アットウィキロゴ
私立仁科学園まとめ@ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

私立仁科学園まとめ@ ウィキ

先輩!黒鉄先輩ですか……?おまけに荵

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

先輩!黒鉄先輩ですか……?おまけに荵




 「黒鉄先輩じゃだめなんです!わたしが欲しいのは先崎先輩です!金髪ロングなロックンローラーじゃなくて、黒髪クールな
  日本男児です!刀を振り回すような、袴が似合うような、黒髪キューティクルな和風男子がわたしをキュンとさせるんです!」

 後鬼閑花の声で仁科学園のプールが夏を迎えた。おかっぱ黒髪ショートの少女がわおーんと学園のプールサイドで吠える。
 そして、黒鉄先輩と呼ばれた男はのっしのっしと二の足で塩素に塗れたプールサイドを歩いていた。まるで海外帰りのスタアが
空港にて待ち構えていた報道陣たちを興味なさ気に振り切るように。

 「ノーコメントなんだ。この件に関して」

 黒鉄懐の声は素っ気無かった。

 「わたしは黒鉄先輩の水着姿なんかは望んでいませんし、金髪被れなんか問題外ですし!そうですよ!耳かっぽじいて聞け!
  わたしの二つの瞳に焼き付けたいのは……せ、せ……言わせないで、言わせんな!いや、言わせないで下さい!ですよ!!」
 「わおーん!黒鉄先輩、もう一度犬かき勝負だよ!ほら!閑花ちゃんも煽る!拍手!ぱちぱち!」
 「もう!久遠ちゃん!」
 「ははは!葱はあいも変わらず気分は上々だな!この!この!」
 「きゃー!懐先輩からいじくりこんにゃくされちゃうよ!」

 久遠荵の声で懐はわっしわっしと荵の頭を撫でながらスイッチを切り替えた。
 さてさて、イヌの声はスルーするとして……。

 学園のプールは何故か賑やかだった。実行犯は言うまでも無い。
 ちらほらと数名の生徒たちが開放されたプールで各々水練なり、自主トレなり行っていた。そんな中だ。

 きらきらと鍛え上げられた肢体をプールサイドで真夏の日差しを輝かせながら、ビキニパンツの黒鉄懐は肩にハンドタオルを掛けた。
 太陽は一つでいい。同じ物などこの世に二つはいらない。そう、二つ目の太陽はきみだ。と天に指差し、水を滴らせながらタイル張りの
プールサイドをフラッシュ眩しい華やかなる花道に仕立て上げて、悠然と歩く懐はわざわざ踵を返して背後の少女に伝えた。

 おかっぱヘアーにちょっと幼児体型の面影残すスク水姿の少女が、ビート板傍らプール縁に腰掛けてぱしゃぱしゃと脚で水面に飛沫を
飛ばしながら、しきりに「先輩、先輩」と眉を吊り上げていた。膨れっ面の少女はスク水の肩紐を摘んで引っ張って、自分の白い胸に
外の空気を触れさせた。じりじりと焼け付くような学校のプールサイドでも、水の上を駆け抜ける風は幾らか涼しい。太ももが水に濡れて、
スク水の下腹部が濃紺に染まり、きらりと光を反射して、曲線を描くあどけない少女のラインで飾り気のないプールに彩りを添えていた。
 ブルーベリーな一輪の花と咲いていた後鬼閑花がぷんすかと口をすぼめていると、側に小さな体が現れてにこっと幼い笑みを見せた。

 夏休みに先輩こと、先崎俊輔が学園に登校するとの情報を閑花はキャッチした。先輩が砂漠へと向かうというならラクダの一頭は
調達するし、北極へ旅立つのならば犬ぞりのイヌになる覚悟さえ出来ている。なんとか先崎の心を鷲掴みしようと閑花が考えた末のこと。

 (水着姿のわたしを見た先輩は……この先、言葉に出来ませんっ)

 しかし、閑花が勝手に申し出た待ち合わせの時間には先崎は姿どころか陰さえ現さなかった。
 その上、プールで鉢合わせになったのは久遠荵と黒鉄懐の嫌でも目立つ約二名。運は閑花を手の平でいじりまわす。

 「おっ。先崎!こっちこっち」と懐がプール外に向かって手を振った。

 閑花、キャッチ!
 ビート板投げ捨てる!
 すっくと立ち上がり、諸手を振って目を輝かせる!

