチが目に見えるようだ。
あと、どうでもいいが、夏の大三角形の中で忘れ去られているデネブが気の毒だった。
う。妙なところにツッコミをさせられて、いろいろ言質を取られている。このままなし崩し的にペースを握られ
て、いっしょにロマンチック天体観測→なんかが既成事実化というオチが目に見えるようだ。
あと、どうでもいいが、夏の大三角形の中で忘れ去られているデネブが気の毒だった。
「ねーいきましょうよぉせんぱぁい。私たちで暴君天帝に反逆して宇宙に平和を取り戻すのです! そして今度
は私たちが第二の天帝さまとお妃さまとなってヤりたい放題独裁政治です! レッツ下克上!」
「星を見るっていう話の原型がなくなってるぞ」
「ヤりたい放題というのがポイントでして。何でもありなわけなので、もちろん星なんかも見まくりです!」
「ヤに力を入れるな」
は私たちが第二の天帝さまとお妃さまとなってヤりたい放題独裁政治です! レッツ下克上!」
「星を見るっていう話の原型がなくなってるぞ」
「ヤりたい放題というのがポイントでして。何でもありなわけなので、もちろん星なんかも見まくりです!」
「ヤに力を入れるな」
ふたりして相変わらず生産性のなさそうな方向にまっしぐらだった。これ以上聴いていても仕方がないと大型
台は踵を返す。
歩きながら考える。
台は踵を返す。
歩きながら考える。
(しかし、星か)
あるいは夜中にふたりで満天の星を楽しむ、そういうカップルもいるところにはいるだろう。そいつは盲点だ
ったかもしれない。
いつしかその口元には、野獣を思わせる獰猛な笑みが浮かんでいた。
ったかもしれない。
いつしかその口元には、野獣を思わせる獰猛な笑みが浮かんでいた。
※
私立仁科学園普通科棟の一角に扉を幾つか並べる小会議室のうちの一。
手狭でありながら、内には少人数で議論するのに過不足ない設備が揃っている。あるいは一個の細胞の機能美
を連想する者もあろうか。
この部屋には今、三人の男子生徒が詰めていた。無申請使用の常習犯たちだ。
煙草を吸うでもなく、漫画を回し読みするでもなく、女を連れこむでもなく、さりとて男たち同士でいかがわ
しい行為に及ぶでもなく、しかし部屋にはきっちりたむろする大中小の影! その正体は、その目的は何だ!?
それを解き明かすには、仁科学園に広く流布する、ひとつの噂について語らねばならない。
そう、噂があるのだ。
仁科学園の話題に付き纏う恐怖の噂。
『幸せの撲滅』を至上命題に、らぶらぶちゅっちゅ乳繰り合う二人の仲を引き裂こうと立ち回る、度し難き者
たちがいる。
それは、自分自身にも突っ張れぬ半端者が幅を利かせるこのツッパリ氷河期に敢えて突っ張らかる、リーゼン
ト、モヒカン、ハゲちゃびんのズッコケ三人組であるという。
彼らは誰もが羨むアツアツカップルを見るや、宇宙人と交信できそうでできない意味不明な奇声を上げつつ跳
びはね、なんかもう変態的な手つきで襲い掛かって来るのだとか。そして悪魔と契約して手に入れたという怪力
で密着するふたりを引き剥がし、ああ、その先は18歳未満のボクちゃんたちには見せられないよ!
あくまでも噂だ。脚色された話と見て、いくらか割り引いて聞かねばなるまい。
手狭でありながら、内には少人数で議論するのに過不足ない設備が揃っている。あるいは一個の細胞の機能美
を連想する者もあろうか。
この部屋には今、三人の男子生徒が詰めていた。無申請使用の常習犯たちだ。
煙草を吸うでもなく、漫画を回し読みするでもなく、女を連れこむでもなく、さりとて男たち同士でいかがわ
しい行為に及ぶでもなく、しかし部屋にはきっちりたむろする大中小の影! その正体は、その目的は何だ!?
