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トキワ英雄伝説 その12 - (2007/10/06 (土) 22:17:43) の1つ前との変更点

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[[前へ>トキワ英雄伝説 その11]]     #25「疑問」 「勝者、『フロンティアブレーンズ』リラ選手!」 審判の声が、コロシアム中に響き渡る。 いまは準々決勝第二試合、ちょうど『フロンティアブレーンズ』が『ナナシマ連合』を破ったところだ。 フロンティアブレーンズの次の相手は、先に勝利を収めたドラーズだ。 「やっぱり、次の相手はフロンティアブレーンズかぁ……」 スネ夫が不安そうに呟く。 「誰が相手だって関係ないさ! ここまで来たら勝つだけさ!」 のび太の言葉が、みんなを活気付ける。 そして次、第三試合の選手たちが出てくると会場の空気が一変する。 片やMr.ゼロのチームの一つ、クイーンズ。 片や一回戦で意外な実力を発揮した、レジスタンス。 形こそ似ているが、黒と白という正反対の色のローブで身を隠す2つの選手。 対極に位置する両チームの激突を、ここまで残った選手たちが緊張した面持ちで見守る。 「それではダブルバトル、試合開始!」 審判が、平然とした様子でバトル開始を告げる。 重苦しい雰囲気の中、ついに試合の火蓋が切って落とされた…… ---- ―――「ウインディ、神速」 その声が響いた瞬間、ウインディが目にも止まらぬ速さで敵に当て身を食らわせる。 攻撃を受けたケンタロスは、力なく崩れていった。 「よしっ! 行けるぞ!」 ジャイアンが嬉しそうな声を上げる。 今行われているのは2試合目の、3対3のシングルバトルだ。 いまレジスタンスのリーダー、フォルテがウインディで敵の2体目を倒したところだ。 レジスタンスはすでにダブルバトルに勝利している、ここで勝てば彼らの勝ちだ。 敵は残り1体、対するフォルテはまだ3体のポケモンを残している。 彼(もしくは彼女)の勝ちはもう、すぐそこまで来ていた。 「いいぞ、がんばれ!」 そして、のび太たちはそんな彼らを応援していた。 正直、彼らの正体はいまだに不明、まったく見当もついていない。 もしかしたら……敵かもしれない。 でもいまは信じたかった、Mr.ゼロの手下と必死に戦っている彼らを。 「こうなったら……こいつを使うしか……」 対戦相手、9thの様子に、昨日カナズミスクールの子供たちを甚振っていた余裕は見られなかった。 そして追い詰められた彼は、ついに切り札を投入する。 「あ、あれは……」 コロシアムにいる全員が息をのむ。 空間を司るというそのポケモンの名前は、パルキア。 「亜空切断!」 9thが命令とともに、パルキアが空間を捻じ曲げてウインディを攻撃する。 すでに2回の戦闘をこなし、疲労していたウインディはあっさりと倒れてしまった。 「こいつがいる限り、俺は負けない! フハハハハ!」 9thの高笑いがコロシアム中に響き渡った。 ---- フォルテはウインディを引っ込め、代わりにアブソルを繰り出した。 「次の獲物はそいつか……亜空切断!」 「まもるだっ!」 アブソルはまもるを使い、なんとかパルキアの攻撃を避けた。 「いくら時間を稼いだって無駄だぜ、もう一度亜空切断!」 今度は無防備な状態のアブソルに、パルキアの攻撃が襲い掛かる。 「耐えてつじぎ……」 フォルテの言葉はそこで途切れた。 アブソルはすでに、全ての体力を奪われていたのだ。 「亜空切断が急所に当たったのさ。 運が無かったな!」 9thはもう、自分の勝利が決まったかのような余裕を浮かべている。 