 「先輩!スク水ですよ!成長しきれない思春期真っ只中の体を包む、青春のいちページ!触れるか触れないかの紙一重のどきどき
  ウォータータイム!短い夏を謳歌しましょうよ?」
 「ウソだよ!真夏のピュアガール!」

 懐が手を振る先には部室へと向うアーチェリー部の一団がいるだけだった。先崎の姿は無い。
 一団は『先輩』との言葉にどきっとしていた。眉を吊り上げて立ちすくむ閑花の背後でわんわん吠える声が聞こえる。

 「真夏の青いゲレンデで、いっしょに水しぶきのシュプール描きながら、パラレルターンをみんなに見せ付けてやるんですよ!
  さあさあ!プール上がりは閑花ちゃん特製『特濃バニラアイス・閑花ちゃん味』を召し上がれ!きゃん!」
 「わたし、『きゃん』とか言わないし!」
 「わおん!先輩!わたしのふっさふさ尻尾を見て下さい!尻尾ふりふりふりふりふり!」

 黙っていろと躾けても無駄無駄無駄。荵の口から勝手に作り上げられた閑花のセリフがホウセンカの種子のように弾ける。
 プールサイドにお子様用のセパレート水着できゃんきゃん吠える荵は閑花からジト目で呆れられていた。
 共に控え目な体の二人だ。コースをこれでもかと泳ぎ込む若きとびうおたちだけが、ここは高校なんだとアイデンティティを保っていた。

 「さてはて。なぜに閑花ちゃん。夏休みのプールに来たの?」

 水に親しみに来たならば市民プールなり行けばよい。にも関わらず、仁科学園のプールに現れた後鬼閑花、おまけにスク水だ。
 スクール水着、光の当て方変えれば健康的なみずみずしい輝きもフェチティックな趣味になること請け合いだ。

 「それは、おれ……黒鉄懐の肉体美に倒れたかったからさ。後鬼も罪なヤツよのう」
 「違う!全力で否定します!」

 事実、懐の肉体は美しく、筋骨隆々と水も滴るいい男。古代ギリシャの美術館の遺跡から発掘されたって不思議じゃない体だった。

 (わたしが先輩を呼んだんだもん。なのに……)

 口は災いの元。閑花はだんまりを通すことにした。
 ただ、呼んだはずの先崎が現れないことに、気持ちが少々穏やかではなかった。

 「さて。葱!50メートル自由型で勝負だ!」
 「がおーっ!わたしのイヌかきが唸るよ!」

 身長差、およそ50センチ。小さな荵は両手に拳を作って構えると、ばかでかい懐の挑戦を受けてたち、両者に稲妻のような火花を
撒き散らせていた。
 いつもは「先輩!先輩!」と雪の日の柴犬に負けないぐらい駆け回る閑花も、荵と懐の前では日陰の和猫のように大人しかった。
 スタート台に足をかけ、自慢のビキニパンツが周りの者の動きを止めた。天を突くような、神を陥れるほどの身の丈が濃い影となり、
ゆらゆらと揺れる水面に映った。水面に花咲く荵の姿が周りの者の目を止めた。小動物のような、手の平で転がりそうな体が、
立ち泳ぎをしながらゆらゆらと揺れる水面に浮かんでいた。

 「閑花ちゃん、スターターお願い!」
 「え?」
 「よーいっ」

 荵の掛け声に驚き、目を丸くした閑花はつられて「どん!」と腕を振り上げると、両者一斉にスタート!水しぶき上げながら荵は
イヌかきで前に進み、懐は大きな体をミサイルのように水上の風切ると、豪快なまでに水を割る音を立て、水中に沈んでは浮いた。
いきなりの波に乗った荵は体のバランスを崩す。静寂の中、ひとり荵だけのイヌかきが音立てる。

 「今の、絶対お腹打ったよね」

 ひそひそ話しは広がり、居合わせた者全てが口を合わせる。そして、再び静寂。

 「やった?懐先輩に勝った?わおーん!」

 懐が荵の声で我に返り、プールの底に足を付くと、50メートル先で小さな少女が尻尾を振っている姿が見えた。

 「勝利の女神はときに……いたずらをするものさ」

 お腹を赤くした懐がプールから上がりタイルを濡らして天を仰ぐ。水面にたたき付けられた衝撃からか、鼻から一筋の……。

 「鼻血出ちゃうし。ゴッドだよ、ゴッド」

 夏の神よ。このバカヤロウに喝采を。

       #

 (わたしの貴重なスク水ショットを先輩に見せつけようと思ったのになぁ……)

 先輩!ミルクアイスです!
 先輩!美味しいですか?それじゃ、わたしがもっと甘ーくしてあげますよ?
 先輩!ずっと、この夏が続けばいいですね!そしたら、わたしの……。

