ドラえもん・のび太のポケモンストーリー@wiki

フェイル その3

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akakami

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スネ夫は目の前に置いた卵を凝視していた。
卵は時折揺れては止まることを繰り返す。
何度も期待を裏切られながら、スネ夫はまだ諦めなかった。

ポケモンの卵――育成所にあったのだから、ポケモンの卵と見て間違いは無い。
そう思い当たると、スネ夫は自然と好奇心が湧いた。
ポケモンの生まれる瞬間に立ち会えるという興奮。
ゲーム画面を介して見てきたことが、現実として起きる。
一度でいいから見ておきたい。
その想いに駆られてスネ夫はその瞬間を待つと決めたのだ。

「……あっ!」
思わず声を上げるスネ夫。
卵が一際大きく揺れだしたのだ。
スネ夫は手を伸ばして、卵を掴もうとする。
あと少しで卵に触れる……ほんの数センチでスネ夫の手が卵に触れる。

だが、突然卵の揺れは止まった。
直後に大きな音が育成所内に響き渡る。
爆発のような衝撃音、そして地響きを伴う振動。
「な!? なんだこの揺れはー!」
スネ夫は叫びながら咄嗟に、卵に抱きついた。



ジャイアンと静香は振動に気づいた。
「お、おい何だこりゃぁ!?」
狼狽するジャイアンの横で静香も当惑していた。
「わからない。でも、きっと近くで大きな力があったのよ!」
その時、育成所の扉が勢いよく開く。
見ると石蕗会員の一人が立っていた。
「おい、お前ら早く屋上へ来い!
 会長が客人に襲われたんだ。とっとと相手を殺りに行くぞ!」
会員はそう叫ぶと駆け出していく。
残されたジャイアンたちは暫く呆然としていた。

まず動き出したのはジャイアン。
「何かよくわかんねーが、会長って白髪の爺さんのことだよな?」
問いかけられた静香はたじろき、そして頷いた。
「あの爺さんは、絶対悪い人じゃない。俺はそう感じた。
 見ず知らずの俺たちをわざわざ運んできたんだ」
「……牢屋だけどね」
少し離れたところから声が聞こえたので見ると、スネ夫が卵を抱えて膝をついていた。
「それに僕らは侵入者として捕まったんだ。
 あの様子じゃなかなか逃げられそうにないけど、この混乱に乗じればどうだい?
 今なら簡単に逃げられ」
「ふざけんな、この野郎!」
ジャイアンは足元の卵を掴んでスネ夫に投げつけた。
かなりのスピードで飛んだ卵はスネ夫の顔面に激突する。



「ん、何すんだよジャイアン!!」
卵を払いのけ、鼻を覆いながらスネ夫は怒鳴った。
「逃げるなんてできるかよ! 俺たちは世話になってんだぞ」
「ふん。だからそれは捕まっただけだって言ってんだろ!」
スネ夫は先ほど投げつけられた卵をジャイアンに投げ返した。
放物線を描いて、卵はジャイアンの手に収まる。
「それでも、俺たちにタイムマシンの事故を教えてくれた。
 状況がわかってない俺たちにいろいろ説明してくれただろ!」
再び、ジャイアンは卵を投げ返す。
卵は真っ直ぐスネ夫に向かって飛んでいく。
「くだらねぇ」
スネ夫は飛んできた卵を叩き落とし、そのまま立ち上がる。
「僕は逃げるよ。そんなことをするほど感謝した覚えは無い」
そう告げると、スネ夫は歩いて扉へ向かう。
「……待てよ。スネ夫」
ジャイアンは口調を抑えて話し出す。
「もし、あの爺さんが俺たちを連れてこなかったら、俺たちはどうなっていた?」
その問いかけに、スネ夫の体が止まる。
「わけわからねぇまま、野生のポケモンに襲われてとっくに死んでた。そうだろ?
 お前だってわかるよな。
 だいたい、何でこんなことで争ってんだよ」
ジャイアンはスネ夫に近づく。スネ夫はゆっくりと振り返り、ジャイアンを見据えた。
「こんな状況だ。俺たちは一緒に巻き込まれた仲間だろ。
 少なくとも、のび太を見つけるまでは絶対死ぬわけにはいかないよな」
ジャイアンの言葉は、スネ夫の耳にしっかり届いた。
スネ夫は短く溜め息をつく。
「しょうがない……行こうか!」



