レッド・ヘリング
「その惨状を指してこの病は "Red Herring" と呼ばれ、国中から忌避された。」
——『燻製ニシンの虚偽』p.5
■CONTENTS
■Character
≫Looks
【"レッド・ヘリング"はコールタール状のねばねばとした赤い生物であった。貴方達とは10m程の距離を保って】
【蠢く巨大な不定形は心臓に近い形態をしていて、そこから太い触手が血管のように張り巡らされている】
【酷く饐えた臭いがした。夏の暑い日に孤独死した老人の居た部屋が如く、滴り落ちる赤い液体は毒々しい赤に染まった】
【身体が大きく流動して、巨大な一つ目が貴方達を捉える。瞳孔から節足が伸びて瞳の表層を掻き毟る】
【瞳の奥から這い出して来たのは『指先』子供の指先が大量に零れ、藻掻く様に巨大な目玉を抉る】
【一つ目が瞬きをしたならばギロチンが落ちたかのように、ボトリボトリと指先が地面に散らばって】
【触手の表面に無数の口が出現した。どれもこれも、乳歯が目立つ、子供の口であった】
【遠目から見れば、赤い身体に巻き付いた白い紋様の如く、ひしめき合う口が大量にあって】
【声にならないうめき声を漏らしていた。ひどく冒涜的な白昼夢に似て】
【かちかちと各々の口が歯を噛み合わせる。無数の歯ぎしりが不協和音を奏で、周囲を覆っていく】
【まさしくそれは、形態を失った人間の集合体であった。骨も皮膚も内臓も、全部溶かして混ぜ合わせたかの如く】
【触手が地面に叩き付けられる。地面に接触した部位にあった歯が砕け、地面に乳歯が散らばった】
その見た目は非常に冒涜的な不定形であった。本体は赤く巨大な心臓に似た姿をしており、そこに一つ目がある。
触手には無数の口がついており、その口には子供の様な乳歯が生えている。
攻撃に対する物理的なダメージは少なく、能力者達の攻撃を受けても殆ど怯む様子はなかった。
触手による攻撃の他、乳歯を銃弾の様に発射し攻撃する事も可能。存在そのものが形態を失った人間の集合体であった。
また、
"Slasher"が一つ目を割断した際、二つに分離し反撃を試みた。
その他物理的法則が全く通用しない相手であり、常識に囚われない化け物である。
≫About
グランギニョルの神々が一柱であり、
グランギニョル神話の一説『燻製ニシンの虚偽』により描かれた"虚神"。
INF財団には"INF-008"と分類され"貪欲な虚飾の化物"という意味の"Chemdah"のオブジェクトクラスを持つ。
その大きな性質は無限に増大していく虚飾であり、見た目や能力も相まって真正の化け物という表現が相応しい。
スナークに導かれる形で
旧市街の"工場"に出現、
白神 鈴音を追ってきた能力者達と交戦した。
恐るべき不定形のタフさ。悍ましい程の冒涜的な姿。暴力的な攻撃衝動により能力者を苦しめる。
しかし、その工場に残された数冊の書物。戦闘の最中に見せる傾向からレッド・ヘリングの能力を看破される。
虚構現実では侵入したら死ぬ工場として存在しており、財団の管理下に置かれていた。
その内部ではかつての犠牲者の死を無限にループし、その度に生まれる苦痛や苦悶を糧に成長していた。
一度囚われた犠牲者は無限の死を繰り返し、その度にレッド・ヘリングは存在を強固にしていく。
レッド・ヘリングは恐怖や怨嗟を糧に強大化する。更に、畏怖の感情を察知し増大していた。
つまり犠牲者達の恐怖心や畏怖心を基に自己の存在を確立し、彼らの想像を基に自身の姿すらも変える。
よって虚構現実に於いては数多の人々がレッド・ヘリングを、神の如き化け物と認識している。
その為、どれだけ根も葉もない虚飾であっても、レッド・ヘリングは自らの力に変える事が可能であり、
絶対的な不死性や存在性を持つ、本物の"虚神"として存在していた。
故にその虚構を制御する為に、侵入者には即時の排除を以て対応していた。
一方基底現実では、
旧市街に存在していた精肉工場を塗り替える形で存在していた。
『特区』や『魔制法』の影響で居場所を失った子供達を呼び込み、様々な方法で虐殺、彼らの魂を閉じ込めた。