「まずいよ……残り一匹で、あのパルキアを倒さなきゃいけないなんて……」 心配するのび太とは対照的に、フォルテはこの状況でも冷静さを崩さない。 「行け、カイリュー」 そして手元のボールから、最後の1匹であるカイリューを出現させた。 「よりによってドラゴンタイプとは……一発でしとめてやるよ!」 9thが会場に響き渡るほどの大声で、亜空切断を宣言する。 ……だが、パルキアは亜空切断を出さなかった。 突然ヤケになったかのように、暴れだしたのだ。 「こ、これは……亜空切断じゃ……ない?」 意外な展開を目の当たりにし、9thが驚きの声を上げる。 一方、フォルテは相変わらず様子を全く変えないまま喋りだす。 「……その技の名は悪あがき、戦う術を無くしたポケモンが最後に出す哀れな技だ」 ---- 「悪あがき……だと?」 明らかに焦りだす9thを気にとめず、フォルテは話を続ける。 「亜空切断のPPは全部で5回。 3回の攻撃と、アブソルのプレッシャーでさっき0になっちまったのさ。 お前のパルキアが、“拘りスカーフ”を持っていたのは見抜いていた。 だから、『スカーフを持たせているときに技のPPが切れると悪あがきしか出せない』ってのを利用させてもらったよ。 これでお前のパルキアは悪あがきしかできなくなった……俺の勝ちだ!」 フォルテが己の勝利を宣言するとともに、カイリューが逆鱗でパルキアを攻撃する。 効果抜群のこの一撃は、悪あがきの反動ダメージもあったパルキアの体力を奪い切るのに充分な威力を備えていた。 ゆっくりと崩れ落ちていくパルキアを、9thは呆然と眺めていた。 そしてその体が地に着いたとき、突然頭を抱えてうずくまる。 「馬鹿なあああ! 俺が……俺のパルキアがあああ……」 一方観覧席のジャイアンたちは、レジスタンスの健闘を拍手で讃えていた。 「やった! Mr.ゼロのチームが負けた!」 「これで奴らも残りはあと1チームだけ……ざまあみろ!」 歓喜に沸く仲間たちの中で、のび太は1人、疑問を浮かべていた。 「あのカイリュー、似てる……」 ―――選手控え室 ここで次の試合の準備をしていたホウエンチャンピオン・ダイゴの耳に吉報が届いた。 『レジスタンス』がMr.ゼロのチームである『クイーンズ』を破ったという知らせだ。 これで残っているMr.ゼロのチームは、いまから自分たちと戦う『ジョーカーズ』のみ。 あとは彼らを破ることができれば、選手の命は助かるのだ。 「僕たちがあいつらに勝てば、全ての選手を救うことができる。 みんな、絶対に勝とう!」 ダイゴは仲間たちに喝を入れると、フィールドへ足を踏み入れた。 ---- ――― 「そ、そんな……」 そう呟いた選手たちの心は、絶望で満たされていた。 『ホウエン四天王連合』と『ジョーカーズ』の試合が始まってから数分、早くもダブルバトルが終了した。 勝ったのは『ジョーカーズ』、圧倒的な実力差を見せ付けた。 「四天王が、あんなにあっさりと……」 彼らの驚異的な力に、のび太たちも驚きと不安を隠せない。 「このままじゃ……四天王が負けちゃうよ……」 不安なのは、今からシングルバトルに出場するゲンジも同じだった。 自分たちが負けたら、他の3チームもおそらく奴らには勝てない。 今の状況で、負けることは絶対に許されないのだ。 『でも、自分ごときの力で奴らを倒せるのだろうか?』 先程見せ付けられた敵の力に、すっかり恐れをなすゲンジ。 そんな彼に、対戦相手の2ndは突然言った。 「喜べ、お前に勝利を譲ってやろう」 2ndの発言に疑問を持ちつつ、ゲンジは己のボールからフライゴンを放つ。 それに対して2ndは、意外なポケモンを選択する。 そのポケモンを見たゲンジの頭に血が上っていく。 