「武さん、スネ夫さん!」
静香が声を掛けて走ってきた。
後ろに数体のポケモンを連れてきている。
「客に来た人はポケモンを使って襲ったに違いないわ。
 でなきゃあんな振動が起こるはずないもの。
 さぁ、相手がポケモンを使っているんだから、こっちもポケモンで応戦よ!」
そう意気込むと、静香は後ろに連れたポケモンを振り向く。
その中からストライクを引っ張り出すとジャイアンに押し出した。
「武さんにはこの子がぴったりだと思うわ」
ジャイアンはそのストライクをしげしげと眺めた。
「なぁ、しずちゃん。これってさっき俺をぶった斬ろうとした奴じゃ」
「ええ、ちょっと血の気が多いの。
 でも大丈夫。バカみたいに速く走るしバカみたいに力が強いのよ、この子。
 ホント、バカが使っても攻撃してりゃ十分戦えるのよ! あなたにぴったりでしょ?」
何か喚いているジャイアンを無視して、静香はスネ夫にもポケモンを押しやる。
「ほら、スネ夫さんにぴったりなのはこの子よ」
黒い羽で空中に浮かぶそのポケモンは、ズバットだった。
「うわ……ズバットかぁ。懐かしいな。
 でもどうして僕にぴったりなの?」
「ええ、この子は『さいみんじゅつ』を覚えてるし『どくどく』の技マシンも使ったの。
 『ちょうおんぱ』も使えたはずよ。混乱させ、眠らせ、毒浴びせるのがあなたの戦法だったじゃない!」
スネ夫は遠い記憶を思い出した。
攻撃しか出来ないのび太やジャイアンをノーダメージで潰す自分。
手も足も出ない相手を嘲る自分の高らかな笑い声。
「そうか。そういえばそうだった。
 ふふ、ありがとう。しずちゃん。僕らしさを思い出したよ」
微笑みあう二人に対して、ジャイアンはさらに恐れを感じるのであった。



ジャイアン、スネ夫、静香はそれぞれのポケモンを従え、一際騒がしい部屋へ突入した。
応接室――扉にはそう書かれていた。
粉塵が巻き起こり、三人は足を止める。
怒声や喚き、唸りが一度に鼓膜を貫く。
「お、おい! あれは」
スネ夫は上空を指す。
どうやら破壊されたらしい天井から、鋼の羽と青年の姿が望めた。
堂々とした顔立ちの青年が、青の髪を靡かせエアームドの上に佇む。
その目からは明らかな侮蔑が感じられた。
「バブルこうせん!」



室内にいた会員の一人が自分のポケモンに指示した。
無数の泡が噴出されて鋼煌めくエアームドに接近する。
だが、青年は動じなかった。
泡はエアームドの装甲に突撃し、虚しく破裂を繰り返す。
「き、効いてない!?」会員の絶望的な叫びが響く。
「いや、攻撃は届いているよ。ちゃんと……でもね」
青年は含み笑いで顔を歪める。本性が垣間見えた瞬間だった。
「弱すぎるんだよ。全員。
……相変わらず温いな」
青年が見下す先には、会長の白髪がある。



会長は床で横になっていた。
相当負傷した様子で、青年を見上げるのも辛そうだった。
もっとも、外面的な事情のみでは無いのかもしれない。

「ストライク、あの鳥切り裂け!」
ジャイアンは感情の赴くまま叫ぶ。
目の前で倒れる恩人の姿が、ジャイアンの心の衝動となったのだ。
微かな振動音、そして緑の疾駆が銀色めく怪鳥へ迫る。
ジャイアンの目は、鎌がエアームドに届く瞬間を捕らえ――
「ぇ……?」
これもまた『瞬間』。



「ジャイアン!」「武さん!」
二人の叫びが聞こえる。
ジャイアンは恐る恐るめを開けた。
鋼の刃が自分の喉元の寸前で静止している。
まるで時間が止まったようで、僅かに塵が舞っているだけ。
沈黙が痛い。
「う、ぅわ!」
ジャイアンは慌てて腰を抜かし、尻餅をつく。
その時何かが右手に触れ、怯えからの瞬発力で振り向いた。
「ス、ストライ……ク」
さっきまでジャイアンの背後にいたそれは、四肢と羽を無造作に広げて倒れていた。



僅かに息をしているものの、動く気配はない。
もはや虫の息なのだろう。
「……ふん。ガキか」
エアームドの上では青髪の青年がジャイアンを見据えていた。
「おい、爺さん! ここはいつから育児所になったんだ?」
青年の言葉が室内に響き渡る。
会長は少し呻いただけだった。
「会長!」
なす術が無く右往左往していた会員達が、急いで会長に駆け寄る。
それを見て、青年はなお嘲笑した。
じゃあな、爺さん。もう用は無い」



