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どっちが変?

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どっちが変?


324 名前:どっちが変? [[◆FhLepFtlNE]] [sage] 投稿日:2009/07/30(木) 13:50:20 ID:zqNYuV+T

<どっちが変?>

「ゴラァ大型ぁ! おとなしく罪を償えッッ!」

学校内を疾走する、大柄な体格のリーゼントが特徴的な青年、大型台。今の彼には逃げねばならない理由があった。
彼には覚えの無い疑惑が掛かっており、美術教師である真田基次郎が鼻息荒く、必死になって彼を追っかけているのである。その疑惑とは、美術室内にあった花瓶が割れた事。
窓側に飾ってあった花瓶が、彼が美術室に入った瞬間割れてしまったのだ。それも彼が美術室に忘れ物を取りに行く為、一人で教室に入った瞬間に。
全ては学校内に紛れこんだ近所の子猫が起こした惨事なのだが、台のビジュアルは、偶然見かけた生徒には即、悪事を行っていると映ってしまったことが不幸である。

「俺がやった訳じゃねーのに……ちぃっ!」

台は厄介事を増やさぬよう、廊下を激走しながら他の生徒にぶつからない様に絶妙に避けながら、真田から逃げる。
しかしだ、台は悩んでいた。逃げるのは良いが、何処まで逃げ込めばいいのか考えていなかったのだ。右往左往しながら、隠れられる場所を探す。
だがどの教室も台の大柄な体を隠せるようなスペースは見つからない。もうすぐ教職員達が追いついてくる。
気づけば屋上近くまで台は走っていた。目の前には、屋上に続く階段。どうする……台は葛藤する。だが後ろから追って。迷っている時間は無い。

ふと台の脳裏には、ある男女の事がよぎる。確か下級生の男女……風の噂で聞く、平凡な男と変わった女のカップルだ。
変わった女の方は学年内ではかなり人気が高いらしく、男はその女と釣り合いが取れるか疑問な程、秀でた所がない平凡な男らしい。
台は気に入らない。まるでどこぞのラブコメの様なカップルを認める訳にはいかない。ちょうどいい、事が収まるまで逃げ込むと共に、例のカップルを〆てやるわ!
意気悠々と階段を昇り、台は屋上へのドアを開いた。

瞬間、台の耳に爽やかなギターの音が聞こえた。清々しい晴天が彼を迎え入れる。
さぁ、噂のカップルは何処に居る? 台は鋭い眼光で周囲に目を向ける。だが、カップルはおろか人っ子一人……待て。
台が視線を正面に向ける。演奏が途絶えると共に、ギターを担いだ一人の少女が、台に気付いて静かに振り向く。

「向田……じゃないか。どちら様ですか?」
少女が抑揚の無い声で台にそう聞く。あっけに取られていた台ははっとすると自慢のリーゼントを撫でて、少女に自信満々の声で答えた。

「おいおい、この学園で俺を知らないとは……俺の名は大型台っ! 二科学園では札付きの悪として知られてい」
「ごめんなさい、聞いた事無いです」

台の自己紹介を、少女は一刀両断する。それから少女は台を気にせずギターを弄りはじめる。
台は唖然とする。他の生徒達は自分のルックスに対して怖がったり怯えたりするが、この少女は違う。
全く物怖じする事も無い。かつ、堂々ときつい台詞を返す。度胸があるのかそれとも天然なのか……と、ここで台は思い出す。

確かこの少女の名は天月音菜。スペックが高いものの、変人であるが故に他人を近づけさせない謎に満ちた少女である。
それ故に教員たちも手を焼いていると聞く。それだけ独特なのだ、天月音菜は。だからかもしれない。自分に対してさっきの様な反応を取るのは。
……やはり噂は伊達では無いな。それならば俺の名を覚えさせてやろう! 台はふんっと鼻息を鳴らすと、天月に指を指し、高らかに叫んだ。

