ワタリ その3 - (2007/04/30 (月) 21:58:01) の1つ前との変更点
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目の前には戦闘不能状態のヒコザルが倒れている。
手持ちのビッパ、ナエトルは戦える状態ではないので仕方がなくポッチャマで戦
ったのだが、相性を関係なしに見てもその実力は圧倒的だった。
「お前強いなァ。俺のヒコザルじゃ全く歯が立たなかったよ。」
彼がそう言うとのび太は照れながら右手を差し出した。
「ありがとう、君のヒコザルだって強かったよ。
僕の名前はのび太。君は?」
のび太の右手にもう1つの手が重なる。
「俺はコウジ。よろしくな!」
それから僕はトレーナーズスクールを案内してもらった。
そこには何人もの人が勉強しており、活気づいていた。
塾長にタイプの相性の事や性格によるステータスの変わり方を教えてもらっている間に日が暮れかかっていた。
「あ、もうこんな時間か!そろそろ行かなくちゃ。今日はありがとうコウジ。」
「ああ、また勝負しようぜ。」
塾長にも礼を言い、建物を飛び出して噴水の前へ向かった。
外は朝とは違い雨雲が広がっていた。
その場に着くと既にヒカリが待ちくたびれた様子で座り込んでいた。
「遅~い。何してたのォ?」
「ゴメン。ちょっと勉強してたんだ。」
ヒカリはのび太が勉強していた事が信じられなかったが、今にも雨が降りそうだったので早足でポケモンセンターへ向かった。
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どうやらヒカリが先にチェックインしていたらしく、僕はビッパとナエトルを受付に預けて自分の部屋へ向かった。
と言っても自分の部屋、謙ヒカリの部屋だ。
「ゴメンのび太!部屋一つしか借りられなかったんだァ。その代わりにホラ!」
ヒカリは青い腕時計を手渡した。
「これポケッチって言うの。とっても便利なんだから!」
のび太はポケッチしげしげと眺めた後、腕にはめ、窓際にある椅子に腰掛けた。
「そういえばのび太の友達の事あまり聞いてないよね。教えてよ!」
それから約1時間。
外はどしゃぶりになりながらも、のび太は目をキラキラさせながらずっとみんな
の話をしていた。
「でさ、ジャイアンって奴がいつも僕をいじめてくるんだよ。オレンジ色の服を着ていてね…。」
ヒカリがのび太の話を遮ぎり、窓に向かって指を指した。
「あんな感じの色?」
ヒカリの指の指す方向には体格のいい子供が傘もささずに雨の中フラフラ歩いていた。
「ジャイアン…?」
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「ジャイアン!」
のび太はそう叫ぶと部屋を出て走って行った。
「またァ~?」
ヒカリは溜め息を付きながらも、のび太の後を追った。
間違いない!昼間に見た人もやっぱりジャイアンだ!今度は見失わないぞ!
入り口の自動ドアが開き外に出る。
靴に水が染みるがそんなことどうでもいい。
「ジャイアン!」
のび太はジャイアンの肩を掴んだ。
だが彼は無反応で、ただ立っているだけだった。
「ジャイアン…?」
のび太は前に回り込み彼の顔を覗く。
目の焦点が合っていなく足元もフラフラだ。何を言っても反応を示さない。
「ジャイアン!僕だよ!のび太だ!」
のび太が自分の名前を叫ぶと彼の身体がブルッと震えた。
「のび…太…。のび太…?のび太…!ハハハ…ハ!」
ジャイアンがいきなりおかしな様子で笑い始めた。
「のび太!ギッタ…ん…ギッタ…にして…やる…。」
そう言うとジャイアンはのび太に殴りかかって来た。
しかしその攻撃はあまりにもひ弱なものだった。
のび太の薄い胸板の上でかろうじて音をたてる程度の威力。
笑いながらひたすらのび太を殴りつけるジャイアン。
「ジャイアン…。」
「ハハ…ハ。どうだ…のび…太。思い…知ったか…。」
のび太の目から漫画の様な量の涙が溢れてきた。あんなに…力強かったジャイアンが…こんな…こんな…!
嘘だ…!きっとこれは夢だ…!