それを解き明かすには、仁科学園に広く流布する、ひとつの噂について語らねばならない。
そう、噂があるのだ。
仁科学園の話題に付き纏う恐怖の噂。
『幸せの撲滅』を至上命題に、らぶらぶちゅっちゅ乳繰り合う二人の仲を引き裂こうと立ち回る、度し難き者
たちがいる。
それは、自分自身にも突っ張れぬ半端者が幅を利かせるこのツッパリ氷河期に敢えて突っ張らかる、リーゼン
ト、モヒカン、ハゲちゃびんのズッコケ三人組であるという。
彼らは誰もが羨むアツアツカップルを見るや、宇宙人と交信できそうでできない意味不明な奇声を上げつつ跳
びはね、なんかもう変態的な手つきで襲い掛かって来るのだとか。そして悪魔と契約して手に入れたという怪力
で密着するふたりを引き剥がし、ああ、その先は18歳未満のボクちゃんたちには見せられないよ!
あくまでも噂だ。脚色された話と見て、いくらか割り引いて聞かねばなるまい。
「とうとう、ハゲちゃびんすか……」
「諦めろ、省」
「丸坊主にシビれる女の子を探すんだな。根気よくな」
「諦めろ、省」
「丸坊主にシビれる女の子を探すんだな。根気よくな」
こんな時でも世間と仲間は冷たかった。ハゲちゃびん(小型省)はいっそグレてやろうかと思ったが、既に不
良なのにそこからさらにグレた場合、自分は何者になってしまうのか。『不良の不良』? ……よくわからない
存在だ。怖くなったので止めておいた。
良なのにそこからさらにグレた場合、自分は何者になってしまうのか。『不良の不良』? ……よくわからない
存在だ。怖くなったので止めておいた。
「今日、ここに集まってもらったのは他でもない。夜のカップル狩りの提案だ」
リーゼント(大型台)は大真面目な顔で、モヒカン(中型那賀)とハゲ(小型省)、二人の同志をゆっくりと
見回した。
見回した。
「……“夜の”が付くだけで、何だかいやらしい響きになるな」
「夜のヨーヨーすくい、夜のたこ焼き作り、夜の昆虫採集。……確かにそうすね」
「そうか?」
「夜のヨーヨーすくい、夜のたこ焼き作り、夜の昆虫採集。……確かにそうすね」
「そうか?」
……同志たちが夏の暑さでダメになっていた。大型台は気にしないことにして話を続けた。
「俺たちはこれまで学園外での活動にあまり積極的ではなかった。だが、満天の星空でロマンチックなムードを
演出し、破廉恥でフレンチなことをする不届きなカップルがいるとすれば」
演出し、破廉恥でフレンチなことをする不届きなカップルがいるとすれば」
嫉妬の心が胸の奥で膨らんでいくのを自覚する。無限大に。
「それはそれで、決して許されることではない」
中型那賀が、小型省が、同調して力強くうなずく。
三人の誰からともなく悪意の円陣が組まれ、中心で武骨な手が重ね合わされる。もはや言葉は、要らなかった。
それゆけッ! ボクら孤独なる者たち最後の希望! 幸せ撲滅運動の三大ヒーローよ! 三位一体の境地で、
夜行性のカップルどもを叩くのだッ!
三人の誰からともなく悪意の円陣が組まれ、中心で武骨な手が重ね合わされる。もはや言葉は、要らなかった。
それゆけッ! ボクら孤独なる者たち最後の希望! 幸せ撲滅運動の三大ヒーローよ! 三位一体の境地で、
夜行性のカップルどもを叩くのだッ!
