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屋上のふたり

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屋上のふたり

532 名前: 屋上のあいつ ◆FhLepFtlNE [sage] 投稿日: 2009/07/23(木) 22:25:58 ID:bXVSDaBG
いつもの焼きそばパンとイチゴ牛乳(紙パック)を手に持ち、溜息を吐きながら俺は屋上への続く階段を昇る。
たくっ、この学校の連中は個性が強すぎるんだよ。ちょっとした連絡事項を伝えるだけでも疲れる。
職員室は何故か毎回騒がしいし、クラスメイトの奴らは漫画みたいに性格が濃い奴らばっかだ。俺みたいな特徴が薄い奴にはきついっつーの。
そんな存在感が空気の様な俺がゆったりと羽を休める場所。それが屋上だ。青い空と空気の間で俺は俺を保てる。

ドアノブに手を掛けると、いつもの「歌」が聞こえてきた。ガラスみたいに透き通った、それでいて芯の強さを感じさせる綺麗な歌声。
その歌声を邪魔する事無く、心地良い音色を響かせるアコースティックギター。……ホントに何時でもいるのな、あいつ。
俺はその「歌」を邪魔しない様に、静かにドアノブを回して屋上に出た。見上げると清々しい青空が俺の視界に映った。
正面に視界を向けると、「歌」の歌い主が、俺に気付いて演奏を止め、肩からギターを下ろすとゆっくりと振り向いた。

「また授業サボってんだな。いい加減留年するぞ」
自分の中では思いっきり皮肉を込めて言ったつもりだが、歌い主――――天月音菜はいつも通り無表情のまま、そっけない返事を返してきた。
「テストで取り返すから構わない。人の事言えるのかい?」

「俺は真面目にやってんだよ。それなりに成績は取れてる」
何時も通りの返事と苦笑を浮かべながら、ついでに買ってきてやったチョココロネパンを天月に放り投げる。
天月は俺が投げたパンを受け取り、ペタンとその場に座って袋を開け始めた。俺もその場に胡坐を掻く。

「つか何時から屋上にいるんだ? 朝見なかったんだが」
「なんとなく早起きしたかったから朝7時から。ずっと歌ってたんだ」
ずっとって……今もう2時だぞ。相変わらず変わってんなぁ。……いや、変わってるってレベルじゃねえか。

天月は一々パンを千切ってリスのようにちびちびと食べる。こうしてると何処にでもいる女子の様だが、それは違う。
この女――――天月音菜は昔から美形だが変な女として、地味に知られている。狙ってる奴は多いらしいが、自分では釣り合わないと声を掛けられる程度胸がある奴はいない。
天月が変な女と噂されるのにはいくつか理由がある。簡潔に表すとだ。
何時も授業に出席していないが、学年では常にトップの成績を誇り、また何故か体育には毎回参加しており何食わぬ顔で好成績を叩きだす。
また制服の上から分かる位スタイルが良く、冷ややかな目と泣きぼくろ、そして左目を隠す髪が醸し出すアンニュイな雰囲気が堪らないとあほな級友は語る。

その異様なスペックな高さと、得体の知れない雰囲気から、天月は同級生や下級生から憧れはされど近寄られる事はない。言っちまえばこいつに友達はいないのだ。
いや、友達は1人だけいる。人では無いな。楽器だ。こいつが肩からぶら下げているアコースティックギターが天月の友達……だと思う。
何時頃かは分からないが、天月は何時もこの学校の屋上でギター片手に歌を歌っている。そしていつの間にか帰宅する。
生徒が集まる昼休みにはどこかへ消え、それ以外の時間に歌を歌っている。誰に聞かせるでもなく。友達であるアコースティックギターをかきならして。

と、何故俺がここまで天月に関して知っているかといえばだ。幸か不幸か俺はこいつと幼稚園の頃から腐れ縁なのである。何故だかずっと同じクラスになる。
お袋からその事を知られてから、天月と親しくしろ、貴重な縁なんだからとしつこく言われたせいで、高校生になった今でもコイツに構っている。
だが、幼稚園の頃から付き合っているものの、俺はいまだに天月の事が分からない。一般的に言う不思議ちゃんかと言われれば、間違いなく違うと思う。

