無題02
345 名前: ◆XUjpX.y4QM [sage] 投稿日:2009/07/22(水) 20:42:42 ID:Eg92MEbm
その日の放課後は、いつもよりも憂鬱になるほどの陽射しだった。
そんな夏の日の創発市仁科学園のはずれに、パソコン三台とゲーム機が常時稼働している部屋があった。
「なあ、石塚」
「なんだ、青木」
「新入会員が入らないな」
「そうだな」
「このままじゃ、二年も続いたこのオタ部の廃会は決定したようなものだな」
「そうだな。同好会格下げから三ヶ月――もう、言い訳はなにも残っていない」
青木がカーテンを少しだけ開けて、窓から空を見上げた。
「さびしくなるな……」
「そうだな……せめて、顧問さえいれば――」
そのとき、彼らの部室の扉が不意に開けられる。
その日の放課後は、いつもよりも憂鬱になるほどの陽射しだった。
そんな夏の日の創発市仁科学園のはずれに、パソコン三台とゲーム機が常時稼働している部屋があった。
「なあ、石塚」
「なんだ、青木」
「新入会員が入らないな」
「そうだな」
「このままじゃ、二年も続いたこのオタ部の廃会は決定したようなものだな」
「そうだな。同好会格下げから三ヶ月――もう、言い訳はなにも残っていない」
青木がカーテンを少しだけ開けて、窓から空を見上げた。
「さびしくなるな……」
「そうだな……せめて、顧問さえいれば――」
そのとき、彼らの部室の扉が不意に開けられる。
開いた扉の場所に、一人の女性が立ちはだかっていた。
生徒には見えなかった。学校指定ではない、くすんだジャージに身を包んでモップを抱えていた。肌も荒れ気味である。
「話は聞かせてもらったぞ」
青木が萎縮しきった趣で立ち上がる。
「あ、あ、あの。ど、ど、ど、どちらさまで」
青木は、この部室内でしか滅多に口を開く事はない。
銜えて女性に対する免疫が全くといっていいほどない青木が立ち上がったのには理由がある――隣の石塚は、さらに免疫がなく女性に話し掛けられただけで逃げ出すほどの人物なのである。
事実、唯一の逃げ場である入り口を女性に塞がれた石塚は、頭を抱えてがくがくと震えている。
生徒には見えなかった。学校指定ではない、くすんだジャージに身を包んでモップを抱えていた。肌も荒れ気味である。
「話は聞かせてもらったぞ」
青木が萎縮しきった趣で立ち上がる。
「あ、あ、あの。ど、ど、ど、どちらさまで」
青木は、この部室内でしか滅多に口を開く事はない。
銜えて女性に対する免疫が全くといっていいほどない青木が立ち上がったのには理由がある――隣の石塚は、さらに免疫がなく女性に話し掛けられただけで逃げ出すほどの人物なのである。
事実、唯一の逃げ場である入り口を女性に塞がれた石塚は、頭を抱えてがくがくと震えている。
その女性は、フィギュアや萌え系漫画雑誌の散乱するこの駄目人間の園につかつかと上がり込んだ。
それは青木と石塚にとっては、聖域を冒涜されるに等しい行為だった――ここ以上に、女性に嫌われるアイテムの充満した空間もそうそうないだろう。
彼らは今や狩られる直前の羊のように、じっと床を睨み続けていた。
それは青木と石塚にとっては、聖域を冒涜されるに等しい行為だった――ここ以上に、女性に嫌われるアイテムの充満した空間もそうそうないだろう。
彼らは今や狩られる直前の羊のように、じっと床を睨み続けていた。
「うわ。これは、ワンフェス限定の! うほ、いかんなー。
学校にこういうエロ本同然の萌え漫画を積んじゃ。
うっきゃー何これガンダム種全部録画してんの!? すげー。すげー」
学校にこういうエロ本同然の萌え漫画を積んじゃ。
うっきゃー何これガンダム種全部録画してんの!? すげー。すげー」
彼らはゆっくりと顔を上げた。
それから彼らは目を合わせて、確信したように頷く。
この女、腐女子である。
彼らは脳裏で勝利の雄叫びをあげた――仲間か! 夢にまで見た異性の仲間か!
彼らはその女性に振り返る。
女性はにやりと口元を釣り上げて、うんうんと頷いた。
「顧問が必要なんでしょう。――この空間のやさぐれ具合、悪くない――」
新入りの教師かなんかだろう。
もし彼女にこの部屋の存在が肯定されれば――俺らは卒業までのあと1年弱を、この隔離された駄目人間の巣で生活する事を許されるのだ――
「あ、あのう。すみません、初めてお見かけする顔だったものですから、戸惑ってしまって、えと、あの」
青木は胸に手を当てて、自分の同期が収まるのを待った。
それから彼は、勇気を振り絞って言った。
「せ、先生のお名前をこちらにご一筆、願えますでしょうかっ!」
それから彼らは目を合わせて、確信したように頷く。
この女、腐女子である。
彼らは脳裏で勝利の雄叫びをあげた――仲間か! 夢にまで見た異性の仲間か!
彼らはその女性に振り返る。
女性はにやりと口元を釣り上げて、うんうんと頷いた。
「顧問が必要なんでしょう。――この空間のやさぐれ具合、悪くない――」
新入りの教師かなんかだろう。
もし彼女にこの部屋の存在が肯定されれば――俺らは卒業までのあと1年弱を、この隔離された駄目人間の巣で生活する事を許されるのだ――
「あ、あのう。すみません、初めてお見かけする顔だったものですから、戸惑ってしまって、えと、あの」
青木は胸に手を当てて、自分の同期が収まるのを待った。
それから彼は、勇気を振り絞って言った。
「せ、先生のお名前をこちらにご一筆、願えますでしょうかっ!」
その女性は笑顔で、青木から「廃部・廃会異議申し立て書」とボールペンを受け取った。
青木は胸が急に締め付けられる思いがした――肌こそ微妙だが、笑顔は女性の魅力を放っている。きっと化粧で化けるほうの人だ――
「んーと。教職員の場合はここに名前、教職実習生の場合はここ、……あれー」
彼女は首を傾げてから、青木に向き直った。
「ねえ」
「は、はいっ! なん、なんでしょう!」
青木は胸が急に締め付けられる思いがした――肌こそ微妙だが、笑顔は女性の魅力を放っている。きっと化粧で化けるほうの人だ――
「んーと。教職員の場合はここに名前、教職実習生の場合はここ、……あれー」
彼女は首を傾げてから、青木に向き直った。
「ねえ」
「は、はいっ! なん、なんでしょう!」
「用務員は……顧問になれない……のかな……やっぱ……」
彼らは、長い事無言で立ち尽くしていた。
――遠くの格闘茶道部から、ししおどしの音がかぽーん、と鳴った。
――遠くの格闘茶道部から、ししおどしの音がかぽーん、と鳴った。