※
「で、ここに来たんですか」
「この神社からは星が綺麗に見えるからな。しかも有名なデートスポットでもある」
「だからって……」
「この神社からは星が綺麗に見えるからな。しかも有名なデートスポットでもある」
「だからって……」
柚鈴天神社の巫女、神柚鈴絵は、聞こえよがしに溜め息を吐いた。
夏の暑さにヤられた同志たちとの打ち合わせから三時間弱。けしからんカップルをケチョンケチョンにシメる
べく、大型台は背中の大荷物を揺すりながら神社の階段を踏破したのだった。
既に“夕方”に区分するにはやや遅い時間帯とはいえ、日没までにはまだ若干の猶予がある。さすがに風景は
青褪めて見えたが、境内の掃き掃除に励んでいた少女のほの白い貌がそれと判るていどには明るかった。
優しげに垂れ下がった目尻や、柔和に微笑む口元。その見た目から、周囲の人々にはよく「おっとりして可愛
らしい」と評される。また、彼女には確かに、他人の警戒心を自然にほぐしてしまうような雰囲気があった。
もっとも、それなりに付き合いのある台は、その性格が一筋縄でいかないことを知っていた。
神柚鈴絵は仁科学園の三年生で、美術部の部長を務める。あんなナリで三人揃って美術部に籍を置く大型台た
ちと知り合いなのは当然と言えた。……もっともこのふたりの間柄に限っては、ただの部長と部員に留まらない、
もう少し“込み入った”ものがあるのだった。
不純というか不純以前の動機から台がここに参拝したとき、白衣と緋袴という巫女装束に着替えた鈴絵は、ち
ょうど古びた竹箒の穂先で敷石の上の落ち葉を掻いているところだった。
今はその手を止め、鳥居の下でふたり、ある意味では友達以上の会話を紡ぎ出している。
夏の暑さにヤられた同志たちとの打ち合わせから三時間弱。けしからんカップルをケチョンケチョンにシメる
べく、大型台は背中の大荷物を揺すりながら神社の階段を踏破したのだった。
既に“夕方”に区分するにはやや遅い時間帯とはいえ、日没までにはまだ若干の猶予がある。さすがに風景は
青褪めて見えたが、境内の掃き掃除に励んでいた少女のほの白い貌がそれと判るていどには明るかった。
優しげに垂れ下がった目尻や、柔和に微笑む口元。その見た目から、周囲の人々にはよく「おっとりして可愛
らしい」と評される。また、彼女には確かに、他人の警戒心を自然にほぐしてしまうような雰囲気があった。
もっとも、それなりに付き合いのある台は、その性格が一筋縄でいかないことを知っていた。
神柚鈴絵は仁科学園の三年生で、美術部の部長を務める。あんなナリで三人揃って美術部に籍を置く大型台た
ちと知り合いなのは当然と言えた。……もっともこのふたりの間柄に限っては、ただの部長と部員に留まらない、
もう少し“込み入った”ものがあるのだった。
不純というか不純以前の動機から台がここに参拝したとき、白衣と緋袴という巫女装束に着替えた鈴絵は、ち
ょうど古びた竹箒の穂先で敷石の上の落ち葉を掻いているところだった。
今はその手を止め、鳥居の下でふたり、ある意味では友達以上の会話を紡ぎ出している。
「これは部長にとっても悪い話ではないはずだ。神聖な境内で神をも畏れぬ破廉恥行為などされても、巫女とし
ては面白くないだろう?」
「……その口と行動力をもっと違うことに使ったらどうです?」
「たとえば?」
「たとえば――」
ては面白くないだろう?」
「……その口と行動力をもっと違うことに使ったらどうです?」
「たとえば?」
「たとえば――」
神柚鈴絵は言い淀んだ。
――たとえば、街に出てカノジョを探してみるとか
どうしてだか、彼女にはそれを提案することは躊躇われた。
台らの幸せ撲滅運動を止めさせたいと願うなら、それが最も的確な行指針のひとつであるとは思うのに。
台らの幸せ撲滅運動を止めさせたいと願うなら、それが最も的確な行指針のひとつであるとは思うのに。