 夏プール 恋する閑花の 夢の跡

 更衣室までの道のりで足元が暑い。
 すり抜ける風が閑花を慰めるけど、もういいですよとお断り。

 閑花は水着の肩紐を指で摘みあげると、鎖骨を流れる水滴がするりと胸に滑り込んだ。結局、先崎はプールに来なかった。
 結局、閑花はひと泳ぎもせずにスク水に着替えてプールサイドで跳ねただけで貴重な夏休み、十代の夏の一日を過ごした。

 「帰ったら何しようかな……」

 水を失った魚のように小さな声で閑花は呟き、女子更衣室の扉を開くと久遠荵が着替えている途中だった。
 ワイシャツを羽織り乾いたばかりの髪が光に重なり、ハンガーに掛けたスカートを手にしようとしている荵に色気という色気は
感じられなかった。ただ、屈むたびにちらちらと目に入るくまさんぱんつが閑花に潜在する保護欲を掻き立てていた。
 裸足で荵がボタンを掛けるさまをタオルで体中を拭きながら眺めている閑花は、ふと荵を自分のタオルでもみくちゃにして
みたくなってきた。後先考えなくていいから、ちょっかいを出して相手の気を引いてみる。正しい答えじゃないかもしれないけれど、
正しいだけが答えじゃない。白い太ももに流れる紺色の丘からの伏流水がくすぐったくて閑花は我に返った。

 「わう?閑花ちゃん、居たんだ」
 「う、うん。今シャワー浴びてきた所」
 「イヤなことあったとき、体動かすと楽しいね」

 荵の単純な言葉に閑花は体を拭く手を止めた。雫が足元に玉となって落ちる。
 言葉の意味を聞き直そうと閑花がぎゅっとタオルを握り締めると、程なくして荵は残りの言葉を続け始めた。

 「ちょっと、イヤなことがあったんだよ。どうでもいいぐらいでほんとうに些細なこと。空は青いし雲は白いのにね。
  でも、懐先輩とプールで泳ぎまくってたらどうでもよくなっちゃた」

 ワイシャツとくまさんぱんつ姿の荵は後姿で閑花に風呂上りのコーヒーのような本音をはいた。
 いいこと、いやなこと。今現在の閑花と荵をそんな天秤にかけたら、どちらがどう傾くかは言うまでも無い答えだろう。
 荵が振り返ると閑花の姿はそこには無く、人が通ったように床が濡れているだけだった。

 「……」

 ぱちんとくまさんぱんつのゴムひもを指で弾くと、ちょっとばかし痛かった。

       #

 「先崎。愛しきガールがいないのが辛いのかい?」
 「おれはただ呼ばれてここに来ただけだ」

 プールには二人の男子生徒だけ。
 スタート台には巨身の金髪男。対岸には冷静沈着黒髪男子。金髪は壁のような背中と背筋を黒髪に見せつけたまま自慢の声で尋ねた。

 「先崎に問題を出そう。クエスチョン・ワン。(ガール×水際×おかっぱ頭)÷学園のプール。は?」
 「ごめん。言っている意味が分からない」
 「解答を教えよう。後鬼閑花が頬を光らせながら待っている」

 先崎の脳裏にいつも出会っているような食欲旺盛肉食系少女が浮かび上がらせ、こめかみに十字を描いた。
 自分の背後に食欲旺盛肉食系少女が居ることに気付かずに。

 「先崎を待ちながらプールサイドで髪をいじる姿が思い浮かばないか?」
 「大人しく待つ姿など、おれの脳内画像フォルダにはないな」
 「恋に一途な子だぜ。あれこれ駆け引きするような計算高い女より煌めいてないか?」
 「黒鉄はあいつをどこか見誤ってねえ?」

 後姿のままだから顔が見えないだけにどう判断するべきか、懐の背中は先崎を悩ませる。
 そして、プールを挟んだ男同士の会話を傍で見ていた、聞いていた閑花は先崎に懐の背中を目の当たりにしつつぐっと口元を締めた。

 これが男同士の友情なのか。
 後腐れの無い青春なのか。
 水着のままの閑花ははしゃぐこともせず、近づくこともせず二人の成り行きを見守っていた。

 「その腕で抱きしめてやれ!ガールの涙がプールで満ちる前に!恋する乙女、後鬼閑花は……」

 大きな体をゆっくりと180度で振り返り、鼻にティッシュを詰めた姿で涼しい顔して懐は最後に言葉を決めた。

 「スク水姿だったんだ!」



   おしまい。





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー