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新カントー物語 その17 - (2007/04/29 (日) 22:46:07) の編集履歴(バックアップ)



「……キミは偉い子だね、野比のび太。僕だったら真っ先に帰るよ」
Dはボールを自分に向けている少年を複雑な表情で見つめる。
「……僕は自分一人助かっても皆が生きてなきゃ楽しくなんか無い。
 大切な友達を……僕は助けたい。
 だから僕は戦う。
 最後まで諦めない!
 君を倒して皆で現実世界に帰る!」
言葉を終えてボールを投げる。
出てきたのは電気ネズミ。
『これで彼の心の強さのテストも終了。
 後試す事は的確な判断力ぐらいかな。
 取りあえず……彼らが入っているのは生命回復装置と言う事は内緒だね』
考えを纏めて、Dは髪をかきあげる。
「さあ、戦闘再開だ!」

セキエイ高原牢獄

ポケモン達の回復を終えて、ソラはボールを触る。
『暇なのか、ソラ』
「貴方はどの面下げて私にそんなことを言うのですか? カイリュー」
先程回収したラティアスは何か知らない物を持っていた。
綺麗な宝石のようだがラティアスが拒否するのでソラはあえて何も言わずに放っておいた。
『悪かったとは思っている。しかし』
「今は言葉を聞きたい気分ではありません。弁解は後で聞かせてもらいます」
ボールをドレスの肩の部分に入れて、ソラは溜息をつく。
「入っておいで、ソラ」
耳にカリンの声が届く。
言葉を受けて、ソラは扉を開けた。



『おめでとう、ソラ!!!!!』
ドアを開けた瞬間、クラッカーの音が盛大に響く。
「……これは何事ですか?」
冷静を装って、ソラは隣に居るカリンを見た。
「貴方のお別れパーティーよ。ついでにナナシマリーグ筆頭リーダーのお祝いの式でもあるわね」
「そう言うことだよ、ソラちゃん!」
声に思わず髪を握り締めるソラ。
マントをつけた赤い髪の男が近づいてくる。
その顔に、ソラは見覚えがあった。
「貴方はワタルさん。……何故捕らえられていないんですか?」
ソラの言葉にワタルは目を丸くする。
しばらくして思い出したかのような動作を取り、ワタルは笑った。
「そういえば君も知らなかったんだね。この戦いの本当の意味を」
「本当の意味?」
すかさず聞き返すソラ。
「それはね」
「そこから先は俺が答えるよ、ワタル殿」
歩き出してきたのは今、ソラが最も恐れている相手。
「カ、カイ様……」
「ああそうだ、カイ様だ」
黒いスーツを着込んだ男、カイ・バレフィルドだった。



「何故ここに居るのですか!? 貴方は今リーグに居るはずです!」
髪を握り締めながらソラは叫ぶ。
今にも涙が出そうな表情を浮かべて。
「穴抜けの紐でここに帰ってきた。俺の戦闘は終わったしあっちに残る意味も無い」
問いに答えるカイ。
タバコを吸いながら失望した様な表情でソラを見つめる。
「……で、お前の事だから俺の為に動いたのだろう? 
 俺の事を思うなら行動はしないはずなんだがな」
「それは……」
強く髪を握り締めるソラ。
言葉を一度止めて、カイを睨みつける。
「いえ、これは私の意思です。
 むしろ……カイ様は私をこういう風に動くよう誘導したんじゃないんですか?」
言葉に溜息をつくカイ。
タバコを携帯灰皿に押し付け、吸殻を仕舞う。
「お前が動くのは計画の範囲外だよ。Dに言われて俺は釘を刺しに言ったんだぞ」
「で、でも! この様子を見ると私が来るのをわかっていたようじゃないですか!」
ソラは慌てて言葉を返す。
言葉にカイは後ろを向いて言葉を発さなくなった。
後姿をずっと睨みつけているソラ。
この様子に一番慌てているのはソラでもない、カイでもない。
パーティーをする為に集まった団員達と何故かここに居る出木杉英才だった。