「貴様、わしを馬鹿にしているのかああああ!」 ゲンジが怒るのも無理は無い。 2ndが選んだポケモンは……世界最弱と言われるコイキングだったのだから。 「ドラゴンクローだっ!」 フライゴンの爪を浴びたコイキングは、あっさりと力尽きていた。 この後も2ndのポケモンは、コラッタとポッポという雑魚っぷり。 結局ゲンジは一発も攻撃をくらわずに勝利を収めた。 だがゲンジは素直に喜べない、むしろ苛立っているぐらいだ。 「こんな勝ち方、納得できん! 貴様、何故手を抜いたっ!」 「今は抑えてくれ、ゲンジ。 奴らを倒してみんなを救う、今はそれが先決だ」 苛立つゲンジを諭し、ダイゴはフィールドへと上がっていった。 ---- 「カイリキー、爆裂パンチ」 1stの命令を受けたカイリキーが、その激しい拳をメタグロスに振るう。 攻撃を受けたメタグロスは、いつまでたっても立ち上がらない。 「そんな……チャンピオンのこの僕が……」 ガクリと膝をつき、絶望するダイゴ。 「キングドラで2匹倒し、残り4匹をカイリキー一匹で……」 たった2匹でダイゴに勝利した1stの凄まじい力に、圧倒されるのび太たち。 部屋へ戻る帰路の中で、スネ夫が呟く。 「あれが、Mr.ゼロの部下で最強のチームの力か。 凄いな……」 その言葉のあと、しばらく沈黙が続く…… 「……でも、諦めたりはしないよね?」 突如、のび太が仲間の3人に問いかける。 3人は顔を見合わせると、声をそろえて言う。 「ああ、勿論さ!」 ――― 「そういえばさ……」 部屋に戻って休んでいたところで、のび太が再び突然喋りだした。 仲間たちに目を向けられ、のび太は話を続ける。 「あの『レジスタンス』って人たちのリーダーが使ってたカイリューが……」 「カイリューがどうかしたのか?」 スネ夫問いかけると、のび太が意外なことを口走る。 「似てたんだよ、僕のカイリューと!」 同種族のポケモンでも、1匹1匹ずつ容姿に違う特徴を持っている。 だが自分のカイリューと彼のカイリューは、かなり容姿が似ていた。 そう言うのび太を、スネ夫は「偶然じゃないのか?」と言って冷やかす そんな会話を繰り広げているときだった、 「あああああああ!」 ……突然、ジャイアンが叫び声を上げたのは。 ---- いきなり大声を上げたジャイアンに、仲間たちは驚く。 だが寧ろ彼ら以上に、ジャイアンの方が驚き、落ち着きをなくしていた。 「どうしたんだよジャイアン、ビックリしたじゃないか?」 スネ夫がジャイアンを落ち着かそうとするが、ジャイアンはまだ落ち着かない。 「いま気付いたんだよ! 似てるっていやあ……ほら、あの1stって野郎も!」 「あいつがどうかしたのかい?」 スネ夫が問うと、ジャイアンもやはり意外な事を口走る。 「あいつも似てた……先生に……」 「先生?」 意外な人物の出現に、仲間たちはキョトンとする。 「だってあいつが使ってたキングドラやカイリキーは、先生も使ってたし……」 ジャイアンが相変わらず落ち着かないまま言った。 「手持ちは確かに被ってたけど、そんなのただの偶然でしょ? 第一、先生がこのコロシアムにいるはずが無いじゃないの。 それに、先生がMr.ゼロの手下になるわけがないわ!」 静香に力説されると、ジャイアンはそれ以上何も言えなくなってしまった。 その後は夕食を済まし、明日の作戦会議を始めた。 「明日も試合があるんだし、今日はもう休もうか?」 会議が終わったところでのび太が言うと、皆が寝床につく。 「ホントに、偶然だったのかなあ……」 ベッドの中で、いまだ納得がいかないジャイアンが呟いた。 ----        #26「5人目の仲間」 一晩明け、準決勝の日がやってきた。 