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新カントー物語 その8 - (2007/01/30 (火) 00:31:35) の編集履歴(バックアップ)



シルフカンパニー 最上階

二人の男が机を向かい合わせている。
ロケット団首領、サカキ。
ロケット団副首領、カイ。
チェスを打ち合う二人。
「お前と打つのも久しぶりだな」
ポーンの駒を持ち、盤に打つサカキ。
「ああ、そうだな」
ナイトを構えて、盤に打つカイ。
二人の男は考慮していた。
シルフを乗っ取り手に入れたマスターボールと金。
もはやここに潜伏している意味などない。
ヒョウとハル、二人の子供たちが残りたがっている事を残しては。
彼等の意思を無視するわけにもいかない。
だが、やはり、戦略的にはもうここにいる意味はない。
両者の考えは決定している。
『撤退』と。
「なあ、カイ」
「何だ、サカキ」
カイが気分悪そうに返事をする。
「ここは撤退するべきじゃないのか? 
もうここに居る意味など「戦略的には撤退だな」
カイがサカキの言葉を遮る。
「だが、あいつ等の意思を考えなければならないのも事実だ。
 戦略だけで決めるか、奴等の意思を取るか、全てはお前の決定次第だ」
サカキが唸る。
「そうだな・・・私が全てを決めるんだな。カイ、お前は私が
どんな策をとっても何もいわないのか?」
サカキが問うとカイは即答した。
「ああ、俺の命が果てるまで俺はお前についていく。お前の決定なら神にも逆らおう。
 お前は・・・俺の主だからな」



二人がチェスを続けていると、一人の団員が入ってきた。
男がサカキの前にひざまずく。
「サカキ様、カイ様。特別幹部殿がグレンシティを出立しました」
前の男の発言を受けてサカキの顔が変わる。
サカキは団員に命令を下した。
「わかった、幹部を全員招集しろ」
「わかりました! では失礼致します」
団員が敬礼をしてドアに向かっていく。
二人はチェス盤に目を戻すとドアの閉まる音が聞こえた。
ドアの奥から速い足音が聞こえる。
「別に急がなくてもいいのにな」
サカキが苦笑する。
「真面目な団員じゃないか。給料を後で上げてやろう」
カイが団員を擁護しながら駒を打つ。
「チェックメイトだ」
カイが笑って告げる。
「何っ・・・!」
サカキが言葉に詰まる。
「話に夢中になりすぎだ。少しは駒の位置を確認したらどうだ?」
カイに言われて盤の上をサカキが見る。
そこにはポーンが只、前進しているだけの子供のような手を指されていた。
言うまでもなく、それはサカキが指していた手だ。
「むう。話に夢中になりすぎたか」
サカキが諦めたように一万円札を取り出す。
差し出されたお札をカイが無造作にポケットに入れる。
「確か負けたほうがチェス盤を片づける筈だったな」
カイが嫌味っぽく笑う。
「わかっている!」
サカキがチェス盤を片づけ始める。
チェス盤を片づける様子をを、カイは笑って見ていた



シルフカンパニー 10階

男が向かった先は幹部、通称『紫の聖女』が居る10階。
まずは近い所から呼び出すのが基本と考えた男。
幹部の居る部屋のドアの前に辿り着く。
男はドアを2回叩いて中からの返事を待つ
返事が返ってくる。
男はドアを開けた。

男の視界に入ったのは少女がモンスターボールを眺めている姿。
男が入ってきたのに気がつくと少女はこちらを向いて話し掛けてきた。
「何の用ですか?」
男がひざまずく。
「ソラ様。サカキ様がお呼びであります。至急最上階にお向かいください」
男が告げる。
「わかりました。貴方は他の幹部にお伝えください。私はすぐに向かいます」
少女が席を立ち、男の位置からは見えなかった紫のドレスが露になる。
「わかりました、では失礼致します」
男がドアを開け、少女を先に通そうとする。
少女がその様子を見ると男に何かを渡す。
どうやら鍵のようだ。
少女が部屋を出るのを確認すると、後ろに続くように男は部屋の外に出る。
男は部屋に誰も居ないことを確認するとドアに鍵をかけた。
目の前に居る少女に鍵を渡すと、男は次の幹部に事を伝えに行くために
急いで駆け出した。



シルフカンパニー 階段

『何の用かしら?』
ソラは階段を一段一段丁寧に上がり考える。
『定期報告ではない。では何か予定外のことなんでしょう』
少女の顔に不安が募る。
『まさか・・・あの人達が?』
頭に浮かぶロケット団の邪魔をしたあの四人。
『では、あの人も・・・』
頭に浮かぶ少年。
『出木杉英才。あの人も来るのかしら?』
あの時あの少年がした質問。
まだそれが心に残る。
『私がロケット団に居る意味・・・』
少女が自分に問う。
『・・・私が居る理由・・・それは私には・・・わからない』
少女は更に考える。
『でも・・・私は・・・カイ様に恩をお返ししなければなりません。
 その為ならば・・・例え、ロケット団が悪だとしても・・・
 私はロケット団に仕えます』
少女の答え。
一人の人間への恩返し。
相手が正義だとしても。
こちらが悪だとしても。
『全てはカイ様の御心のままに』
少女は決意を固める。
あの少年達と闘うこと。
それがあの少年と闘うことになっても。
全ての決着をつける。
ソラが階段を上がりきり、ドアの前に立ちドレスを整える。
そして、ソラは目の前にあるドアを叩いた。



シルフカンパニー 最上階

私がドアを叩くとすぐに返事が返ってきた。
返事に答え、私はドアを開ける。
目の前には二人の男。
全てを捧げる男と私の全てを捧げる男が全てを捧げる男。
私は二人に跪いた。
「お呼びですか・・・?」
「呼んでなければお前はこないだろう、しっかりしろ」
カイ様が私を嗜める。
「申し訳ありません。カイ様」
私が跪いた状態で頭を下げるのを見ると、サカキ様が一つ咳をした。
「ソラ」
サカキ様が私に声をかける。
「何ですか?」
私は命令を待つ。
少し間を取ってサカキ様は仰った。
「撤退準備を整えろ」
サカキ様の命令を聞くと、カイ様が満足そうに頷く。
命令を受けて途惑っているのはむしろ・・・私だった。
『撤退? ここから手を引くということ?』
でもカイ様が満足そうに頷いているのを見ると、この命令は正しいのでしょう。
『私には、関係のないこと・・・』
「命令、承りました」
私は頭を下げドア開けて出て行った。

「これで、いいんだな」
サカキが尋ねる。
「ああ、これでいいのさ」
カイは笑いながら答えた。


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