「とにかく、パーティーを始めませんか?」
険悪なムードの中、声を出したのは仮面をつけた男、イツキだった。
「……もう勝手に始めてもいいんじゃない?」
イツキの言葉に呆れたように答えるカリン。
「こういう催しでは祝われる者が最初の言葉を言わなければならないのだが」
二人の言葉に口を挟んだのは金髪の男、ヒョウ。
刹那、ヒョウの身体は蹴り飛ばされる。
同幹部、赤いバイクスーツを着た女、ハルによって。
「頭が固いんだよ、アンタは!」
「何も蹴る事は無いだろう! 全く、お前は乱暴な奴」
「…………もう煩い!!」
叫んで叩きつけるような足音を立てて、ソラは壇上に向かう。
「私が言えばいいんでしょう! 全く、全然変わってないんだから!」

「いつもああなんですか?」
出木杉英才は隣に居た男の四人組に話し掛ける。
顔が似ている所を見ると兄弟らしい。
「ソラちゃんはいつもからかわれてるのさ」
「団で真面目なのはソラちゃんとヒョウ様とカイ様だけだから」
「そんなヒョウ様もハル様と一緒に居られるとただのヘタレに変わってしまうんだよ」
「だから……からかいにくいカイ様の代わりにいつも他の幹部にからかわれるのさ。
 そんな真面目でいい娘のソラちゃんだからこそ、人気投票で一番人気が出るんだろうけどね」
出木杉は言葉を聞いて壇上に上がっていく少女を見る。
少女は呆れたように笑いながら壇上のマイクの前に立って、マイクを握った。
「皆様、私のためにお集まりいただき、真にありがとうございます。
 では……皆様、式を祝して……」
全員がグラスを掲げてソラの言葉を待つ。
それを見て、ソラは笑顔で言葉を放った。
『乾杯!』



式が始まると凄い勢いで食べ始めるロケット団。
出木杉は知っている顔が居ないのでソラを探していた。
「何処に行ったんだろう……」
人が大勢居るせいか見つけることが出来ない。
皿に盛ったスパゲティをバランスよくもって歩く。
「やあ」
声をかけられて後ろを振り向く。
居たのは四天王の大将、ドラゴン使いのワタル。
「改造……」
言いかけて言葉を止める。
幸いワタルは気が付いていないようだ。
「ワタルさん。この計画の本当の意味って何ですか?」
「……君も聞きたいだろうね。いいだろう、教えるよ。
 まず、この世界は君たちが言う現実世界によって作られたんだ。
 それはわかるね?」
無言で頷く。
「で、ここからが本題だ。
 落ち着いて聞いて欲しい。
 ……今の君達の現実世界は現在存在しない。
 この世界は今、君達の現実世界と入れ替わってるらしいんだ」
「何だって!?」
衝撃の言葉を受けて出木杉は皿を落とす。
『これもあの青い髪の少年がやったことなのか?』
「そして……それを阻止する為に君達は戦わなきゃいけない。
 本当の未来犯罪者とね」
「本当の未来犯罪者!?」
またもや驚く、出木杉。
『つまり、あいつは……誰なんだ?』
「そして……倒せるのは現実世界から来た者達だけ。
 つまり君達だよ。僕達は君達を試す為にこの計画を起こしたのさ」



セキエイ本部

「マニューラ、冷凍パンチだ!」
「ピカチュウ、アイアンテール!」
指示に従い足に力を溜めて飛び掛るマニューラ。
飛び上がってとてつもなく素早い動きを見せてピカチュウを殴りつける。
だが、一撃では倒せない。
ピカチュウは尻尾をマニューラに叩きつけてガッツポーズを取る。
ガッツポーズの通り、一撃でマニューラは崩れ落ちた。

「やるね。そのピカチュウ」
ボール回収を終えて、次のボールをポケットから取り出すD。
「僕のポケモン達は皆一緒に育ってきた。
 僕の為に力を出してくれるんだ!」
叫ぶのび太。
Dは叫びを終えたのび太を見て、呆れたように髪を触る。
『ポケモンのレベル自体は僕と大して遜色が無い。
 後はトレーナー自身の腕ということになる。
 ……試してみるか。本来はガブリアスなんだろうけど……。
 あくまでもこの戦いはテスト。だから……ゴメンねラグラージ」