「もうすぐ、準決勝が始まるね」 試合を一時間後に控え、のび太が言う。 いつもなら彼らはここでかなり緊張し、まともに喋ることさえ困難だった。 だが今日は、今までで一番平常を保っていた。 彼らは成長したのかもしれないし、ただこの状況に慣れただけなのかもしれない。 でも、大会前とは明らかに変わっていることだけは明白だ。 「ちょっと僕、出かけてくるよ」 試合まで残り10分というところで、突然スネ夫が部屋を出て行く。 行き先はトイレ、先程急に尿意を催したのだ。 「もうすぐ試合だ、早く帰ってこいよ!」 「わかってるって」 ジャイアンの忠告に頷き、スネ夫は廊下を駆けていった。 ―――4階、男子トイレ 「ふぅー、すっきりした……さて、早くいかなきゃ間に合わないな」 用を足し終えたスネ夫が、手を洗いながら呟いた。 彼が手を洗い終え、顔を上げたその時だった。 自分の背後に立った人物が、鏡越しに見えたのは。 その手には、トイレに置かれてあった花瓶が握られていた。 スネ夫が振り返る前に、その人物は花瓶を振り上げる。 そして、それをスネ夫の頭目掛けて振り下ろした。 音一つ無い静かなトイレ内に、花瓶が割れる音が響き渡る。 と同時に、スネ夫は頭から血を流しながら崩れ落ちていった。 「これで、ドラーズも終わりだな。 ハハハハハ!」 その人物はそう吐き捨てると、奇妙な笑い声を上げながらトイレを出て行った…… ---- 「遅い、遅すぎるぞっ!」 ジャイアンの苛立ちが段々増していく。 試合開始まで残り3分を切った。 だが、スネ夫がまだ帰ってこないのだ。 「早く帰って来い、スネ夫!」 ジャイアンの怒りが限界を迎えたその時…… 『ドラーズの選手たちは、早く試合会場に入場してください』 ついに、入場を促すアナウンスが入った。 対戦相手は数分前に入場している、これ以上待たすわけにはいかない。 「とりあえず入場して、審判に事情を説明してみましょうよ」 静香の考えに賛同し、3人はようやく試合会場へと足を踏み入れた。 ようやく入場してきたドラーズ一行に、審判が注意を入れようとする。 「遅い! 待ちくたびれたぞ……あれ? 一人足りないようだが……」 審判がスネ夫がいない事に気付くと、静香が慌てて事情を説明する。 話を聞き終えた審判は、急いでその事をMr.ゼロに報告しに行った。 現在の状況に対する判断を聞くのだそうだ。 そして数分後、上の方の広場にMr.ゼロと司会の人物が現れた。 最後にその姿を選手たちに見せたのを決勝トーナメント説明会の時、3日ぶりの登場だ。 司会の人物は、まるで感情が無いような機械の声で言い放った。 「いかなる事情があろうとも、選手が欠けている状態で試合をすることはできません。 あと20分以内に彼が帰ってこなければ、ドラーズは強制的に不戦敗となります」 「そんな……ここまで来て不戦敗だなんて……」 ジャイアンが、その場にガクリと膝をつく。 『早く来てくれ、スネ夫!』 のび太はそう心に念じ、スネ夫を待ち続ける。 来れるはずが無いスネ夫を…… ---- ―――地下、敗者の部屋 「おいおい、あいつらなんだかヤバそうだぜ?」 『チーム・コトブキ』の1人、バクが出木杉に話しかける。 試合に敗れたものたちが送られるこの地下室には、なぜか試合会場を映した巨大なモニターが設置されている。 いまそこには、不戦敗寸前になっているドラーズの姿が映されていた。 「なんとかならないの、英才」 ヒカリに問いかけられた出木杉はしばらく考え込んだあと、あることを思いつく。 (彼らが試合に出るためには、選手が4人揃えばいい……) 「……僕に、考えがある」 出木杉はそう言うと、部屋の隅にいる監視役の男に目をやる。 彼は携帯電話のようなもので、外との連絡をとっていた。 