パンを食べ終わった天月が立ち上がり、ドア付近のゴミ箱に袋を捨てる。そしてつかつかと戻ってくると俺の近くに屈んだ。無表情のまま、天月が語る。

「所で向田。僕は思うのだが、やはりあの声優では合わないと思う。あれほど不安定な演技をする新人を充てるなら、手堅い中堅を呼べばいいのに」

……これだよ。皆、天月をクールな美少女とでも思ってるのだろうが、全然違う。こいつの本性はオタなのだ。それも結構度が入った。
ガキの頃から天月と帰る時には頭が痛くなるほど、アニメについての話題を聞かされた。コイツはその手の話題になると人格が変わった様に饒舌になる。
俺にはその手に趣味は無いんだがな。ちなみに天月曰く、僕という一人称と妙な語り口は、あるアニメに影響されたらしい。聞いた事の無いアニメのな。
けど、高校に入ってから突然授業をさぼりだして、こんな奇行を始めたんだよな、コイツ。全く理由が分からない。幼稚園のころから歌は好きだったみたいだが。

小中の頃には大人しかったと思うんだがな~……。その時の抑圧されたもんが一気に高校生になって爆発しちまったのか。
無表情のまま、天月は聞いた事も無い深夜アニメのキャラクター・ストーリー・演出について抑揚の無い声でマシンガンの如く語る。
どっかで切らないと俺はこのまま何も出来ず、天月の話を聞く事になる。というか気づけば30分も経っていた。

「はいはい、分かった分かった。お前の気持ちはよく分かったよ」
「嘘つけ。向田、良いから僕の話を聞くんだ」
「後でテープレコーダーにでも録っとけよ。寝る時に聞いてやる」

溜息交じりにケツをはたきながら立ち上がる。天月は無表情のまま、一緒に立ち上がると下げていたギターを再び掲げた。
「また歌うのか? ホント毎日飽きないな、お前」
「学ぶべき事は既に学んだ。限りある時間の中で僕は自由にやる」

……どこで影響されたんだ、その台詞は。ホント、コイツの事は良く分からん。不思議ちゃんな様で中身はべたべたなオタで。
まぁ、どうせ暇だし退屈はしないけどな。いつの間にか話してると疲れが取れてる。荒療法かもしれんが
天月がギターを弄りはじめ、発声練習をし始める。ここまでやるなら吹奏楽部にでも入ればいいのに。確かあった気がする様なしない様な。

「たまにはちゃんと授業に出ろよ。担任が困ってるぞ」
「僕の事は気にしないでくれ。僕自身の事は僕が一番責任持てるから」

……その自信過剰さは何処から来るんだ。それから天月は俺の事を気にせずギターを弾きはじめる。悔しいが良い曲だと思う。
そういやこんな所で油を売っている暇など無かった。委員会の仕事がウンザリするほど残ってやがる。

「そんじゃあな。せいぜい留年にならない様に気を付けな」
「あぁ、その言葉は君に返すよ。生真面目が過ぎて髪を擦りへさない様……」
「今のお前の姿をお前に憧れてる奴ら全員にバラしてやりたい気分だよ」

前言撤回。やっぱりこいつと付き合ってると疲れる。腐れ縁でもなきゃ、友人にもなりたくねぇ。
俺はめんどくさい事諸々を片づける為、億劫な校内に戻る為にドアノブを握った。

「向田、たまには僕の演奏を聴いてくれないか。何時ものパン代以上の値打ちがあると思う」
「また今度な。暗くなる前に帰れよ」

手を振って、俺は校内に戻る。階段を降りると、天月の「歌」が耳に入ってくる。

正直、嫌いじゃない。


535 名前: 屋上のあいつ ◆FhLepFtlNE [sage] 投稿日: 2009/07/23(木) 22:27:36 ID:bXVSDaBG
人物紹介

向田誠一郎
学年は2年。普通科。
特に学業でも運動でも秀でた所はない、至って普通の青年。何気に委員会に所属している。
天月音菜とは幼い頃から付き合っているが、向田自身は天月を友人とは思わずあくまで知り合いだと思っている。
たまに息抜きの為に屋上に昇り、その際に天月と暇つぶしの会話をしている。

天月音菜
学年は2年。普通科。
成績優秀・運動神経抜群だが授業に出席しない為不良扱いされている。
学校の屋上で愛用のギターを片手に歌を歌っているが、その歌を聞いた生徒は向田を除いてあまりいない。
また、その素性を知る者は向田を除き殆どいない。オタとして知っている知識は昔から今まで幅広く深い様だ。
チャームポイントは片目を隠した髪型。好きな食べ物はチョココロネパン




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