「ラグラージ!」
ボールを投げるD。
顔には迷いの表情が色濃く出る。
その表情に気が付かないほどのび太は鈍感ではない。
『何だ、あの表情? 僕の次に言う技がわかっているのか?
 だったら何でラグラージを出すんだ?
 ……考えたって仕方ない。僕が勝たなきゃ皆が死ぬんだ!』
のび太は眼鏡を掛け直して指示を出す。
「ラグラージ、地震!」
「ピカチュウ、草結びだ!」

『やっぱり覚えさせていたか……。
 これで全部の試験は終了。
 彼の強さは及第点以上、合格だ。
 ……後は皆が来るまでの時間稼ぎ。
 あっちはカイとソラが揉めてるんだろうなあ……長い時間を稼がなきゃ』
倒れたラグラージを回収するD。
「ゴメンね、ラグラージ」
ボールに向かって謝って、次のボールを投げる。
出てきたのは鮫のようなポケモン。
『何だ、あいつ!?』
表情を見てDは溜息をつく。
「わからないって言うんだろうけど、時間はピカチュウを倒した後にあげるから。
 ガブリアス、地震だ!」
「ピカチュウ、電光石火!」
高速に動いて、攻撃を放つピカチュウ。
だが大して効いた様子も無い。
ガブリアスから放たれる地面の揺れ。
その攻撃を受けて倒れない事は無かった。



「ご苦労様、ピカチュウ」
ボールを回収して図鑑を開ける。
のび太が見ている間にDは残った三つのボールを取り易い場所に置いておいた。

「成る程……そいつはガブリアスってポケモンなんだね」
図鑑を閉じてのび太が嬉しそうに呟く。
その様子を見て溜息をつくD。
「キミはこの後しっかり勉強する事だね。
 ポケモンや普通の勉強もね。
 これが正式ルールの場合、キミはもう負けているよ」
言葉を詰まらせてのび太はボールを投げる。
出てきたのは恐竜、ラプラス。

「ガブリアス、逆鱗だ!」
「ラプラス、冷凍ビーム!」
炎を纏い突進するガブリアス。
突進を受け止めて氷を吐くラプラス。
ガブリアスは攻撃を受けて一撃で倒れる。

「サンダース」
雷を発して現れるポケモン。
すぐさま電撃を放ち、ラプラスを一撃で倒す。



『相手はサンダース……カビゴンで行くか』
「カビゴン!」
現れる巨体のポケモン。
思わずDは顔を歪めた。
「サンダース、十万ボルトだ!」
「地震だ、カビゴン!」
電撃を発して巨体のポケモンに当てる。
だが大して効きもしない攻撃にカビゴンは腹を掻いて地面の揺れを放った。

「追い詰められたよ……まさか僕がパートナーを使う事になるとはね」
最後の紫色のボールを上にかざす。
複雑な表情で腕に力を込めた。
「出て来い、マイパートナー! その圧倒的強さを相手に見せつけろ!」

プレッシャー。
目の前に居るポケモンから伝わってくる感覚。
のび太は終始自分に有利な展開に持ってきたつもりだった。
事実、持ってきていた。
しかしその有利な展開が嘘だったかのような絶望感。
前のポケモンから感じる圧倒的な力。
*1
黄色の弾で瞬間的にカビゴンを吹き飛ばす。
出てきたのはカントー最強のポケモン、ミュウツー。
その膨大な力で目の前の物を捻じ伏せる圧倒的な力の持ち主だ。