「……だいたい、学園を飛び出して、こんなところにまで手を広げてどうするんですか」
結局、鈴絵は台の問い掛けから話を逸らし、小言のようなことを口にするしかなかった。
「まさかそのうち、市町村、都道府県、国、やがては世界というふうに、同心円的に拡大していくつもりなんで
すか。小学校の社会科みたいに」
「それも悪くないかもしれんな。不良なら誰もが一度は憧れるという『全国制覇』を俺たちが成し遂げるのか。
胸が熱くなるな」
「いつの時代の不良ですかそれ。……ていうか、恋人たちにじんわり嫌がらせをする運動なんか全国展開させた
ところで……」
すか。小学校の社会科みたいに」
「それも悪くないかもしれんな。不良なら誰もが一度は憧れるという『全国制覇』を俺たちが成し遂げるのか。
胸が熱くなるな」
「いつの時代の不良ですかそれ。……ていうか、恋人たちにじんわり嫌がらせをする運動なんか全国展開させた
ところで……」
鈴絵は長い睫毛を伏せた。「うわぁこの人ダメだ。目も当てられない」といった感じである。その裏には、追
及を逃れたことへの安堵も、いくらかはあったかもしれない。
及を逃れたことへの安堵も、いくらかはあったかもしれない。
「それに、いくらなんでも、星を見に来るカップルなんて、そうはいないと思うんですけど」
「あいつらはするそうだぞ。部長が気に掛けていた、あの、後鬼と先崎の漫才コンビ」
「閑花ちゃんたちが? 相変わらずアグレッシブにやっているようですね。
……いえそうではなく、台先輩にとっての費用対効果といいますか。わざわざ夜営までしたって、エンカウン
ト率は限りなくゼロに近いでしょうに」
「まあな」
「あいつらはするそうだぞ。部長が気に掛けていた、あの、後鬼と先崎の漫才コンビ」
「閑花ちゃんたちが? 相変わらずアグレッシブにやっているようですね。
……いえそうではなく、台先輩にとっての費用対効果といいますか。わざわざ夜営までしたって、エンカウン
ト率は限りなくゼロに近いでしょうに」
「まあな」
鈴絵は、台の持参物に冷ややかな視線を送った。
大きな寝袋、いくばくかの飲食物、ブタの蚊取り線香、キャンプ用の照明器具。……ほんとう、呆れるほどに
準備万端である。これではさすがにコストがタダというわけにはいくまい。
その上で、今時いっしょに星を見るなんて逢瀬を実行するカップルは稀少種に違いないし、もちろん今夜この
神社が選ばれる保証などない。
鈴絵の指摘はもっともである。
それでも、大型台は、目の前にまで持ち上げた拳の中に己の揺るがぬ決意を握り締めながら、どこまでも力強
く宣言するのだった。
大きな寝袋、いくばくかの飲食物、ブタの蚊取り線香、キャンプ用の照明器具。……ほんとう、呆れるほどに
準備万端である。これではさすがにコストがタダというわけにはいくまい。
その上で、今時いっしょに星を見るなんて逢瀬を実行するカップルは稀少種に違いないし、もちろん今夜この
神社が選ばれる保証などない。
鈴絵の指摘はもっともである。
それでも、大型台は、目の前にまで持ち上げた拳の中に己の揺るがぬ決意を握り締めながら、どこまでも力強
く宣言するのだった。
「だから少しでも確率を上げるために、これから晴れている日は毎晩ここで見張るつもりだ」
「帰れよ」
「帰れよ」
鈴絵は、そんな大馬鹿者に、花の咲くような笑顔を浮かべて言い放った。
もちろんそのていどで引き下がる大型台ではなかったが、しばらくの間、背中を竹箒の先っちょでちくちく突
つかれ続けるという、地獄の責め苦を味わったのだった。
――そんなすったもんだのうちに、夜は、もう、すぐそこまで迫っていた。
もちろんそのていどで引き下がる大型台ではなかったが、しばらくの間、背中を竹箒の先っちょでちくちく突
つかれ続けるという、地獄の責め苦を味わったのだった。
――そんなすったもんだのうちに、夜は、もう、すぐそこまで迫っていた。
つづく