だが激しく打ち付ける雨がのび太の思考を冷静にさせた。
「ジャイアンはもう…壊れている…。」
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「のび太…。たけし君は…?」
ヒカリがのび太を心配そうな目で見る。
「ジャイアンは病院で精密検査を受けてる。
悪いけど…一人にしてくれないか。」
そう呟くとのび太はセンターの屋上へとゆっくり足を進めた。
びしょ濡れの状態で屋上への階段を登る。
階段を1段1段登るたびに水の染み込んだ靴が小さく叫び声を上げた。
ザ―――……。
激しい雨がのび太の足元に叩き付けられる。
服も水を吸いすぎて重たくなっている。
のび太は青いポケッチで時間を確認し手すりに寄り掛かった。
ボーっとするのび太の頭の中で忘れたくても忘れられない言葉がこだまする。
『お前の物は俺のもの、俺の物は俺のもの』
『のび太のくせに生意気だ!』
『おお心の友よ~。』
まどろみかけた彼の目には灰色の雨雲で覆われた空しか映る物はなかった。
決して…鮮かなオレンジ色など映る事はなかった…。
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朝日がのび太の身体を包み込む。もうすっかり雨は止んだようだ。
屋上にいたはずなのに何故かベッドの上にいた。
びしょ濡れの服は既に洗濯してあって干されている。
今は白のシャツにスウェットをはいていた。
隣のベッドにヒカリの姿は見えなかった。
ドアに目をやると、ちょうど良くドアノブが回った。
「おはよう、のび太。よく眠れた?」
ヒカリが満面の笑みで部屋に入って来た。
「ジャイアン…は?」
「…意識はまだ戻ってないみたい。でもあの時のび太が見つけなければ命の保障はできなかたって。」
ヒカリの話が終わるとのび太は再び布団に潜りこんだ。
その瞬間聞き覚えのあるうるさい声が部屋を圧迫した。
「のび太!何してんだ!早く起きろォ!」
「コウジ!」
コウジがのび太の布団をはぎ取る。
ヒカリが彼の名前を叫んだ事から見てコウジを知っているのだろう。
「ちょっとヒカリ。席外してくれないか?」
のび太の真上に乗っているコウジは言った。
しぶしぶ部屋から出て行くヒカリをしっかり見送った後のび太の胸ぐらを掴みコウジは叫んだ。
「てめぇ…なにヒカリに心配させてんだよ…!」
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「まさかのび太がヒカリの知り合いだったとはな…。」
コウジが胸ぐらを掴みながら続ける。
「お前…ヒカリが心配してやってんのにその態度はなんだ?ああ!?」
のび太はコウジの手を払い再び布団に潜りこんだ。
「もう…どうでもいいよ…。」
気弱になっているのび太の態度を見てコウジの怒りが爆発した。
「どうでもいい!?お前ヒカリの記憶取り戻すって誓ったんじゃねえのかよ!?
自分にちょっと嫌なことがあったからってもう諦めんのか?」
「ヒカリにこの気持ちはわかんないよ…。」
その言葉を聞いたからかコウジはあきれたようにドアノブに手をかけた。
「ああ、ヒカリにはわかんねぇだろうな。
何しろ友達との記憶が一切ないんだもんなァ。
悲しみたくても悲しめないんだもんなァ。
いいか…ヒカリはなァ…お前の何倍も絶えてるんだよ!そんな事もわかんねぇのか。
少しでもお前をライバルと思った俺が恥ずかしいぜ!」
そう言うとコウジはドアを力一杯閉め、去って行った。
「ヒカリは僕の何倍も絶えている…か。」
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ヒカリはポケモンセンターのロビーでうろたえていた。
「何すればいいんだろ…。」
朝食は食べ終えたし、のび太はコウジと何やら話しているし…。
何もすることのないヒカリはとりあえずテレビを見て時間を潰すことにした。
『次のニュースです。
昨夜、ズイタウンの育て屋が何者かによって破壊される事件が起きました。
警察はハクタイの森半焼事件と手口が類似している事から、同一犯として捜査を進めています。
また育て屋の老夫婦が行方不明になっており…。』
「ヒカリ。」
名前を呼ばれ後ろを振り向くとのび太が立っていた。
「コウジと話は終わったの?」
「うん。さあ行こうか。」
「もう大丈夫なの?のび太。」
ヒカリが目を丸くする。
「ああ。ヒカリに励まされたからね。」
首を傾げるヒカリ。
私何かしたっけなァ?
ま、何はともあれ出発のために荷物整理しなきゃね!
そう呟くとヒカリは嬉しそうに部屋へ走って行った。
ヒカリが完全に立ち去ったのを確認したのび太はこう言った。
「ここを出る前に…もう1回勝負だ!コウジ!」
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「チッ、ばれてたか。流石は俺のライバルだな。」
コウジはポケモンセンターから出てボールを構え、空中に放った。
「行け、ヒコザル!」
全身が炎に包まれたポケモン、ヒコザルがボールから飛び出した。
「コウジ。一つ謝らなければいけないことがある。
あのポッチャマは僕のじゃない。ヒカリのだ。」
「ヒカリの!?ヒカリ、あんなに強くなったのか…。」
コウジの話を遮って、のび太は続ける。
「でも僕はヒカリのポッチャマに負けないぐらいのポケモンが…相棒がいる…!
行くぞ!ビッパ!」
太陽の下、二人はお互いのパートナーと供に戦っている。
朝だというのにその日の太陽はのび太の白いシャツをオレンジ色に染めていた―――
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