エアームドは羽ばたき、青年を連れて浮上する。

スネ夫は飛び立つ背中に向けてズバットを向かわせようとしたが、脇から手が出る。
静香がスネ夫を制したのだ。
「な、何だよ。しずちゃん!
早く追わなきゃ」
「ダメよ。何となくだけどわかるでしょ?」
遠ざかる青年を静香は青い顔をして見つめた。
「小賢しい手を使っても無駄よ。
あの人にはとても……勝てないわ」
スネ夫は反駁を加えようとしたが、言葉が無かった。
静香の言葉が事実だからだ。



ジャイアンは飛び去っていくエアームドの姿をぼんやり見つめていた。
足元のストライクはぴくりとも動かない。
(死んだんだ……俺のせいで)
ジャイアンは愕然とし、虚ろな目で亡骸を見下ろした。
(俺がここへ来なければ……こいつは死ぬことはなかった)

ジャイアンは戦うためにここへ来た。
その心には好奇心――ポケモンを使役して戦うことができるという考えがあった。
いろいろと言葉で飾ったが、本心はそれだけだ。
恩返しとかそんなのよりもまずはただ楽しそうだから来たのだ。

今、その代償をジャイアンは感じた。
屈みこみ、震える手でストライクの体を包む。
もう冷たくなっていた。
「……ごめんよ。ストライク」
ジャイアンの言葉もまた、震えていた。
罪悪感がジャイアンの体に圧し掛かった。
ストライクを包む腕が一層力を増す。
(俺が、ここへ来なければ……こいつは死ななかった)

ほどなくして、スネ夫と静香が寄ってきたが、状況は変わらなかった。
会員たちが集まり、会長と倒れているポケモンたちを運んでいく。
ジャイアンたちもその後を追った。



「すまないことをした……」
会長が苦しそうな声を搾り出す。
ここは医務室――部屋の中には三人の人間。
ベッドで寝ている会長、その脇でスネ夫と静香が立っていた。
医務室長は会長の命令で外にいる。
「君たちを巻き込むつもりはなかったんだ。本当に」
「謝る前に、教えてください」
静香が切り込んだ。「いったいさっきの襲撃はなんだったのです?」
「……話さなければなるまい。ところで、大柄な少年はどこへ?」
こちらにはスネ夫が答えた。
「どうも傷心らしくて……外に出ています」
会長は一瞬不審そうな顔をしたが、すぐに思いつめた表情に戻る。
「仕方あるまい。後で彼にも話しておいてくれ。
 さっきの青年の名はダイゴ――私の息子だ」

石蕗会には、ずっと対立していた組織があった。
だが石蕗会現会長は相手にある話を持ちかけた――「和平を結ぼう」と。
その証として会長は自分の息子を、相手のグループのボスに養子として出した。
ボスは子供がいなかったため、この証を受け入れた。
ところが、相手は会長が考えているよりずっと狡猾だった。
「奴らはダイゴを完全にコントロールしてしまった。
 何故かはわからん。だが、あいつらの持つ何かがダイゴを変えてしまったのだ。
 敵組織の名は榊グループ――理由は他にもあるが、我々は奴らを壊滅させなければならない」

既に何かを察したスネ夫と静香にとって、その組織名は聞き逃せるものではなかった。



「さ、サカキって……」
スネ夫はうっかり口に出す。
「そうだ。表で多くの子会社を所有している大グループだ」
運良く、会長は意味をはきちがえてくれた。
その隙にスネ夫は静香と目をあわす。
静香も驚いた目でスネ夫に目線を向けていた。
(そういえばここの名前も石蕗――ツワブキ。会長の息子はダイゴ)
(ポケモンがいる世界だけど、どうしてそんなところまで……)
二人の思考は一致した。

ポケモンの世界の人間が現実世界に干渉している。
これが何を示しているか、二人はまだわからなかった。

「どうしたかね? 二人とも」
会長が訝しげな目を向けてくる。
「あ、あの僕ら」
喋ろうとするスネ夫の前に、静香は手を出す。
「ちょっと……武さんのことが気になっていただけです。
 話がよければ、もう行ってもいいでしょうか。武さんのところへ」
会長はゆっくりと頷いた。
「いいだろう。だが、一つだけ話を聞いてくれ」



この建物は岩場で囲まれている。
その外側には森、なかなか入り込みづらい地形となっている。
当然外へ出るのも難しいだろう。
その岩場の真ん中で、ジャイアンは森を見据えていた。
(……俺、どうしてここにいたんだろ)
ジャイアンはぼんやり考えていた。
(俺はここにいられないよな。
 だって、俺部外者だし、ポケモン死なせちまった……)
森からは野生のポケモンたちの存在を感じる。
木々のゆれ、うなり声、その他にもいろいろな要素があった。
ジャイアンは吸い込まれるように、森へ向かっていく。