「そうか、なら改めて覚えろ! 俺のは大型台。この二科学園を配下に置く札付きの悪って事をな!」
「先生―ここに花瓶を割った犯人がいますよー」
「ちょ、待て!」

台は慌てて天月に対して刺した人差し指を口元を立てるジェスチャーをした。
屋上に続くドアから、階段を上がってくる音はしない。台はふっと胸をなでおろし、天月に言った。

「お前……ビビらせんじゃねーよ!」
「ごめんなさい先輩。私なりのジョークです。意外と臆病ですね」
そう言って天月はふふっと笑ってみせた。その笑みは、台にとって天使の様な悪魔の笑みに見えた様な、見えなかったような。
と、台は天月は自分を先輩と呼んだ事に気がつく。

「そういやさっき。俺の事先輩って言ったな?」
「えぇ、実は知ってました。相当変わってる人だって事で学園では有名ですよ。大型台先輩」
「……知ってたのかよ。というか……自分で言うのもおかしいが、俺はお前ほど変では無いと思う」

台の言葉に天月はワザとらしく頬を膨らませ、反論する。
「変じゃないです、個性です。先輩のリーゼントと同じです」
「いやいやいや、お前の方が変だって! つか俺のリーゼントは男としての勲章だ! 個性なんてあやふやなもんじゃねえ!」
台は天月に対して自らのリーゼントを自慢げに決める。天月はその様子に口元をニヤニヤさせるだけだ。

突如ドアを勢い良く誰かが開けた。その音に驚き台が振り向くと、相当走ったのか大量の汗をかいて呼吸を整える真田が立っていた。
「真田っ……」
「やっと……やっと見つけたぞ大型! さぁ……正々堂々と白状してもらうぞ!」

その時、真田の足元を一匹の子猫が通り過ぎた。猫は台も通り過ぎて、天月の足元を嬉しそうにゴロゴロと転がった。
天月がしゃがみ、猫のお腹を撫でる。ふと、天月は猫が何かを咥えている事に気付き、ギターを背中に回した。
子猫を抱き寄せ、じりじりと迫る真田と下がる台の真ん中に乱入する。二人とも何事かと反応を示す。

「真田先生、ちょっと待って下さい。確かに大型先輩はすぐに悪事を起こしそうなルックスですが、それだけで判断するのはこれいかにと」
「天月、これは俺と大型の問題だ。お前は口を出すな」
「出します。無実の人が罪に問われるのを見てるのは気持ちの良い光景ではないので」

そう言いながら、天月は掌から何かを取り出す。真田が天月が出したそれを見ると、真田は驚きの表情を浮かべた。
「む、これは首輪と……破片?」
「えぇ、恐らく私が抱えているこの子猫は、花瓶の近くで遊んでいた所、花瓶に首輪が落ちてしまい、取ろうとしたんだと思います。
 それで花瓶の所をうろちょろしていたら花瓶が割れて、その時最悪のタイミングで大型先輩が入って来た為、他の生徒に誤解されたと」

真田は唸った。ここで認めると、自分が大型を追いかけ回したのが凄く酷い事に思える。
だが素直に間違いを認めるのも何だかな。しかし天月の掌の上には、確固たる証拠が。ここは……

「……分かった。すまなかったな、大型。だがちゃんと校則は守れよ。それと学業にも力を入れろ。以上だ」

台と天月に背を向け、真田が校内に戻っていく。その様子を見送った台は、握り拳を作ると、思いっきりガッツポーズをした。
「よっしゃー!無実の罪が晴れたぜ!」
「良かったですね、先輩。感謝なら、タイミングよく現われた子猫ちゃんに言ってください」

天月がそう言いながら、台に抱いている子猫を寄せる。台は踵を返した。
「漢は小動物には反応しない。……お前の方から後で感謝しておいてくれ」
「……変わった人ですね。やっぱり」

天月の台詞に、台は笑顔で返す。
「お前ほどじゃないさ」

台も校内に戻り、屋上には天月と子猫の一人と一匹だけだ。子猫を膝の上にのせた天月は、歌を口ずさむ。
何処までも続く青空に向かって


おわり


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