仲間の3人を集め、出木杉はコッソリと作戦を告げる。 「このコロシアム内では、全ての電話が圏外になって使えない。 でもあの電話は、なぜか外と通じているみたいだ。 今からあれを奴から奪い取って、使わせてもらうんだ」 「なるほど。 電話で助けを呼んで、大会そのものを潰しちまおうって考えか。 でも電話が通じたとしても、警察があの得体の知れない電話でこの場所を特定できるのか?」 コウジが意義を唱えると、出木杉は意外な言葉を発する。 「電話をする先は、警察じゃないんだ。 わるいけど、いまは説明してる時間が無い…… とにかくあいつから電話を奪い取ってくれ! お願いだ!」 その言葉に、コウジたちは驚きを隠せない。 出木杉が自分たちを頼るのは、初めてのことだった。 嬉しかった。 出木杉が自分たちを必要としていることが。 自分たちが、出木杉の力になってやれることが。 「なんだかよく分からないけど、俺たちはお前を信じるよ。 任せとけ、あの電話を必ず奪い取ってやる!」 そう誓った次の瞬間、コウジたちは監視役の男に向かって駆け出していった。 ---- 突然コウジたちが飛び掛ってきたので、監視役の男は驚き、その場で固まっていた。 その隙にコウジとバクが男を取り押さえ、ヒカリが素早く電話を奪い取る。 ヒカリから電話を受け取った出木杉は、早速どこかに電話をかけ始める。 電話は予想通り、目的の場所に繋がった。 あとは相手が出るのを待つだけだ。 『早く……早く出てくれ!』 焦る出木杉の気持ちを察したかのように、相手はツーコール目で電話に出た。 出木杉は相手の声を聞くと、安心して会話を始める。    「もしもし、お義父さんですか?」 ちょうど出木杉が会話を終え、電話を切った時だった。 ついでに警察にも連絡をしておこうと思った出木杉の行動は、阻止されてしまった。 ついに、必死に抵抗していた監視役の男が拘束から逃れた。 男はポケットから緊急時用のスイッチを取り出し、素早く押した。 するとすぐに、部屋にたくさんの男がワープしてきた。 男たちはあっという間に出木杉たちを取り押さえた。 ついでに警察にも連絡をしておこうと思った出木杉の行動は、阻止されてしまった。 彼らは出木杉から電話を取り上げ、4人を縄で縛ろうとする。 ……とその時、突然出木杉がとんでもないことを言い出した。 「僕に取り上げられたポケモンを返してもらいたい。 そして、僕をこの部屋から出して欲しい」 出木杉を取り押さえていた男は、覇気のこもった声で言い返す。 「んなことできるわけねぇだろうが! 馬鹿にしてるのか!」 だが出木杉は全く屈せず、冷静な口調で言う。 「……いや、あなたたちは僕をここから出さざるをえないんですよ。 なぜなら……」 ---- 一方、試合会場では…… 「残りあと、1分だ!」 審判の声が響き渡る。 (スネ夫さん、早くきて!) (早くきてくれ、スネ夫……) 「早くこいーーー! スネオオオオオ!」 必死に願い続ける静香とのび太、叫び続けるジャイアン。 だがその願いは、いつまでたっても届かない。 「残りあと、三十秒!」 ついにのび太たちが諦めかけた、その時だった。    「待った!」 突如フィールドに現れた人影を、のび太は凝視する。 「あれはスネ夫? ……いや、違う……」 しだいにその人物が近づいてきて、顔が見える距離まで近づいてきた。 そしてその顔を見たとき、コロシアムにいる誰もが目を疑った。 「そんな、馬鹿な……」 ―――そこにいたのは、この場にいるはずが無い人物。 「なぜ、君がここに……」 のび太がその人物に問いかける。 「勿論、僕が君たちの『仲間』だからさ……」 ―――その人物、出木杉英才が微笑んだ。 ---- 地下室にいるはずの出木杉を見た瞬間、Mr.