「駄目だよ。そっちいっちゃ」
突然声を掛けられ、ジャイアンは振り向いた。
年若な少年だ。背丈はジャイアンの顎ほどしかない。
緑色の髪が木の葉のように靡いていた。
「森にはいっちゃいけないって、いつも会長に怒られるんだ」
少年はジャイアンに歩み寄ってきた。
近くで見るといかに少年の顔が青白いかがわかる。
「おい、お前なんだよ」
ジャイアンは少年を睨みつけ、歯をむき出しにした。
「俺の邪魔すんな! 俺は勝手にここから出て行くんだからな」
「そうもいかないよ。僕はそういう人たちを止めるように言われているんだ。
 言い忘れてたね。僕の名前はミツルだよ」



「僕もね、昔ここから出ようとしたことがあるんだ。
 そしたら会長に捕まって説得されて……それで森番になったんだ」
少年は親しげに話しかけてきた。
ジャイアンは眉を吊り上げ、背中を向ける。
「森番だか何だかしらねえが、俺は勝手に出て行くぞ!」
そういうとジャイアンは駆け出した。
(あいつそんなに体力ある風じゃなかった。撒くのは簡単だろ)
勝利に近いものを感じ、ジャイアンは笑い出す。
「楽しそうだね」
すぐ傍で声が聞こえ、ジャイアンはハッと振り向く。
ミツルの顔が目に入った。
「お、お前どうやって――!」
ジャイアンはミツルが跨るものに気づいた。
燃え盛る炎を纏い、ジャイアンを悠々と追い越していく。
「よしよし、早いぞポニータ!」
ミツルの褒め声でそのポケモンの正体がわかった。
「き、きたねーぞ! ポケモン使いやがって」
立ち止まってジャイアンが抗議する。
「? そっちもポケモン使えばいいじゃん」
ポニータが足を止め、ミツルがジャイアンに首を傾げた。
「俺は持ってねえんだよ」
ジャイアンは言葉を吐き捨てた。
「えぇ~!? ポケモンも持たずに逃げようとしたの」
予想以上にミツルが反応する。



「それはいくらなんでも無理だよ~!」
ミツルが腹を抱えて笑い出す。
「僕が逃げようとした時は3匹くらい連れて行ったんだけど、それでも捕まったんだよ?
 それなのに1匹も持たないでなんて……くく」
身を震わせるミツルだったが、不吉な音をきいてた。
『ガシッ』と。
ミツルは恐る恐る背後を見る。
ジャイアンが炎の尻尾を掴んで立っていた。
「よぉ~くも俺様を笑ったなぁああ!!」
ジャイアンの唸りとともに、ポニータが引きずられていく。
「な、おい何で!? ポニータの尻尾は持ち主以外には熱いのに」
怖気づいた声を出すミツル。
「へ、俺を誰だと思ってやがる。俺はジャイアン、ガキ大将だぜぇえ!」
「ほのおのうず」
ミツルの一言で、ポニータの尻尾の火が逆巻き、ジャイアンを包み込んだ。
「ぐぅおわぁあああ!!」
ジャイアンの絶叫が響き渡る。
「あはは、安心しなよ! ポケモンの攻撃で死ぬことは」
『ガシッ』――ミツルの顔が強張る。
炎から突き出た腕が、ミツルの肩を鷲づかみにした。
弾け飛んで消える炎の中から、ジャイアンが飛び出す。
自由な方の腕に拳を作って。



「お~い、ジャイアン!」
遠くから誰かが呼んでいる。
ジャイアンは動きを止めた。
拳がミツルの顔面の数ミリ前でピタッと停止する。
「スネ夫か?」
大きく手を振ってジャイアンは自分の位置を示した。
その脇でミツルが膝をつき、崩れ落ちる。
「ジャイアン、大切な話があるんだ」
スネ夫は駆け寄ってきた。
「結構大変なことになったよ。僕たちはここを去らなきゃならない」
その言葉をきいて、ジャイアンがため息をつく。
「おい、きけよ。ミツル! 俺は結局ここ出なきゃ――おい、しっかりしろよ」
ジャイアンは地面で息を上がらせるミツルの頭を叩いた。
「……まって、こいつがミツル?」
スネ夫が言う。
ジャイアンはきょとんとして、頷いた。
「ああ。そういやお前らは知らないよな。俺も会ったばかりで」
「そう。でもすぐ知り合いになれるよ。
 僕たち、ミツルと一緒に旅に出なきゃなんだ」
ますます首を傾げるジャイアン。
それはミツルも同じだった。
「とりあえずこっち来てよ。しずちゃんが待ってるから」
ミツルがポニータをボールにしまってから、スネ夫が二人を誘導していった。