そして彼らの死を無限に繰り返し、基底現実でもその強大さを強固にしていた。
余談ではあるが、能力者達がレッド・ヘリングを倒せた大きな要素の一つが、この子供達であった。
彼らは皆能力の因子を持つ存在であり、死して尚囚われ続ける運命に抗う為、各々の力を行使していた。
一つ一つはレッド・ヘリングが歯牙にもかけない力であったが、能力者達に呼応し増大する。
加えて、レッド・ヘリングが転移してきたから殆ど期間が経っていなかった為、その能力は虚構現実に比べ微々たるものであった。
"虚神"でありながら殆ど神性を持たない、いわば生まれたての存在であったからこそ、付け入る隙があったとも言える。
能力者達の手によって消滅し、同時に虚構現実でのレッド・ヘリングも消滅したと考えられる。
■Skill
≫Skill
"虚神"達の持つ能力の一つとして、信仰によって自身の存在を強固にする力を持つ。
中でも虚栄や虚偽といった、レッド・ヘリングを実物より強く規定する信仰こそがその力の根源。
虚栄や虚偽に従って存在を大きくし、より強大な虚栄を生む。無限に虚飾されていく化け物たる所以。
この力を最大限に活用すべく、レッド・ヘリングの領域内で死亡した魂は、レッド・ヘリングの内部に囚われる。
そして意識を保ったまま無限に死をループさせられ、より一層強固な存在へと成長するのであった。
この効能は対象の魂が幼い程有用であり、基底現実でのレッド・ヘリングは子供達を好んで捕食していた。
レッド・ヘリングの本体は虚構現実でも基底現実でも"工場"であった。自身の肉体を施設に擬態する能力が根源である。
迷い込んできた人物は捕食され、消化される。能力者達が工場内部に侵入し橋の上に出たのは、体内へと続く口の暗示であった。
そのまま体内へと捕食され、異物と判断された彼らは"看守"によって粛清される。
この"看守"は観測者たる子供達の妄執によって作られた存在であり、子供達を全滅させることで消滅した。
その後最奥部で姿を現したレッド・ヘリングは、それそのものが本体である工場から目を逸らすための虚偽であった。
故にこのレッド・ヘリングへ攻撃を加えても、本体へのダメージは皆無である。
その為工場への攻撃が有効的であり、施設を破壊することでレッド・ヘリングを消滅させることができた。
≫対抗神話
後述する『
INF-008』でも描かれている様に、レッド・ヘリングへの最も強力な対抗策が"オッカムの剃刀"であった。
これは物事の定義における思考手段の一種であり、物事の定義の際に不必要な前提を削除するものである。
レッド・ヘリングは本質から目を逸らさせる虚飾の化け物であるが故、不必要な虚飾を剪定することで本質に近づける。
能力者達のレッド・ヘリングへの攻撃は決して無駄ではなかった。
柘榴、
ユウト、
厳島命、
アーディン。
Slasherらの攻撃は、虚飾を剪定する役割を持っていた。彼らの攻撃から本質は施設そのものにあると、答えに向かう事できた。
それこそが対抗神話たる"オッカムの剃刀"の手腕であり、レッド・ヘリングを倒す唯一の手段であった。
■Appendix
レッド・ヘリングが基底現実に転移してきた際、同時に転移してきたINF財団のエージェントが保持していた文書の一つ。
虚構現実でのINF財団が作成した報告書であり、レッド・ヘリングの情報が記載されている。
終盤でエージェント本人による加筆がされており、エージェントはその後死亡したものと想像できる。
前述したエージェントが保持していた文書の一つであり、レッド・ヘリングそのものを描いた文書。
INF財団に依れば、レッド・ヘリングが神話生物であると認識される以前の作品であり、偶像崇拝的脚色を排したものであるとされている。
つまり、レッド・ヘリングが描かれた情報源であり、彼らに対抗する唯一の手段が書かれた禁書でもある。
文書中に『外套の男』と呼ばれる存在が出現しており、彼は明確に読者たる我々を認識しているようだが……?
最終更新:2018年05月17日 14:09