『とうとう僕の出番がきたんだね』
そう言って、のび太の腰のモンスターボールから出てきたのはのび太の切り札。
「うん。とうとう君の力が必要になったんだ、ミュウ」
笑顔で隣に居るミュウに答えるのび太。
前に居るミュウツーはミュウをただ睨みつけている。
*2
ミュウはいつもの無邪気な様子を見せず、ただ前に居るミュウツーを見据える。
『久しぶりだね、ミュウツー。
 君は落ち着く為にハナダの洞窟にいったはずなのに何で此処にいるの?』
周囲の物をサイコキネシスで吹き飛ばし威嚇するミュウ。
((私は共に歩く事ができるパートナーを見つけた。
 同じ境遇の私達にオリジナルである貴様がわかる筈も無い。
 これ以上私の友を追い詰める気ならば……私と貴様の戦いがまた始まるだけだ!))
同じく天井のライトを叩き落しミュウを威嚇するミュウツー。
両者の間に火花が散り、天井が砕け落ちていく。
落ちてきた破片で四本のカプセルが割れた。
緑の液体が飛び散り、中に居た四人がのび太の前に転がっていく。
「ミュ、ミュウツー……落ち着い」*3
仲裁に入ろうとしたDをサイコキネシスで吹き飛ばす。
のび太はその様子を見て、口を開けて呆然としていた。
『いつまでたっても人の話を聞かないね。
 それに親に対する口の利き方がなってないんじゃない?』
*4
黒い弾を作り出しミュウに向けて、撃つ。
間一髪でミュウはその弾を避けた。
『……お前はいつまでたっても子供だ! 一回わからせてあげるよ!』
*5



セキエイ高原牢獄前

「結局……貴方は私の言う事を聞きませんでしたね」
ソラはラティアスのボールを持ち、聞いてみる。
『聞く気も無いのに聞くわけ無いでしょ。
 元々私はお兄様とも離れて気分が悪いのよ。
 あーあ、カイも何で私を貴方に預けたのかしら』
先程からソラが機嫌が悪いのをわかっているのか、いないのか。
今すぐボールを握りつぶそうかと考える。
「……まあいいよ。それより私は今からリーグに向かうんだ」
『それがどうかしたの?』
とぼけたように聞いてくるラティアス。
ソラはボールに力を込める。
「連れてって」
『嫌』
叩き潰す。
ソラは頭の中で決意した。
力をこめて、握り潰そうと思った時、足音が耳に入った。
この足音にソラは聞き覚えがある。
「……何か用ですか?」
「俺たちもリーグに向かわなければいけないのでな。
 お前のカイリューに乗せてもらおうと思って来たんだが……無理だったか?」
ソラは言葉を聞いて、顔を背ける。
背けた先には出木杉の姿が見えた。
「僕からもお願いだ! ソラさん、連れてってくれ!」
頭を下げる出木杉。
それを見て、ソラは諦めたように肩に手を入れた。
「…わかりました、行きましょう」



野比のび太は呆然としていた。
目の前の光景をただ呆然と見詰めることしか出来ない。
「いてて……」
勝手に戦い出すポケモン達から目を離し言葉を発した少年に目を向ける。
「ミュウツーの奴、完全に戦闘モードに入ったな」
少年は呟きながら頭をかいて、腰のボールに触る。
サイコキネシスで浮きあいながら技の押収を繰り返す二体。
両者の手にに橙色の輝きが灯っていく。
それを見ると否や少年がのび太の周りに気絶している四人を集めた。
「ロクデナシ! リザードンを出して皆を連れて逃げろ!」
「どうして!?」
「此処に居たら確実に死ぬ! 此処でキミ達が死ぬわけには行かないんだ!」
少年の慌てた様子を見て、リザードンを出す。
リザードンに全員を乗せて、少年はのび太に乗るように促した。
壁にもたれかけ、少年は自分のボールを触っている。
「……君はどうするの?」
リザードンに乗って少年を見下ろす。
「……僕はミュウツーを見届けなければいけないんだ。
 あの状態のミュウツーはボールに入ってくれないからね」
言葉を受けてのび太はリザードンから降り、少年の隣に立った。
「……どういうつもりだ?」
「ミュウは僕のポケモンだ。君が残るなら僕も残るよ。
 リザードン、行け!」
のび太の声に反応して飛び立つリザードン。
天井の穴に向かい、翼をはためかせる。
「…これで僕達二人がミュウツー達を止められなかったら僕達は終わりだ。
 覚悟は出来てるの……のび太君…」
「出来てるよ! 二人でミュウ達を止めるんだ!」


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