ゼロが初めて椅子から立ち上がった。 「馬鹿なあああ! 何故貴様がここにいる!」 無機質な機械の音声でも、あきらかに彼が慌て、感情が高ぶっているのが分かる。 それに対し、出木杉は落ち着いた様子で言い放つ。 「僕がここにいる理由、それは僕が『ドラーズ』の一員だからさ」 「な、なんだとっ!」 ざわめく会場の様子をみて、出木杉は溜息をつく。 「……どうやら、説明が必要みたいだね」 会場の全員が、出木杉の言葉に耳を傾ける。 「実は僕は、このチームの補欠選手なんだ。 だから骨川君の代わりに試合に出るため、地下室から出る権利があったのさ。 ……前にドラーズの選手一覧を見て驚いたよ。 この僕の名前が、補欠選手の欄に書かれていたんだからね」 「補欠選手……あああああ!」  出木杉の言葉を聞いたジャイアンが、ドラーズを結成した日のことを思い出す。 ―――あの時、ジャイアンは補欠選手の欄に、スクール時代の同期生全員の名前を書き込んだのだ。 『とにかく、たくさん書いておいた方がいいだろ!』などと言って。 そしてそこには、出木杉の名も含まれていたのだ。 「お前が『ドラーズ』の補欠選手……フハハハハ!」 突如、Mr.ゼロが勝ち誇ったような高笑いを浮かべた。 「残念だが、お前は『チーム・コトブキ』の選手としても登録されている。 他のチームに属している選手の名を書き込むのは違反……つまり、不可能なのだ。 おそらくチェックした者が見落としていたのだろう。 とにかく、これでお前の出場は不可能。 残念ながら『ドラーズ』は不戦……」 そこでMr.ゼロはおもわず口を閉じた。 ……出木杉が、依然として笑みを浮かべていたからだ。 ---- 「僕が違反……残念ながら、そういうわけにはいかないんだよ」 「どういうことだ!」 出木杉の余裕に、Mr.ゼロがうろたえる。 「『チーム・コトブキ』に登録されている僕の名は、“結城英才”。 でも『ドラーズ』の方は“出木杉英才”という名で登録されているのさ。 幸いにも、野比君たちは僕の名字が変わっているのを知らなかったからね。 “出木杉英才”はさっきまで存在しない人物だった。 だから彼と“結城英才”は別人になるはずだよね」 「し、しかし! それならばお前はやはりこの試合に出場することができない。 お前の名は“結城英才”だ、“出木杉英才”としてドラーズに加わることはできないはず!」 Mr.ゼロがすかさず反論するが、勿論出木杉はこの言葉も見通していた。 「……さっき、ちょっとした手を使ってシンオウの叔父に頼み事をしてきた。 “僕の名字を再び、【出木杉】に戻して欲しい”とね。 今の僕の名は“出木杉英才”、ドラーズの一員だ!」 「そんな馬鹿な! 認めないぞ、こんなことは!」 苛立ちながら退場していくMr.ゼロを尻目に、出木杉はドラーズのもとに駆け寄っていく。 「ありがとう、出木杉。 僕たちのために、名字まで変えるなんて……」 のび太が頭を下げると、出木杉は頭を上げろと言う。 「仲間の危機を助けるのは当然のことさ、感謝する必要はないよ。 それに、それに君たちは奴らの優勝を阻止できる最後の希望なんだ。 何があっても、君たちをここで消させるわけにはいかない……」 出木杉の言葉を聞き、のび太は微笑む。 「“希望”か……なら、絶対に負けるわけにはいかないね。 今日の最初の試合は、僕たちのダブルバトルだ。 行こう、出木杉! この試合に勝って、決勝に進むんだ!」 ―――のび太と出木杉、ライバルの2人が再びフィールドに上がっていく。 今度は敵同士ではなく、仲間として…… ----

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